1-14「コスプレ王女と奮戦」
俺とアーデでこいつの攻撃を散らして、クラウの大魔法につなげる。やることはさっきと同じだが、難易度は段違いだ。
「小細工の、つもりカァ!」
「なっ!」
だがアーデに放った薙ぎ払いはそのまま、俺の頭上を飛び越えていった。無視するなよ。
そしてクラウへと前足の一撃が迫る。
「この程度なら、止められます! 防壁魔法・大盾!」
クラウは再度防壁魔法で魔法の盾を張った。神獣の薙ぎ払いと衝突するが、関節の都合上力が入りにくいのだろう。前足がクラウに迫ることはなく、完全に盾の前でせき止められている。
「今なら! 疾風魔法・刺突風!」
フェンシングの突きのような体勢で放たれるアーデの刺突魔法、範囲が狭く、隙も大きいが威力は疾風魔法・閃風より数段上だ。
「ぐぬぅ!」
「いきなりクイーンは、とらせない!」
アーデは大ぶりの突きで崩れた体勢を整えつつ、大剣を掲げるように構え直した、
にしても久々に見るな、アーデの女騎士モード。
流石に刺突魔法は多少ダメージがあったのか、神獣は前足を引っ込めた。片方の足が浮いたならば、もう片方を崩す。
故に俺は自分側にあった左足へと吶喊した。だが、
「ちっ! 羽虫がぁっ!」
神獣は負傷した足を地面に強く叩きつけ、局地的とはいえ地震を引き起こす。
そしてその隙に逆側の左前足が、俺の前方の岩塊を蹴り飛ばした。飛来する無数の石礫はまるで散弾銃だ。
「くっ!」
くぐって回避するが、数個腹に受けてしまう。だが、前進しなくては! 痛みをこらえてそのまま前足へと強引に体を推し進める。が、そこには何も存在していなかった。
ということは――
「瞬雷!」
――ズガァアァン!
即座にバックステップ、今いた場所は強烈な踏み付けで平らになっていた。
「フンっ! 存外にしぶとい」
「人間ってのはそいつが売りなんでな」
「戯言を!」
「疾風魔法・閃風!」
「ぐぅっ!」
俺の軽口に気を取られたか、またもやアーデの斬撃魔法が入った。大空洞といっても、あの巨体ではかわすのは難しいのだろう。
だが、やはり閃風のダメージは深くないらしい、すぐに神獣はアーデへと踏み付けを叩き込んだ。横っ飛びに躱したが、巨獣は続けざまに前足の薙ぎ払いをはなつ。
が――
「ぐっ! ハアァァーっ!」
アーデは大剣を盾にして、薙ぎ払いを押しとどめていた。アーデの両足が地面をえぐり飛ばしているが、それでも魔獣と力比べをしている。
どんな力してるんだよ、とあきれ気味に感銘を受けてもいられず、俺も片足を止められた巨獣へと切りかかった。
「ちょこまかと! 潰れろ!」
「瞬雷!」
叩き付けを急加速で回避する。そして小さいでっぱりを利用して――
「瞬雷!」
すぐさま切り返し、叩き付けられた足に剣閃を仕掛ける。が、またもや空を切った。そしてふいに辺りが陰になる。
もう足が戻っているのか!
「クソっ! 瞬雷!」
案の定の叩き付け、そして――
回避を読まれた!
「ぐっ! があぁっ!」
「リク!」
「勇者様!」
薙ぎ払いを食らってしまう。硬い岩盤を2バウンド。あっちの世界だったら即死だな。
それに回避行動中であったから、かろうじてこの程度ですんだのだ。そうでなかったらこっちの世界でも即死だっただろう。
正直ダメージはかなりある。口の中は血の味しかしないし、あちこちすり傷だらけだ。わき腹もズキズキと痛む、折れてはいないと信じたい。
まぁそれでも寝ている暇ない、だろうがな!
「瞬雷!」
またもや、俺のいた場所がすぐさま平らになる。
にしても俺も頭が悪い、さっき薙ぎ払いを食らったのは、巨獣の関節の向きを考えなかったことと瞬雷の連発が原因だ。
「疾風魔法・閃風!」
わざわざ薙ぎ払いができる方向に躱した上に、あそこまで魔法を使って躱すを繰り返したのだ。サルでも学習するだろう。
「キャアッ!」
大体、大きく躱しすぎなんだよ。だから切り返しが間に合わない。つまり――
「まだ立つか小僧! 潰れていろ!」
怖気づいて逃げている俺が悪いってことだ。
迫りくる巨脚、その大きさから考えればあり得ないスピード。だがさっきいったように所詮自動車レベル、見えない速さじゃない。
足が震える、何をやっているんだ。
ビビッてんじゃねぇ!
引き付けてからギリギリで躱せ! 目と勘の良さだけがお前の取り柄だろう!
「リクーーーっ!」
俺のシルエットと魔獣の足が完全に重なった。渾身の力が込められた叩きつけと巻き上げられた粉塵、 それは俺が魔獣に潰された――
ように見えるだろうな!
「伝雷魔法・閃雷!」
「ぐぬぅ!」
ブロードソードが真隣にある魔獣の足を深々と切り裂き、鮮血が俺の体を彩る。決め台詞の一つでもはきたいところだが、早々に離脱しなくては二の舞だ。
「ちっ人間風情が!」
飛びのきながら後退する俺に巨獣の追撃が迫る。もう見えている上に、読めている、難なく躱し距離をとった。
「お前はでかいだけの犬っころだろう、そんなもんを敬うのはガキだけだ」
正直言って内心ひやひやしているが、あいにく存在が上の奴に悪態つくのは慣れているんだ。
その当人はクラウの横であくびをしているが。相変わらず緊迫感のない。
「小さいわりにでかい口を叩く」
「どうだ神獣。俺も仲間もそこそこできる。ここらで手打ちとしないか?」
「リクっ! 何言ってるの!?」
アーデが俺の言葉聞き取ったようで、何やら憤慨している。会話ができるなら平和的解決が一番だろう、そこまでおかしなことを言ったわけではないと思うのだが。
クラウも怪訝そうな顔でこちらを見ていたのが気になった。異世界特有の考え方のちがいだろうか。
だがその時、目の合ったクラウがコクリと俺に頷いた。
「羽虫が、いきがるな!」
前足がまたもや岩の足場を踏み荒らす。その前足も飛散する岩弾もさっきよりも格段に見えている。すべてのものがゆっくりと見える感覚、間違っても走馬灯なんかではない。
「なら、終わりだ」
俺は体感上ゆっくりと、体を横にどけた。
「決めろクラウ!」
「はい! 大爆炎魔法・炎鞭陣!」
巨大な魔法陣と共に出現する竜の如き炎熱の鞭。その本数も太さも昼間見た時の倍以上だ。
「加減は、致しません!」
その両者が更に倍。総体積はもはや神獣のそれに引けをとらない。
魔法によって生じた熱が俺たちの顔を照り付ける。これ以上近づけばその熱風だけで火傷を負ってしまうだろうな。これがクラウの全力か、この大空洞がいくら広いといってもまた酸欠になってしまいそうだ。
そして10を優に超える爆熱の塊が、神獣を飲み込まんと一斉に襲いかかっていった。




