1-2「コスプレ王女と城下町」
「へぇー、それでクラウディア様はんな恰好してんのか」
その後、フリスが朝食をとりに王の居室へ来ていた。夕食会以降は多少知り合いが増えたことと、嫌いな奴がいなくなったという理由で晩餐にも訪れるようになっている。
反対にヘンリエッタはその後すぐにブレトワルダに帰ったため、今、全体としての人数はプリシラの分減っているが。
「そうです、フリスちゃんも来ませんか?」
「うーん、俺はパス。インドア派には日差しがきちぃわ」
「意外だな、なんか野山駆け巡ってそうだと思ったんだが」
「ハッ! 俺みたいな白玉クラスの純情可憐な少女をつかまえといてよくゆうぜ」
ちなみにフリスの口調についてだが、エゼルは子供のやることだからということで許容しているし、最近ではアーデやクラウと一緒に王女としてもろもろの勉強も教えてもらっているらしい。
そもそも、アーデが俺に敬語を使っていないことも個人間で気にしないのなら、それを見とがめるほど王というものは狭量ではない、とのことだ。
「フェオー、飴出して」
「えぇー、またですか? しょうがないですねぇ」
このフェオとフリスの二人組はなぜか仲が良くなっていた。たまにフェオを見かけないと思ったら、フリスの部屋で遊んでいるらしい。
精神年齢が同じぐらいだからだろうか。
「創造魔術・固体生成!」
フェオの手のひらの先に飴玉ができあがる。
「サンキュー、あっまーい!」
「フェオちゃん、あまりフリスちゃんを甘やかさないでください」
「このくらい許してくださいよ、クラウさん」
なんやかんやでフェオもすっかりここでの暮らしに馴染んでいるな。
「リクはこちらの世界に来てから初の依頼となるが大丈夫か?」
「根拠のないことはいえないが、多分大丈夫だろ」
「ほう、自信家だな」
「俺にじゃないアーデは強いし、クラウはそれ以上なんだろう? なら心配ないじゃないか」
この言葉を聞いたアーデが嬉しそうにしている。アーデの単純すぎるところはかわいいとは思うが、それでも少し直した方がいい。
「……謙虚なのだな」
「俺は自分の身ぐらい自分で守れる。そうじゃないと同行しようなんていわないさ」
それが俺の考える最低限だ。
「なるほど……やはり自信家だな。貴殿は転生勇者でもあることだし、今後もこのような機会は増えていくはずだ。結果の如何によってはこれからも頼んでゆくぞ、期待しておる」
遠回しに駄目なら頼まないということだな。
友好的ではあるけどお試し期間は続行中ってとこか。
「エゼルの期待に応えられるよう頑張らせてもらうよ」
俺はそういって椅子から立ち上がった。
「もう行くのか、それならばカサンドラ」
「お呼びですか?」
カサンドラは本当に呼べばいつでも現れてくれるな。実は向こうでずっとスタンバってるんじゃないか?
「リクに討伐依頼用の装備を用意せよ」
「こちらに」
扉の向こうに装備品一式の入った木箱が置いてあった。凄い、読まれてる。
「なにかご希望はございますでしょうか?」
小道具関係はカサンドラを信じるとして、剣は鞘のついた直刀で長さは短めだった。防具も軽めのものを選んでくれたみたいだし、これなら大丈夫だろう。
「リク様は剣は取り回しのきくものを選ぶと思いましてこちらで用意いたしました。無銘ですが、マナの伝道率も高くリク様にあっているかと」
シャランと鞘から引き抜いて刀身を見てみた。刀身が日光に反射して鈍色の光沢を放つ、いい仕事をしているな。
「あぁ大丈夫そうだ。ありがとう」
「勇者様、やる気マンマンですね! それならば行きましょう! いざ、未開の土地へ!」
そういってサファリスタイルのクラウがと意気揚々立ち上がり、廊下までやってくる。
「未開の土地なのか?」
「いや、そんなことはないけど」
アーデもそれに付き従うようにこちらへ来る。
「うむ、それでは吉報を待っておる」
「おみあげよろしくなー」
「いってらっしゃいですよー」
そうして俺たち三人は依頼達成のため王城を後にしようとした。が、
「フェオ、王城でかくれんぼしようぜ、ノエルの奴も誘ってさ」
「ふふーん、いいんですかー、私達はひきこもることが得意なんですよ」
「お前は来るんだよ!」
主が戦いに行くのについて来ない使い魔がどこにいるんだ。
「えぇー、物騒なのは嫌いなのですよ」
「お前、俺のナビゲートで来てるんじゃないのか」
「面倒ですよ、私はフリスちゃんとかくれんぼでもしながら待っていますよ」
「フェオー、それじゃあおみあげよろしくなー」
フリスは手をブンブンと振っている。完全に見送りモードだ。
「だそうだが」
「……ひ、ひどいですよ」
「クラウディア王女だ! おはようございます!」
「えぇ、ごきげんよう、ユアン君」
「クラウディア王女、王城に寄せられたご依頼の解決ですか? 王女自らとは頭が下がります」
「いえいえ、これも王族の勤めのひとつですから。ヴァネッサさんも生花店だと雨期明けは色々忙しいのではありませんか?」
「毎年のことですから、商い人はこの程度ではへこたれませんよ」
俺たちはドールキス領へ向かうために城下の市街地を通っていた。大通りは式典で何度か通ったが、落ち着いてみるとやはり自分が異世界に来たということが実感できる。王城での暮らしぶりからしてもあっち世界でのヨーロッパの景観に近いが、ところどころに魔法石を伴った物理法則を無視したオブジェクトが見受けられる。
石畳の道に木製の橋、現代の日本ならば自然との共生とでもいいそうな街並みはRPGに小学生の頃から慣れ親しんできた身としてはやはり感慨深い。
それに行きかう人々の中にプリシラのような獣人や長耳をもったエルフがちらほら。さらに肌の色や瞳の色もバラバラでアメリカもびっくりなサラダボウルぶりである。
それでもクラウは老若男女、人間、獣人問わず、話しかけられていたが。
「すごい人気だな」
「クラウディア様は優しいし、なによりも美しいから。民からの信が厚いのも当然。でもまぁそんな単純な話じゃないんだけどね」
「どういうことだ?」
「民へのアピールだとか、王族の道楽だって思っている人も少なからずいるってこと。クラウディア様を心酔しているっていうか度をすぎている輩もいるし」
半分その通りなのはなんとも微妙だが、にしても心酔している輩。なるほどエゼルみたいな奴か。
そんなクラウは少し向こうで腕を振りながら元気に市民たちに挨拶をしている。
あの格好が普通に受け入れられているとはな。
「それじゃあ、俺は他の民から恨みばかり買っていそうだな」
「そうでもないんじゃない?」
そういってアーデは沿道の一角を指さす。そこでは5、6人の町娘が集団を作っていた。
「あっちにいるのは転生勇者様じゃない?」
「本当だ、王女様と一緒に依頼を解決しに行くのね、やっぱりお強いのかしら?」
そこでかたまっていた女の子達がこちらに気づいたようだ。そこでなにやらひそひそ話をしている。最近の式典ラッシュでどうやら顔を覚えられたのだろう。
「ほら、手の一つでも振ってやったら」
俺はアーデにせかされつつも、そっちを向いて手を振った。すると、女の子達が手を振り返してくれた。思わず頬がゆるむ。
「……デレデレしちゃって、男って単純」
「……ですよ」
「アーデがいったんだろう」
「フェオちゃん、こんなやつほっといて先に行こう」
「了解ですよー」
アーデとフェオはそういうとクラウの方へとかけていった。
俺も慌てて後を追う。
「どうしたのです? アーデ」
「いえ、なんでもありません」
「アーデが自分だけ人気がないから拗ねてるんだよ」
「あら、アーデは騎士団の中では二つ名もあってか人気が高いんですよ」
「そうなのか?」
「えぇ、あの若さで先の戦乱を駆け抜け、宝剣マクシミリアンを託された才媛だと」
人気のベクトルが少し違う気もするが。
ちなみにだが没収期間のためアーデは今、宝剣を持ってはいない。それでも今回は魔獣狩りとあってか、同サイズの無骨な大剣を装備している。
「たまたまです、それよりももう行きましょう。このままだとドールキスにたどり着くまでに日が暮れてしまいます」
「えぇ、わかりました。それでは皆さんいってまいりますわ」
そういってクラウは城門へとかけていく。
「アーデ、勇者様、おいていきますわよー」
「リク、行くよ」
「あぁわかってる」
俺とアーデはそれを追いかける。
「私は水晶の中に戻ってていいですか?」
「ダメです」
「ぶぅー」
不満そうな声をもらしながらフェオも飛んで付いてきた。
こうしてカンストレベルの魔法使い王女とそれを守護する女騎士、かけだし転生勇者に神様見習い(分体)という奇妙な4人パーティーの冒険が幕を開けようとしていた。




