第九話「天邪鬼と王族の円卓」
「ふむ、随分と話し込んでしまったらしい、もう夕刻であるな。転生勇者の現界を祝して酒宴、といきたいが明日の式典もある。今日は王族の晩餐会にリクを招くとしよう」
そういうとエゼルは玉座からテトテトと歩いてきた。
改めてみるとやはり小さい。エゼルの頭が丁度俺のへそ辺りにある。身長130cmより少し大きいぐらいだろうか。
「酒宴ってエゼル15歳じゃなかったか?」
「なんだ、知っておるのか。しかし、サンブリア王国は12歳で成人である!」
「早すぎるだろ!」
「やはり勇者様がいた世界でも珍しいのですね……」
クラウが何故か呆れた声を出していた。それはそうだ15ならばまだ聞いたことがあるが、12歳なると流石に覚えがない。
「余が王位についたときに法典を改定したのだ。おおっぴらに酒が飲めないのでな」
やっぱり暴君じゃないか!
「成長期に酒なんて飲んでいるから背が伸びないんじゃないか?」
「ふん、王とは内実でやるものだ。体格など一つの要素でしかあるまい」
「私からもエル君には控えるようにいっているのだけど」
このシスコン国王が姉のいうことを聞かないなんてよっぽどだな。
「それはそうだ、健康に悪いからな」
「にゃははー。それだけならまだいいんだけどナー……」
そんなことを話しながら王の居室にいくと、豪華な装飾のなされた円卓と玉座。そして、その周りに七つの椅子が置いてあった。そして、既にそこの席の一つには金髪の縦ロール女の子が座っている。
エゼルバルトが来たからかすぐに立ち上がり、
「転生勇者様、お初にお目にかかります。ヘンリエッタ・マーシア・ブレトワルダと申します」
といかにも品位が伺える恭しい所作で挨拶をしてきた。
「リク・トーカ・イリンです。お初にお目に、ではないと思うのですが、さっき来賓席にいらっしゃりませんでしたか」
「リクは相変わらず敬語が不自然ですナー」
「ヘンリエッタは余らと同じ王族の一人だ。そうかしこまらずともよい」
「あら国王陛下、同じではありませんわ」
「そなたは相変わらず小さいことを気にするな。それでもリクは実質的にイリン家の長なのだ。いや、トーカ・イリン家か? まぁどちらでもよい」
東海林が王族名の一つになってる。
もしかしたら俺は東海林に一番の栄誉をさずけたんじゃないか?
「エゼル、同じじゃないっていうのどういう事だ?」
「うむ、王族には3種類いるということだ。一つは初代国王とそれ以前の王家両方の血を引く、純王族。余とクラ姉様、ここにいるヘンリエッタもそれに当たる」
「サラブレッドってことか」
「さらぶれっど? なんだそれは?」
何故かちょいちょい意味の通じない単語があるな。
「私や、ここにはいないけど花嫁候補のネネちゃんとモニカは両方、新王族っていって。初代国王のみの血を引いているんだナー」
「そして、元々の王家の血しか引いていない旧王族があると。これがアーデルハイトだな」
確かあいつの二つ名は『旧王族の戦乙女』だったはずだ。
「うむ、まぁあいつの一族はもう少し特殊なのだが。しかし、ヘンリエッタ。余が彼を王族の一員として対等に接しておるのだ。まさか、リクに対して自らを敬えとでもいいたいのか?」
「滅相もありませんわ。国王陛下が認めておられるのでしたら、わたくしはなんら異論ありません。是非とも妹共々懇意にしていただいきたいものですわ」
「あぁ、よろしく頼む」
この言い方からして残りの候補いずれかの姉ということか?
「余はいい加減腹が減った。皆席につくといい」
そういってエゼルは円卓の下をくぐってもちろん玉座に座った。
いやいや、回り込むのが面倒なのはわかる。だが、いくら国王でも地面の這うところを見た後。玉座に座っている姿に威厳を感じろという方が無理があるんじゃないか?
「フリスちゃんは今日も来ないのかな?」
そしてそこから一番近い席にクラウが、
「ふっ、奴はまだ幼い。王族の晩餐に気後れするのも無理はないと思うが? これは比較的、私的なものであることだしな」
「エゼルと大して変わらないはずだナー」
そしてクラウの向こう側にあたる席にプリシラがかけた。
「いったであろう? 王とは内実でやるものだと。それにあやつはフェラルドを毛嫌いしておったしな。帰ったことを伝えておくべきだったか」
「理解できませんわ、彼ほど紳士的な殿方はブレトワルダにもそういるものじゃなくってよ」
ヘンリエッタがクラウとプリシラの中間に座る。
「私はなんかわかる気がするナー」
それぞれが飛び飛びに座る当たり席が決まっているように見える。空いている席は4つ、俺はなんとなく手直な席に座った。
何故か全員こちらを見ているが何故だろう。
「リクの分の席を増やさなければならんな」
「必要ないんじゃありませんの?」
「そなたのそういう合理的なところは、余も見習わなければならんかもな」
何の話だ?
「カサンドラ、食事だ」
「かしこまりました」
エゼルがそういうとカサンドラと共に複数のメイドが扉から出て次々と大量の料理を運んでくる。全く扉の向こうにいる気配がしなかった。みんな可愛い子ばかりなんですが、見た目で選んでるんじゃないか?
「リク、私ほどの美少女が隣にいるんだから目移りするんじゃないにゃ」
「ぐっすまん」
メイドたちのご尊顔を拝していると隣に腰かけていたプリシラに気づかれてしまった。頬を膨らましてはいるが、その表情は怒っているというより丁度いいおもちゃを見つけたというような無邪気な嗜虐心に満ちていた。
「リクは自覚が足りないナー、仮にも私達のお婿さん候補なんだからもっと意識してくれないとつまらにゃいナー」
意識すると恥ずかしすぎるから考えないようにしていたんだよ!
「あー、何プリシラ勇者様にアプローチしてるの! 抜け駆けは許しませんよ!」
向いの席に座っていたクラウがこちらに気づいたようだ。
「クラウそんなに焦らなくてもリクには両方もらってもらえばいいナー」
そういってプリシラは片方の腕を抱きしめてきた。なんていうか柔らかいし、肌触りがいくて最高です!
「確かに、たまにはプリシラもいいことをいいますね」
いいのかよ。
「モテモテですよ、よかったじゃないですか」
なんでフェオまで少しムッとしているんだよ!
「そろそろ食事を始めたいのだが、余は腹が減ったぞ……」
「同感ですわ……」
賑やかな談笑と共に王族の晩餐会は過ぎていく。
「ふむ、今宵の晩餐も良いものであった。明日の酒宴もよろしく頼むと料理長に伝えておいてくれ」
エゼルはデザートのオレンジタルトを食べつつ、フォークを使ってカサンドラに指示を出している。クラウが睨んでるぞ。
「かしこまりました」
そういってカサンドラは王の居室を後にした。
「この後の予定はどうなっているんだ?」
「私はいつもならこの時間帯は私室でアーデと勉強しています。そういえば勇者様の私室ってどうなっているのですか?」
「ふむ、闘技の間に使用人たちに客間を改造してもらっていてな。しばらくはそこで過ごしてもらうことになるだろう。明日の認定の儀もある、今宵はもう休んだ方がよいだろう。プリシラもヘンリエッタも明日の式典は頼むぞ」
「わかったナー」
「かしこまりましたわ」
確かに堅苦しい儀式は大変そうだし、主役が寝坊じゃ話にならないだろう。俺も流石に新しいことが起こりすぎて疲れているしな。早めに休息をとるとしよう。
「なるほど、それもそうだな。あぁそれとアーデルハイトは今どこいる?」
「ちょっと待ってください……」
クラウが頭に手を当ててうんうん唸っている。
「見つけました。アーデは自分の私室にいるみたいです。どうしましたか?」
千里眼か? なんて恐ろしいものを。
「少し今日の闘技のことで聞きたいことがあってな、それはどっちの方向だ?」
「あまりこの城を動き回らない方がいいですよ。アーデには後で私から勇者様に会いに行くよう伝えておきますから、先に部屋でおやすみになってください」
確かにこのデカさなら確実に迷うな。
「お言葉に甘えるとするよ。確かに疲れたしな、それでは失礼する」
俺はそういって王の居室を後にした。
「ってあれ、俺の部屋は何処だ?」




