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2-2「竜人王女と焦熱の抱擁」



「うがあぁ~~っ! うがあぁ~~~~~っ!」


 依然泣き止むことのない銀髪幼女。部屋の温度は今もなお、際限なく上昇し続けていく。クラウの大魔法に引けを取らない圧倒的な熱量だ。この世界の子供は癇癪の度に火災を起こすのか? 全国のお母さんの苦労がしのばれる。


「くだらないこと考えてないで何とかしてくださいよ!」


「ナチュラルに心を読むな」


「うがっ……ウガアァァーーっ!」


 うめき声の質が、変わった。


「っ!? なんだこれはっ!」


 幼女の嗚咽から、獣じみた咆哮へと。感情の高ぶりに呼応して、周りのマナが炎となって形を成す。それを彼女の周囲に逆巻くように集まっていく。その炎が群青とグレーだった甲皮を、紅蓮の炎塊で染め上げる。全ての甲皮が炎に包まれ、赤色へと変化していった。瞳孔も縦長になり、その表情はあどけない寝顔と打って変わって、野性味溢れるどう猛さを感じさせる。


「うぅ~~っ! ウガァーーーっ!」


 だがまだその咆哮には苦しそうな声が混じっていた。頭を抱え、たびたび振り払う。


「ウガっ……ウガアァァーーーーーっ!」


「こいつ……もしかして、力を制御できてないのか?」


 だとしたら危険だ。

 もし、これほどの熱量を暴走させてしまっているなら、俺達はともかく、この幼女もただでは済まない。それだけはダメだ。


「城内では極力使うなとは言われているが、非常事態だ! フェオ、少し下がってろ!」


「わかりました!」


 せめて範囲は狭める、この王城で魔術を消しまくったら何が起きるかわからないのと、フェオを残して少しでも対応力を上げるため。


展開半径指定3m(レイディエススリー)


 一刻も早く、彼女を焦がす高熱をこの世界から排斥する!


理外魔術(チートソーサリィ) 起動(エミュレート) 『現世界展開(アンチアナザーワールド)』!」


 魔法も魔術も存在しえない現実の世界を纏って、熱量をまき散らす幼女へと飛びかかった。オドによる身体能力補正が打ち切られ、今までの熱波がより鮮明に肌を焼く。火山の噴火口で防護服を脱ぎ捨てるような暴挙だが、そうでもしなければ炎で着飾られている彼女には近づくことすら出来ない。


「づっ! アアァっ!」


 いくら炎で直接焼かれなくなっても、その熱波は容赦なくこの身に吹き付けられる。サウナで扇風機に当たり続けているようなもんだ。

 余波を無効にできないのがここまできついとは。

 だが、これで。


「たどり……ついた」


 ベットの上で泣きじゃくる彼女のもとへと。


「ウガアァァーー……うがっ?」


 炎はかき消され、甲皮の色も紅蓮から群青へと徐々に戻っていった。その瞳孔も、もとのつぶらな瞳に戻っている。


「うがっ……ウガ、うがあぁ~~~~」


 それでもまだ彼女は泣き止んでくれない。どこか痛むのか? まさか『現世界展開』の影響か? だったら――


「『世界解放(ワールドリザーブ)』」


「うが?」


「おっと、泣き止んだか」


「う……うがあぁ~~~~」


「っく、ダメか! かくなる上は」


 仕方ない、そう、仕方ないから。俺は腰を落として――


「……大丈夫、大丈夫だから」


 優しく幼女を抱きしめる。人に安心感を与えるには直接さするのが一番だと、祖父ちゃんの遺書に書いてあった。祖父ちゃん生きてるけど。

 幼女に触りたいから、難癖つけているわけではない。


「うが?」


 あったけぇ……。強く抱きしめたら、折れてしまいそうな体躯。柔らかさしかない身体。太陽を思わせる高めの体温。総合的に見て癒し100パーセントだな。身体中がめちゃくちゃヒリヒリするが、それすら気にならない。

 改めて考えるとなんで俺上半身裸なんだろう。


「がう……うっ、んくうぅ……」


 だんだん穏やかになっていく彼女の嗚咽に、名残惜しくも彼女の身体から離れる。ゆっくりと、彼女の目を見つめながら、優しく、優しく頭をなでる。視界の端っこでどっかの神様見習いがドン引きしているが気にしない。


「うがっ、うが~~……」


 指通りのいいさらさらとした髪。なでられるのが気持ちいいのか、顔を緩ませて、嬉しそうな声を漏らす。

 もう大丈夫か。


「落ち着いたか?」


「うが!」


 大きく頷いた。おそらくイエスという意味だろう。


「ふー、一件落着ってとこか……。それでだ、どこからこの王城に入って来たんだ、お嬢ちゃん?」


 ここが夜間に誰でも入れるような笊な警備をしているとは思わない。だが、見てくれから考えて、メイドや貴族の娘には見えない。城のメイドには獣人もエルフもいるが、彼女のことは見たことがない。どこかから忍び込んでしまったんだろう。


「うが? どこ……から? ネネはずっとここにいたぞ?」


 どうやらこの幼女はネネという名前らしい。にしてもネネ? どっかで聞いたことがあるな。どこでだ?


「ずっと? サンブリア育ちってことか?」


「ちがうぞ、ネネのふるさとはエンリケスなのだ。ちょっとまえからここにすんでいるのだ」


 住んでる? 王城に? というか。


「エンリケスって言ったら、確か極西の山岳地帯にある国だよな? なんだって、サンブリア、つうか、バーニシア城に……。てか、ちょっと前? まさか、お前は!」


 そうか、思い出した。ネネという名前をどこで聞いたかを。


――ネネ様はまだお昼寝の時間ですね――


 最初の日にカサンドラが漏らしていたその名を。


――もしネネに興味があるんだったらテメーは変態確定だ――


 遅ればせながら、全面的にフリスに同意する。それはそうだろう。なぜなら


「ん? ネネはネネだぞ、エンリケスのおーじょだっ!」


 この幼女の名前は、ネネ・フアナ・エンリケス。転生勇者である俺の五人目の花嫁候補は、あきらかに10を下回っている幼女なのだから。


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