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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
五章 恋の迷宮
58/82

監獄迷宮 一階層

(ごった返しているが……活気があって良いものだ)



 魔王は広場の賑わいに、思わず笑みを浮かべた。

 弁当や飲料を大声で売っている者、薬草などをゴザに並べている者、共に潜るチームメンバーを募集している者までいる。


 監獄迷宮は街の中心部にあり、ここはダンジョンを内包している街なのだ。

 むしろ、ダンジョンが一大産業になっている、と言っていい。

 人が集まる場所では様々な商売が生まれ、チャンスも生まれる。



「確か、入場料が大銅貨1枚だったな」


「そうよ。後は中で得られた物と、獲物を売った金額を足して、そこから国に1割が徴収されるの。……独り言だけどね」


「まぁ、1割なら税金としては妥当か。むしろ、安いと思える程だ」


「冗談じゃないわ。潜る方は命を賭けてるのよ……これも独り言だけどね!」



 ミカンの独り言を聞きながら、魔王は考える。

 この国からすれば「濡れ手に粟」の商売だな、と。迷宮内では“勝手に補充”される様々な物と魔物が居て、それらを自己責任で集めさせ、徴収する。

 何ら投資する事もなく、延々と広く薄く搾取し続ける事が出来るのだ。


 冒険者など正規雇用している訳でも何でもない連中だから、怪我をしようが死のうが、それこそ知った事ではないだろう。この国からすれば、磨り潰されるまで勝手に金を運び続けてくれる、働きアリのようなものだ。



(勝手に沸き、補充されるのは迷宮内の物と魔物だけではない。“冒険者”もそれに当て嵌まるのではないのか?)



 魔王はそんな風に考えたが、わざわざ口にするような事はしない。

 それは多くの冒険者を侮辱する事になるだろう。魔王は頭に浮かんでいた疑問を、今度はユキカゼにぶつけてみる。



「北方の国には大抵、一つはこういった迷宮や遺跡があると言っていたな?」


「……そう。ここより難易度の高い場所は幾らでもある」


「なるほど。“これ”が年中戦争をしていられる“原因”か」


「……原因?」


「財源とでも言い換えるべきか。まぁ、気にするな」



 魔物の皮や角、爪や尻尾などの部位が金になるというなら、それは大袈裟に言えば尽きぬ金山のようでもある。現に迷宮の入り口に近付くにつれ、多くの露天や商店が並び、早朝から凄まじい活気が溢れていた。


 当然、迷宮に一番近い場所には冒険者ギルドの建物があり、その隣には税金の徴収所が仲良く隣に繋がっている。迷宮を出ればその足でギルドへ獲物を売り捌き、その隣で税金を支払う流れになっているのだろう。



(どう考えても、その日に全てを精算する“日払い”のシステムではないか)



 社会保障もクソもなく、その日に働いた分の金だけを支払い、その場で税金もしっかりと徴収する。手元に残った金も、酒や女や服などに消えるのだろう。


 元気な内はそれでいいかも知れないが、歳を取ればどうなるのか。怪我をしたり、病気をした時には迷宮にも潜れなくなるだろう。

 当然、冒険者ギルドも国も、その時に助けてなどはくれない。



「ルーキーの階級から抜け出せず、引退する者が多いのも当然だな。先がまるで見えない、日雇い労働者のようなものだ」


「……おじ様の言う通り。でも、冒険者には一発逆転の夢がある」


「それは、レア品の入手などを指しているのか?」


「……そう、一発当てて家を購入した者も居る」


(磨り潰れるまで命をチップに宝くじ、だな……まぁ、嫌いな生き方ではないが)



 何だかんだ言いながらこの魔王は――“いちかばちか”が嫌いではない。

 但し、それは自分がするのではなく、それを用意して挑戦させる側である。

 だからこそ、“GAME”には不要ともいえるカジノや裏カジノなどにこだわり、バージョンアップを繰り返していたのだ。


 その度を越えた作り込みと“いちかばちか”は、最大難易度のギャンブルに表れており、何とそれに勝利すればその回のGAME会場は強制終了。勝利者はSPECIAL ENDを迎え、参加者も全員解放というものまで用意されていた。

 尤も、それを達成出来た者は一人も現れなかったが――



「それにしても、大きな箱やら袋やらを持っている者が多いな」



 彼らは大銅貨6枚やら、中には4枚やらと大きな声で叫んでいる。

 冒険者がそれらに近付き、交渉している姿も見られた。



「ミカン、あれは何だ?」


「馴れ馴れしいわね……あれはポーターよ。獲物の運び人」


「ほぅ、あの連中に運ばせる訳か」


「腕が良いのは解体も出来るから、結構高く付くの。雇いたいなら、あんたの金で雇ってよ」


「私には不要だな」



 この男は“アイテムファイル”に無限に物を放り込む事が出来る。

 四次元にでも繋がっているポケットを持っているようなものだ。


 正確には、GAMEでは装備品を除けば所持品を最大でも10個までしか持つ事が出来なかったが、その内訳は所持品として5個、売店などで購入出来る《予備バック》を買っていく度に増えていくといったものだ。


 プレイヤーはこれを最大でも5個までしか購入出来ないが、不夜城にいた委員会メンバー達は最初からこれを95個所持しており、合計で100個のアイテムを所持出来る設定になっている。


 拠点と同じように、予備バックも大きさや重量を無視したGAME特有のシステムが適応されており、中に“軽トラック”などを放り込む事も可能である。

 それが現実に適応されるのだから、まさに魔法であろう。



(さて、まずは魔物とやらを相手にSPを稼がせて貰うか。恐らく、ここでは魔道具とやらには期待出来まい)



 何といっても、ここはルーキーが集まる迷宮である。魔王は今回、迷宮や冒険者のシステムというものに慣れようとしていた。

 いつ複数人で迷宮へ潜る時がくるかも分からない。その時に側近達やキッズの前で、無様な姿は見せられないという見栄もある。



「ぁ、それとあんたはポーターって事で中に通すから」


「私が運び人、とやらになるのか」


「……おじ様は冒険者として登録されてないから」


「止むを得ないな。今回はそれで行こう」


「びしびし運ばせるわよ! あんたは今日、ポーターなんだから!」



 ミカンが勝ち誇ったような表情で言う。

 その顔はとても輝いていた。これまでの積もり積もったストレスを解消しようとしているのだろう。



「ふむ――運び人だったな? 任せておけ」


「私があんたに、冒険者の何たる――にゃっ!」



 魔王がミカンの腰を引き寄せ、そのまま小脇に抱え上げて歩き出す。ミカンが大剣を背負っている事を考えると、それはとんでもない膂力であった。



「は、離せ! は、運ぶって私の事じゃないからぁぁぁ!」


「……ミカン、殺す」




 ■□■□




 ――監獄迷宮 地下一階層



(これが迷宮、ね……誰が作ったのやら……)



 入り口から長い階段を降り、その先に広がっていたのは通路である。

 大昔に掘られた坑道のようでもあり、いかにもファンタジーな世界でよくありそうな洞窟であった。


 それに、広い――

 この通路だけで、軽く二十人は横一列に並べるだろう広さだ。

 何の為に、誰がこんなものを作ったのか?

 魔王の頭に、またそんな根源的な疑問がよぎる。



「ミカン、この迷宮は一体、いつからあるんだ?」


「がるる!」



 ミカンが威嚇するように喉を鳴らす。

 いや、唸っていた。魔王に腰を掴まれ、警戒しているらしい。

 しかも、力自慢の彼女がまるで身動き出来なかったのだ。警戒だけではなく、屈辱も感じているようであった。



「それに、人がごった返していて緊張感がないな」



 これに関しては魔王の言う通りであった。大勢の冒険者が雪崩れ込んでいる為、冒険というよりも大勢で観光地にでも来ているような雰囲気である。

 地下1Fでもあり、その辺りは差っ引く必要があるだろうが、それでも命賭けの冒険には程遠い雰囲気が漂っていた。



「……三階層までは人が多い。そこから下はぐっと減る」



 ユキカゼがそう答えた時、薄暗い洞窟の隅から大きな殻を背負ったかたつむりのようなものが現れた。人の膝くらいまでの大きさがあり、軟体の体をうねらせながら三人に近付いて来る。



「砂つむりか……懐かしいわね」


「……ルーキーの頃を思い出す」


(普通にデカくてキモいんだが……)



 ユキカゼとミカンは懐かしむような目で“それ”を見ていたが、魔王からすればありえない大きさのかたつむりだ。

 とてもではないが、塩をかけても溶けそうもない大きさである。



「へっへ、久しぶりに狩ってみますか」



 ミカンが大剣を振り下ろし、軟体部分を斬る。

 そのまま腰からダガーを抜き、手早く殻だけを切り離した。



「ミカン、その殻が獲物になるのか?」


「そうよ。この殻を細かく砕いて、土に混ぜると固くなるの」


「ほぅ、建築素材という訳か」


「……カチカチになる」



 ミカンがボールを渡すようにして、殻を魔王へと放り投げる。

 難なく受け取った魔王ではあったが、それを手で触ったり、叩いたり、細部を見たりと暫くの間、興味深そうにそれを弄っていた。



「これは、幾らくらいで売れるんだ?」


「……時期にもよる。普段は3個で銅貨5枚くらい」


「大きな戦争前には高く売れるのよね」


「なるほど、砦や陣地を築く為だろうな。被害地域への復旧にも使えそうだ」



 震災の後などに、建築素材が飛ぶように売れるのと同じだろう。

 古来、災害や戦争は被害を生みつつも、あらゆる需要が伸びる。北方諸国は戦争を続けながらも、様々な産業を刺激するという奇妙な状態にあった。



「……運んで《雪の台車/スノートロリー》」



 ユキカゼが杖を振ると、雪と氷で構成された巨大な台車が出来上がった。

 これは詠唱者の後ろを付いてくる台車であり、様々な物を運ばせる事が出来る。温度を調整すれば冷凍も可能な為、肉なども腐らせない優れものであった。



「……おじ様、挿れて。そのカチカチで、固い――ぁむ」


「それでも舐めておけ」



 魔王がキャンディーをユキカゼの口へと投擲し、同時に殻も台車へと投げる。

 この男は『投』のスペシャリストであり、文句の付けようもない見事な投球であった。その気になれば、針をも通す正確さで狙った場所へと投擲する事が出来るだろう。



「一つ気になったのだが……魔物の死骸はどうなるんだ?」


「へ? 時間が経てば消えるわよ」


「この殻は消えないのに、か?」


「そんなの知らないわよ。死骸から切り離してるから別扱いなんじゃないの?」


「いい加減というか、アバウトというか……」



 魔王が呆れたように呟いた時、奥から大きな声と、笛が鳴り響いた。

 その笛の音に、ユキカゼとミカンの顔色が変わる。

 奇妙な三つの音が何度も繰り返され、耳を澄ましていた二人が騒ぎ出す。



「この音……“鬼沸き”よ! きたぁぁぁぁ!」


「……お祭りワッショイ」


「祭りだぁ?」



 気付けば、周りの冒険者達が全員走り出していた。

 その顔は興奮しているのか真っ赤であり、威勢の良い声やら笑い声まで口から漏れている。薄暗かった迷宮内が一気に明るくなり、興奮した声が広がっていく。



「二人とも、行くわよ!」



 ミカンが背負ってた大剣を手に持ち、奥へと走り出す。

 まるで野生の豹のような姿である。



「……ミカン。イキすぎ」


「祭りか――なら、参加せざるを得んな」



 賑やかな事を好む魔王も、格好を付けながら走り出した。






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






情報の一部が公開されました。




ミカン

種族 人間

年齢 17


武器 ―― オーガソード

オーガの特異種が持っていた大剣。

ミカンはこれを討伐し、重量が増す魔石を多数取り付けている。

破壊力は抜群であり、これを扱える彼女は一流の戦士といっていいだろう。


防具 ―― スカーレッドパンサー

赤豹の皮をなめし、作られた高級防具。

柔軟性が非常に高く、動きを妨げない。

打撃や斬撃への吸収力も高い。



レベル 12

体力 ?

気力 ?

攻撃 15(+15)

防御 10(+10)

俊敏 20

魔力 3

魔防 5(+5)



四つ星のBランク冒険者。

殆どがルーキーの階級を抜け出せないこの世界において、有数の実力者。

大剣を使った様々なスキルを会得しており、戦闘経験も豊富。

前線に立つ戦士としては申し分がない。

好物はミカン。嫌いなものは魔王。






ユキカゼ

種族 人間

年齢 15


武器 ―― スノーバレンタイン

『氷』の魔法効果を上げてくれる杖。

溶けない氷と呼ばれるスノークリスタルが埋め込まれており、人間には滅多に武具を卸さないドワーフであるが、腕利きの一人がユキカゼを気に入って製作した。

文句無しに最上位(ハイエンド)の武具である。


防具 ―― 黒い風と黒サンタ

黒サンタと呼ばれる中級悪魔が着ていた服を元に、腕利きのドワーフが製作。

魔法防御力を全体的に高めてくれる。

これまた最上位(ハイエンド)の防具である。



レベル 13

体力 ?

気力 ?

攻撃 ?

防御 ?

俊敏 ?

魔力 23(+15)

魔防 15(+15)



四つ星のBランク冒険者。

若くして魔法の才を開花させた、この世界でも有数の魔法使い。

第四魔法を使いこなし、既に第五魔法にも近付きつつある。

性別次第では、聖女の候補にも上がっていたであろう。

魔王が好き。





ブックマークに追加や、評価をして下さった皆さん、ありがとうございます!

お陰様で、異世界転移の月間ランキング1位になる事が出来ました。

この場を借りて、深く御礼申し上げます(珍しく真面目)





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