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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
四章 魔王の躍動
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ユキカゼ、襲来

 ――神都



(最近はほんとに忙しすぎたな……)



 久しぶりに“俺”は、一人で街を歩いていた。

 一人ってのはいい。非常に身軽で、歩くスピードも自分の思うがままだ。

 アクやルナと居ると、どうしても歩調を合わせる必要がある。何せ歩幅がでかい――魔王の体は能力だけではなく、体型までハイスペックなのだ。


 全身が鋼の如き肉体なのは言うまでも無いが、その身長も187とモデル並だったりする。何だかんだで見栄えの良い男なのだ。

 故に――歩いているだけで目立ってしまう。



「……おじ様、やっと会えた」


「何で魔王!? どうして!?」



 見ると、以前に何度か会った二人組の冒険者だった。

 片方は健康的な褐色の肌をした戦士であり、片方は透けるような白い肌を持つ魔法使い。何というか、アウトドアとインドアの極致のような二人組だ。



「ほぅ、久しいな」



 重々しく告げてはみたものの、こいつらの名前が分からん。

 もしかしたら、聞いたかも知れないがサッパリ忘れてるぞ。ここ最近は目まぐるしかったし、無理もない事だが。

 この世界じゃ、名刺交換とかもしない訳だしなぁ……。



(ん……名刺、か。もしかしたら、流行るかも知れんな)



 最近は金の事ばかり考えていた所為か、ついそんな事が頭に浮かぶ。

 実際、ラビの村の特産品が人参だけというのも寂しい話だしな。他にも色々と考えてみるのも悪くないかも知れない。



「……おじ様はどうして神都に?」


「少し、冒険者ギルドとやらに用事があってな」


「……ギルドに? 何を知りたいの?」


「まぁ、北方の迷宮とかについてな」



 本当は魔法を防ぐようなアイテムについて聞きたいのだが、わざわざ人に話すような事でもない。

 それこそ、自分の弱点を晒すようなものだ。



「……国外の事を職員に聞いても得られるものは少ない。私が教える」


「ちょっと、ユキカゼ! 勝手に話を進めないで!」


「……じゃあ、ミカンは帰って。家で冷凍ミカンになってて」


「誰が冷凍ミカンよッ!」



 なるほど、こいつらはユキカゼとミカンか。

 分かりやすいというか、何というか。

 このタッグはユキミカン、とでも略しておく事にしよう。



「……おじ様、この近くに行きつけの店があるの。今までのお礼を込めて、ご馳走する」


「以前にも言った筈だ。恩に着る必要はないと」


「……うん。“大切な事”だったと聞いた」


「その通りだ」



 その言葉を言い終えた瞬間――白い手がこちらの手を優しく掴む。

 こいつ、本当に白いんだな。

 何だか溶けない雪のようでもあり、神秘的ですらある。



「……まだ昼だけど、そこはお酒も飲める」


「酒、か……」



 久しぶりに飲みたくはある。

 最近は一人でいれる時間なんてまるで無かったしな。



「……じゃあ、こっち」


「後ろを付いていこう。子供じゃあるまいし、手を繋ぐ必要は無いぞ」


「……ダメ。迷子になる。私が」


(お前がかよ!)



 思わず素で叫びそうになったが、どうにか堪える。この子、見た目は図書館で本でも読んでそうな物静かなイメージだけど、天然なのか?



「……ミカン、先導して」


「分かったよ! 行けば良いんでしょ、行けば!」



 どうも、ミカンという子には余り歓迎されていないらしい。

 まぁ、魔王なんて呼ばれているし、好かれるような要素もないだろうが。

 それもこれも、村の経営が上手く行くまでの我慢だな。



「……恋の迷宮。ラビリンスラブ」


(何言ってんだ、こいつは……)



 案内された先にあったのは、ノマノマと書かれた看板がかけてある店であった。

 時間はまだ早いが、店内にはかなりの客が居るらしい。漏れ聞こえる声に耳を傾けると、酒を飲んで盛り上がっている男女の声が聞こえてくる。



「オーナー、エールを三つ! 客を連れてきたわよッ!」


「おや、ミカンじゃないかい。珍しいね、あんたが客なん……えっ!?」



 店に入ると、女主人と店内の客が一斉にこちらへ向いてくる。

 とんでもない注目度だ。

 俺、何かしたっけ……いや、もしかして、先日の騒ぎの時に居た連中か?



「噂の魔王様じゃないかい! ミカン、でかしたよ!」

「おぉ、あんたか!」

「こっちのテーブルに来てくれよ! 一杯奢るぜ!」

「んぉ? 誰だ、あれ?」

「バッカ野郎! この前、カーニバルをぶっ飛ばした旦那だよ!」

「おい、暇してる連中も集めてこい!」



(おいおいおいおい!)



 店の連中が慌しく動き始め、店内が騒然としていく。

 俺は話が聞きたかっただけだっつーのに!



「……おじ様、ここに座って」


「うむ」



 案内されるまま、とりあえず壁際のテーブルに座る。

 とてもじゃないが、落ち着いて飲める雰囲気ではなさそうだ。女主人がエールを豪快にテーブルへと置き、先日の礼を言ってくる。



「この辺りの店も、皆あんたにゃ感謝してるんだ。今日は幾ら飲んでも、こっちの奢りにさせて貰うよ!」



 女主人がこちらの肩を叩き、豪快に笑う。

 マダムといい、この女主人といい、そこらの男顔負けの気風の良さだ。

 何はともあれ、まずは飲ませてもらうとするか。話はそれからだろう。

 ジョッキへと手を伸ばすも、ユキカゼが横からジョッキを掴み、こちらの膝にちょこんと座ってくる。



「何をしてる……?」


「……おじ様に飲ませる」


「すまんが、自分で飲ませてくれ」



 何処の場末のキャバクラだ。

 昼間からこんな格好で飲む馬鹿が何処に居る。大体、酒っていうのは誰にも邪魔されず、自由で救いがなきゃダメなんだ。

 ユキカゼを膝から降ろし、ようやくエールに口を付ける。



「うん、美味いな」



 ここ数日の疲労は、この為にあった気がしてくる程だ。

 久しぶりの酒に感動していたら、持っていたジョッキを横から奪われ、ユキカゼがそれをコクコクと飲み干す。

 何で自分のエールもあるのに、俺のを飲む?



「ん……おじ様の、喉に、絡んで……」


「妙な言い方をするな」



 こいつら、揃いも揃っておかしな言い方ばっかりしやがって。

 衛兵さんに引っ張られるって言ってるだろ!



「……間接キス。恋はバブリシャス」


「すまんが、ちゃんとした言語で話してくれ」


「ユキカゼちゃんは相変わらずだねぇ。ほら、つまめるもんを持ってきたよ」


「ほぅ、これは――」



 炒めた豆のようなものや、肉の串焼き、野菜の炒め物などが次々とテーブルの上へ置かれていく。見た目も香りも、悪くない。

 ヤホーの街で食ったのは余り美味くなかったが、ここはどうだろうか?

 見た目から濃そうなタレがかけられている串焼きを、口の中へ放り込む。



「これは……普通に美味いな」


「普通にって、あんたも失礼な言い方するねぇ」


「すまない、他意はないんだ。ヤホーの街で似たような物を口にしたんだが、余り美味くなかったんでな」


「あぁなるほどねぇ。でも、あんなところとウチを一緒にされちゃ困るよ」



 女主人が豪快に笑い、カウンターの奥へと戻っていく。この女主人は、中々腕が良いのかも知れないな。

 そんな事を考えていたら、持っていた串をユキカゼに奪われていた。

 こいつ、人が口にしたものばかり手を付けてないか?



「ん……おじ様の、濃くて……ドロドロしてる……」


「だから、妙な言い方をするな!」



 こいつ、天然とかじゃなくて痴女じゃないのか!?

 さっさと本題に入らないと、いつまで経っても無限ループしそうだ。



「で、そろそろ話を聞かせてくれ。私はこの辺りの風習や、冒険者のシステムなどに疎くてな」



 本当はすぐにでも魔法に効果のあるものを聞きたかったが、用心深く、冒険者という職業やそのシステム、ギルドの役割などから聞いていく。

 大方、俺のイメージしていた冒険者像と大きな違いは無い。魔物を倒して報酬を得たり、迷宮や遺跡からお宝を発掘するというのもお約束だ。


 ギルドは依頼を受付け、それを斡旋して仲介料を取ったり、魔物の体の一部を買い取り、商会へと卸したりするらしい。

 腕の良い冒険者を抱えている所は、中々に羽振りが良いようだ。それだけに引き抜き合戦も盛んなようで、ランクが上がれば待遇や条件面で次々と優遇されていくらしい。



(何だか、プロのスポーツ選手みたいだな)



 プロ野球や、サッカーの選手などが頭に浮かぶ。

 あれも実力があれば、色んなチームからスカウトが来て金を積まれる。

 その中から、条件の良い所を選べるという訳だ。



「……稼げない時は傭兵をする人も居る」


「傭兵、ね」



 そして、実力が足りない者は、それこそ何でもやるしかない。この辺りも、似たような感覚と思って良いんじゃないだろうか。



「……潜っても空振りしたり、魔物が少ない時期もあるから」


「ま、安定した収入とは無縁だろうな」



 公務員じゃあるまいし、毎月決まった給料にボーナス、という訳にもいかないのだろう。俺からすれば、命懸けの自営業といった感覚に近い。

 話を聞いていると、普段は人夫のような仕事をする事も少なくないようだ。

 何というか生々しい現実というか、夢の無い話というか。



「……今は戦争期だから、暇してる人も多い」


「戦争期?」


「……戦争期は北方諸国に入るのが難しくなる。密偵や工作員も多いから」


「その口振りだと、逆に休戦期もある訳か」


「……うん」



 長く戦争が続いている為、自然と休戦期も設けるようになったらしい。

 そりゃ、年中戦争してたら生産も農業もクソもないだろう。

 全員纏めて、お陀仏になるだけだ。



「思ったより、多くの話が聞けたな。感謝する」


「……おじ様になら、何でも答える」



 そう言いながら、ユキカゼが隣に来て密着してくる。どういう訳か、その手もこちらの太腿の上に置かれていた。

 こいつ、距離が近すぎないか? 馴れ馴れしいってレベルじゃないぞ。



「そ、それで……迷宮から発掘出来る品とはどんなものがあるんだ?」


「……すりすり」


「頬擦りするな。私は真面目に聞いてるんだ」


「……私も至って真面目。出来杉君」


「お前は何を言ってるんだ?」



 苦労しながらもどうにかこうにか、発掘品についても聞いていく。

 大まかに分けると、この世界の武具は5種類に分かれるらしい。普通の金属や皮などから作られるノーマルと呼ばれるもの。

 これはまぁ、分かりやすい。


 他には魔物の牙や皮、鱗などから作られる固体(ソリッド)と呼ばれるもの。

 相当に腕がなければ、加工する事は難しいらしい。


 そして、特殊な金属や素材から作られる最上級(ハイエンド)と呼ばれるもの。これに関しては人間では加工出来ず、ドワーフなどが得意としているらしい。


 そして、一部のSランク冒険者などが所持しているらしい特異(ユニーク)と呼ばれるもの。ユキカゼも詳しくは知らないようだ。


 最後に、伝説(レジェンド)と呼ばれるものがあるらしいが、いつだったかルナが自慢してたような気がしないでもない。

 あいつの杖がもしかして、そうなのかも知れないな。腐っても聖女だし。



「……未発見のアイテムを探したりもする。名付け親になれる」


「ほぅ、それは興味深いな」


「……二人で名前を考えてつけよ? 字画にもこだわる」


「新婚かッ!」



 ダメだ、こいつと居ると調子が狂う。

 あの褐色ミカンのように一方的に避けられるのも困るのが、馴れ馴れしすぎるのも考えものだ。

 とは言え、得られたものは結構ある。最後にもう一つだけ確認しておくか。



「例えば、店で売っている物に良品はないのか?」


「……広く流通している物は量産品。高い効果は望めない」


「金さえ出せば、良い品も入るんじゃないのか? 魔法に効果のある物や、固い鱗を切り裂く剣だとか」


「……第四魔法や第五魔法を防ぐには、特異級が必要。おじ様の武器なら、どんな敵にも対処出来ると思うけれど」


「ふむ――」



 確かに、ソドムの火はGAMEの中でも最高の数値である50の武器だ。

 それを言えば、不夜城に居た面子は全員が50のものを所持しているが、其々に特徴がある。ソドムの火なら、火傷を与える効果があるし、悠の手榴弾などは通常攻撃であっても広範囲に渡ってダメージを与える。



(いずれにせよ……一度行って、自分の目で確かめるべきだな)



 人から聞く話だけでは、全ての判断は出来ない。

 実際に行って、この目で確かめるべきだろう。幸い、村の方は準備も整った事だしな……後は田原が居れば何とでもしてくれるだろう。

 むしろ、あいつに丸投げした方が確実に高い成果を出してくれる。



「北方、か……まぁ、一度行ってみる事にするさ」


「……おじ様、北に行くなら私も連れていってほしい」


「君を?」


「……私はこう見えてBランクの冒険者。役に立つ」



 コートの袖がぐいぐいと引っ張られる。

 確かに、道案内をする者や経験者は欲しいところではあるが。側近達は村の事があるから連れていけないし、子供連中を連れていくのも危険だ。

 特にトロンなど、村から出れば討伐されかねない。



「そうだな、迷惑でなければ近い内に頼むとしよう。何事も、最初は先人から学ばねばな」


「……任せてほしい。きっと力になる」



 ユキカゼが嬉しそうに、こちらの目をまっすぐに見てくる。

 たまに妙な事を口走っているが、改めて見ると物凄い美少女だな。この悪人面と二人旅なんかしてたら、検問とかで止められそうな気がしてきたぞ。



「……今なら、オマケにミカンも付いてくる」


「勝手に人をいれんなっ! オマケってなによ!」


「ふむ――なら、宜しく頼む」


「頼まれないわよ! 勝手に二人で行け!」


「……二人でイケ。ミカンはふしだらな子」


「あんたはもう、黙っててっ!」








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