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2-3「竜人王女と早朝」




「申し訳ございません、国王陛下。昨夜は私の代わりにラフィリアに夜番を受け持たせていたのですが、どうやら夜泣きに当てられたらしく……」


「謝辞はいい、予知の不調に気がつかなかった余にも責はある。それに貴様はあっちの方にかかりきりだったのだ。仕方あるまい。

 それはそれとしてテオドールの奴はどうしたのだ」


「扉の前で死んだふりをしておりました」


「やはりか! ジークフリートの奴、余に厄介ごとばかり押し付けよってからに! しきたりをなんだと思っておるのだ。そもそも、姫の癇癪に耐えられない奴を護衛につけるな!」


 早朝の王城を足早に進む、幼き国王とその従者。従者の方は王の手前、メイド服をしっかりと着こんではいる。だが、国王はというと王冠と杖こそ携えているものの、ほとんど寝巻同然の格好をしていた。


「それでラフィリアの容態はどうだ?」


「少しの間意識を失っていたそうですが、命に別状はありません」


「というか、今どこにおる。見えんぞ。医務室にもネネの部屋にもおらん」


 国王は左手を片目にかざして呟く。


「医務室には鍵がかかっていたので、私の私室に運んでおきました」


「……貴様、やりおったな。だいたい、貴様には2等級以下の部屋の鍵を渡しておいたはずだが……」


「彼女の経過はいかがですか?」


「……後遺症はなさそうだ。二日後には虚弱状態も完治するが、まぁ……ほどほどにしておいてやれ」


「かしこまりました、ほどほどにしておきます」


「テオドールの方は?」


「かさばるので庭に」


「まぁ、それでよいか」


 そうして二人はある客間の前へとたどり着く。そしてすぐに


「リク! 無事かっ!」


 扉を勢いよく開け放つ! そこにいたのは――


「ん? どうしたんだ、エゼル? 血相変えて」


 上半身裸で胡坐をかく転生勇者と


「うが~、うがぁ~~」


 その上ではしゃぐ竜人王女の姿だった。


「うがっ?」





 めっさ懐かれた。


 さっきからネネは胡坐をかいて座っている俺の肩をよじ登ろうと悪戦苦闘している。ちなみに俺はまだ上半身裸だ。

 ということはすなわちつまり、ネネの高めの体温を素肌で直に感じているということだ。どう考えても最高です。本当にありがとうございました。

 とまぁ、ネタはここまでにしておくとして、感じられる体温がどうも高い。というか正直いって熱い。体感でいうと50°ぐらいはあるんじゃないだろうか。

 

「うむ、というわけで彼女こそがリクの花嫁候補が一人、ネネ・フアナ・エンリケス。現エンリケス王、ジークフリート・キリル・エンリケスの一人娘。エンリケス直系の王女である」


 アレキサンダーの次はジークフリートか、名付け親が一発でわかる。というか親子ミドルネームが違う、なにか事情がありそうだ。てか、それ以前に


「質問がある」


「なんだ?」


「転生勇者に幼女を捧げるのもしきたりなのか?」


「そう、それなのだ」


 どれだ。


「余もリクの降臨に際して一報を送った時」


 俺の降臨か……かっこいいな。今度使おう。


「確かに、条件の指定こそしなかった。そんなことは度が過ぎて無粋であるからな。だが、サンブリアからはクラ姉様を選出するということ、それに加えて暗に王族から近縁のものを選ぶようほのめかしておいた」


 仕方のないことだが、指定してるのと同義だな。うちからは王国のたった一人の王女を選ぶんだから、それ相応の相手を持って来いってことじゃないか。この手の王命は属国の格が試されるのだろうし。いや、もしかしてこの言い方だとアーデのような旧王族も含まれるのか?

 どちらにせよ、国王への贈答品扱いじゃ、ますます花嫁候補達が不憫だな。


「ゆえにそこまで偏った人選にはならないだろう。余もそう思ってはいたのだがな……」


「予知で見ればよかったじゃないか」


「本来たどるはずの未来を変えることは、非常に労力がかかるものだ。

 今回の件は特に、な。かけたものと得るものが釣り合う保証もありはせん」


「そんなもんか、でも血統的には問題がないんじゃないか? 国王の一人娘なんだろう?」


「それはそうだが、まだ10にもならない幼子を嫁に出すのは正気ではない。特にネネはエンリケスのエッツェル城を二度半焼させておる。自分たちの手に負えなくなったから、王城に寄越したとしか考えられん」


「そいつはひどい」


「そうなのか? お母様もお父様もネネくらいの時は一人で旅をしてたって言ってたぞ?」


「……お母様も? それはどういう――」


「竜人族には幼い内に一度独り立ちをさせるという風習がありますから」


 焦げ付いたベッドシーツを整えつつカサンドラがそうエゼルをさえぎった。カサンドラがそんな真似をするとは珍しい。

 どうやらダメになっているものとそうでないものを振り分けているようだが、俺の肌着だけ小脇に抱えられているのはなぜだろう。


「へぇー、そうなのか」


「谷底に落とす、魔獣の巣に放り込む、洞窟に置き去りにする。というものですが、ネネ様は王族でもありますし、そういうわけにもいかないのでしょう」


「死ぬんじゃないか? それ?」


「過去に例がないというわけではありませんが、そういった話はほとんど聞きませんね。なにせ竜人族は亜人種の中で最強と謳われていますから。

 ましてやネネ様はエンリケスの直系にして転生勇者の血統、サンブリア連合王国の中でも指折りの潜在能力の持ち主かと」


「ネネはサラマンダーよりずっと強いのだ!」


 万歳のポーズで威張る有数の潜在能力の持ち主。こんな小さな体躯にそんな力が秘められているとは。


「紅茶が入りました、どうぞ」


「おお、すまん」


「うむ」


「ネネも飲むのだ~」


 中央にある椅子に腰かける俺とエゼルとネネ。といってもネネは俺の膝の上に座ってきた。かわいい。


「……やけにティーセットが充実しておるな。ここは客室のはずだが」


「俺の趣味だ、フェオにカフェオレを作ってもうことも多いしな」


「この私がすっかり小間使いなんですよ……」


「……使い魔なのだから当然ではないか?」


「む~、ちょっとぬるいのだ」


 紅茶の放つ芳香が、熱波に包まれていた一室に広がっていく。穏やかで安らげるゆったりとした時間、それが客室の小さなテーブルを中心に流れていった。


「そういえばなにか……忘れているような……?」






「リクの奴……」


 ここは朝露濡れるサンブリア第二庭園。その中央には木剣を杖に仁王立ちする戦乙女が一人。立ち尽くしてわなわなと肩を震わせている。


「……遅いっ!」




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