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9月2日 1

短編で書いてみた物を長めに書いてみます。

9月2日 朝


夏休み最後の1週間程を、季節外れのガッツリとした感染性胃腸炎でヤラレテしまっていた俺、イノウエ ジュンタは、1日遅れの登校をしていた。9月になったところで、近年の夏の暑さはまだまだ猛威を奮い、校舎の中も朝からむせかえるようだ。


「おッすジュンタ! ご復学おめでとうございまーす!」


ぐったりしながら下駄箱で靴を履き替えていると、小学校からの数少ない親友、ウエダ ダイキが登校早々ハイテンションで肩を組んできやがった。制服のズボンのすそを折り曲げて脛まで出してだらしなく着崩している。俺より10センチ以上背が高いダイキは非常に暑苦しい。汗が付くだろうが。


「おっすダイキ。 病み上がりの俺をいたわれよ。 暑っちいだろ? 復学祝いにアイスおごれよ?」

「お前、夏休み中、急に連絡取れなくなってビビったんだからな? お前がアイスおごれよ! 登校して来てんだから元気なんだろ?」


たった1日始業式を休んだだけで復学もクソも無いが、心配かけた親友にガリガリ様アイスの一本をおごるのはやぶさかではないぞ。


「お前、スマホ壊れたって何したんだ?」

「気分悪いなあって、スマホ見ながらゴロゴロしてたんだよ。」

「それで?」

「イノウエジュンタ氏16歳の胸に秘める熱いパトスが、突然俺を襲ったね。 ほとばしったね。 口からぶちまける魂が、俺のスマホにルフランしたんだ」

「スマホにゲロ吐いたのか」

「直接的な表現はやめろ」


ダイキと遊ぶ約束をしていたその日、電話をしても、RINEを送っても返信の無い俺を心配してわざわざ家まで来てくれたのだ。同居してるばあちゃんにスマホが壊れている旨を伝えられて、俺の少ない交友関係に教えておいてくれた事も含めて、非常に感謝している。やはりガリガリ様よりバーゲンダッツをおごる事にしよう。


「ところでブンコともう会ったか?」

「会ってねえよ。 スマホ壊れて連絡もしてねえわ」


アカギフミコ。あだ名はブンコ。入学式のあと、廊下側の一番前に出席番号順で座った俺の隣の席だったあいつとは、1学期からの付き合いだ。自分から、フミコは呼びにくいからブンコでヨロシクっ!などと初対面から言ってくるようなコミュ力あふれる奴である。真っ黒ストレートのミディアムヘアで、重めの前髪。いつも度のきついセルフレームの眼鏡をかけているので、見た目はだいぶ野暮ったいが、持ち前の明るく社交的な性格で、クラスの中心的存在だ。コミュ障ではないが、それほど自己主張が強いわけでもない俺と、不思議なほどにウマが合い、俺の後ろに座るダイキの隣の席の、エトウ アカリと4人で良つるんでいる。

なんというか、見た目じゃないのである。それに俺は知っている。ブンコの肌はキレイだし、話が合うし、実は眼鏡を取ると目がでかいし、字がキレイだし、150センチしかない身長を気にしてしょっちゅう牛乳を飲んでるし、天気予報を良く当てし、照れるとスッと通った鼻の頭が赤くなる。つまりは、そういうヤツだ。


「ジュンタが寝込んでるのは一応RINEしといたんだけどよ……」

「おーサンキュー」

「ブンコとは会ってないんだよな?」

「お、おう」


含みのある言い方をしてくるじゃねえか。当然ダイキには俺の気持ちは何も話していない。本当だったら夏休みの終わりに呼び出して、告白したかったなんて事ももちろん言ってない。気恥ずかしいので、何食わぬ顔で会話を続けねば。


「それでブンコがどうしたんだよ?」

「アイツ、まだ登校してねえのかな?」


教室の後ろにあるロッカーの前で立ち止まったダイキは、キョロキョロと教室を見回しながら勿体を付けた言い回しで俺を焦らす。いい加減にしろよ?ダイキが急に小声で話し出した。


「なんだよ? 何かあるのか?」

「スゲー可愛くなってんだよ! ギャルですわ! 夏休みデビューだ!」

「はあ?」


小声で叫ぶとは器用なヤツだ。

俺とブンコが最後に会ったのは、いつもの4人でお盆前に遊んだ時だ。その時は別段何も変化は無かった。いつものブンコと馬鹿話で盛り上がった。その後はお互い帰省や家族旅行なんかも重なって、会う機会は無かったけど、寝込む前まで毎日RINEでやり取りしてたんだ。


「…マジか?」

「マジマジ! 見たら驚くぞ!」

「…何にも知らねえし、ブンコの事だからちょっとしたイメチェンだろ?」

「お前が知らないんだったら、よそで彼氏でもできたのかもよ」

「はあっ?そんなわけねえだろ?」

「ふっふっふ。 ジュンタさん、焦ってます? 焦ってますぅ?」

「急に気持ち悪いしゃべり方になるなよ! 俺が何に焦るんだよっ?」


ブンコの事なんて、なんとも思ってないんだからね!ダイキにばれる様な態度なんて取って無いだろ?これは誤解を解かねば!

と、思って口を開こうとしたタイミングで予鈴が鳴った。


「せいぜいビビるがよいわっ! ちなみに昨日席替えしたから、ジュンタの席はこっちな! そろそろ先生来るから、後でブンコの感想ヨロ!」


そう言い残してダイキは自分の席にさっさと荷物を置きに行ってしまった。廊下側の最前列だった席は、窓側から2列目の一番後ろに変わっていた。朝からダイキの謎のブンコトークで調子が狂ったわ。

そうかあ、ブンコの隣じゃ無くなったかあ……ていうかブンコがギャルとか意味わかんねえなあ。どうせ髪をちょっと染めたとか、コンタクトにしましたとかだろ?

うーん……あいつがモテルのはいやだなあ……


そう思っていた俺の背中に声がかかった。


「あ、ジュンタだ。 やっと体調良くなったの?」

「おうブンコ。 ダイキがさっき……」


俺は、後ろからの聞きなれた声に振り返ると、言葉を失ってしまった。

そこには、前髪をヘアピンで上げた、明るいゆるふわ茶髪のミディアムボブのギャルがいた。しっかりメイクされた黒目がちの大きな目と、平均よりもずいぶん低い背丈が特徴的だ。ゆるく着崩された制服とミニスカートからのぞく細く白い足が、目のやり場に困る。


「ちょっと。 急に黙んないでよ」

「えーっと……」


このギャル、微妙に距離感が近い。俺のパーソナルスペースを侵害しておられるが、ずいぶんフレンドリーに話しかけて来るな?入学から5カ月。俺にはこんなギャルい美少女の知り合いはいない。だいたい、自慢にもならないが友達自体がそんなにいない。クラスメートだとしても見覚えないぞ?


「ああっと……もう良くなった……ッスヨ?」


女子は、制服のリボンの色で学年が分かれているから赤いリボンは同学年。第一ボタンを開けて、ゆるく付けられている。


「イヤイヤ、あたし(ブンコ)だよ? 何その喋り方」

「マ、マジで?」

「もう! なんなの?」


分かってた。そりゃ分かるよ。でもさあ、たった半月前まで見慣れたブンコの要素、声と身長しかねえじゃん。


「お、おぉう……」

「ダイキが何よ?」


ブンコの変身と言ってもよい変化にうまく言葉が返せない。


「何よ? 途中で辞めないでよ~」

「……ダイキが朝からうるさいって話だゾ」

「確かにダイキはいつでもうるさいよね~」

「……」

「……」

「何よ?」


いつもだと、顔を合わせたそばから軽口をたたき合えるのに、なんにも言えねえ。なんでこいつはいつも通りな感じなんだ?メッチャ雰囲気ぜんぜん違いますやん?なになに?目覚めたん?お前黒髪眼鏡がトレードマークですやん?


「別に何もねえよ」

「そかそか」

「……」

「……」


なんだ?この微妙な緊迫感?なにか、言わなきゃ……


「あ……眼鏡……」

「ちょっとイメチェンしただけじゃん?」


俺は眼鏡の黒髪スッピン女子が、ゆるふわ茶髪ギャルになる事を、ちょっとイメチェンとは認められねえよ。化粧もケバくなくて、似合ってるけど。


「……そんだけ?」

「お、おん」

「……フンっ!」


キョドって変な返事になってしまった。少し怒ったようにしてブンコは自分の席に去って行った。今度の席は窓際の一番前のようだ。隣だった席も離れ、すっかり見た目がいまどきの美少女になってしまった。

俺は寂しいような、悲しいような、イラつくような、自分でもよく分からない気持ちになり、ため息をついて頭を掻くと自分の席に着いた。



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