表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
一章 魔王降臨
5/82

魔王の指輪

 まだ明るい時間だというのに、その村からは“人の活気”とでもいうべきものが殆ど感じられなかった。

 山奥などにある、閉鎖的な村が頭に浮かぶ。



「何だか余所者は信用出来ん、とか言われそうな村だな」


「は、はい……僕の村は、余所から来られた方を嫌う傾向にあります」



 本当にそうなのか……偏見で言っただけだったんだが。

 あわよくば食料や路銀とかを分けて貰おうと考えていたが、そんな目論見は通りそうもなかった。



「僕の家はこっちです。少し嫌な思いをさせてしまうかも知れませんが、どうかお許し下さい……すぐに済みますので」



 アクが背中から降り、右足を引き摺りながら歩き出す。

 その後ろ姿を見ていると、物悲しい気分になる。アクはまともな医者に見て貰う事が出来なかったのかも知れない。

 アクの後ろを付いていきながら、村の中を油断無く見ていくと、やはりと言うべきか、近代的な文明を感じる事は出来なかった。



(家屋は剥き出しの木と、固めた土……藁の屋根もあるな)



 日本なら当然あるべき、室外機やアンテナなどは全く見当たらない。

 ここが、日本とはまるで違う世界なのだと再認識する。

 辺りを一つ一つ確認していると、遠くに村人の姿もチラホラと目に入ってきた。

 GAMEの影響か、咄嗟に身を隠してしまう――GAMEでは他プレイヤーに見つかるとロクな目に遭わないので、殆ど職業病に近い。



「応戦姿勢、変更――――《隠密姿勢》」



 その言葉を発した瞬間、まるで風景に同化するように体がぼやける。

 GAMEでは相手からの発見率を劇的に下げる効果のあるものだったが、その分、攻撃と防御が大きく下がってしまうデメリットも抱えてしまう。


 自分の姿が消えた事を確認し、ホッと胸を撫で下ろす。

 内心、少しドキドキしていたが、周りの反応を見ている限り、自分の事をまるで視認出来ていないようだ。


 ここまでGAMEのままだと、空恐ろしくなってくる。

 この世界は――GAMEにあった全てが具現化するのだろうか?

 なら、他にも色々と試してみるべきだろう。



「あれ……魔王様?」



 やはり、アクからも見えていないらしい。

 この絶好とも言える状況下で、是非試したい事がある。


 GAMEでは余り使う事は無かった《通信》はどうだろう? これはプレイヤー間でメッセージを残す機能だ。

 GAMEを開始した当初は、当然の事ながらスマホなんて物は無かった。あの頃だと通信は重宝されていたが、近年では完全に錆付いていた機能である。



《通信“アク”へ――聞こえるか?》


《……ぇ。頭の中に魔王様の禍々しい声が!?》


《禍々しいは余計だ。私の事は気にしなくて良い、近くに居るんでな》


《は、はいっ》



 無事、通信機能が動いている事を確認出来た。

 やはり、色々と試してみるもんだ。あのまま一人で森に居れば、何も分からなかった事ばかりだったであろう。

 俺はもっと、アクに感謝しなくてはならないのかも知れない……。



(しかし、俺の神経も図太いもんだな……普通なら、そろそろ泣き叫んでもおかしくないような状況だと思うんだが)



 もしかすると、体の持ち主である“九内本人”に意識まで引き摺られているのかも知れない。



(よせ、よせ……何のホラーだっつーの)



 自分で考えておきながら、それはとても――恐ろしい想像だった。

 慌てて首を振り、下らない妄想を振り払う。



「おい、ゴミ人間――何でお前がここに居る!」



 不快な言葉に目をやると、村人らしき数人がアクを指差して怒鳴っていた。

 考えなくてもすぐ分かる。これがアクを虐めていた連中なのだろう。いや、村全体がそうなのかも知れない。



「ゴミ人間、まさかお前……逃げ出してきたんじゃないだろうなッ!」


「冗談じゃない! あの悪魔がこの村に来たらどうするつもりだ!」


「生贄に出された意味を分かってんのか!?」



 村人達が口々に叫ぶ内容に頭が痛くなる。

 こいつらは子供に何を言っているのか、ちゃんと分かっているんだろうか?

 とは言うものの、この世界の住人でも何でもない俺が、この世界の事情(?)に口を挟むのは中々に難しいものがある。


 この世界では、悪魔に生贄に出すのが当たり前の世界なのかも知れない。外国の独特な風習や、「日本では考えられないが、とある国では常識」などというのは現代でもよくある事だ。



(とは言っても、な……)



 やはり、大の大人が子供を責め立てているのは気分の良いものではない。

 隠密姿勢のまま連れて行けば、騒ぎにならないで済むんだろうか?




『不快に思うなら、“粛清”すれば良い――――』




 頭の中に響いた声に、背筋が凍る。

 それが“誰”であるのか、すぐに分かってしまった。そして、右手の中指から発する――耐え難い痛み。

 思わず手を押さえ、その場に蹲る。

 余りの痛みに、とてもじゃないが立っていられない……!



『不適切だと断じた者を処分する――その“権限”が“私”にはある』



 ふざけるな……あれはGAMEの話だろうが。

 現実に生きてる人間を粛清だの、処分だの、そんな事が出来る筈がない。



『妙な事を言う。そんな権限を、GAMEを、システムを、あんな狂った国を作ったのも、全部――“お前”ではないか』



 その言葉に、思わず黙り込む。



『お前こそが――“諸悪の根源”なのだ。私が魔王なら、お前はさしずめ全世界に破滅を齎す――』



 指輪を潰れる程の力で握り締め、無理やり声を掻き消す。

 こんなもの、幻聴に過ぎない――そう信じて、強く目を閉じる。色んな事が起こりすぎて、きっと、俺は疲れているんだろう。



《アク、そんな連中は放っておいて荷物を取ってくると良い》



 暫く待ったが、返事がない。

 目を開けると、仰向けに倒れているアクの姿が目に入った。村人が手を振り上げ、何か汚い言葉で罵っているようだ。

 これ以上はとても見ていられず、隠密姿勢を解く。


 途端――村人達が大騒ぎする。いきなり姿を現したのだから無理もないが、その狼狽っぷりは中々に笑えるものがあった。



「アク、早く荷物を取ってこい」


「わ、わかり……ました」



 アクが足を引き摺りながら家へ向かう姿を確認し、ゆっくりと煙草に火を点ける。その間も村人達の騒ぎは収まらず、その数はどんどん増えていく。

 本来なら様々な事を聞くべきなんだろうが、この連中とは会話をする気が起きなかった。



「あ、あんたは悪魔なのか……? あのお方の、手下なのか……?」


「この村には手を出さないでくれ! 生贄は出した筈だ!」


「約束が違う! 悪魔といえど契約は守るものだろ!」



 煙を吐き出しながら、村人達の言葉を考える。

 悪魔との約束や、契約とは興味深い言葉であった。それらを“先方”が守るつもりがあるのかどうか、甚だ心許なく思えるが。

 むしろ、契約を持ち掛けて相手を雁字搦めに縛ろうとしたんじゃないのか?



「お待たせしました、魔王様!」


「ま、魔王だって!?」


「まままま魔王!」


(おいおい、余計な事を言うな……!)



 アクの言葉に村人達のざわめきが一層、大きくなっていく。

 とは言え、この連中相手に誤解を解く気力もない。子供をゴミ呼ばわりし、生贄に出し、あまつさえ村全体で虐める。

 こんな連中相手に頑張る必要があるだろうか――? いや、無い。



「りょ、領主様に連絡してくるぜ!」



 そう言って、アクを転ばせたらしき男が走り出す。

 その顔には嫌らしい笑みが張り付いている。

 男は何かを思い出したのか、一旦家へと戻り、出てきた時には鞄らしき物を手にしていた。褒美を貰った時、入れる為の物なのだろう。



 無意識に――眉間へ皺が寄る。



 まるで自分の感情に呼応したかのように、指輪が妖しい光を放つ――だが、今回ばかりは止める気がしない。

 右手がコートの内側に伸び、無造作に男の家へとナイフを投擲した。

 狙い違わず、ナイフが家の壁へと突き刺さり、刀身から黒い炎が噴き出す。木で出来た家は一瞬で火が回り――黒煙に包まれていった。



「い、家が……俺の家がぁぁぁぁぁ!」


『――アッハッハッ! 火はいつ見ても良い、心が洗われるようだ!』



 突然、口を突いて出た言葉に仰天する。

 慌ててアクを背中に乗せ――この場から逃げ出す。勢いでこの指輪に身を任せてしまえば、大変な事になってしまいそうだ。



(放火魔みたいになってんじゃねーか!)



 冷や汗を掻きながら、全速力で走り出す。景色が飛ぶように流れ、まるで自分だけが早送りで動いているようだった。



「ま、魔王様――だ、大丈夫なんですか、あれ!」


「ご、誤解するなよ、あれは暖を取ってやったのだ。むしろ、私の優しさと言っても過言ではない。うん、そんな気がしてきた!」



 走り出した足はもう止まらない。

 適当な事ばかり言う口も、もう止まらない。



「で、でも……! 少しだけ、すっきりしちゃいました!」



 そう言って、アクが笑う。

 それは出会ってから初めて見た“笑顔”だったかも知れない。



「そ、そうだろう! やはり、人の優しさというのは伝わるものだな!」



 適当すぎる言葉に、今度は自分が噴き出してしまう。

 気付けば、二人で大笑いしていた。

 空を見れば、明るかった太陽が沈み、夜の帳が下りようとしている。この疲れ知らずの体なら、何処までも走れそうであった。



「魔王様、何処まで行くんですか!?」



 体を吹き抜けるような風の中、アクが叫ぶ。

 これまでその顔には、何処か暗さが見え隠れしていたが、今は年相応の明るさと輝きがあった。思わず――自分も歳を忘れて叫び返す。




「都会へ――“神都”とやらに行くぞ!」






 こうして、軽い放火魔と化した魔王様と、明るい“悪”の旅が始まった。

 二人が巻き起こす数々の騒動が、聖光国を大騒ぎさせていく事となるが……




 ――――それはもう少し、先のお話。




 一章 -魔王降臨- FIN






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






情報の一部が解放されました。



「ステータス」

攻撃や防御などの“1”とは、平均的な人間が持つ数値である。

これは子供であれ、大人であれ、変わらない。

つまり、“2”という数値であるなら、平均的な人間の2倍の数値。

まして“3”などになると3倍の数値であり、これが4や5ともなると……


強引に現代に当て嵌めるとするなら、

それは超一流のアスリートや、オリンピック選手などに近いと言えるだろう。

この世界における1と2ではかなり違いがあり、一つ上の数値へ行くには、大きな壁が存在している。それは“才能の壁”と言えるものかも知れない。



「気力」

様々な用途に使われ、魔法などもこれを消費して放たれる。

基本、これが尽きるまでは全力で動ける指数。

超一流の戦士ともなれば、50は備えているとも。

これは二時間もの間、全力で動ける数値だ。


九内の気力は600。

彼はGAMEの仕様上、24時間――常に全力で動けるようになっている。

どうしようもない“怪物”であり、“魔王”であった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
lkl8djxhao2s5hk2fywc3ebkiosv_3qo_lo_9g_2
(書籍紹介サイトへ)

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ