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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
五章 恋の迷宮
75/82

魔王と魔女

 その異変に真っ先に気付いたのは、郊外に居るヲタメガであった。

 すぐさまテントから飛び出し、ルーキーの街へと目をやったが、そこには赤々とした炎が燃え盛っていたのだ。

 三連星もテントから体を出し、その炎に鋭い視線を向ける。



「ヲタメガ様、どうやら侵略者(アグレッサー)のようですな」


「そのようですね」



 誰も火事であると判断しない辺り、流石の集団であった。

 だが、三連星は祈るような気持ちでヲタメガを見る。どうか、あの騒乱の中に飛び込まないでくれ、と。戦闘を恐れているのではなく、これ以上、他国の事情に首を突っ込めば、ヲタメガの立場は益々悪くなるのだ。



「ヲタメガ様、街には我々が赴きましょう。どうか、そのままお休みを」


「私の事なら、心配は無用ですよ。今更ではありませんか」



 珍しく、ヲタメガが悪戯っぽく笑う。確かに国許での彼の評価は最低ともいえる位置にありこれ以上、下がりようがない。

 それでも、三連星としては心配なのであろう。だが、ヲタメガは保身を考え、自らの信念を捻じ曲げられるような性分ではなかった。


 ヲタメガが背負った白い箱から二本の柄を引き抜く。右手に握られているのは神々しいまでの白き光を放つ、光剣。左手に握られているのは、これまた眩い光を放つモーニングスターであった。疾風のような速度で、ヲタメガが街へ向けて走り出す。その眩い背を、三連星も無言で追う。


 白い一団が街に到着した時、既にあちこちで戦闘が発生していた。

 逆侵攻を何度か見た一団であっても、その光景は絶句というに値するもの。迷宮の入り口から、雲霞のような魔物が押し寄せてきていたのだ。



「何だこれは……ブリキがあんなに。火吹き鳥まで居やがるぞ!」


「首狩り猪も、だ」


「冗談だと思いたいが……奥に居るのはヒュドラか?」



 三連星が其々、乾いた声で洩らす。それらは監獄迷宮という、ルーキーが挑むべき迷宮に出現していいような魔物ではなかったのだ。

 迷宮では時に特異種が生まれ、それらが指揮官となって周辺へ逆侵攻をかける時があるが、それでも迷宮に応じた強さの魔物しか出てこないというのが通説だ。


 既に魔物が方々へと散らばり、無秩序に暴れ、火を噴き、目に入った人間を手当たり次第に殺害していた。ヲタメガがそれらを見て、瞬時に判断を下す。



「この規模ではバラけると危険でしょう。皆さんは三人で行動して下さい」



 ヲタメガは短く告げると、前方へと突出した。

 三連星も異論を挟まず、すぐさま行動を開始する。戦場では一瞬の迷いが死に繋がり、救える命も救えなくなる事を熟知しているからだ。


 三連星も其々、手にした白剣を持って走り出す。

 彼らが剣を振るう度、魔物に二つの裂傷が生み出され、見る見るうちに群れが切り裂かれていく。


 それは――“連撃”と呼ばれるもの。


 GAMEでも其々の属性に対し、熟練度というものが設定されており、その数値が100を超えると発生するものであった。通常攻撃の後に10の追加ダメージを与えるものであり、平たく言えば「2回攻撃」である。

 歴戦の騎士である三連星は、長い修練の果てに遂にはこの連撃を使いこなす程の猛者となった。


 ヲタメガもまた、光剣とモーニングスターを振るい、縦横無尽に魔物の群れを切り裂いていく。聖勇者である彼は「斬」と「棍」の双方から連撃を繰り出す。

 実に一呼吸で――「4回攻撃」という冗談のような存在であった。

 魔物を真正面から見据え、ヲタメガが叫ぶ。



「――出てこなければ、やられなかったのにッ!」



 彼の往くところ、白き光が魔物の群れを割っていくような有様であり、まさに聖勇者の名に相応しい勇姿であった。どれだけ魔物の血が降ろうとも、臓腑がぶち撒けられようとも、その身を包む白い光が全てを浄化していく。



「だ、誰か助け……ッ!」


「――!」



 恐らく、逃げ遅れたのであろう。幼い子を抱える母親に、火吹き鳥が猛炎を吹き出しそうとしていた。しかし、火を噴く前にその頭部が粉々に吹き飛ぶ。

 ヲタメガの手に握られたモーニングスターの鎖が伸び、先端に付けられた鉄球が火吹き鳥の頭部を粉々に打ち砕いたのだ。


 続いて突っ込んできた首狩り猪も、光剣によって真っ二つに切り裂かれる。強靭な皮と、鎧のような筋肉を持つ首狩り猪であったが、ヲタメガの前ではまるで豆腐かバターのようであった。



「ここは危険です。郊外へ」


「は、はい……っ!」



 その鮮やかな立ち振る舞いに、逃げ惑っていた冒険者達まで勇気をもって立ち上がる。聖勇者とはその強さだけではなく、周囲の人間にまで勇気を伝播し、奮い立たせる存在の事を指すのであろう。



「ヲタメガ様ァァァァァ!」

「聖勇者が来てくれたぞー!」

「三連星もだ!」

「勝てる、勝てるぞ!」

「ヲタメガ様ー! 俺だー! 結婚してくれー!」

「キャァァァー! ヲタメガ様、抱いてー!(野太い声)」

「手の空いてる奴はバリケートを築け!」



 ミカンとユキカゼもまた、それらの中に居た。

 Bランクである二人は抜きん出た実力者であり、自然とその周りにルーキー達が集まりつつある。無理もない事であった。

 こんな修羅場では、せめて強者の傍に居たいと願うのが人情であろう。



「こんな魔物……どっから沸いてきたのよ!」


「……おじ様が来るまで頑張る」



 二人は大剣と魔法を駆使し、周辺の魔物を蹴散らしていたが、肝心の衛兵の動きが鈍い。と言うより、殆ど姿が見えなかった。



「こんな時に衛兵は何してんのよ!」


「……恐らく、逃げた」



 ユキカゼの言は正しい。彼らはいわば「安定した公務員」であり、よもやこんな危険に身を晒そう、などという考えはなかった。

 むしろ、冒険者の方が「職場」を守る為に踏み止まっている有様である。とは言え、別に衛兵が悪い訳でも何でもない。


 この国は長い戦乱の中にあっても、防波堤として平穏の中にあったのだ。

 今更、いきなり命を捨てろ、などと言われても土台、無理な話である。彼らの役目は冒険者を監視し、そして搾取する事にあって、戦う事ではない。



「ちょっと、ユキカゼ! あれ火吹き鳥じゃないの!?」


「……ヒュドラも居る」


「あっっっりえなーーーーい! いつからここは“六獄の滝”になった!」


「……私の盾になれ《雪の恋人/スノーキッス》」



 ユキカゼが投げキッスと共に、ミカンへ防御魔法を付与する。火吹き鳥を見て、火に対する防御を施そうとしたのであろう。



「誰が盾かッ! あんたが燃えてこい!」


「……愛は永遠。私は溶けない雪。ミカンは炎ジョイ」


「ふざけんな!」



 こんな状況にあっても騒がしい二人であったが、この一角は魔物の侵攻を食い止める事に何とか成功し、後続の冒険者達が次々とバリケードを築いていった。

 だが、他の全てがこうではない。殆どの区画が蹂躙ともいえる悲惨極まりない状況となり、火吹き鳥が吐く火によって次々と建物が延焼していく。


 やがて、時間の経過と共に――

 あちこちから吹き荒れる黒煙が、街全体を覆っていった。




 ■□■□




「思っていたより、酷い有様だな」


「数だけは多いようですね」



 街で一番の高所に陣取り、漆黒の魔王と魔女が眼下を見下ろしていた。方々から黒煙が立ち昇り、あちこちから絶叫や悲鳴が響いている。

 悠の顔は平然としていたが、魔王は先日までの平穏な街並みを見ていた分、余計にこの光景が悲惨なものとして映った。


 何せ、魔物だけではなく――人の一部も暴徒と化していたのだ。


 目ぼしい商店へと押し入って品を盗む者、金を奪い取る者、両手一杯に薬草や植物の蔓のような物を抱えている者。

 魔王からすれば、それはいつかTVで見たスラムの暴動のようであった。今も眼下では剣を突き付け、女を犯そうとしている男までいる。



(下種が……)


「剥き出しの人間の姿、ですわね。長官」


「――気に入らんな」


「えっ」



 魔王が無言でソドムの火を投擲し、眼下に居た男の頭を撃ち抜く。

 男の体は死んだ事すら理解出来ないような姿で立ち竦んでいたが、やがて頭部が無い事に気付いたのか、その体が横倒しに倒れた。


 それを見て、魔王が無言で煙草に火を点ける。

 悠の目がじっと自分を見ている事に気付き、魔王が軽く笑いかけた。



「我々は常に状況を作る側だ。勝手な振る舞いをした慮外者に、身の程を叩き込んでやろうではないか」


(くぅぅぅ! 長官、今の台詞最高ですっっっ!)



 悠の目がキラキラと光り、その両手が無意識にそろりと伸びる。

 そのままいれば、思わず抱きついていた事だろう。

 だが、魔物の侵攻はそれを待ってはくれなかった。中央の広場へ向けて、数え切れない程の火吹き鳥や、ブリキが押し寄せてきたのだ。



「ふむ、ここでは少し遠いか」


「ぁっ……♪」



 魔王が悠の腰を引き寄せ、一気に跳躍する。そこは中央の広場を眼下に収める、絶好のポジションであった。魔物の群れはそこで一旦集結し、更に方々へと散らばる気配を見せている。それを見て、魔王が顎をしゃくる。



「――悠、派手に殺れ」


「は、はいっ!」



 悠の蕩けていた顔が引き締まり、その掌に禍々しい手榴弾が握られる。

 そこから《属性スキル》の乗せられた――破滅的な一撃が放たれた。天高く放り投げられた手榴弾に、まずはFIRST SKILLである《爆弾知識》が発動し、15~25の追加ダメージが加算される。


 次にSECOND SKILLである《四散》が発動し、手榴弾が数十個に分裂した。最後にTHIRD SKILLである《連鎖爆破》が発動する。

 そのダメージ加算量、実に30~40ダメージ。それらが一斉に魔物の頭上に降り注ぎ――連鎖的な“大爆発”を引き起こした。


 凄まじい轟音が街中に鳴り響き、あちこちで戦っていた冒険者や、逃げ惑っていた住人も、それを引き起こした存在へと一斉に目を向ける。

 そこには、月を背景に悠々と煙草を愉しむ魔王と、目の覚めるような白衣を着た凄艶な美女がいた。



(ふむ――側近達の属性スキルも、しっかり発動するようだな)



 魔王が満足気に頷き、悠の頭を引き寄せる。

 細部に至るまで設定を施した側近が、その能力を余すところなく発揮したのが嬉しかったのだろう。まして、自分の作ったスキルが凄まじい威力をもって目の前で再現されたのだから、その嬉しさは二重のものであった。



「ちょ、長官……ご満足頂けましたでしょうか……?」


「うむ――素晴らしいぞ、悠。まさに芸術的な一撃だったな。属性スキルが全て決まった時の爽快感は堪えられん」



 魔王が哄笑をあげる姿を見て、群集は声にもならない声を上げた。

 目を瞠るような美女を傍らに引き寄せ、幾百の屍を見下ろす姿は、まさに魔王そのものであったからだ。


 遠くからその姿を見ていた三連星は、それが“噂の魔王”である事を瞬時に察した。何が行われたのかすら分からない、凄まじい大爆発。

 白き光に真っ向から反するような、漆黒の姿。そこから連想されるものは、まさに古の伝承にある、稀代の反逆者そのものであった。



「あれが……ヲタメガ様の言っておられた魔王か」

「稀代の反逆者に相応しい容貌であるな」

「早まるな。我々の進退はヲタメガ様に預けてある」



 ミカンとユキカゼも、漆黒の魔王とその傍らに佇む魔女の姿を見ていた。月を背景に屋根の上で哄笑を上げる姿は威風堂々たるものがあり、見る者によっては、様々な感情を呼び起こさせるであろう。



「何よ、あいつ。横に女を侍らせて格好付けちゃってさ」


「……私は愛人が何人居ようと気にしない。但し、ミカンはダメ」


「ダメも何も、あいつに興味なんてないわよッ!」


「……嘘付きは炎ジョイのはじまり」


「そのネタ、どこまで引っ張んのよ!」



 ヲタメガもまた、魔物の屍の中、魔王の姿を振り返った。

 以前は気配と視線、そして声だけの存在であったが、今ではその姿を表し、はっきりとした輪郭を備えた存在となっている。



「貴方だけではなく、部下までが……」



 広場の惨状を見て、ヲタメガの体が揺れる。一体、何が起こったのかは分からないが、あれだけの魔物が一瞬で爆殺されたのだ。もしも、あれを“連発”で放つ事が出来るなら、個を以って軍にすら対抗出来そうであった。



 ――また会ったな、勇者。



 魔王がコートのポケットに手を突っ込んだまま屋根から跳躍し、ヲタメガの隣に舞い降りる。その姿が見えている分、以前より遥かに威圧感が増していた。

 続けて魔女もその隣に舞い降り、ヲタメガからすれば、近くに居るだけで寿命が削られていくような思いを抱いた。知らず、二つの柄を握る手が強張っていく。



「そう警戒せずともよい。奥のデカブツはこちらで片付けようではないか。お前達には、周辺の魔物に対処して貰いたい」


「……あれはヒュドラという、連撃すら無効化する首領級の化物です。多くの人命がかかっていますが、貴方には勝算がおありですか」



 その言葉に悠の目がスッと細くなったが、魔王がその手を頭に置くと、途端に大人しくなった。



「連撃を、か――面白いな」


「そもそも、貴方は魔を統べる王なのでは? 何故、人の側に立つのです」


「可笑しな事を言う。魔物など、私にとって“糧”に過ぎん」



 これは魔王の本音というより、素の発言であった。

 だが、ヲタメガからすれば意味深な言葉である。その真意を探る暇もなく、魔王と魔女が傍らを通り過ぎていく。

 その奥には凶悪なヒュドラが居るのだが、まるで眼中にないようであった。



「長官、あの蛇の出来損ないは何でしょうか……?」


「ふむ、JUGも溜まっている事だ。実験に丁度良い。ついでに迷宮内も一掃しておくとするか」



 迷宮の入り口に陣取っていたヒュドラが鎌首を擡げ、二人を視界に収める。巨大な蛇のようであり、9つの頭を持つ魔物である。

 Aランクの冒険者達が挑む大迷宮、“六獄の滝”に出現する首領級の魔物であり、断じてこんな場所に出現していい存在ではない。その固い鱗は連撃を無効化する為、熟練の冒険者や騎士達にとっても大変な強敵である。



「では、私の“連撃”も披露しようではないか――」



 魔王がソドムの火を投擲し、それがヒュドラの胴体に突き刺さった時、その首から絶叫が漏れた。戦闘スキルを発動させずとも、この男の通常攻撃は既に致死量のダメージを与えるのだ。


 本来ならそこへ連撃が発生するのだが、この男の場合、熟練度が500に達している為、《極連撃》へと昇華し、そのダメージ量が25へと跳ね上がる。

 更にそこへ戦闘スキルの《狂撃》が上乗せされる事により、5ダメージの加算が行われ、計30ダメージ。通常の連撃に比べ、実に3倍の威力である。


 オマケに戦闘スキルの《強制突破》が付与される為、連撃を防ぐスキルや技術を通り抜けてしまう。要するに、この男の連撃を防ぐ事は――「不可能」なのだ。


 突き刺さった刀身から衝撃波が迸り、ヒュドラの巨体が跳ね上がる。極連撃が突き刺さったのであろう。とどめにソドムの火が齎す火傷効果――爆炎がヒュドラの体を一瞬で包み込んでいく。


 まさに、流れるようなコンボである。

 GAMEでは更にここから属性スキルや無属性スキルなどに繋げていく為、先制攻撃を取られると逃れるのが至難の業であった。



「――ハッハッハッ!」



 湧き上がる高揚感に、魔王が嗤う。

 全身から赤い霧が立ち込め、その姿を覆っていく。赤い霧は一秒足りとも同じ形を作らず、断末魔の悲鳴をあげているような顔となり、時には髑髏となり、視界に入れているだけで、魂まで汚染されそうな“地獄そのもの”となった。



 ――戦闘スキル《限界突破》発動!

 ――特殊能力《法典の支配者》発動!



「羽虫が――這い蹲った姿がお似合いだッ!《FINAL JUDGEMENT》」



 まるで号令を下すように魔王の右手が振り下ろされた。禍々しい赤き霧が幾万の髑髏となり、悪夢のような咆哮と共に地獄の一撃が突き刺さる!

 一瞬でヒュドラの体が黒い粒子となって消滅し、それだけにはとどまらず、瀑布を叩き付けるようにして、幾万の髑髏が迷宮内の最下層である20階層までぶち抜いた。


 それは全体攻撃ではなく――エリア攻撃。

 只でさえ強烈な“それ”に、幾つものダメージが上乗せされ、迷宮内の魔物は悉く一撃で死滅した。その中には、今回の侵略者たる大きな目(ビッグアイ)も居たのだが、十把一絡げに消滅する悲惨な有様となった。


 後に残されたのは――耳に痛い程の静寂。

 誰もが今の地獄のような一撃を見て、魂が消し飛ぶような思いがしたのだ。



「これで後続の魔物も途絶えるだろう」


「お見事でした、長官」



 頬を上気させた悠が笑顔を浮かべ、魔王も満足気に頷く。だが、魔王はその顔を引き締めるとユキカゼへと《通信》を送った。



《ユキカゼ、聞こえるか?》


《……おじ様、最高に格好良かった。私の雪もドロドロに溶ける》


《何がドロドロだ。それよりも少し、気になる事があるのでな。私はこのまま迷宮へ潜る。引き続き、残った残党を片付けておいてくれ》


《……うん》



 そう返すユキカゼの声は、少し寂しそうであった。

 だが、魔王の戦闘を見た後では足手纏いになると考えたのだろう。寂しさを滲ませながらも、素直に頷いた。



《今回はお前達に沢山の事を学ばせて貰った。この騒動が終われば、ラビの村に来ると良い。歓迎しよう》


《……必ず行く。絶対行く》



 通信を終え、魔王が迷宮へ向かって歩き出す。

 その背に、ヲタメガが声をかけた。



「――貴方は再び、反逆を起こすのですか?」



 再び、という言葉に魔王は片眉を上げたが、悠が居る手前、無様な応答は出来ないと考えたのだろう。ほんの少し間を置いて、重々しく口を開いた。



「私は常にシステムと体制を作ってきた側でね。反逆というのであれば、それに反する者達の事を指す」



 それは、“大帝国の魔王”としての返答。悠が聞いても変だと思われないようにしたものであったが、それを聞いたヲタメガの方は驚愕していた。


 古に謳われる稀代の反逆者は、自らを反逆者などと夢にも思っておらず、むしろ周囲こそが、下手をすれば“大いなる光”こそが反逆者だと思っていたのだ。

 見解の相違、などというレベルではない。古代からの神話、その通説がガラガラと音を立てて崩れていくような気持ちを味わったのだ。



「では、また会おう。勇者」



 迷宮へ潜っていく二人の背を。

 ヲタメガは只、呆然とした眼差しで見送るだけであった。






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






情報の一部が公開されました。



・FINAL JUDGEMENT

GAMEにおける、エリア全体攻撃。

戦闘によって増減していくJUGと呼ばれる数値が100に達すれば発動。

初期ダメージ量は30だが、自分より相手のレベルが高い場合、

著しくダメージが加算される。レベル差が1につき、8ダメージの上乗せ。


自分より相手のレベルが10高いケースでは、実に80ダメージもの上乗せとなり、致死量の攻撃となる。

これによって、GAMEではレベルを上げれば上げる程、強くなればなる程、この攻撃が脅威となり、弱者が強者を一撃で葬る事も可能なシステムとなっていた。


大野晶はGAMEにこの手のギミックを多数仕込んでおり、

レベルを上げてごり押し、などの単純な勝利を出来なくしていた。



・戦闘スキル――限界突破

FINAL JUDGEMENTの初期ダメージを倍に引き上げる。

30ダメージ → 60ダメージ



・特殊能力――法典の支配者。

魔王の専用能力。

FINAL JUDGEMENTに40ダメージの上乗せ。

不夜城の側近達は《法典の守護者》という類似能力を持っているが、

こちらは20ダメージの上乗せとなっている。





GAMEにおける戦闘シーンは、

三国無双や、戦国無双などを想像して貰えると分かりやすいと思います。

キーとマウスで次々とコンボを繋げていく感じですね。





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