1-8「コスプレ王女と獅子奮迅」
最初に飛びかかってきた5、6体の集団は俺とアーデの剣撃で半分が弾き飛ばされ、もう半分は戦闘不能になった。
「アーデ、お前の風魔法は――」
「リク、集中」
「わかってる」
俺が魔法をまともに使うようになってから、それを使った勝負もしているが、その時の剣と比べると今の一撃は半分程度の威力だ。
少し開けたといっても洞窟内では減衰は避けられないか。
今度は両サイドから2匹、計4匹が突撃してくる。いや
中央から遅れてさらにもう一匹だ!
「伝雷魔法・閃雷!」
電光の一瞬が洞窟の暗闇に走る。
筋組織が悲鳴を上げるほどの速度で放たれる一閃。出し惜しみはしない、布陣が崩れれば更に無理をしなければならなくなる。
体に引っ張られた勢いそのまま、もう一体を撫で斬りにする。
突出した一匹がクラウに迫る!
「させるかぁーっ!」
雷を帯びたブロードソードがガルムルフの首に突き刺さった。
「リ――」
アーデが声を上げたのはあろうことか、戦場で俺が得物を放り投げたからだ。
そして、言葉を途中で止めたのは次の瞬間には俺が目の前にいたからだろう。
視界の端で元いた場所にガルムルフが突っ込んで来ているのを確認した。
「瞬雷……閃雷!」
突き刺さった剣をそのまま半円状に動かし、致命傷を即死に変えつつ、跳びかかってくる魔獣の群れに、魔法によって半強制的に繰り出される剣閃を加える。
勢い余ってつんのめる俺の背後に、狼らしく首を狙いかみつこうと魔獣が口を開いている。だが、見えている時点でかわすことは難しくない。
体を半回転させ腹部にひじ打ちを叩き込む!
景気よく肋骨をへし折りつつ、ひじが腹部にめり込む生々しい感触を味わう。
今の俺には魔力補正で前の世界にいた頃とは比較にならない居力がある。少なくともこれで戦闘不能になったはずだ。
仲間が瞬く間に葬り去られたからだろうか、またもや群れがじりじりと後退していく。だが、その数は以前減っておらず、戦意自体は無くしていないようだ。
俺は少し息を整えつつ剣を構えなおす。
「フェオ! 創造魔術、準備だけはしておいてくれよ!」
「え、えぇ。わかりました」
アーデが本調子を出せない以上俺が気張るしかない。
高めろ、拡散の集中を。
視野を広げて体さばきを研ぎ澄ませ、目に映る全ての情報と持ちうる全ての手段を統合しろ、持ち前の余裕で最善の対応策を考え続けろ、それができなければ屍になるのは俺の方だ!
「来いっ! さもなくば、退け!!」
俺の恫喝に気圧されたのか包囲がさらに後退する。といってもその殺気には欠片の衰えはないが。
今度は1、2、3、4……5体! 別々のタイミングで飛びかかってくる。
先頭の一体が目の前の岩場を蹴り、大きく飛び上がる。
(まだだ)
間合いに入る。
(まだだ)
牙が眼前に迫る。魔獣の体温を肌で感じる!
「リクっ!」
(今だっ!!)
「伝雷魔法・閃っ雷!」
極限まで研ぎ澄まされた一閃がガルムルフを5体同時に叩き伏せる!
いや、最後の一体が浅い! 悶えながらも起き上がろうとしている。
――ズシャァ
復帰よりも早く、のど元に剣を突き刺し絶命させた。
(……凄い。というかあり得ない。
リクに魔法を教えてからまだ一週間も経っていない、それなのにここまで魔法を使いこなせるものなの? 使える種類が少ないから? それとも転生勇者だから?)
アーデの方もまだ魔獣の群れは減っていない。襲い来る魔獣の群れをそつなく切り伏せていくところは、流石歴戦の女騎士といったところか。
今、俺の方を心配そうに見ていたと思ったが気のせいだろうか?
今度は中央から七匹、一気呵成に攻め込んで来た。
「疾風魔法・閃風!」
アーデの疾風魔法に切り裂かれ、7匹中2匹が寸断される。
「伝雷魔法・閃雷!」
その内一体を魔法による剣閃で真っ二つにし、
「瞬雷!」
加速させた蹴りで、2体同時に蹴り飛ばした。残りは2匹、今度はクラウへの接近を許してしまう。
「アーデ!」
「大丈夫! セァアアァー!」
大剣の重量すら利用するアーデの回し蹴りが片方に炸裂し、その回転を剣にのせた薙ぎ払いがもう片方を半分にする。
アーデのクルクルと回転をいかした剣技は、その綺麗に舞うツインテールも相まって、まるで舞踏のような美しい。
「フォローを頼んですまん」
「このくらい当然っていうか、まだ2戦目なのに戦力になるのは普通に凄いと思う」
「アーデに褒められるなんてな、槍でも振るんじゃないか?」
そう軽口を叩きつつも警戒は解かない。とはいっても流石に魔獣の群れは減ってきているし、相手方の前線はかなり後退していた。
そして何より、ランタンの灯りが陰っている。感じられるマナの濃度が地上並みに戻っているのだ。
ここの濃度は地上の5倍はあったにもかかわらずだ。
住処に押し入っておいて傲慢だとは思うが、討伐も依頼に入っている。せめて魔獣の魂にもフェオの加護があることを祈ろう。
「お疲れ様でした。二人はそこで見ていて下さい、この技は結構見応えがあると思いますよ」
両方の手に魔法陣を構築したクラウが、俺達の前へとゆっくり歩いてくる。
お言葉に甘えるとするか。
「大火炎魔法・炎竜招来」
右手の魔法陣からは炎竜が顔をだす。
「大水流魔法・水龍顕現」
そして、左手の先から水龍が大地を割った。
パン!
とクラウが両の手を合わせる音が、洞窟中に響き渡る。
「大混成魔法・双竜礼賛!」
二つの魔法陣が混じりあり、一つの巨大な円陣が構築された。
恐ろしいうなり声とともに全長20mを優に超える業炎の竜と滅水の竜が洞窟の空間をうめつくす。
超高密度の水流が壁面を削ってその水圧で魔獣を圧殺し、地上並みの明るさで暗闇が照らされるほどの光量を放つ業炎が獣の群れを骨まで溶かしていく。中空に水龍が君臨し、地を炎竜がさらう。
逃げ場どころか半身を置く隙間すらない。
二つの竜がお互いを食い合うようにところせましと暴れ狂う様はまるで神話のような神々しさだ。
「凄いな」
感動のし過ぎで逆にその程度の言葉しか出てこない。
「……そうでしょう?」
またもやアーデが自分のことのように誇らしくしていた。
「わ、私の出番が……」
でたな、シリアスブレーカー。
「フェオはこっちの切り札だからな。この程度の相手、お前の手を煩わせるまでもないということだ」
「リクって実は適当なこと言うの得意ですよね」
「それは違うぞフェオ、俺はもともと適当なことしか言っていないからな」
これには流石のフェオも呆れている。
魔獣の群れを食らいつくした双竜は最後に互いを抱き合うように虚空へと消えていった。洞窟の中にも関わらず発生した蒸気と共に烈風が吹き荒れている。
「リク、こいつらも土葬するの?」
「……洞窟ごと埋めないと難しいだろうな」
俺達が切り伏せた死骸ごと群れを燃やしたのか、辺りには魔獣かどうかすらわからないものが散乱していた。
「まぁ、火葬ってことで。フェオ、よろしく」
「相変わらず調子がいいですよ」
「……何の話?」
アーデが不思議そうな顔をしている。おっと気をつけないとな。
「クラウ、流石だな」
「いえいえ、お二人が守ってくださったからです。私だけならジリ貧になっていましたわ」
「そのためのパーティだろう」
俺は剣を払いくるくると回して――
――カラン
「……リク、刃が欠ける」
アーデに呆れられてしまった。練習量を増やそう。
そして唐突に頭がクラクラしてくる。やはりか、
「あれ、これ……何?」
アーデも大分ふらついているようだ。俺達はさっきまで息を切らせていたからだろうな。
「フェオ」
「なんですか?」
「出番だ」
ドサアァー
その言葉とともに地面に膝から崩れ落ちる。洞窟であれだけの大火力を使ったのだ。
酸欠になるのは当然といえる。
「酸素を……」
「あぁ、勇者様ぁー! アーデも大丈夫ですか!?」
クラウディアが叫んでいる。そういえば闘う前にここで火属性魔法を使うのはやめろといっておくのを忘れていた。
「酸素100%で大丈夫ですか?」
「もう少しでいいから人間に歩み寄ってくれ……」




