閑話「実験王子と反乱軍」
「ン~~っクックックっクハっハハハッ!! やっぱりぃ、ボカァ天才だったんだぁ」
自らの髪を抉るように掻き揚げながら、笑う青年。その左手には血で汚れた包帯越しに赤い紋章が濁った光を放つ。
彼の持つ鼻の高く、整ったその顔立ちは間違いなく貴公子に類するものだろう。限りなく白に近い体色とマリンブルーの瞳も相まって、被造物のような完璧に近い美がある。だが、その腰の位置まである無色透明で海月の触手のような長髪は、それらを不気味に反転させてあまりある。そしてなにより首から下の身体にはその全てに包帯が巻かれ、ところどころから血が滲んでいた。
木製の材料が使われている床には、替えた包帯の残骸や赤い液体を多分に含んだ物体が散乱している。そのせいか、周辺の壁や家財にはそれらの赤黒い染みがはっきり残っていた。
「その様子だと、どうやら成功したようじゃな」
彼の隣に音もなく現れたのは、フリルが随所にあしらわれたワンピースを着たピンク色の頭髪をした少女。その小さな口には棒付きキャンディーが3本ほど放り込まれている。
本来ならば死臭の詰まった一室とはまるで無縁の存在のはずだが、少女はまるで頓着せずにキャンディーを舐っていた。
「ンハァ~~ア……。無論だぁ、『錬金術師』」
「そいつは吉報じゃあ、妾が知恵を貸したかいもあったというもの」
「ン~~、お前の助言には感謝してるぅ。この仮説を実証できたのはお前とあいつのおかげさぁ」
「あいつ……『自演劇場』のことか。あの男、儂は好かんな。有能なのは認めるが、人を馬鹿にしているような飄々とした態度が気に食わん」
「あの男ぉ? そんな年じゃあないだろう、あいつ」
「自己申告ではそうじゃが、どことなく妾と同じ匂いがするのじゃよ」
「ババァ臭かぁ?」
「冥魂魔術・冥土送り」
口内から引き抜いたキャンディーを突き出し、青年へと突き付ける少女。すぐに濃い紫色の魔方陣が展開され、どす黒い魔弾が射出された。
「うおぉっとぉっ!?」
すんでのところで躱す青年。魔弾はそのまま直進し、後ろのゲージに直撃した。そこに入っていた蝙蝠はすでに、全て亡骸となっている。
「チッ、外したか。即死対策ぐらいしておけ」
「してるけどさぁ~。こんなんで無駄使いはしたくないじゃないかぁ」
「なら当たれ、ジョークの分からん奴だ」
少女はつまらなさそうにキャンディーを口にくわえ直し、また別のキャンディーを口内から引き抜いた。そしてそれを舌でなめまわす。
「死ぬほど面白いジョークだなぁ」
「それで、今日あやつは来るのか?」
「あいつぅ~? なんで今日?
というか、お前はなんでここにいるんだぁ? また実験材料がたりなくなったのかぁ?」
「はぁ? 今日は幹部会じゃろうが! わざわざスメラギからカスティリヤまで来させよってからに!」
「ンアぁ~~あ! そういえばそうだったなぁ、そうだった。『自演劇場』は……あいつが来るかどうかなんて僕にはわからないなぁ」
「相変わらずいい加減なやつじゃな。貴様もあやつも」
「おまえも不定期なのは同じだろぉ」
「儂は協力者であって幹部ではないじゃろうが、今日来たのは報告が溜まっておるからじゃ」
「毎回ちゃんと来るのは『悪魔将軍』『狂気帽子』あと『亡霊騎士』ぐらいだぁな」
「ものの見事に男連中ばかリじゃのぉ。まぁ貴様と違って儂らは忙しいからな」
「しょ~がないだろぉ。僕がここを離れたら戦線が崩壊するんだよ」
そうやって彼は左手をひらひらと少女へと見せつける。それを彼女は侮蔑と羨望の含んだ目線で睨みつけた。
「チッ、忌々しい。今に見ておれ」
「そ~ろそ~ろ、てぇ~~じですぞぉ。わ~が主?」
なけなしの仕切りとしてあった垂幕を分け入り、部屋に入って来たのは2mを超える瘦せた道化師。真っ赤なシルクハットと一切模様のない不気味な仮面により、その表情を伺うことはできない。
「『狂気帽子』、今日来ているはメンツはどうだぁ?」
「私、そしてここにいる『錬金術師』様。開始の30分程に前に『亡霊騎士』殿が。そして5分程前に、『悪魔将軍』様が従者の方をともなって。直前まで斥候部隊の編成のお話をしておられたようですぞ、今はもう下がらせているようですな。それと直前になって『自演劇場』殿もお見えになられましたぞ」
「おっあいつが来るなんてなぁ。にしてもハートとダイヤは今回のも欠席かぁ?」
「私にはわかりかねますが、『殺人幼鬼』は殺戮旅行ではありませんかな?」
「面倒くさがりのあいつがかぁ~?」
「お~こと~ばで~すが。た~しか、我~が主の命ではありませんでしたかなぁ? 全国各地に恐怖と狂気をもたらせと」
「僕、そんなこといったけなぁ……」
「確か今は……フルエーラにいらっしゃるようで~すな」
「まぁいいや、刻限なんだろぉ」
青年はすべてのものが不完全な形でしか存在していない部屋で、唯一原型を保っている外套を肩に引っ掛ける。その背後に刻まれた紋章は、輝いている五芒星を覆い隠すように存在する濁った黒色の逆さ五芒星。その五つの頂点にも輝く星が五つ串刺しになっている。
病人を思わせるような緩慢な動作。にも関わらず、肩で風を切っているという表現が似合う、奇妙な覇気を彼は纏っていた。
「『一揃いの叛意』諸君、問おう。
君たちにとってこの戦とは、なんだ?」
白い貴公子は赤いシミのべったりとついた玉座にて臣下へと問う。その周りに座るものは都合、5名。一人は真っ直ぐに玉座を見据え、その内二人は顔が隠れており、どこを向いているのかわからず。そして、残りの二人は明らかに玉座を見ていない。
「ジキルハイド皇帝陛下。正統なる御国の王。あなた様に捧げるための聖戦です」
藍色の肌、深紅の瞳をした女性型の魔物が真っ先に答える。それは席がもっとも近いから、とかではなく、彼女のもつ絶対の忠誠ゆえだろう。
スメラギ帝国反乱軍総大将 『悪魔将軍』
「ビィ~~ジネスです、なっ!」
軽い調子でその長い腕とステッキを振り回しながら答えたシルクハットの男。仮面をしているからかもしれないが、その瞳がどこを捉えているかなど検討もつかない。
スメラギ帝国反乱軍参謀・外交担当官 『狂気帽子』
「……浄化だ」
目上の立場と卓を共にしているのも関わらず、その兜を取ろうともしないフルプレートの男。その声には彼の身に着けた鎧同様、漆黒の執念がうかがえる。
スメラギ帝国反乱軍 特別戦力 『亡霊騎士』
「退屈しのぎじゃなー」
足をばたつかせ、キャンディーを舐める少女。飴にも飽きたのか、三つのキャンディーを全て重ねて、一気に噛み砕いた。
スメラギ帝国反乱軍 技術開発顧問 『錬金術師』
「なんだろ? 仕事と遊びの中間? 趣味も兼ねてるかもしれない。キミは? 僕はそっちの方が気になるかな」
赤い瞳と金髪の少年。その容姿はどこか、かの国王と酷似しているが、その無邪気な態度と全裸同然の布切れを着た格好は彼とかけ離れたものだろう。
スメラギ帝国反乱軍 ????? 『自演劇場』
「んっ? あぁ、僕? 実証実験」
七つの国を巻き込み屍山血河を築く大戦を実験と言い切る皇帝。いや、そもそも正否で言えば、約半分の返答がまともな感性とはかけ離れている。それを聞いて、彼はなおも笑みを禁じ得ない。
スメラギ帝国反乱軍首領 スメラギ帝国皇帝 ジキルハイド・コノエ・スメラギ
「そうだ。僕たちは戦う理由も、意味も、その果ても恐らく違う
ただ目的は同じだぁ。そうだろう?」
「それがあなた様のご意思ならば」
「ヨホホホォホーー。と~ぜ~んです、なっ!」
「……くだらん。わかりきったことだ」
「そのようじゃな」
「そうしてくんないと困るんだよねぇ」
各々がおのおの、全く別の理由から皇帝の言葉に同意を示す。その言葉を受けて彼は――
「叛意、実に結構。じゃあ始めようかぁ。全ては――
「「かの王国を滅ぼす為に」」
ニヤリと笑った。別個の意思と重なった言葉。
塊となった反逆の意思がこの異世界に戦争と終焉を運ぶ。
前座が終わり、幕間の語らいもそろそろ仕舞。また一つ幕引きへと続く物語の幕が開く。
次章予告
「ネネはネネだぞ、エンリケスのおーじょだっ!」
獣人王女、プリシラと共にフルエーラを訪れる転生勇者リク。元奴隷の子孫達が人口の半分を占めるこの街で、彼は逃れられない宿命と対峙することとなる。
「一撃必壊の理外魔術『抜山蓋世』、今は私のお母さんが持ってる」「父上はよーゆうとったで、こん力が一等役に立たんかったってな」
「川が……赤い?」「勇者殿はかつてのこの国についてどうお考えですか?」
「我が意に応え、その光を示せ! 聖杖フルールドエル!」
「血筋で女王を騙っても、所詮は元奴隷だろうが!」「かの勇者は俺達を囲う壁に風穴を開けてくれたんだ」「奴隷としてベッドで寝るなんてまっぴら、星を見て寝れる分、馬小屋の方がまだマシだね」
「ヨホホホォーー、私はスメラギ帝国反乱軍『一揃いの叛意』が一人、秘匿名称クローバー・ジャック。以後お見知りおきを」
「生憎、俺の剣に誇りは乗っていない」「断ります、あなたに理由は渡しませんわ」
「大罪を孕んで濁った宝石など、脆いぶんだけ石ころにすら劣りますよ! 不合格です!」
「俺の名前はバルバロス。不撓不屈の義賊門番、バルバロス・グレート・ジャイアント!
フルエーラいちの伊達男たぁ、俺のことだっ!」
coming soon.
「伊達なくねぇっ!?」




