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第三話「神様見習いと異世界転生1」



「どうしたんですか? どうしたんですか? 嬉しいですよね?」


「急に雰囲気がぶち壊しだな」


 いきなりさっきまでの口調に戻られても反応に困る。これでは後ろでパアァーっと照り輝いている後光もシュールでしかない。


「普通に転生させてくれといっても無駄なんだろうな」


「ほんとうに性根がねじ曲がっていますよ! あなたは! 素直にこの麗しくてスタイル抜群で美しい女神様の慈愛に感謝していればいいのですよ」


「もし子供を助けて死んだのだったら、俺の人生としては上出来だよ」


 このまま生きてもそれ以上のものを残せるとは俺には思えない。どうやら転生を喜ばない人間に流石の女神様も辟易しているようだ。いやそもそも――。


「「何で俺が」」


「ですか?」


 これには俺も面をくらった。クロニコンは閉じてある、つまり単純に先を読まれたのだ。もっともその彼女はこれまでで一番のドヤ顔を披露しているため、わずかに感じた威厳がふきとんでしまったが。


「ふふーん、私も別に慈善事業であなたの転生を行うわけではありませんよー」


 怒ったと思ったらすぐ上機嫌になるのは相変わらずのようだ。


「いいでしょう、いいでしょう、単純なリク君の為にわかりやすく説明してあげますよ」


「……よろしく頼む」


「とりあえずクロニコンのページが余っていることです。これは絶対にありないことですよ」


「どういうことだ?」


「まずクロニコンは基本的に厚みが共通です。そしてその人の人生で為すことを逆算してページ数が決まります。そして正規の転生を迎えるにはその人物のクロニコンは埋まってなくてはいけません。まぁあなたの国でいう輪廻転生というやつですよ」

 

 彼女の言葉を頭の中で反芻して理解し直す。


「つまり人間の人生には全員に意味があると?」


「珍しく夢のあることをいいますね。残念ながら答えはノーに近いですが」


「……なるほど。その人生分しかページがないんだな」


「そういう事ですよ。よかったですねページ数の余りが多くて。もっとも単純に死ぬまでのあなたの人生に意味がなかっただけかもしれませんが」


「そっちの方が悲惨だな……。いや待て、俺の人生はもう終わっているんじゃないのか?」


「そうなのですよ! あなたはやるべきことの総量を残して死んだ。ということは神の御業であるはずのクロニコンを覆したのですよ」


 何だか大げさにいわれている気がするがそんなことがあり得るのだろうか。


「そういう場合はどうするんだ?」


「簡単ですよ。担当の神様が予見してあらかじめクロニコンをいじっておくのですよ。そうするとスムーズに次の転生先に送れます」


「へぇ神様に求められるハードルがずいぶん高いな」


「なんといっても神様ですからね、そのくらいのことはできなくては」


「ちなみに俺の魂の担当は誰なんだ?」


「えーーと……。私ですね!」


「「ハハハハハ」」


…………。


「できてねぇじゃねぇか! それとなんで一回調べる振りをしたんだ! これで知らないやつでてきたらビビるわ!」


「神様ジョークですよ」


「それ気に入ったのか!? ようするに俺はあんたのせいで正規の転生先が存在しないってことじゃねぇか」


「いやだってですよ。まさかあなたみたいな人が子供を助けるなんて思わないですよ」

 

 何故か俺に対する評価が低いことが気になるが、あそこで身を呈して子供を助けない人はいないだろう。理由はともかくとして。

 だが、そこで当然の疑問もでてくる。それは――


「なぁ……。確かに子供は助かったのか?」


「…………それは」

 

 俺の記憶はトラックに轢かれる直前で完全に途切れている。なんとか放り出せたとは思うが、助けたという確証はない。

 神様見習いは即答をしない。何かもの想いに耽っているようだった。その様子に最悪の可能性が脳裏によぎる。地雷を踏んでしまったか?


「……生きていますよ。」


「本当か?」


「本当ですよ。疑うのならクロニコンを見せても構いません。」


 そういう彼女の手にはいつの間にか名前は見えないが一冊の本が握られている。どうやらこれが『検索』の機能なのだろう。彼女はクロニコンを神格以外が読むことは禁じられているといっていた。


「いや、大丈夫だ。あんたは神様だしな」


 少しの間気まずい空気が流れる。


「明るい話をしましょう!」


 そういうと彼女はまたパアァーっと神々しい光を放つ。それ任意でだせるんだ……。


「物理的に明るくしなくていい」


「気分をコロコロ変えるのは神様の得意技なのですよ! あなたがこれから転生する世界の話です! といってもあなたは死んでいるとはいえ、今生のままあっちに行かなくてはいけないので厳密にいうなら転移なのですけどね」


「どっちでもいい、のか? 何気にものすごく重要なことだと思うんだが」


 気にする人は気にするもんだぞ、それは。


「あなたの行く異世界には最高の環境を用意しました」


「通販番組みたいだな」


「せめてもの罪滅ぼしですよ。まぁ見習いの私が指定できる異世界はそこしかないのですけどね。あなたが助けた子供もここに転生される予定でしたし」


 完全に一択なんだが、途端に先行きが不安になって来た。


「大丈夫です。私には実績もあります!」


「通信はんば……、ちょっと待て、実績ってどういうことだ。まさか普通の運行を実績とは言わないよな」


「いやー実は50年ぐらい前にも似たようなことをやってしまったのですよ。確かあれは見習い期間が始まったばかりの事でしたよー」


 神様なのだから見た目に影響はでないのだろうが一体いくつなんだ。


「でもそのおかげで転生勇者信仰というものがあるらしいですよ!」


「いろいろ言いたいが、神様にとって異世界は適当な魂を放り込む場所なのか?」


「そんな訳がないですよ」


 流石にそれは違ったのかと安堵していたのも束の間。


「あなたの世界にも放り込んでいますよ!」


「もっと悪い!」


「魂っていうのは世界の狭間とかになら良く落ちているものなのですよ。あなたのようにここへ送られてくることは稀ですが」


「そんなことして魂の運行とやらは大丈夫なのかよ?」


「全体としての帳尻はあわせられるのだったら、一つや二つなら運行そのものへの影響はないですよ。悪人のは消滅させちゃうくらいですから」


 この神様見習いが隙だらけなのか、俺が小さいことを気にするタイプなのかは知らないが話がさっきからちっとも前に進まない。


「まぁ詳しいことは行ってからのお楽しみということで」


 彼女はそう身も蓋もないことを言って締めくくる。わかったことが転生勇者信仰というものがあるらしいということと、この神様見習いは50年間で全く成長していないということだけなんだが。


「それでは! お待ちかねのアレやっちゃいますよ!」


「……なんだ?」


 彼女が支離滅裂なのは今に始まったことではないが、今回は普通に察しがつかなかった。


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