第四話「神様見習いと異世界転生2」
「鈍いですね、異世界転生といえば一つじゃないですか能力の授与ですよ! 新しい世界に行くのですから先立つものは必要でしょう。口止……慰謝料だとでも思ってください」
「……なるほど」
今確実に口止め料といおうとしたな。
「さっきもいったようにあなたは今生を引き継がなくてはなりませんから、ステータスは変えられず持ち越しになりますよ。でも能力の方はつけるだけですからその分奮発しますよ。その他アフターケアもばっちりに」
そういわれて少し考える。ここでの選択は重要だろう。
「あっ! 数は一つにしてくださいよ。前の時は七つもつけちゃって大変なことになったのですよ」
「甘やかしすぎでは?」
「いやーあの時は正直私自身焦ってて、彼も途中転生でしたのにステータスまで無理矢理最強設定に変えさせられたのですよ」
ふむ、弱すぎて詰むレベルの能力や、最強すぎてつまらないレベルの能力を手に入れても面白くないだろう。こんなことを考えていたら、生きることをなめているのかとどこかの誰かにたしなめられそうだが。
悪いが俺はゲームを始める時はハードからプレイするタイプなんでな。
「あちらの世界にある全ての言語を理解できる能力とかはどうだ?」
このくらいの能力の方がやりがいがあるというものだ。
「えっ!? 考えた結果それですか? 通訳にでもなるのですか? しょぼいですよ。そのくらいならサービスしてあげますよ」
「通訳を馬鹿にするな。というかそんな回りくどい即物的なことするわけないだろう」
「矛盾した表現ですね。心配しなくても言語なら概念を頭の中に書き込めばちょちょいのちょいですよ。そういえば前回の彼は異界語の勉強に一年も使っていましたね」
「七つももらったのに忘れていたのか?」
というかこの神様見習い、言葉の通じない異世界に転生者をなにもいわず放り込んだのかよ。更に不安になったわ。
だが、思わぬ形で便利な能力が手に入った。確かにこの神様見習い相手なら口先で無制限に融通をきかせられそうだ。もっともそんなことはしないが。
「だったら――――――――
――――というのはできるか?」
「本気でいっているのですか?」
「難しいのか?」
「いえ、それならば可能ですよ。私としても元になるものが存在した方が作りやすくていいのですよ。それにあなたらしいといえばあなたらしい能力ですし」
「俺らしい?」
「ええ捻くれもののあなたには似合いの能力です。」
彼女はそう皮肉を言いながらも静かに柔らかな笑みを浮かべていた。
「少し、お話しが長引きましたね。」
彼女の言葉からどことなく寂しげなものを感じる。
「今回のあなたとの時間は楽しかったですよ。ごくまれにここに迷いこんでくる人はいるのですが、ほとんどの人がおじいちゃんやおばあちゃんなので。同世代に見える方とこんなにもおしゃべりしたのは、神様になってからあなたがはじめてかもしれません」
こういう気恥ずかしげなことをすらすらと語ることができる。彼女はやはり見習いだろうと神様なのだ。
「そろそろ時間ですね。ああ、あとこれを」
そういって彼女は藍色をした小さな八角錐の水晶を手わたしてくる。
「これは?」
「通信機みたいなものですよ。最初のうちはナビゲートがいるのじゃありませんか?」
「アフターケアまで万全だな」
「またのご利用をってそれはだめですね。」
少しの静寂。なんとなく無言で見つめあってしまう。先に照れくさくなって目をそらしたのはもちろん俺の方だった。思えばこの魔法陣も随分と待たせてしまった。機嫌を損ねて妙なところに飛ばされなければいいが。
「さぁこの先には新しい世界があなたを待っていますよ」
「もしまたここにくることがあったなら、もう少しゆっくりしていくよ」
「それならその時までには部屋を片付けておきますよ」
くるりと彼女に背を向けて告げる。
「それじゃあな、フェオ」
「? なんですか? それは?」
「あんたの名前だ」
そういって俺は光輝く魔法陣へと踏み込んでいった。
▽
「フェオ……ですか。彼の人物評価にキザというのも追加しておきましょう」
そして神様見習い……フェオは腕を真一文字に払う。すると書斎に積み上げていたほぼ全ての本は次々とあるべき位置に戻っていく。そして次に指をパチンと鳴らすと床に落ちていた書類は8割がた消失した。
(これで残りは後でも大丈夫そうですね、でも通常業務が溜まっているのがつらいですよ)
書斎に残った本は都合三冊。フェオはそのうち一冊を手に取ると暖炉の中に投げ捨てる。もちろん暖炉に火はついていないが本は炎に包まれた。そして、残った二冊は彼女が手をかざしただけでそこから消えていった。
(一時は本当にどうなることかと思いましたが、ガイドの仕事をこなせば彼のことは一件落着でしょう。といっても彼のガイドをこなすというのは一筋縄ではいかないですよね!)
そうしてフェオは神様見習いの日常に戻っていく。次に彼に会った時、一緒にのむカフェオレのレシピを考えながら。
△
目に入ってくるのは光、光、光。頬が痛いほどに吹きすさぶ烈風と皮膚を叩くティーシャツの感覚は、自分が物凄いスピードで移動しているということを教えてくれる。だが慣性は感じないというのは何とも不思議だ。
そしてその光がひときわ強くなった時、思わず一瞬目をつむると。
パ~パ、ラッパッパッパパパラ~~~! ドン! パパパパ~~~~ン!!!
というけたたましいファンファーレが耳に入ってきた。
「ふむ、どうやら女神のお告げは誠のことであったようだな」
変声もしていない子供の声に振り向くとそこには豪華絢爛な装飾品をつけた赤紫の衣を身に纏う、金髪赤目の男の子に王座から見下ろされていた。周りを見渡すと厚手の赤い絨毯、純白の大理石の床、光の差し込む窓は全てステンドガラスだ。ファンファーレを吹いた音楽隊は優に百を超えている。
「名はなんという? 転生勇者殿」
「東海林陸です。18になります」
その有無を言わせぬ高貴さに反射的に敬語で答える。あの神様見習いもこのくらいのレベルになってもらえるといいんだが。
「トーカ・イリン・リクか? 妙な名だな、トーカ殿とお呼びすれば?」
「いえ、間違えました。リク・トーカイリンです」
これを機に改名するのもいいと思ったが、そこまでの余裕はなかった。
「ふむ、まぁよい。余はエゼルバルト・ケント・サンブリア。サンブリア王国の第三代国王である!」
少し前の話になるが、なぜ俺が『全ての言語を理解できる能力』なんてものを欲したか疑問に思った方も多いだろう。
だってカッコいいとはおもわないか? 数々の言語を操る正体不明の謎の男。ある時は商人である時は情報屋、またある時は詐欺師。そしてまたある時は頼れる町の相談役。そんな――
右も左も分からない異世界を口八丁手八丁でくぐり抜けていく、俺はそういう生活も悪くないと考えていたんだ。
それが一体どうしてこうなった?
「はるばる別世界の彼方から、よくぞこの王国に来てくれた! リク・トーカ・イリン殿!」
王冠もずれている年端のいかない国王は、足の届かぬ玉座に座り転生勇者に祝福を告げる。
「いきなりで済まぬが我が王国にあるしきたりにより、転生勇者には国王が妻を娶らせなくてはならんのだ。そして、このサンブリア連合王国には王都サンブリアに加え六つの属国が存在する。そこでそれぞれの国から選りすぐりの花嫁候補を選出してもらった」
国宝の声に花嫁候補たちが面を上げる。その表情は様々だったが、どの子を見ても花も恥じらうような容姿端麗の美少女ばかりだ。
案外、あの神様見習いは気をきかせたつもりなのかもしれない。が、だからといって――
「一人でも、二人でも、いや望むのならば全員とでも余はかまわんぞ? 勇者殿には彼女ら誰かと婚儀をとりおこない、子を成してもらいたい!」
流石にこれはやりすぎじゃないか!?
神様見習いフェオの再登場は序章2話、主人公の能力が明らかになるのは序章6話になる予定です。
気に入って頂けたら詩集「王国の勇者」を読んで頂けると理解が深まります。