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やりたい事をやる為に A.S集  作者: 千月 景葉
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悔恨その1

第一章本編終了後、主人公の周りの動きです。

先ずは森の家の両親と次兄編。

コレットは庭に出ていた。


「お昼までなんてあっという間よね~、このところクロエが一緒に何でも用意してくれていたから、一人だと勝手が違って大変。

 さてと、食事の支度を急がなきゃ……って、きゃあ?!」


 家畜小屋に足取り軽く向かっていた彼女を一陣の風が吹き抜けた。


 この静かな森では風が吹き抜けることなど殆ど無い。


 彼女はいつもなら有り得ない自然現象に半ば呆然とする。


「風が?嘘、どうして……?え、今度は何?!」


 風に呆然とする彼女を今度は森のざわめきが襲う。


 見た感じではいつもと変わらない森の姿。


 しかしコレットには森が異様なまでにざわめいているのがわかった。


「何が……何が起こってるの?こんな森は初めて。……まさかあの子達に何か?」


 普段とは違う森の様子にコレットは不安を抱く。


 しかしその不安を振り払うように頭を小さく一振りし

「もう、変な想像しない!森は生きてるんですからね。風が吹く事だってあるわ。

 さ、余計なこと考えずに仕事仕事っと!」

 と明るく声を出すと家畜小屋に急いだ。





 昼食の支度を終え、お昼を大分過ぎたが、買い物に出掛けた家族は未だ帰ってこない。


 コレットはため息をつきながら、普段なら夕方にする家事をこなして時間を過ごしていた。


「……私も一緒に行けば良かったかな。でもそうすると昼食の支度がね……。

 もう!皆して買い物を楽しみ過ぎて、私の事忘れてるんじゃないでしょうね?

 駄目だ、お腹が空いて考えが悲観的になってる。食事前だけど柿ピー位なら良いわよね?

 皆が遅いのが悪いんだもん、ちょっとだけ失礼~。

 ……あれ?もうこんな減ってたの?やだ、又作んなきゃ。午後からの仕事は柿ピー作りに決定ね!未だおかきの材料あったかな~?」


 一人言を言いながら食品庫に向かうコレット。


 ゴソゴソと材料の在庫確認をしていたその時だった。


 バターーーンッ!


 玄関の扉が乱暴に開かれる。


「きゃあ?!お、驚くじゃない、もう!お帰りなさーい皆~!

 え、ガルシア?……コリンッ?!

 コリンどうしたの!具合が悪いの?!」


 開け放たれた扉から顔面蒼白のガルシアが気を失ったコリンを抱いて飛び込んできた。


 ガルシアが肩で息をしながらコレットに静かな声で指示をする。


「……事情は後で。先にコリンを休ませなければ。恐らく肋骨が折れている。コレット、処置を頼む」


「肋骨が?!わ、わかりました、早くこの子の部屋へ!

 クロエと先生は?貴方は身体強化で先にこの子を?」


「……ああ。兎に角コレット、大分コリンは無理をした。運ぶ最中に気力が尽きたようだ。早く処置を……」


「無理をした?何でそんな……!

 いえ、後から聞くわ。私は準備をして直ぐに処置に入ります。

 暫く動けなくなるから後は先生にお願いしてね、頼んだわよガルシア!」


 コレットは先に立ってコリンの部屋の扉を開けると、直ぐに治療の準備のためにテキパキと動き出した。

 ……そんな妻の姿を辛そうに見つめながら、唇を噛み締める夫の姿には気付かずに。





 無事コレットによる処置が終わり、血の気の無かったコリンの頬にも赤みが指してきた。


「……ねぇガルシア。この怪我は普通のものではないわね?一体この子に何があったの?!こんな……急所を一撃なんて。

 事情を聞か……うっ……」


 処置に魔力を使ったコレットは消耗し、堪らず膝をつく。


 ガルシアはコレットを抱き上げると静かに諭す。


「コレット、君は先ずその体を休めてくれ。この後の事は引き受けた

 ……君の体調が戻ったら話をする。約束しよう」


「……クッ……わかったわ。約束よガルシア。コリンは暫く目を覚まさないと思うけど、様子を見てやって。

 あぁクロエが帰ったらあたしの事は心配しないでって伝えてね。

 あの子心配性だ……か、ら……」


 そう呟くとコレットはガルシアの腕の中で目を閉じる。


「……君達は似ているね。母子というより姉妹の様だ。……すまないコレット」


 ガルシアはコレットの疲れきった寝顔を見ながら呟いた。





 その夜遅く。


 コレットはふと目を覚ます。


「ん……。まだガルシアは付いてくれてるのね。よっ、と。フゥ……何とか動けるまでには力が戻ったかな。

 あの子の怪我が()()だけだったのが幸いしたわ。思ったより力を使わずに済んだもの。

 だけどあれ……どうみてもあの箇所にだけ()()を入れたとしか思えない。アザだってあそこだけだったし……。一体なんでコリンがあんな怪我を?

 それよりあの子の具合はどうなのかしら?様子を見に行かなきゃ!」


 コレットがベッドから出ようとした時、寝室の扉が開いてガルシアが顔を出した。


 疲れきったガルシアがベッドから立ち上がろうとするコレットを見て、慌てて近寄る。


「コレット!大丈夫なのか、未だ寝てなきゃ駄目だ!」


「ガルシア、大丈夫よ。コリンの怪我は幸い()()だけだったから、思ったより力を使わずに済んだのよ。

 それよりあの子の具合はどうなの?一応()()の周りに魔力を流して固定した時に内蔵の損傷が無い事は確認したんだけど。その後苦しんだりとかはしていない?

 余りあの子の魔力の流れを乱すのは良くないから、私の魔力を流すのは控えたいのよ。

 炎症は魔力の帯で吸収させてるから、暫く動かなければそれほど長引かないと思うわ。

 私の見立ては以上だけど、先生はなんて仰ってたの?」


 ガルシアはコレットの質問には答えず、彼女の背中をそっと押しながら静かに話す。


「……今は真夜中だ。お前も腹が減ってるだろう。いつもの様にスープだけでも飲むか?他にも食べられそうなら……」


「そうね、パン位なら食べられるかな。コリンの力が強くなったから、私の力の持ち出しが余り必要なかったし」


「そうか。なら温めてくる。コリンの部屋を見てから台所に来るといい。用意しておく」


「ありがとう。そうだ、クロエも見てこようかな。あの子も心配してたでしょう?可哀想に中々離れなかったんじゃない?」


 ガルシアは小さな声でコレットを止める。


「……クロエのところへは後にしろ。コリンをみた後、先に何か口に入れた方が良い。それからでも遅くはないだろう?」


「?……そうね、後にしましょうか。じゃあコリンを見てくるわ」


「あぁ。台所で待ってる」


 コレットはガルシアと分かれ、コリンの様子を見に行く。


 ランプを点けると、コリンが静かな寝息をたてながら眠っていた。


 おでこをさわると少し熱かったが、()()を治そうとする体の自然な反応なので、コレットはホッと息をつく。


 ベッドサイドの桶で布を濡らすとコリンの顔を優しく拭い、再び濡らして絞った布をおでこにそっと置く。


「コリン……何があったの?可哀想に……え?」


 深く眠るコリンの目から一滴の涙が溢れた。


 そっと拭うと又ポロリ……ポロリと溢れていく。


 コレットは胸が詰り、思わずコリンをそっと抱き締める。


「……本当に何があったの?こんな風に泣く子じゃないのに……。どんな辛い思いをしたの、コリン?

 ああ、クロエは本当に心配しているでしょうね。気になるけど、ここにあの子が居ないってことは多分皆に無理矢理引き剥がされて自分の部屋に寝かされたのね。

 だったら今はガルシアの言う通り、先に食事をしてから見に行った方が良いわ。

 下手したらクロエを起こしちゃうしね、きっと。

 ……コリン、又後で来るから」


 コリンの涙が止まってからそっと立ち上がると、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出る。


 台所に行くとガルシアが既に彼女の食事を用意してくれていた。


「ありがとうガルシア。とにかく食べないと、力が戻っても体がついてこないものね。では、いただきます」


 コレットは夫に礼を言うと直ぐに食べ始めた。思ってた以上に体は正直で、用意してくれていた食事は瞬く間に彼女の体に収まっていった。


「美味しかった、ご馳走さまでした!……さて、ガルシア。貴方に聞きたいことは山のように有るのよ。

 だけど先にこの食器を片付けて、お茶を淹れるわ。

 だって貴方、酷い顔色なんだもの。この後は私がコリンを見ますから、貴方は休んだ方が良いわ。私ならもう大丈夫だし、任せて。

 なんなら話も明日で構わないし……」


 そう話しながらコレットはテキパキと片付け始める。


 そんなコレットを見つめながら、ガルシアは静かに呟いた。


「ああ、そうさせてもらおう。だが話は今しておきたい。

 悪いが片付け終わったらお茶を淹れて座ってくれ。

 ……すべて話すから」


 ガルシアの言葉にコレットは素直に頷いた。


「ええ、貴方が良いのなら。じゃあ、さっさと片付けるから待ってね」


 コレットが忙しく立ち働いている間、ガルシアはテーブルの上で両手を組み、うつむき加減で座っていた。彼女は気付かなかったが、彼の両手は固く握られていて、少し震えていた。


 やがて全ての用事を済ませ、夫と自分のお茶を淹れたコレットは、再び椅子に座った。


「……ガルシア、コリンはなぜあんな怪我をしたの?さっきあの子をみていた時ね、あの子突然涙を溢したの。あんなに深く眠っているのによ?余程辛いことがあったとしか思えない。

 ……コリンがあんな泣き方をするなんて初めて。胸が詰まったわ。

 ねぇ、一体外で何があったのよ?」


 コレットの言葉にガルシアは暫く目を瞑り、やがて覚悟を決めたかのように顔を上げた。


 コレットは夫の目を見て驚く。


「貴方まさか……泣いて、たの?」


 ガルシアは又目を伏せると、静かに口を開いた。


「コレット。今から今日起こった全ての事を話す。どうか落ち着いて聞いてほしい。

 ……とても辛い、話になるから」


 そうしてガルシアは今日起こった忌まわしい出来事を静かに妻に伝え始めた。






 ガルシアが全てを話し終えると、コレットは虚ろな瞳で夫を見つめていた。


 お茶は既に冷めきっていたが、それを見ることもしない。


 ガルシアは妻の未だ全てを呑み込めていない様子を見て、再び口を開く。


「……やはりコリンは俺が見るよ。コレット、君は暫く休むんだ。

 明日からはジェラルド様に報告をあげたり、色々とやることが有る。

 君にも負担を掛けるが……」


「……捜しに行かなきゃ」


「コレット?」


「こうしちゃいられないわ……クロエが待ってる……きっとロイドさんの店のどこかに隠れているのよ。

 あ、あの子は賢いんですもの。そうよ、きっと上手く隠れたのよ。

 だからあの店の何処かに居る筈よ……。

 ガルシア、コリンをお願いね。

 あ、あたし今すぐあの店へ……」


 コレットはふらつきながら立ち上り、台所を出ようとする。


 ガルシアは慌ててコレットの肩を掴む。


「落ち着け、コレット!」


 コレットは虚ろな瞳をガルシアに向けて微笑む。


「もう、駄目でしょガルシア。クロエは賢いんだから、上手く隠れただけなのよ。だからあたしが行ったらきっと何処かから出てきてくれるわ。

 置いてきちゃ駄目じゃない、あの子案外寂しがり屋なんだから。

 ……きっとどこかで泣いているわ。お腹も空かせている筈よ、だってあの子、あんなに食いしん坊なのに!

 ……だから離して。お願い、行かせて……!クロエを捜しに行かなきゃ!」


 コレットはガルシアの手を振りきって、玄関に向かおうとする。


 だがガルシアが背後から彼女を抱き締めて、声を振り絞って諭す。


「ロイドの店には既に手の者が張り付いている。もしクロエが居たならば、直ぐに連絡がある筈なんだ!

 勿論周辺も汲まなく捜索している。元よりあの店以外、あの周辺には隠れられるような場所はない!

 森にも聞いた、だがあの子はこの森にも守るべき地にも帰ってはいない……居ないんだよ、どこにも!

 ……あの子は本当に行ってしまったんだ。俺達の元を去っていったんだよ、俺達を守るために……!

 俺が、俺が守れなかったから……!すまない、コレット!」


 ガルシアの振り絞るような声にコレットは抗うのを止めた。


 彼女の虚ろな瞳から大粒の涙が溢れ出す。


「な、んで?初めて……初めて“外”に出たのよ?あ、あんなに楽しみに買い物は任せて、って……。

 なんであたし……一緒に行かなかったんだろ……。別に留守番なんて、し、しなくったって……!

 あの子、母さんと行きたいって……あたし、なんで行かなかったの!!

 なんで母親なのに、あの子の側を離れたりしたのよっ!あたしが付いていてやれば……クロエッ、クロエーーーッ!」


 最後は娘の名前を絶叫した妻をただ夫は無言で抱き締める。


 妻は涙を拭うこともせず、ひたすら娘の名前を叫び、何もない暗闇に手を伸ばし、娘を求め続ける。


 だが、そこに愛する娘がいるはずもなく、母の手は闇の先を掻くばかり。


 母の娘を呼ぶ悲痛な声が、やがて嗄れて小さくなるまで、悲しみに打ちのめされた夫婦はその場で涙に暮れていたのだった。





 次の日の朝。


 結局二人してコリンの部屋で夜を明かした夫婦は、泣き腫らした目のまま、息子の寝顔をみていた。


「……このままだとコリンが目を覚ましたら心配掛けちゃうわね。

 ガルシア、腫れた目を治すわ。ちょっと良い?」


「そうか、そうだな。頼む」


 コレットが泣き腫らした目を治していると、人の気配を感じたのかコリンがうっすらと目を開ける。


「コリン?!気が付いたのね、良かった……!」


 コレットとガルシアは慌てて息子の顔を覗き込む。


「う……ここは、僕の部屋?」


「ええ、そうよ。あぁ、コリン動いちゃ駄目よ。肋骨にひびが入っているの。処置はしたけど、暫くトイレ以外は動かないでね。

 ひびはひびでも後少しで完全に折れてたんだから。今は魔力の帯で固定してるの。治癒は貴方自身の力に頼るから、無理をすれば今度こそ折れてしまうわ。だから私の指示に従ってね、良い?

 食事もここでとるのよ、わかったわね?」


「うん……あ、あぁっ!そうだっ!父さん、あの袋はっ?袋はどこっ?!」


 コリンは急に必死の形相でガルシアに尋ねる。


「袋?お前の鞄はそこに置いてあるが、それとは違うのか?」


「違う!あの店で貰った袋だよっ!……まさか無いのっ?!」


「いや、ちょっと待ってろ。あの時の荷物は別の部屋に置いてある。どれを指してるのか判らないから、取り敢えず全部持ってくるよ」


「早く!お願い!」


「あ、あぁ……」


 コリンの切羽詰まった様子に首を傾げながら、ガルシアは部屋を出ていった。


 コレットは訝しげに息子に問う。


「一体どうしたの?そんなに大事なものなの、コリン?」


 しかしコリンは母の問いかけに答えず、横たわったまま両手を組んでおでこに当て、目を瞑り祈りながら父を待つ。


 やがて行李を幾つかと何やら汚れた袋を持って、父が男の子部屋に戻ってきた。


「……一応持ってきたが、まさかこの汚い袋じゃないよな?こっちの行李にはあの時買ったものが入ってるが、この中に有るのか?」


 するとその汚れた袋を見てコリンが叫ぶ。


「それだっ!その袋だよ、早く貸して、父さん!……イッ、痛っ!」


 コリンは慌てて起き上がろうとして、痛みに体をくの字に曲げる。


「あぁ!もう、だから動いちゃ駄目って言ったでしょ。ガルシア、早くその袋を……、大分汚れてるわね」


 コレットは袋の汚れ具合に眉を潜める。


 ガルシアが袋を持って近寄りながら尋ねる。


「……あの場所の近くに落ちていたのを手の者が見つけて、一緒に渡してくれたんだ。

 俺はこの袋に見覚えはないんだが、コリンの物なのか?」


 コリンは痛みに顔をしかめながらも、ガルシアの持つ袋に必死に手を伸ばす。


 袋を手に取ると直ぐに中を確認したコリンは顔を歪め

「……あったよ、クロエ。良かった……」

 と小さく呟いて体が汚れることも構わず、その袋を抱き締める。


 ガルシアとコレットは顔を見合わせる。


「コリン?」


 コリンは肩を震わせて嗚咽を漏らす。


「……代わりに兄ちゃんが渡すよ……ごめん、お前の思い付きなのにな……クロエ」


 そして涙に濡れた顔を上げ、両親に伝える。


「この中に……この中にクロエからの贈り物が入っているんだよ。

 初めての買い物で買いたかったんだ、って……母さんへの贈り物を。

 僕は自分のものを買おうとしてたんだ。だけどクロエは……母さんと父さんがいつもいっぱい自分を愛してくれるから、何か自分もしてあげたいって母さんに渡す贈り物と自分のお小遣いを僕に渡してきて……買って欲しいって。

 僕は兄ちゃんなのにって恥ずかしくなって……せめてクロエと同じことがしたくて、お金を半分ずつ出しあって父さんのも買おうって言ったんだ。

 クロエ、次は父さんに買うんだって言ってたから……。

 だからこれは母さんと父さんにクロエと僕からの……いや、クロエからの贈り物だよ。

 こんな、こんなに優しい妹を……僕は守れなかったんだ……!」


 その袋を優しく撫でながら、一言一言声を振り絞りながら両親に袋の中身、クロエからの贈り物について語るコリン。語り終えるとそっと母にその袋を渡す。


 コレットは呆然としながら差し出されたその袋を震える手で受け取る。


 中に入っていた2つの包みをそっと取り出し、1つずつ丁寧に包みを開く。


 中から出てきたのは小さなブローチとベルトだった。


「……これをあたし達に?あの子……そんなことを言ってたの?

 馬鹿ね、当たり前じゃない……子を愛するなんて。あたしは……母なんだもの。なにも、なにも要らなかったのに……クロエ、貴女が居てくれればそれだけであたしは充分だったのよ……!」


 そっとベルトをガルシアに渡した後、ブローチを手に取ったコレットは両手でそれを包み込み、胸に押し抱く。


 ガルシアはコレットから渡されたベルトを見て、哀しげに笑う。


 「どこまでも……優しい子だな、お前は。甘えることも殆ど無かった……いつもいつも周りの事ばかり考えて。

 そんなお前に俺達は甘えて……挙げ句守ることも出来ずに旅立たせてしまった……。

 クロエ、許してくれと言えないのは俺達の方だ。あの辛い選択をしたお前を愚かだなどと……言える筈もない。

 お前は強くて、そして哀しいほどに優しい子だ。

 すまない、守れなくて。本当に……すまない………!弱い父で……」


 ベルトを握り締め、額に押し付けながら悔恨を口にする父を、コリンは唇を噛み締めながら見つめる。


(強くなりたい……誰よりも強く。

 そして別れの涙さえ呑み込んだ大事な君を、いつかきっとこの手に取り戻す!

 もう二度と……君のあんな哀しい笑顔は見たくない。

 待っててクロエ。君はきっと僕が捜し出してみせるから。

 その為にも強く……誰よりも強くなってやる……!)





 両親の悲しみを目にしながら、コリンは決意を固めるのだった。

続きます。

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