1-7「コスプレ王女と魔獣の洞窟」
「クラウ、せめて先行するのはやめてくれないか?」
いくらレベルが違うといっても前衛魔法使いなど聞いたことがない。
そんな俺の声も薄暗い洞窟内を反響して、虚空へと消えていく。おそらく鍾乳洞なのだろうが、入り口に近いからか普通の岩窟と大して変わらない。
「あぁっとすいません。少し、羽目を外しすぎましたね」
そういってクラウは俺とアーデのところに、岩場を飛び跳ねながら戻ってきた。
この洞窟は高低差こそ少ないが、地面がごつごつとしていてとても歩きにくい。そんなところを飛び跳ねられるところをみると、やはりクラウは冒険馴れしているんだな。
「それにしても勇者様、洞窟ですよ、洞窟。冒険にきたって感じがしませんか?」
クラウは少年のようにその赤い瞳をキラキラと輝かせて、俺に同意を求めてきた。この綺麗な眼を前にしてノーと言える人間は存在するのだろうか? いやいない(反語)。
「気持ちはわかる」
「でしょう?」
「リクって意外と子供なところがあるよね……」
「俺達はまだ子供の範疇だろう、それにその言い方だとクラウも子供だといっているように聞こえるぞ」
「そうなのですか?」
「ち、違います! リク! 適当なこといわないでよ!」
アーデが慌てて否定する。ちゃんと反応してくれるからアーデはいじりがいがある。
そんなこんなで洞窟を歩き進めてると、いくら入口が大きいといっても差し込む光には限度がある、徐々に視界があやしくなってきた。
「そろそろ暗くなってきたな」
「そうですね、灯り代わりに火属性魔法でも使いましょうか?」
「いや、クラウのマナがもったいないだろう」
「私にとっては誤差の範囲なのですが」
相変わらずクラウは魔法に関して格が違うな。
俺が同じことを雷属性魔法で同じことをやろうとしたら一分と持たない。
もっともそれは雷属性魔法と火属性魔法の性質の違いもあるだろうが。前者は瞬発火力と即効性の高さが特徴で、後者は総合的な火力と持続力に優れている。
まぁそれも言い訳になっているかあやしいぐらいの差だけどな。
「まぁ念のためってことで、何があるかわからないし温存するに越したことはないだろう?」
「ということは私の出番ですね? 何でも創りますよ?」
「話聞いてたか?」
お前はもっとクールタイムが長いだろう。
「アーデの荷物にランタンとか入ってないか?」
「うーん、灯りの類は私の荷物にはなかった気がするな。カサンドラが忘れるとは思えないし、リクの方じゃないかな?」
俺はアーデの言葉を受けて立ち止まり、わずかに届いていた灯りでリュックの中を調べる。
「うーんと、携帯式の明かりは魔法石を使ってるんだよな?」
「うん、燃料式はいろいろかさばるから。そっちの方を持たせてくれてると思う」
だとしたら俺が思っているサイズより小さい可能性があるな。もっと念入りに探すか。そして、リュックをガサゴソと漁っていると何やら小さいパッケージ状のものが手にあったった。
まさかこの大きさではないだろうが、何だこれは?
俺はそう思ってそれをリュックから引き抜く。流石にあちらの世界より質は悪いが、パッケージングされている小袋が出てきた。大きさは煎餅のものより少し小さい、そいて中にはなにやら半透明の丸いピンク色をしたものが入っている。
というかこれってコン――
「ソォーーイッ!」
「わっ! リク、いきなりどうしたの?」
「……いや、ちょっとリュックの中に虫が紛れ込んでいてな。アーデも気をつけた方がいいぞ」
「ちょっと、妙なおどししないでよ。リュック開けたくなくなるじゃない」
やっぱりカサンドラは油断ならない。
にしても初代国王の仕業か? まったくその重要さは理解できるが、こんなもん普及させるぐらいなら蚊取り線香のひとつでも作っておけよ。
とはいえ底にあったものを引っ張りだしたせいかリュックの見えている場所に、魔法石を中心にはめた、小さいランタンのようなものが出てきた。
「これか?」
「うん、上の蓋を外して外のマナに触れさせればつくようになっているから」
それだけでいいのか、相変わらず永久機関じみてる。
「これ燃料とか必要ないのか?」
「もちろん。でも、マナの薄いところだと使えないし、燃料式より安定性は落ちる。現に城のランプはほとんどロウソクを使ってるし」
「そこまでは見てなかったな」
俺はそう言いながら、魔法式ランタンの上部の蓋を外した。すると中心にあった魔法石からほのかな灯りがこぼれ始めた。確かに部屋の明かりにするには頼りないが、薄暗い洞窟を照らすのには十分な光量がある。
「灯りもあることだし、俺が先頭を歩くよ」
「え~、リクを先行させるのは不安なんだけど」
「ちょっとは転生勇者の顔を立てさせてくれ、それに瞬発力だけなら俺の方が上だ。アーデの風魔法もこの洞窟じゃあ威力が半減だろうしな」
俺の魔力の扱いはマナの許容量も放出量も、同じ魔法剣士であるアーデに劣ってはいる。
ちなみに許容量はMPで、放出量は魔法攻撃力のようなものだ。
だがまぁ前者は覚醒直後だからこれからまだまだ伸びるらしいし、放出量は大きすぎると精密なコントロールが難しくなり、付与系統の魔法に影響を及ぼすそうで。なんやかんや剣技を主体として戦う俺にはあっているとポジティブに捉えている。
そして雷属性は速度が18番のため、俺の初太刀の速度はアーデにすら勝る。
「それはそうだけど……」
アーデが少し不満そうにしているが、そこをすたすたと横切りランタンを前にかざしながら先頭に出た。
「なに、実力と経験不足なのはわかっ――」
「あーー!」
俺がアーデの方を向いて喋っていると突然クラウが走り出し、先頭の俺を追い抜いてランタンが照らしていた壁へ一目散にかけていった。
どうやらなにか見つけたようだが、これでは俺もアーデもかたなしだ。
「火炎魔法・灯火」
クラウが魔法を使って灯りをつけた。
「どうしたんだ?」
「見て下さいこれ、古代言語です!」
そこは今までよりも少し開けた広い空間になっており、クラウの目の前にある壁には、サンブリア王国で今まで見てきた文字とはまるで別の象形文字が刻まれている。
ふむ、なるほど。
「古代言語ってなんだ?」
「えーと、サンブリア王国ができる前は7つの王国が存在したっていう話はしたよね?」
「初代国王が他の国を全部倒したという話だったよな」
「うん。その7つの王国も、もともとは一つの国だったっていわれているんだけど……まぁこの話は後にしたほうがよさそうね」
「あぁ、そうだな」
俺とアーデは荷物を近くにおろし、俺は剣を鞘から引き抜く。
そしてアーデは背中の留め具を外して大剣を構えた。クラウは壁を背にして引き気味に構える。といっても怖じ気づいているわけではない。むしろ、後ろのマナが攻撃的なものに変質していく、それが肌で感じ取れるほどの臨戦態勢だ。
フェオは相変わらずキョトンとしていて、急に無口になってみんなどうしたんですか、とでも言いたげだ。
神様ってのは死なないから警戒心が薄いんだろうか?
それにしても待ってくれているのか警戒しているのか、まぁ間違いなく後者だろうな。
地面においたランタンの光が暗闇の眼光を映し出す。その数は軽く20対を超えて、30に届くかといったところだ。
その総数は見えている分よりも遥かに多いだろう。
「リク、死なないでね」
「ハッ! いっただろう自分の身ぐらい自分で守れる。そうじゃないと最初からついてきたりはしないさ」
そう言った俺の近くにふよふよとフェオが飛んでくる。
「仕方がありませんねぇ、リクは頼りないから私が守ってあげますよ」
「そいつは頼もしいな」
「勇者様、アーデ。時間稼ぎは頼みましたよ?」
本当にその通りだから困るというか頼もしいというか。
クラウの左手が青色の光を帯びていき、そして右手は紅い燐光に包まれていく。
「「王女様の仰せの通りに」」
「行くぞ!」
「うん!」
「伝雷魔法・化雷!」
「疾風魔法・纏風舞踏!」
そうして一塊となって突撃してくる獣の群れに、電光と暴風の一閃が叩き込まれた。




