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やりたい事をやる為に A.S集  作者: 千月 景葉
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悔恨その3

「おいライリー、団長補佐がお呼びだ。直ぐに補佐の所へ」


「はい。すまない、後は頼む」


「了解」






 王都騎士団の中央部隊舎。



 ライリーは現在此処で中央部隊所属の第一部隊に配属されている。


 細かくは省くが王都と一口に言っても広いので、大きく中央部隊と東部・西部・南部・北部各方面部隊に分かれている。


 又、四方面部隊は王都をぐるりと囲む壁に各所に設けられている関所、門を守り管轄する。


 中央部隊が一番規模が大きく、各方面部隊の統括と、王都の中心地を守る。


 ライリーはその中央部隊の第一部隊に居るが、普通であれば騎士になって未だ2年の若輩が中央部隊に配属される事など有り得ない。


 本来なら最初の1年は中央本部にて訓練生として鍛練に明け暮れ、その後1年ずつ各四方面部隊で騎士の職務を身をもって体験し、その後いずれかに配属される。


 所謂“どさ回り”をして漸く一人前と認められるのだ。


 その後活動実績を加味され、優秀な者は中央に引き上げられて中央部隊に配属、昇進を経て又各方面部隊の上官となって戻るか、そのまま中央部での登用が続く。騎士の人事とはその様なものだ。


 しかしライリーは訓練生の時こそ同期と同じ様に1年間鍛練に明け暮れたが、その際の座学で頭脳明晰なのを見抜かれ、“どさ回り”を一切省き、脳筋が多い騎士達の最も苦手とする頭脳面を管轄する中央第一部隊に即配属が決まってしまった。


 第一部隊は各部隊の情報管理並びに伝達、装備開発、物資補給、人事配置、又有事の際は作戦本部として機能する智略の要である。


 なので自然と頭脳派が集められる。


 騎士として自らをトコトン鍛えたいライリーにとってこの人事は甚だ不本意であったが、上層部の命令に逆らえる筈が無い。渋々従わざるを得なかった。


 そしてそこでこの人事の黒幕と会うことになってしまった。


 既に若いながら第一部隊隊長の座にいたリュシアンである。


 赴任後直ぐに隊長室に挨拶に行くと

「いらっしゃい、待ってたよ~♪」

 と言うとても軽薄な声が彼を迎えた。


 その声にライリーはハッとして前を見ると、隊長の椅子にふんぞり返り片手をヒラヒラさせながら、満面の笑みで彼を見る双子の片割れが居た。


「……本日付で中央部第一部隊配属となりました、ライリー・シェルビーです。よろしくお願いします」


 驚きつつもライリーは表情を変えぬまま、腰を折って敬礼する。


「はーい、よろしく頼むね。いやー助かったよ、君が入隊してくれててさ!

 実は僕、余計な役職を押し付けられたんだ。ここの隊長だってうんざりなのに、未だ他に兼務しろって。

 団長補佐なんて単なる雑用係だよ?まぁ未だ団長はマシな方だし、やれって言われたらやるしかないけどね。だけどこっちの仕事はどーするのって話になるでしょ?

 だから僕が目を付けた者を一人手元にくれって頼んだんだ。

 で、それが君!いやー、ほんと助かるよ。君なら皆まで言わなくても分かってくれるし、変な媚も売ってこないし、能力は間違いないし。

 うん、ホント良かった良かった。今日からガンバろーねー!」


 ……そんなふざけた赴任初日から早1年。当初こそライリーはこの大抜擢のせいで嫉妬や何やで色々イジメられた。


 だが元々図太くて好戦的な性格の上に、自分の人事をリュシアンに好き勝手された鬱憤も有ったライリーは、イジメをしてきた者達へご丁寧に○倍返しと云う形で背筋も凍る返礼をし、その憂さを晴らしていった。


 結果、彼から返礼を受けた者の中には、隊を辞する者まで出てくる始末。


 自ら新人に喧嘩を売った上に情けなくも返り討ちに遭い、コソコソ尻尾を巻いて逃げようとする部下達を辛辣なリュシアンはケタケタ笑って

「アハハ、いいザマだねぇ。自分からちょっかい出しといて、その新人に牙を剥かれたら怯えて逃げるなんてさ。

 うん、軟弱で卑怯な君は騎士に向いてないよ。早く次の人生設計をした方が良いね。

 ……はい、辞表はしっかり受理しました~♪もう君は元・騎士だから。

 じゃあ残りの給金を給与係から貰って帰ってね~!」

 と美しい笑顔で追い出していった。


 この段階で漸く周りも、異例の抜擢でやって来た史上最年少の女の子みたいな新人が、中身が一癖二癖どころか三癖もある曲者だと気付いた。


 又、仕事をさせてみればとんでもない頭の切れの良さと回転の早さを目の当たりにすることになり、皆度肝を抜かれていく。


 そうしてライリーの赴任3ヶ月を過ぎる頃には、誰もこの小さな新人隊士をイジメる者は居なくなっていた。……元凶である第一部隊長兼騎士団長補佐以外は。






 団長室に着いたライリーは部屋前で立番している先輩隊士に敬礼し

「第一部隊所属のシェルビーです。補佐がお呼びとのことで参じました。取り次ぎを御願い致します。」

 と用件を話す。


 すると先輩隊士は

「君か!待っていた、早く入りなさい」

 と表情を固くして団長室の扉をノックもせずに開けた。


 首をかしげながらライリーは団長室に入り、再度敬礼をする。次いで名乗ろうとしたその時。


「……ライリー、行くぞ。付いてこい」


 目の前の団長席には普段とても穏和な騎士団長が厳しい表情で座っている。その前には既に外出の準備を整えた団長補佐、リュシアンが腕組みをして立っていて、その彼がライリーに低い声で命じた。


「団長、暫く空けます。後を御願いします」


「うむ。此方の事は気にするな。後、状況がわかれば直ぐに知らせを。此方も引き続き監視と捜索は続ける」


「すみません。……ライリー、来い」


「え。わ、わかりました。団長、失礼いたします!」


「シェルビーも此方の事は気にするな。リュシアンに従え。良いな?」


「?……了解しました」


 訳が解らないまま、ライリーはリュシアンに付いて部屋を辞する。


 先程取り次いでくれた先輩隊士が、ライリーに気遣わし気な表情を向けた。


 ライリーはモヤモヤした気持ちを抱えながら、ほぼ駆け足で何処かへ向かおうとするリュシアンに小さな声で問い掛ける。


「一体何なんです?全く事情が解らないんですが」


「……とにかく馬車に乗れ。乗ってから話す」


「はぁ……」


 隊舎の門前に辻馬車より豪奢な馬車が待っていた。


 リュシアンはその馬車に駆け込み、ライリーもそれに倣う。


 馬車で向かい合わせに座ると扉が閉められ、直ぐに走り始めた。


 しかし馬車の中でも、リュシアンは腕組みをして目を瞑っている。


 とうとう痺れを切らしたライリーはそんな彼を睨み付けながら、問い質す。


「いい加減に話してください!一体何があったんです?」


 リュシアンは苛立たし気なライリーの声に漸く目を開けて、目の前の部下を見た。


「先程父より火急の報が入った。……ライリー、お前の弟のコリンが怪我を負ったらしい。

 このままマティアスを拾ってウチの屋敷に向かう。詳細はその後だ、悪いが待ってくれ」


 ライリーは目を見開く。


「コリンがっ?!怪我って一体?……いえ、わかりました、お屋敷で教えていただけるのでしたら待ちます」


「すまない。あぁ居るな。オーウェンも連れてきたか……」


「オーウェン?なぜ彼が……」


「……後でな」


 王都騎士団の隊舎より暫く走ると近衛騎士団の隊舎がある。


 近衛騎士団は王族や貴族の警護を主として担っており、王都騎士団に比べて規模は小さい。


 だが近衛騎士になるのはほぼ貴族の子弟で、一般人で近衛騎士団に入れる者は先ず居ない。


 一部貴族で無い者も居るが、特殊な能力を持つ者ばかりだ。


 隊舎も王都騎士団のそれに比べ、小規模だが豪奢な造りとなっている。


 だがライリーは一般人なのに、一度ならず近衛騎士団への勧誘を受けていた。


 理由はその類い稀な頭脳だ。リュシアンとセットで近衛に移籍をと、何度か王宮から打診が有ったのだ。


 しかしライリーがその話を知った時は、既に打診を突っぱねた後だった。勿論突っぱねたのはリュシアンだ。


「馬鹿かっ!何であんなとこに行かなきゃならない。ゴメンだね、ヤダヤダ!

 兄さんが居るんだぞ、絶対面倒臭いじゃないか。僕はこっちで良いの。……こっちのが未だマシだ。

 ライリー、お前もあっちへ行こう等と考えるなよ?オーウェンには悪いけど、あんなクズの巣窟、行ったって何の益も無いんだからな!

 オーウェンはインフィオラーレの嫡男だから、可哀想だけどしょうがないんだ。あ、兄さんもね。

 だけど僕は次男だから良いんだ。お前は近衛なんかに行ったら気詰まりで大変だぞ~?な、やめとこやめとこ!」


 そんな感じでリュシアンは近衛騎士団をディスりながら、招請の書状をビリビリに破いて暖炉にぶちこんでしまった。


 既に断った後だし、元々そんな気は一切無かったライリーは苦笑しながら彼の忠告に頷いたのだ。


 そんな因縁のある近衛騎士団の隊舎前でマティアスとオーウェンは既に待っていた。


 彼らの前で馬車を止め、2人が入り込むのを待つ。


 2人が乗り込み又馬車が走り出すと、ライリーは2人に目を向ける。


「マティアス様、オーウェン様ご無沙汰致しております。失礼ながら同行をお許しください」


 するとオーウェンがライリーの固い挨拶に苦笑する。


「……騎士団じゃないんだ、ここではいつも通りで良いよ。僕が気持ち悪いし。マティアス、良いでしょ?」


「あぁ。ライリー、コリンの話は聞いたか?」


「はい。……未だ詳細は後からと」


 オーウェンが眉を寄せる。


「コリンが怪我をしたなんて。一体何が起こったんだよ」


 マティアスがオーウェンの言葉を遮る。


「屋敷に着くまでは悪いが話せない。暫く待ってくれ」


 オーウェンはマティアスの強張った表情を見て、渋々頷いた。


 そして気持ちを切り替えライリーに話し掛ける。


「どうだ?仕事は。リュシアンにコキ使われてんだろう?」


 オーウェンの言葉に苦笑しながらライリーは答える。


「まぁ君の想像通りってとこ。

 それより未だに第一部隊の隊士だと思ってもらえなくて「訓練棟はあっちだぞ」って言われるのには閉口してる」


「もう1年だろ?未だ周知されないのか」


「いや、中央の隊士は皆もう覚えてくれてるんだ。問題はたまに来る各方面部隊の上官隊士達だよ。その人達って必ず第一部隊に顔をだすだろう?

 そこで言われるんだよ。二度三度言う人は完全に嫌味だろうとは思うけど」


「ああ。ホント暇だよなぁ……どこでも居るよ、その手の奴。気にするなライリー」


「気になんてしないさ。笑って何度目ですねって教えてあげるだけだ。流石に片手を超える強者は居ないね」


「まぁなぁ。下っ端の若い奴にいつまでも絡んでいたら、そっちの趣味かと思われるだろうしね」


「……止めてくれ。洒落にならない」


「え?まさかホントに居たのか?」


「そりゃどこでも居るだろ、その手の奴なんて」


「僕は聞くだけで会ったこと無いぜ?」


「……はぁ~」


 オーウェンとライリーの軽い喋りに、いつもなら必ず絡んでくる2人が全く反応しない。


 壁に持たれながら馬車の窓の外を見て固い表情を崩さないリュシアンと、腕組みをして足元を見つめるマティアスに、喋っていた2人は共に首をかしげる。


 馬車は妙な空気の4人を乗せてひたすら走り、やがてライモンドの待つ私邸に着いた。


 馬車の扉が開くが早いか、マティアスとリュシアンは我先にと飛び降りる。


「お前等も早く降りろ、グズグズするな!」


 マティアスが後に続く2人に鋭い声で言い放つ。


 事情が解らない2人は顔を見合わせつつも、慌てて馬車から降りる。


 執事や使用人が並んで出迎える中、それに対して何ら反応を見せずにズカズカと屋敷内に入っていく双子に戸惑いながらも、オーウェンはそれに倣う。


 だが貴族では無いライリーは、彼等のように屋敷に入る訳にはいかず、執事の前で止まり声をかける。


「リュシアン様の部下でライリー・シェルビーと申します。屋敷内に入っても宜しいでしょうか」


 執事は深々と礼を取り

「ライリー様、勿論です。貴方様の事は既に伺っております。ご案内致します、どうぞ」

 と先に立って案内してくれた。


 ホッとしたライリーは執事に付いて屋敷内に入る。


 すると玄関を入って直ぐにある吹き抜けの大階段の上で

「何をしているライリー!早く来い!」

 とマティアスが怒鳴った。


 執事はライリーに

「お待ちかねですから、どうぞマティアス様の元へお急ぎくださいませ。……駆けられた方が宜しいかと」

 と小声で言って脇に退いた。


 ライリーは執事に軽く一礼してから、大階段を駆け上がりマティアスの元に行く。


「……父の私室だ。既に2人は中だ」


 マティアスが大股で二階の廊下の奥の部屋に向かう。


 ライリーはマティアスの言葉に頷きながら彼に付いていく。


 観音開きの大きな扉が見え、その前でマティアスが止まる。


 扉の取っ手に手を掛けながら、小声でライリーに呟く。


「……気をしっかり持てよ、ライリー」


「え?」


 戸惑うライリーの返答を待たず、マティアスは扉を開けて中に入る。


 ライリーも続いて中に入り、直ぐにこの部屋の主に最敬礼をする。


「御前失礼致します。ご無沙汰しております、ライモンド様」


 部屋の奥にはライモンドが立っていて、軽くライリーに片手をあげる。


「おお久しいなライリー。固くならずとも良い。すまない、急な呼び立てで」


 ライモンドが軽く笑んでライリーに声を掛ける。


 ライリーが敬礼を解くと、リュシアンが直ぐに結界を張り始めた。


 ライリーはマティアスに促されるまま、領主の前に進む。


 ライモンドの執務用の大きく重厚な机の前には豪奢な応接セットが有り、既にオーウェンはその大きなソファーに腰掛けていた。


 オーウェンはライリーを手招きして横に座らせる。


 マティアスはライリーの向かいに座り、やがて結界を張り終えたリュシアンがライリーの横に座った。ライリーはオーウェンとリュシアンの2人に挟まれた格好だ。


 テーブルにはお茶が準備されていて、既に人数分のカップから湯気が立ち上っていた。


 マティアスの横にライモンドが座り、膝の上で両手を握る。


 リュシアンが父に話し掛ける。


「その後、進展は?」


「未だ無いようだ。……2人には説明したのか?」


「コリンが怪我したとしか。結界を張らずに話せるものではないからね」


「そうか。では私から話そう。

 ……オーウェン、ライリー。コリンが怪我を負った経緯だが、落ち着いて聞いてくれ。

 本日昼前、森の近くにあるロイドの店で黒の教団の手の者に因る襲撃があった。

 シェルビー家の者が買い物に来るところを待っていたようだ。

 ロイドの娘が黒の教団の男に取り込まれ、利用されていたのだ。

 その襲撃により双方に負傷者が出た。確認出来ているのは3人。ロイドの娘ジーナ、ディルク・ノーブル卿、そしてライリー、君の弟のコリンだ。怪我の程度は解らぬ。

 そしてこの襲撃後、怪我を負ったノーブル卿とその介抱をしていたらしいクロエ・シェルビーの行方が解らなくなった。

 ……目下周辺を捜索中だ」






 真剣なライモンドの話を聞いたライリーとオーウェンの顔から、完全に表情が消えた。

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