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第十五話「天邪鬼と俺っ子王女」



 晴天の陽光差し込む大聖堂の赤絨毯の上を大勢の王族、貴族、市民たちに見守られながら豪華な装飾を身に纏った転生勇者が一歩一歩と歩を進めていく。その歩みを彩る軽快な讃美歌は、民族衣装をきた獣人の少女によって奏でられている。

 そしてその先には歴代の王に代々受け継がれている法衣で鎮座する年若い国王がいた。その傍らにいる天女のような少女によって、対をなしている黄金の杯にルビーの如き鮮やかな輝きを放つワインが注がれていく。

 転生勇者は携えていた宝剣を付き従っていた金色の鎧で身を覆う女騎士へと預け、国王へと傅く。


「この意、この力。国王陛下の為に」


 国王は答える。


「この黄金の杯と共に余に忠誠を、さすれば貴殿には至上の祝福を授けよう」


「仰せの通りに国王陛下」


 転生勇者は立ち上がり、杯を手にとり天へ掲げる。国王もまた天へと杯を掲げた。


「我がサンブリアと貴殿の栄典に」


「御国と国王陛下の栄光に」


 両者は杯を傾け、それを一献で飲み込んだ。そして国王は


「見よ! 今ここに新たなる王族が誕生した! 皆のもの! 我がサンブリア王国に! 祝福を! 拍手を! 喝采を!」


「祝福を!」


 王族が


「拍手を!」


 貴族が


「喝采を!」


 市民が国王へと続いた。そして、


ゥウオオオォォォーーーーーーー!!! パチパチパチパチパチ!!


 大聖堂が割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。ここにまた一人、転生勇者が王族となった。




「ふー、王族も楽ではないな」


 大通りのパレードから帰ってきた俺は城の屋上にあるテラスにて一人で夕涼みをしていた。夕涼みといってもすっかり日は沈んでいってしまっているが。堅苦しい式典につかれたのかフェオも水晶の中から出てこない。名前は知らないがこの世界の衛星は4つも存在するらしい。そしてそのうち二つが月の役割として夜を彩っている。そのためか夜になってもあちらの世界と比べても随分と明るい。


「へぇー、星をみるのが趣味ってか。新しい転生勇者様は随分と枯れてるねぇ」


 後ろから甲高い少女の声がする。不快感はないが透き通っているとはいいがたい。


「星を眺めることを枯れているっていうのは決めつけがすぎるんじゃないか」


 振り返らずに俺は答えた。


「どきな、そこは俺の特等席だ」


「女の子が俺は良くないんじゃないか? まぁそれもそっちからしたら決めつけか」


 俺は振り返って少しだけ驚く、彼女には見覚えがある。そう、


「俺には最初から敬語を使わねぇんだな、話が速くて助かるぜ。俺はフリース・ウェサエ・テルディッチ、テルディッチの第二王女でピッチピチの14歳だぜ」


 昨日の式典の時に見かけた残りの二人の花嫁候補の片割れだ。腰の位置まであるピンク色の頭髪に揃いの色の大きな瞳。王女とは思えぬラフな白いワンピース。それらが月光に映えて美しい。

はにかむたびに垣間見える鋭い八重歯を除いて、その粗暴な口調など美しい外見からは何一つとして結びつかない。幼さもあるだろうが花嫁候補の中でももっとも可愛らしいと感じていた。


「フリース、敬語を使ってほしいなら、それ相応の慎ましさを身につけるんだな」


「フリスでいい、まどろっこしいのはきれーなんだよ。えーと。名前なんつったっけ?」


「リク・トーカ・イリンだ、お前は運がいい、リク様と呼ぶことを許してやろう」


 子供を相手にしているとついふざけたくなってしまう。


「ハッ! おもしれーこというな、リクでいいだろ。まぁよろしくな!」


 そういって背中をバシバシと叩かれる。結構痛い。


「いやー、昨日はなんつう冴えねぇ奴にあてがわれちまったとおもったが。まともなかっこうすりゃあ中々いけてんじゃねぇか。これなら多少仲良くしてやってもいいぜ」


 フリスはそういいながら俺の周りをグルグルとまわり、服装を見ていた。ちなみに俺はこの後の夕食会に備えて比較的軽装に着替えている。


「お褒めにあずかり光栄だよ、お姫様」


「まぁだからつっても結婚すんのはごめんだが、いい花嫁修業にさせてもらうぜ」


「おいおい、そんなこといってもいいのか? フリスは国を代表としてきているんだろう?」


「テメーなにも知らねぇんだな、テルディッチってのはカスティリアの隣国なんだぜ」


 それは昨日来た分仕方ないと思うが、にしてもカスティリアか。なるほど、確かスメラギ帝国の占領下にあるとカサンドラがいっていたな。最前線ということか。


「俺が来たのは体のいい避難だよ、来るなら姉様や妹達が来ればよかったんだ。ちっ何で俺なんか……」


 その粗暴な口調とは裏腹に姉妹思いらしい。


「皆で来ることはできなかったのか?」


 そこで俺は率直な疑問を口にしてしまう。


「あぁ? マジでなんにもわかってねぇな。いくら最前線だからって、いや、最前線だからこそ王族がそっから逃げて国を開けていいわけねぇだろ。脳みそプリンかてめぇは?」


 自分よりも4つも下の少女に王族の何たるかを諭されてしまった。


「すまん」


「たく転生勇者様はぜんぜん物事しらねぇな、まさかこっちに来ていきなり王族ハーレムでラッキーとか思ってんじゃねぇのか? あめぇよ、ホイップクリームの蜂蜜漬けよりもあめぇ」


 そこまで楽観的には思ってなかったが、それでもかわいい女の子達に囲まれて悪い気じゃなかったのは事実だ。


「こんな急に決めた花嫁候補なんてどの国も適当に選んでっからな。正直言って花嫁候補の中でまともに結婚する気があんのはクラウディア嬢とあとはまぁ……例外的にノエルぐらいなもんだぜ」


 ノエル? 俺の推測が正しければ最後の一人か。


「プリシラ嬢は一見わかりやすいが一番何考えてっかわかんねぇ、モニカ嬢はあんたには多分姿も見せねぇだろうしな。そして、もしネネに興味があるんだったらテメーは変態確定だ」


「ひどい言い草だ」


「事実だろ、まぁそんなに王族の人生は甘くないってことだ」


 フリスは月の光を浴びながら鮮やかなピンク色の髪をなびかせてクルクルと回っている。さっきから常に動いているな。


「フリス、一ついいことを教えてやろう」


「? なんだ?」


 俺の言葉にその動きをピタリととめた。


「甘い人生なんてものはあっちの世界にも、そしてこっちの世界にもおそらく存在しない」


「ハッ! いうじゃねぇか!」

 

 フリスはそのままテラスを後にしようとする。


「星はいいのか?」


「いらねぇ。星ってのは一人で見るもんだからな、それに今日は他に面白いもんが見れた」


 彼女は振り返らない。


「あぁあと……ノエルの奴には優しくしてやれよ」


 そういってフリスは去っていく、去り際の言葉からしても態度よりは悪い子には見えなかった。



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