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1-13「コスプレ王女と開戦」


「正解は1番かよ……」


 俺とクラウと共にアーデの待っている洞窟の最奥へと、フェオの案内によりたどり着いていた。

 そこにたどり着くまでの道は人が通りやすいように整備されていたが、ここはかなり鍾乳洞がそのままになっている。

 そして俺達はつらら状の石柱が幾本も連なった壁の隙間から、その向こうを覗き込んでいた。身をかがめて縮こまり、三人でひそひそ話をしている


「どうやらそうみたい……でも流石に大き過ぎる、頭のサイズからいって全長50mはある」


「本当に大きいですね、サヴォイアでみたクラーケンよりも大きいんじゃありませんか?」


「えーと……思い出しました。

 調印式典で参加者全員をびしょ濡れにした水上都市ですね。それがあそこらしいといえばあそこらしいのですが」


「私は楽しかったですよ?」


「私はエゼルバルト様をなだめるのが大変でした」


 微かな灯りで壁の向こうを伺えば、ぼんやりとその姿を見ることができる。

 こちら側を向いて腕を枕にするように熟睡しているが、ほぼ顔しか見えない。そしてその顔の縦幅ですら俺の3倍はある。

 全長はアーデ言う通り50mはくだらないだろうな。


「あの反射術式からいって、500年以上前から成長し続けてるのか」


「多分そう……これまでの文献にあった最大全長を、かなり更新してくれるじゃないかな」


 アーデにはどうやら学者的な側面もあるようで、巨体のガルムルフを興味深そうに眺めている。

クラウの為の勉強も案外好きでやっていることなのかもしれないな。


「外のガルムルフはこいつの存在を察知して、本能的に集まっていたってことか」


「私もそう思う。それならあんなに集まっていたのも頷けるし」


「で、これからどうするんだ?」


「とりあえず私たちがすべきことは帰って報告かな。

 後日、神獣と意思疎通ができる最上位のテイマーに依頼をだして、周りに騎士団3個中隊を配置した上で交渉になると思う」


 サンブリアにおける騎士団一個中隊は、20~30名程度の小隊が12個、つまりはおおよそ300名で構成されているものを指す。要するに1000人近くが動員されるということだ。

 ちなみだが、アーデは近衛騎士団というサンブリアの精鋭を集めた護衛専門の部署があり、そこに所属している。そのため戦時でもないかぎり駆り出されることはないらしい。

 まぁ今は休戦期間なだけで普通に戦時中なのだが。


「にしても交渉か、意外と平和的なんだな」


「十中八九こじれるけどねー。神獣ってプライド高いから」


「ふっ、獣風情が生意気ですよ」


 そういうフェオの表情も、ここまでサイズが違うからか若干ひきつっている。


「お前は一体何様のつもりなんだ?」


 そうか、神様か。そうか。


「とにかく一旦バーニシア城に帰りましょう。起きられたら流石にまずいでしょうから」


「そうですね。こんなことになるなら、私もエル君から聖杖を借りてくるべきでした」


 クラウはなんか戦う前提で喋っている気がする。


「よいしょっと」


 俺達を待っている間しゃがみ込んでいて足が疲れたのか、アーデは近くにあった石柱を支えにして立ち上がった。

 だが、そこには――


「どうしたの? リク、フェオちゃん、そんな青ざめた顔して?」


「アーデさん」


「アーデ、その石柱にな」


 そうアーデが今支えにしている石柱には――


「「『倒せ』って書いてるんだよ」ですよ」


「へっ? うわっ!」


――ガゴン


 その石柱がそんな音を出して、くの字に曲がる。

 あぁ、これはもうヤバいパターンだ、ということが確信できる擬音。アーデは支えを急にうなってよろける。

 何も起こらなければいいなぁとは思う。だが、現実とは常に非常なものだ。


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 目の前の壁が轟音を立てて眼前から片方は上へせり上がり、もう片方は沈んでいく。なんの術式がかかっていたのかは知らないが、壁に設置されていた灯り台が網目を伝うように順番に点灯していった。

 まだ巨獣に反応はない。実は起きないとかないっすかね? 


 その時、大きい身じろぎを一つ。

 流石に寒気がした。

 

 そして、片方の前足が地に立つ、もう片方が岩盤をえぐる。足の伸びきる前に頭が天井につっかえた。 群青の体毛が照明に照らされて、鈍色の輝きを放つ。

 ブルリと神獣は身を震わせた。些細な動作なのかもしれないが、それだけでこっちの視界が揺れる。

 そして、ゆっくりとその双眼が開かれ、こちらを、向いた。


「……我が眠りを妨げるのは」


 大気が、震える。

 喋るのかコイツ……。


「貴様らカァァッー!」


 怒りを孕んだ咆哮が大空洞中に反響した! ビリビリと壁が震え、その細かな破片が俺たちへパラパラと降り注ぐ。


「クッソ! やるしかないのか!」


 鞘を放り捨て抜身の剣を構えた。逃げ一手をとってもいいが、この神獣の癇癪で生き埋めになるのが関の山だろう。


「リク、撤退優先だからね!」


 なんとか動きを止めて脱出するということだ。討伐が一番望ましいのだろうが、この際麻痺睡眠毒石化なんでもいい。


「わかった!」


 アーデとクラウが俺の近くへと進んできた。前衛に出てきたアーデは大剣を振りぬき、後方に構えたクラウは手を中空に掲げる。


「ささっと、去ね!」


 神獣の前足が俺たちへと振り下ろされる。巨体に見合わぬ速さ。その恐怖感はビルが自動車並みの速度で飛んできた、といえばわかりやすいだろう。


「させません!」


 そういってクラウが前線へと躍り出る。


「クラウ!」


「大丈夫です! 防壁魔法(シールドフォース)大盾(ファランクス)!」


――ガアァイン!


 振り下ろされたその前足は円形の魔法陣によって食い止められていた。

 金属音にもにた、硬いなにかと固い何かが衝突したような音。これが魔法を削られていく音なのか。

そう、削られているのだ。盾と前足はせめぎ合いを続けてはいるが、徐々に前足がこちら側へと迫ってきている。


「くぅぅっ!」


「リク! クラウディア様を!」


「わかった!」


「小賢しいっ!」


――バァリィン!


 瞬間、魔導の盾がはぜるように霧散した!


「瞬雷!」


 俺はクラウを抱き抱えてそこから離脱する。

 その場所には踏み付けによって粉砕された岩場が塵として舞い上がり、アーデの安否を確認できない。


「アーデ! 大丈夫か!」


疾風魔法(シルフィード)閃風(スラッシュ)!」


 俺への返答代わりに、神獣へと斬撃魔法が炸裂する。どうやら無事躱したようだ。

 そして神獣の首元には真横から鎌鼬が襲う。

 だが――


「フン! 痒いな」


 どうみても直撃はしていた、これが成体の魔法耐性か。この広さなら風魔法の減衰もほぼないだろうに。


「目障りだ!」


 神獣は肘を曲げたまま右前足を薙ぎ払った。巨大な足が凹凸の激しい地面を更地にしながらアーデへと迫る。


「くぅっ!」


「アーデっ!」


 アーデは躱しそこない、地面を転がった。致命傷ではなさそうだが、このままアーデに攻撃が集中すればもたないだろう。


「勇者様、私達も!」


 俺はクラウを降ろして、改めて剣を構えなおす。クラウも呼吸を整え、手を前へとかざした。大魔法の起動に入るらしい。


「あぁ、伝雷魔法(ライトニング)・化雷! フェオはクラウを頼む、こっちだ化け物! 瞬雷!」


 フェオがクラウのもとへと飛んできたのを確認する。

 こちらの手勢は人間が3人と制限付きの神様見習いが一柱、迎え討つは山のごとくそびえたつ絶滅したはずの神獣。

 絶望的なまでに戦力差は歴然、ひっくり返さなければ勝機はない。普通に考えてあんな奴には勝てないだろう。だが、そのどっかの誰かに押し付けられた普通とやらを覆す。

 強者殺し(ジャイアントキリング)こそが天邪鬼の真骨頂だ。


「行くぞぉ!」


 そして俺は二重の加速で神獣へと切りかかっていった。




今日は3話更新です

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