1-10「コスプレ王女と洞窟探索」
「爆炎魔法・爆裂」
クラウの爆炎魔法によって壁画の書かれた壁は跡形もなく吹き飛んだ。
軽く唱えただけでこの威力か。
「よし、クラウが! 壁を壊してくれたおかげで前に進めるな」
「いえいえ、勇者様も共犯ですよ」
「私は組ませてはいけない二人を一緒にしてしまったのかなぁ……」
アーデが一人ごちる。この奇妙なパーティの中では比較的常識人の分、心労が一極集中しているな。
「アーデ、大丈夫だよ。転生勇者と王女様がいるんだ、文句を言えんのはエゼルぐらいなもんだ。それになんかあったら俺のせいにしとけ、世間知らずの転生勇者がやらかしたってな」
「……わかった」
「浮かない顔すんな、そんな顔をしてたらかわいい顔が台無しだ」
茶化すようにではなくできるだけ普通の口調で言った。もちろん正面きってこのセリフをはけるほどの胆力は俺にはない。
「フフ、なにそれ、リクには似合ってないよ」
「うるせー、ほっとけ」
「アーデ、勇者様、何してるんですか? 行きますよ?」
流石のクラウもここから先へ勝手に進むほど短慮ではないのか、穴に入った少しのところで待っている。
俺は地面に置いてあったランタンを拾い上げ、クラウへと続いた。
「来いよ、置いていくぞアーデ」
「はいはい」
呆れているようにも見えるが、表情に笑みを浮かべながらアーデもついてきた。
フェオもそれに続く。
「アーデ」
「どうしたの?」
「ハイは一回だ」
恐ろしく速い右ストレート、俺でなきゃ見逃しちゃうね
「これなら4つ目の可能性も出てきたか?」
俺達は薄暗い洞窟の中をさらに進行していた。少し沈みこんで傾斜しているため歩きずらかったが、カサンドラが軽いケイビング用の道具を用意してくれたおかげで割と順調だ。あの人マジで優秀だな、何で入ってるんだ?
俺達の話し声や足音が無骨な洞窟内を反響していく。それを遮る音は何一つない。
この洞窟は今までいた場所と違い鍾乳洞を切り崩して作られているようだ。ところどころに古代言語の断片のようものも書かれているし、狭かっただろう道も人が通れる広さに拡幅されている。
「何の話?」
「自分で言ってたことじゃないか」
「……あぁ! ガルムルフの群形成の原因ね」
「忘れてたのか?」
一つの目が成体で、二つ目が餌場や魔力溜まり、三つ目が確か外敵が発生して結果的に群れになっていることだったはず。
そして4つめが――
「誰かがこの奥で何かやってるってこと?」
「あり得ない話じゃないと思うが?」
「うーん、なくもないけど。ここが開けられた形跡がなかったし」
「細工したのかもしれないだろう」
「何のために」
急に聞かれてそう思いつくものではないが、何だろう?
少し俺は考えこんだ。もしかして結果と仮定が逆か? でもこの世界に対する知識が少ない俺が、仮定を疑っても仕方がない気がするが。
「……ここに調べられたくない何かがあって、ガルムルフを番犬がわりにしてるとか?」
「……それ、結構当たってるかも」
アーデが感嘆の声を漏らすが、
「いや、やっぱないわ。ここまでやったら逆効果じゃねぇか」
「ちょっと、適当なこといわないでよ」
「でもこの辺りの道は明らかに人の手が入ってるんだよな」
あんな仕掛けがあった分当然のことだが、今歩いている道も明らかに人為的なものだ。
「クラウディア様はどう思います?」
アーデは火炎魔法を灯り代わりに、少し先行して歩いているクラウに声をかける。市街地だと異様だったサファリジャケットも、遺跡まじりの洞窟なら様になるな。
さしずめ俺らはクラウディア洞窟探検隊といったところか。ドキュメンタリー番組にありそうだが、視聴率はとれなさそうだ。
「いえ、この一件が人の手によるものだとしても、あの術式を書いた人物が人間ならもうこの世にはいないと思うのですが」
「そういえばそうだな」
人間なら、か。長命な種族がいるのか、不死がいるのか。へたなアンデットなら現世界で囲んだだけで殺せそうだが、
「それに、この道も最近人が歩いた形跡がありません。壁の外側に細工をすることはわかりますが、通路にまで工作をするのは時間も手間もかかりすぎるのではないでしょうか?」
「確かに、壁画にあった古代言語のことから考えれば500年は前のことだしな。その規模での工作は難しいか」
魔法反射の術式がそれだけの間起動していたのは凄いと思うのだが、この世界では普通なのだろうか?
それでも俺の理外魔術で簡単に消せたというのはあらためてフェオの力の規格外さを実感する。やはりチートだということか。でも――
「よく考えたらなんで俺の理外魔術で魔法反射の術式を無効にできたんだろうな」
さすがにこの疑問をアーデやクラウに聞かれるのは不味いため小声で呟いた。
「どうしたんですか突然? 当然のことだと思うのですが?」
フェオの認識だとそうらしい。
「だって、俺の理外魔術は魔力と魔術式のリンクをきっているんだろう」
「そうですよ」
「それなら、回路は存在したままなんだから解除したらもとに戻るんじゃないか?」
「えーと、これは他の魔法や魔術にもいえることらしいですけど。それらを使う時はできると思ってやることが重要なんですよ」
やる気や心持ち次第で結果がかわるということか、精神論だな。俺は案外そういうのは嫌いではない。
もっともそれらが俺にプラスに働くことは少ないが。
「リクの理外魔術はその点では逆なんですよ」
「逆?」
「えぇ、あなたの理外魔術はおそらく『現実的に考えてあり得ない』いう心からきているのだと。魔法が苦手なのはこのせいだと思うのですよ」
「なるほど、頭が固いな」
「もともと本人に合ってない理外魔術は渡せませんし、欲しいとも思いませんからね」
「うーんと、なら俺が認識していない魔法は無効にできないってことか? 一気に不便になった気がするが」
「それはないですよ私が言ったのはあくまで理論なので、少なくとも展開範囲では魔力は全く使えなくなるはずです。それ以外のことはリクの方が詳しいはずなんですけど」
「それを基本としてプラスアルファは潜在的に俺が決めてんのか」
「多分そうです、同格ならば心の持ちように左右されるということですね。
ですから理論上は理外魔術同士なら鬩ぎ合いを起こすはずなんですけどねぇ。リクと『現世界展開』の相性がいいということでしょう」
前に言っていたあなたの気質なら当然かもしれないとはそういう意味だったんだな。
俺の行動はエゼルの持っている『天網恢恢』を上回っているらしいし、自分で欲したものと受け継いだものの差だろうか。
どちらがいいかはわからないが。
「ようするにできると思えばできるってことか。俺の場合は逆らしいけど」
我ながらひねてんなぁ、剣と魔法の世界に来といて心の奥底では「そんなことはありえない」って思っているのか。
あまり自覚はないが。
「リク、置いてくよ?」
おっとフェオと話し込んでいたらいつの間にか遅れてしまっていたらしい、アーデとクラウが結構先で待つようにこちら側を見ている。
火炎魔法の揺らめく灯りが照らす彼女達の美しさに少し、見惚れた。まだ奥は深いのだろう、洞窟の暗澹とした虚空がその向こうには続いていた。休憩にはまだ早い。
「あぁ、今いく」
そういって俺は彼女たちのいる方へと駆け出していた。




