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第一話「天邪鬼と転生勇者」

「なぁ、カサンドラよ?」


「どういたしましたか? エゼルバルト国王陛下」


 エゼルバルトが玉座のもとで跪いている眼鏡をかけたメイド服の女性に声をかける。どうやら、この世界のメイド服はヴィクトリアンスタイルが主流らしいな、この異世界が好きになった。


「余は若年ながらも皆に支えられ、よい治世を行ってきたと思っておる」


「おっしゃる通りです国王陛下」


「貴族議会では若すぎる余に対して敬意を払わぬ奴らもいたが、今ではもう十全に余は国王としての責務を果たしている。そうは思わぬか?」


「違いありません国王陛下」


「ならば……」


 そういってエゼルバルトは再度城内を見渡す。


「花嫁候補が3人しか来ておらんとはどういうことだ! 半分しか来ておらぬではないか!」


 それは俺も気になっていたことだ。でも半分しか? どういうことだ?


「他の花嫁候補はどうしたのだ?」


「ネネ様はまだお昼寝の時間ですね」


「ぬぬ、そうであったな」


「起こしてまいりましょうか?」


「お前は我が城を灰にするつもりか?」


 いやちょっと待て。どんな子を選出しているんだよ。


「失礼しました。ではモニカ様の方ですが、20日間ほど姿を見たものがおりません。あのお方ですから大事はないと思いますが、伝達魔法も届いているかどうか」


「詰め所に捜索願をだしておけ、無駄だとは思うが」


「かしこまりました」


 失踪しているというのではないかそれは?


「まぁその二人は致し方あるまい。だが」


 エゼルバルトは段下の来賓席らしき場所に座っている数人に目を向けた。


「プリシラァー! 貴様の所の花嫁候補が来ていないではないか! 急な話でも式典には間に合わせるとさんざんいっておったただろう!」


「あっ! ごめんごめん、それ私だナー」


 そういってそこからその女の子は眼前に跳躍してきた。いま軽く3メートルぐらいとんだんだが。そして、目に入ってきたのは……ネコミミ?


「いやー、あなたもそろそろいい人を探しなさいってお母さんにいわれててさ。そんな所にお告げが来てビビっときちゃったってわけですナー」


「ふっ貴様のお転婆は王女になっても変わらぬな。しかしプリシラ、よもや貴様他の花嫁候補がみつからなかったための方便ではあるまいな?」


「な、何のことですかナー」


 さっきから思っていたがこの式典だいぶ適当じゃないか?


「見た目はちょっと冴えないけど……ニオイは悪くないし、よろしくね! 転生勇者様!」


 彼女は手を差し出して握手を求めてきた。どうやら握手の文化はあるらしい。


「こんな式典が行われると教えていただけたなら、もう幾分かはましにできたのですが」


「敬語、慣れてないですナー。いいよ気にしなくて、私はプリシラ・ガルシア・フルエーラ。フルエーラの王女で18歳。気軽にプリシラってよんでね、私もリクって呼ぶからさ」


「そういってくれると助かる、プリシラ。内心いつボロがでるかひやひやしていたんだ。」


 そういって親しみやすい笑顔を浮かべる彼女の頭上には、今もピョコピョコと動くネコミミがついていた。恐らくネコの獣人なのだろう。体型は小柄で式典にきたとは思えない丈の短いグリーンのローブと栗毛のショートヘア、少し日に焼けた肌が絶妙にマッチしていて彼女の可愛らしさを余すところなく引き出している。

 そういえばこの異世界は獣人のいる世界観なんだな、まぁ見習いとはいえ神様にあっているんだから今さら驚きもしないが。


「にしても……スン、スンスン」


 彼女は俺も首筋あたりに顔を近づけてニオイを嗅いできた。そんなに近いとあなたのフローラルな香りもしてくるんですが、ありがとうございます!


「なんだろうこれ? なんていうか豆を焦がしたような。でも、コクがあっていい匂いがする」


「!! プリシラ、カフェオレの良さがわかるのか!?」


 感激で思わずプリシラの手をとる。コーヒーの匂いといった方が正確なのだが、そんなことはどうでもいい。


「かふぇおれ? なんですナ? それ?」


「なん……だと。この世界にはカフェオレがないのか?」


 この異世界が嫌いになったわ。差し引きゼロだな。


「ふむ、初代国王様の時代には様々な文化改革が起こったのだが、かふぇおれとやらは出来ておらんな。民草につくらせてみてもよいが?」


「いえ、お気になさらないでください。些事ですので」


「意外と転身が上手いな。だが、プリシラと余は盟友である。それならば、余に対してかしこまった態度をとる必要はない。元々、転生勇者は王族に名を連ねる存在であることだしな」


「そうか? そういうことならお言葉に甘えて」


 王族と同等って転生勇者の扱いが凄すぎる、前回の奴は一体何をやったんだ。


「プリシラ、しかし王女がこのようなことを行っても大丈夫なのか? フルエーラの法ならば次の王位は貴様だろう?」


「そんなことをいったらエゼルだってクラウを選出するのは、問題があるんじゃないかにゃー?」


「案ずるな、余は決して死なんからな」


「大体、シスコンのエゼルがクラウを差し出すなんてナー。お姉ちゃんと結婚するのは自分じゃなくていいんですかにゃー?」


「仕方がないだろう! それがクラ姉様のたっても希望なのだから!」


 さっきからちょいちょい勇者がそっちのけになっているな、俺が口をはさむ瞬間が見当たらない。それにいくらなんでも国王と別の国の王女の仲が良すぎないか?


「なんでこんなに彼女らの仲がいいのか、気になっているんじゃありませんか?」


 それのみでお淑やかさと高貴さが感じられる声に振り向くとそこには、王座にいる国王とよく似た雰囲気をもつ美しい少女が立っていた。


「お初にお目にかかります、転生勇者様。私はあなた様の花嫁候補が一人、クラウディア・ケント・サンブリア。サンブリア王国の王女にして、現国王エゼルバルト・ケント・サンブリアの姉をやっておりますわ。」


「うーーんと、よろしくお願いする。クラウディア」


「クラウで構いませんわ。親しいものはそう呼びます」


 俺が敬語を使ってしゃべらなかったのを見て朗らかに笑う。流石に王座に座っているエゼルバルトとよりは豪華ではないが、随所に高級そうなアクセサリーを身につけている。またスレンダーであるためスタイルこそ劣るが、そのきめ細やかな黄金の長髪は本物の女神であるフェオを彷彿とさせる。いや、その色つやを含めれば女神よりも神々しいといえるだろう。(当社比)

 何より、あの神様見習いとはたたずまいが違う。もし、この子が死んだ直後にでてきたら全てを諦めるレベルだ。


「ところで勇者様」


「どうしたんだいクラウ」


「式のご予定はいつにいたします?」


「……は?」


 と思わずそんな間抜けな声をあげてしまう。


「私たちの婚儀のご予定ですわ。明日は勇者様の王族認定の儀を執り行う予定ですから、その場で皆にご報告をする形にして、明後日はいかがでしょうか? 9日後の商い人の祭日も捨てがたいです。いえ、でもその日まで私が待てるかどうか。いっそのこと明後日に婚前式を挙げて、正式な婚儀を祭日に挙げるというのはどうでしょう? あぁそう考えたらこの王国全ての国で二回ずつ式を行うのも悪くないですわね、いかがですか勇者様?」


 絶句、その時の俺の状態を言い表すならその一言に尽きるだろう。


「この通りは余の姉君は転生勇者を信仰しておる。まぁ母上にあれだけ初代国王様の話をされて育てられては無理もないが」


「そうそう、私達のおじいちゃんはそれだけ凄い人だったらしいしナー」


「プリシラ、初代国王様と呼べと何度も言っておろうが。祖父といえど7つの国を平定した大英雄であるぞ」


 母上に初代国王の話? 私達? 待てよ、転生勇者の優遇ってもしかして――


「そうかそういうことか」


 あの神様見習いは大体50年ぐらい前だと言っていたはずだ。


「ふむ、察しは良い方だということか」


「そこにいるクラウも勿論そうだけど」


「式場はどうしましょう。やっぱり大聖堂でしょうか? あぁ悠久の砂浜やロドリー平原も捨てがたいですわ。初代国王様が婚儀を行った蒼穹の丘も外せませんし。少し遠いですが夜のエンリケスの大空洞もロマンチックで素敵かもしれませんわ。でもこちらはハネムーンの方が……」


 トリップしているクラウは無視しよう。


「あんた達は全員いとこ同士なんだな」


「正解だナー」


「その通りだ。余達はいや、この王国にある七つの国の王は全員――」


「モガー、モガァーー」


 クラウがさっきのメイドに猿轡をされている。王族なんだよな?


「正統なる転生勇者の血統である!」


 なるほどそれは信仰もされるはずだ。


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