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1-9「コスプレ王女と押し問答(物理)」



「ふぅー、無駄にワンスト落とすところだった」


「何を言っているんですか、流石に二度目はありませんよ」


 俺達はフェオの創造魔術を含め叡智を結集して、なんとか酸欠による自爆全滅というしょぼすぎる結末を回避していた。


「申し訳ありません、閉所では火属性魔法を使ってはいけないということを忘れていました」


 当然といえば当然だがこの世界でもそのくらいの知識はあるんだな。俺たちの世界、というより日本に住んでいる人達よりは一般的ではないかもしれないが。


「大丈夫だよ、思ったよりは酸欠も酷くなかったし」


「さんけつって?」


「流石に原子論はないってことか、王都に帰ったらある程度は教える」


 とはいっても俺はどちらかというと理系ではあるが、いかんせん高校生だ。基本的な理論だけ教えてあとはもっと頭のいい人に任せよう。

 初代国王が普及させてないことは意外だったが、もしかして文明の発展レベルを調整していたのか? 思ったよりも切れ者なのかもしれない。


「それに発見もあった」


「なんですか?」


「ここだ」


 俺はクラウが発見した古代文字の書いた壁から少し離れたところを叩く。そこは一見するとただの岩盤の一部に見えるのだが、明らかに人口的な一直線の切れ間が走っている。古い土が剥がれてその下にあった壁画のようなものが現れていた。

 騎士……だろうか、これは。


「さっき風が強く吹いていたときここらへんにあった土が内側から吹き飛ばされたんだよ。よくはわからないがここが恐らく“勝利の上の勝利を指し示す場所”なんだろう」


「? リク、何言っているの?」


「あそこに書いてあるじゃないか“勝利の上の勝利を指し示す場所にて、かつて彼のものが携えた武具を捧げよ”ってな」


 そういって俺は古代言語とやらが書かれた壁を指差した。


「えっ! リク、古代言語が読めるの!?」


「女神様からもらっただけの力だよ」


 そういうとフェオがムスッとした顔をしている。自分の授けたものを暗に自慢にならないと言われて癇に障ったのだろう。


「けど俺がこの世界でまともに生きていくためには、もっとも重要な力だ。慈悲深い女神様には感謝している」


 ちゃんとフェオの方を向いてしっかりといった。途中から恥ずかしくなり、しりすぼみになったのはご愛敬だろう。

 この『全ての言語を理解できる能力』はもともと俺がフェオへと望んだ力だが、もちろんこういう使い方も想定していた。というよりこういう地味に代用が効かない力を使って身を立てていく予定だったんだが。

まさかいきなり王座の前に転送されるとはな。


「ともかく俺は古代言語だろうとなんだろうと、その意味を理解することができるってことだ」


「へぇー、通訳になれるじゃない」


 俺とフェオは顔を見合わせた。


「アーデさん握手しましょう」


「いいけど、フェオちゃん急にどうしたの?」


 アーデはよく分かってはいないが、フェオは満面の笑みを浮かべている。

 自分と同じ発想をしていたのが余程うれしいのだろう。


「そういうのを力に使われるっていうんだよ」


「ふーん、私にはよく分からないかな」


 アーデは納得がいかないようだった。


「それで勇者様、そうすればいいんです?」


 そうはいっても文章の答えまではわかってないんだよな。暗号、というわけではなさそうだが、なにか扉を開けるのに必要なアイテムもしくは手順を指すのだろう。

 ゲームだったら辺りを探索するんだが――

 残念これは現実だ。


「よし、ぶっ壊そうぜ」


「結局それ?」


「それならアーデはこの意味が分かるのか? “勝利の上の勝利を指し示す場所にてかつて彼のものが携えた武具を捧げよ”」

 

 俺はあっちの壁画に書いてあった文章をもう一度復唱する。正直いってちんぷんかんぷんなんだよな。


「うーん……、古代言語は今でも翻訳がほとんど進んでないから。その歴史に関することだとしたら完全にお手上げ」


「歴史ってさっきのもともとは一つの国だったという話か?」


「そう、この古代言語はその国で使われていた言葉なんだけど。分裂戦争の時に盛大に焚書をやったらしくて、翻訳する基準になるものが存在してないんだよね」


「それってどのくらい前のことだ?」


「ざっと500年、もっと前のことかもしれない」


「随分と適当だな」


 その程度の年月で一つの言語が完全になくなることなんてあり得るだろうか、記録媒体に書物や壁画を使っている弊害がでているということか?


「まぁ細かいことは置いといてと、どうやって壊そう?」


「ちょっと、貴重な資料かもしれないでしょう?」


「こんな場末の洞窟にそんな大層もんないって。地図には書いてなかったんだろう?」


「そうだけど、こういう王都から半端に近いところって、測量とか適当にやってることが多いんだよね」


「そうか……じゃあ仕方ないな」


 アーデがここまで言うのだ。相手の主張を慮って折り合いをつけることは生きるで上何より重要だと俺は知っている。


「俺達が入って来た時にはすでに壊れていたことにしよう」


「リクってそういうとこぶれないよね」


「ややっ! こんなところに妙な空洞が! ガルムルフの巣窟に違いない!」


「まだ壊してないでしょう!」


 アーデは意外と頑固だな、まぁどう考えても正しいのはアーデの方なんだけど。仕方ない俺は諦めるとするよ。俺はな。


「いやー残念だ、偶然は入った洞窟で謎の古代言語発見なんて空前絶後の――」


 くらえ! これが俺の最終プロットだ!


「大冒険だと思うんだけ――」


「行きましょう!」


 かかった。


「ク、クラウディア様……。リク、謀ったね……」


「邪道剣士は万に通ずる」


「それ気に入ったんですか?」


 フェオがそういうのも無理はない、実は結構格好いいと思っているんだ。なんかこう決め台詞の一つとしてだな……

 ごめんやっぱないわ。使える場面が少なすぎる気がする。


「というわけで賛成3票、可決です」


「しれっと私の票を入れましたね」


「仕方ないなぁ」


「スルーですか?」


 だんだんフェオがかわいそうになってきたな。

 まぁそのことはとりあえず神棚の上にでも置いておくとして。


「でだ。どうやって壊そう? ここはクラウの大混成魔法(アークアドミックス)で一発」


「また酸欠になりたいんですか? 今は創造魔術を使えませんよ?」


 クールタイム中か。


「そのような大魔法を使わなくても、この壁の厚さならば爆炎魔法だけで壊すことができると思います。ですがこの壁……」


 そういってクラウは騎士の絵画が描かれた壁に歩み寄って手を当てた。そこの周りに書かれた紋様を調べているようだ。


「どうしたんだ?」


「凄いですね……。かなり古いですが、魔法反射の術式がかかっています」


「魔法反射?」


「かけられた魔法をそのまま相手に返すという術式です。かなり高度な魔法なんですが、まだ効力を保っています。これを魔法によって破壊するのはちょっと難しいですね」


「へぇ、そのまま反射されるのか。クラウ、ちょっとどいてくれ」


「? どうしたんですか?」


 クラウは素直にそこからどいてくれた。そして俺は剣を鞘から引き抜き、上段に構えて――


「伝雷魔法・発雷」


 壁に向かって振り下ろした!


「あばばばば!」


「ちょっと何やってるの!?」


 伝雷魔法・発雷は俺が珍しく使える放出系魔法だ。放出系といっても刃に電気を流すだけの魔法でリーチはほぼないに等しいが、最大出力で撃てば俺の使える魔法の中で最も高い威力を誇る。


「結構痺れた」


「当たり前じゃない!」


 まぁ反射されるとわかっていたので出力は抑えたし、雷属性の耐性が高い分ダメージ自体はほぼないが。

 

「いや、反射されると言われたから。本当か? って試したくなったんだよ」


 この言葉にはさすがのアーデも呆れている。


「なるほど、これを破壊するにはフェオの創造魔術がおそらく一番だが」


「使えませんよ」


「となると。みんな少し下がっててくれ」


「なにするつもり?」


「この術式を無効化する」


 こういう恒常的に起動している術式を打ち消せるかわからないが、アーデは闘技場で下着姿になったんだ。多分いけるはず。


「おっとそうだ。アーデ、これを」


 俺はそういって藍色の水晶をアーデへと放り投げた。


「これは?」


「フェオの召喚石みたいなものだ」


 そしてアーデとクラウが俺から離れて行った。そうだな、範囲は3メートルぐらいでいいだろうか。


展開半径指定3m(レイディエススリー) 理外魔術(チートソーサリィ) 起動(エミュレート) ――現世界展開(アンチアナザーワールド)―― 」


 これで魔法反射の術式はかき消されたはずだ。そう思いクラウ達がいる方を振り返ると。

 なぜかクラウがそーっと俺の方へ歩いてきている。そして――


 バタンっ!


 前のめりに転んだ!


「クラウディア様!?」


「大丈……『世界解放(ワールドリザーブ)』大丈夫か?」


 危ない危ない、二次被害を出すところだった。

 クラウは俺とアーデの力を支えにしてなんとか立ち上がる。


「だ、大丈夫です、ご迷惑をおかけしました。実は勇者様の理外魔術を聞いてから、魔力のない世界というのが気になっていたものですから」


「そのチャレンジ精神はいいと思うぜ」


「リクもクラウディア様ももう少し自重してください……」




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