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第三話「天邪鬼と初代国王」


「……というわけなんだが、わかったか?」


「さっぱりわからないですよ、真面目に話してください」


 当たり前だ。俺はまだ一言たりとも喋っていないからな。


「まぁ水晶の中でも普通に話し声とかは聞くことができるので、状況は知っているのですけどね」


「茶番じゃないか、それなら分かりましたっていってもらった方が驚けるんだけど」


 俺はそう言いながらシャツのボタンをパチパチととめていく。これにさっき見たグリーンのベストを羽織れば一応様にはなるだろう。


「さてと、フェオはその水晶の中に戻れるのか?」


「戻ろうと思えば戻れますが、この世界を直接見ておきたいので」


「そうか、だったら他の人たちにはなんていえばいいんだ?」


「神様に関連する存在であることを教えるのは避けたいのですよ。転生勇者の監視ということでどうでしょう?」


 なるほど転生勇者を監視するために送り出した天使の一人と。それは今の状態のフェオそのものではないか?


「欠片も隠せてない、というか隠す気あるのか? それならせめて俺の使い魔とでもいっておかないと」


 まぁそれでも怪しいことこの上ないが。


「ええー、私がですか?」


「いやぁー、人間に仕えることを許容できるような神様ってなかなかいなんじゃないかな?」


「うぅー、仕方がありませんね。ここは私が大人になってあげるのですよ」


 そういって俺たちはドレッサールームを後にした。改めて自分の服装を見てみるが、白い綿製のシャツに深いグリーンのベスト。どうやらこの世界の衣服は綿が主流らしく、これまた綿製のズボンに黒いブーツをはいていた。これでは勇者というより狩人だな。


「……よくお似合いです」


「今の間はなんだ? カサンドラ」


「その有無を言わせない感じ、素晴らしいです」


 こんな人が宮仕えのメイドをやっているとは、実はこの王国は人員不足なんじゃないか?


「そちらの妖精は?」


「あぁ俺の使い魔でな、転生したときにもらえたんだ。」


「よろしくですよー」


「!? 喋る使い魔とは珍しいですね。理解できるものは少なくはないのですが……」


 そうなのか、そういう世界観なのかよ。ていうかフェオはなにやっちまったみたいな顔しているんだ。せめて堂々としていてほしい。


「あぁ俺のこの世界での案内役として女神様が喋れるようにしてくれたんだ」


「そうなのですか?」


 フォローに対してフェオが感心しているが、なんてことはないこの神様見習いが機転を利かせられないだけだ。

 大理石の敷き詰められた長い廊下をカサンドラと共に歩いていく。いったいこの王城はどのくらいの大きさがあるのだろう。ちょうど沈黙がつまらなかったし、聞いてみるか。


「この王城は一体どれほどの大きさなんだ?」


「このバーニシア城は約4万平方メートルもの敷地面積があり、その他にも七つの庭園、円形闘技場、バーニシア大聖堂等を有しております」


「へぇー」


 4万平方メートルか、これは初代国王が俺の世界での単位を普及したのか。あるいはフェオの力でそう聞こえているだけなのか。にしてもでかい、真四角だとしたら200メートル四方だぞ。


「そういえば初代国王はご存命なのか?」


 十分にありえる話だ。フェオのいっていた話では確か50年前にこちらにきたはず、年齢を変えていないのならば70か80といったところだろう。


「初代国王様は20年程前に失踪しております」


「失踪?」


 俺はフェオと顔を突き合わせると、フェオも不思議そうな顔をしている。どういうことだ?


「ええ、それと先代の国王様も三年前のスメラギ帝国の反乱にてお亡くなりになっております。そのことでお妃様も体調を崩されて、今はフルエーラ領の田舎で療養なさっています」


 スメラギ帝国? 急に妙な名前がでてきたな。

 それにしても先代の国王はもういなかったのか、だからあんなに小さいエゼルバルトが国王をやっていたんだな。これにはフェオも頷いている。


「現国王陛下は素晴らしいお方です。齢12の頃に国王に即位されてから今まで立派に勤め上げ、反乱軍との戦地に赴くさまはまるで先の国王様を思わせました」


 エゼルバルトは15歳だったのか、10歳ぐらいにみえたぞ。


「戦争になったのか?」


「ええ、今は小康状態が続いておりますが、彼らは既に最北端のカスティリアを占領しておりますから。いつまでも手をこまねいているわけにはいきません」


 どこに行っても戦争か、人間ってのは懲りないもんだな。別に楽観視していたわけではないが、思ったよりも甘い世界というわけでもなさそうだ。


「そんな状況で世を平定に導くといわれている転生勇者が現れたのですから、リク様には期待がかかっておりますよ。……と着きました」


 いつの間にか大理石でできた壁ではなく、木や土で作ったものに周りを囲まれていた。そして、遠くからは人々の喧騒が聞こえてくる。


「この先は武器庫なっており、そのまま円形闘技場に繋がっております。30分程後には開始いたしますので、準備ができ次第入場してください」


「わかった」


「闘技はどちらか片方が戦闘不能になるか、降参するまで続けられます。すぐに降参されては困りますが、あまり無理をなさらないよう」


 予想できていたとはいえなかなかシビアなルールだな。だが、御前試合である以上殺されはしないと思いたい。


「では私はこれで、ご武運を」


 そういって恭しく頭をさげ凛とした姿で去っていくのは、いかにも敏腕美人メイドといえるんだが……。

 武器庫への扉を開けるとさっきまでの喧騒がより大きく聞こえてくる。出口からちらっと見えた程度だが、それにしても物凄い数だ。軽く2万人はいるんじゃないか?


「ギャラリーが一杯ですよ。大丈夫ですか?」


「大丈夫だ、地区大会個人戦準優勝の実力を見せつけてやる」


「しょぼい、しかも確かあそこの地区の個人戦は人数の関係で、一人しか県大会出場の枠がなかったと思うのですが」


「ほっとけ」


 どうせ俺は万年2位だったよ。


「そういえば剣道をやめたのは一年位前ですよね、引きこもりになったのも同時期ですし、どうしてですか?」


「クロニコンはどうした?」


「あなたはリアルタイムで書かれる17年分の本を読みたいんですか?」


「神様なのに面倒くさいのかよ! 仕事じゃないのか!」


 俺はそういいながら、周りの武器を検分していた。剣、斧、ハンマー、槍となんでもあるがやはり心得のある剣がいいだろう。猟銃の類も見受けられるが、闘技場であれをもってでてくる勇者は見たくないな。

 取り揃えてられていた剣から、比較的刀身が短く軽いものを選んだ。短めのブロードソードといったところか、これならば竹刀と同等の剣速で振れそうだ。どうやら、闘技のためか刃は研がれていないかわりに、壊れにくく作られているようだ。


「こっちの方がいいのじゃないですか?」


 そういってフェオは宝剣や、大剣の類を指さしている。中には俺よりもデカい大刀まであるんだが、ガッ〇の剣じゃねぇかアレ。


「そんなもん振れるか」


 試して持とうとしてみても、動かない。もう一度言う、動かない。


「せめて宝剣の方が無難ですよ」


「? なんでだ? 竹刀なら今でも毎日振っているが、生憎俺にはこれより大きな剣をまともに振る腕力はないぞ」


「ダメな方に自信がありますね、まぁいいですけど」


 喧騒がさっきよりも大きくなっている、もうじき始まるのだろう。柄にもなく緊張してきた。


「それでは始まる前に簡単なレクチャーをしておきますよ」


「戦いの指導ができるのか?」


「違いますよ、あなたのチート能力の話ですよ」


「そうか忘れていた」


「忘れないでくださいよ! 突貫工事とはいえちゃんとつくったのですから!」


 この神様見習いの突貫工事など不安でしかない。が、いきなり実戦ともなれば贅沢もいってられないな。


「いいですか、まずは――――」


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