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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
四章 魔王の躍動

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48/82

適合率20% ★

「……あら、田原だけ?」


「だけ、とは言いやがるな。こっちぁ仕事してんだぞ」



 温泉旅館の一室――悠が襖を開けると、そこでは田原が図面らしきものを広げ、鉛筆で何かを書き記していた。耳には赤鉛筆が挟まれており、一見すると競馬の予想でも立てている姿にも思えなくはない。



「それは村の地図? 施設の位置も変わっているようだけれど」


「んー、そだな」


「貴方――長官の建てた位置に不満でもあると言うの?」


「状況が変わりゃあ、場所だって変わる。一応、言っておくが、長官殿にはもう許可を取ってるかんな」


「そう、なら良いわ♪」


「あのな……」



 悠の掌返しに、田原が苦々しい表情を浮かべる。

 清々しいまでの変わり身の早さであった。



「お前サンが長官殿にそこまで傾倒するとはなぁ……何があるか分からんもんだわ。つかよぉ、単純に趣味が変わったって事か?」



 そう、悠の好みは幼い美少年である。それを辱め、甚振り、苦痛に歪む顔を見ては愉悦を感じる、生粋のサディストなのだ。

 間違っても、九内のような男は趣味の範疇ではなかった筈である。



「ここにゃ、バニーのガキも多いってのになぁー」



 田原が鉛筆を走らせながら呟く。

 美形揃いのバニーだが、当然この村には子供もいる。

 まさに、絵に描いたような幼い美少年だ。これまでの悠であったら、絶対に放っておかなかったに違いない。



「んー……最近は長官以外の男が目に入らないのよね」


「さいですか」



 ――田原は思う。



 どうか、そのまま可愛らしいままで居てくれ、と。

 自分の胃的な意味でも、この世界の為にも。この女がその本性を剥き出しにすれば、数十万という単位で人がゴミのように死ぬ。

 潜伏期間が長く感染しやすく、致死性も高い強力な細菌を数種類作ってバラ撒くだけで、一国を滅ぼし尽くす事も容易いだろう。



「それにしても、随分と大掛かりな改造案ね……」


「んだな。大きく区画を分けて、機能を分けちまおうと思ってる」



 田原が乱暴な手付きで図面に線を加え、村の中を幾つかの区画に分ける。幸いな事に、ラビの村は人口こそ少ないが、領地としては広大なのだ。

 村を出たバニーも多い為、空き家や使われなくなった畑も多い。



「ざっと、そうだな。療養区画、商業区画、庶民区画、バニー区画ってところか」


「随分と資金が必要になりそうね……」


「そこはアレだ、お前さんの聖貨とやらを売り払って使うってよ」


「そう、私の仕事が役立つのね」


「おう、長官殿も「大きな資金源になる」って喜んでたぜ」


「ふふ……ふふふふ………」



 悠が嬉しそうに笑い、うっとりと目を閉じる。

 それを見て田原は思う。


 ――どうか、その可愛らしいままで居てくれ、と。

 マジで頼むよ? と叫びたい心境であった。

 これ以上、無駄に仕事が増える事になれば、田原の胃に穴が開くだろう。



「でも、そうね……これだけ大幅に手を加えるなら、マダムの意見も聞いてみたらどうかしら?」


「――――却下だ」



 その瞬間、部屋の温度が下がり、切り裂くような口調で田原が返す。

 悠の顔を、青みがかった瞳が見ていた。

 田原が、本気の時の目付きである。



「ここは言わば、俺達の城だ。マダムがどうこう、とかじゃねぇ。貴族なんて生き物に俺らの“テリトリー”をどうこうする“前例”なんて与えちゃいけねぇんだよ。悠――お前、ボケてんのか? 殺すぞ」




――不夜城の一件を忘れたのか?




「……ごめんなさい、確かに失言だったわ」



 田原がまた作業を再開する。

 静かな部屋に、鉛筆の走る音だけが響く。部屋の中には険悪な空気が一瞬漂ったが、それを引き摺らないのが田原の良いところでもある。



「うっし! ざっとこんなもんだろ」


「ふぅん……拠点も増やすのね」


「療養区画は、徹底的に鄙びた空間を演出してそれを推していく」


「逆に商業区画は随分と派手だけれど……それに、私の病院にも言いたい放題ね」


「そこに関しちゃ、真実しか書いてねぇよ」


「まぁ、そうね」






 挿絵(By みてみん)

(作:田原勇 タイトル ~真奈美、天使すぎか~)






「ちょっと待ちなさいよ、田原……この立ち飲みとかは何なの!?」


「あぁ? ひとっ風呂浴びた後には一杯欲しくなンだろが」


「親父臭い……真奈美ちゃんからオッサンと呼ばれる日も近いわね」


「馬鹿野郎! 真奈美は幾つになっても、お兄ちゃんって呼んでくれる地上に舞い降りた天使なんだよ! そこらの記号女と一緒にすんなッッ!」


「……貴方、一度医者に見てもらうべきよ」


「医者はお前だろうが!」




 ■□■□




 ――神都 とある宿



 魔王が椅子へと座り、何事かを試していた。

 朝から何度もその作業を繰り返しているのか、その額には汗が浮かんでいる。

 魔王の体が“また”眩い光に包まれていく。

 

 光を外へと洩らさぬよう、窓はカーテンで閉じられ、明かりすら点けず、鍵も何重にもかける用心深さであった。

 音一つしない部屋に、光だけが漂っている。



(視界が、歪む……)



 魔王の体が龍へと変化し、その鋭すぎる眼光が部屋を見渡す。暗闇の中でも、その銀色に輝く瞳は全てを見通すような輝きを放っていた。

 霧雨 零――もう一人の“彼”である。



(この感覚を何と言えばいいのか……)



 “魔王”の中に居る時、彼は実家に居るような安心感を覚える事がある。

 全ての起源にして、始まりを告げる存在。

 当初は、自らの名を与えていたキャラクター。



(逆にこっちは、一人暮らしの部屋って感じだよな)



 彼はおぼろげに、そんな事を考える。

 そう、“実家”を離れて十年近く、“龍”の中で過ごしていたのだから。

 好き勝手に、自由に振舞える、という意味でも、一人暮らしの部屋と称するのは言い得て妙であるかも知れなかった。



(この、湧き上がってくる気持ち……)



 マグマのように吹き荒れる、熱い感情。

 それは、脚光を浴びたいというもの。格好を付けたいというもの。

 注目を集めたいというもの。

 あらゆる人間を沸かせ、ギャラリーを驚愕させ、徹底的に自分を魅せる事。

 それは、人間の“原始的な欲求”そのものであった。



(恥じる事じゃない。むしろ、そんなのは当たり前じゃないか)



 ある意味、開き直ったような心境で“彼”は思う。思ってしまう。

 人であるなら、誰だってそうしたいに決まっている。

 恥ずかしさや、照れ、世間体、色んなものを考えて自重しているだけで、そこから解放されるなら、どんな人間も華やかな道を歩きたいに決まっているのだから。



(確かに、こいつは……いや、俺は“龍”なのかも知れない)



 いや、誰だって龍になる下地がある。

 それが、許されるのであれば。それを、認められるのであれば。


 そんな“力”があるのなら――


 強きを挫き、弱きを助ける。たとえどんな相手であろうと立ち向かう、そんなヒーロー願望を、子供っぽい想いを、誰もが秘めているのだから。



(任意で戻れるようにしなければ……)



 彼の推測と経験では――

 龍は存分に自らを魅せ、満足すれば元に戻ると踏んでいた。

 これからは、そういう訳にもいかないだろう。



「疼くな……体が……」



 それは、“どっち”の言葉だったのか。

 龍が掌に拳をぶつけ、その体からオーラが溢れ出す。



「何もかんも、ぶっ飛ばしてやる――」



 凶暴な眼が、暗闇の中で光る。



『――俺が、いっちゃん強ぇ』



 龍の口が歪に曲がる。

 この存在の前に立ってしまった悪は、地獄を味わうだろう。

 龍を構成するスキルは、邪悪を滅ぼすものに特化しすぎている。そして、龍が敵と見做した者へ特化しすぎていた。

 限定された空間、限定された敵に対して、この龍は“無敵”なのだ――



 彼の背中に刻まれた“天下無敵”とは、決して誇張ではない。



「見てろよ、ファッキン大帝国が――」



 龍が椅子から立ち上がり、その体が光に包まれる。

 光が消えた時、そこには漆黒の闇よりもなお暗く深い魔王の姿があった。

 休む間もなく、魔王の体がまた光に包まれる。

 飽きる事無く繰り返される“それ”は、ほんの少しずつ、変化を生む。



 いや、それは変化ではなく――


 分かれていた半身(ゼロ)との融合とでも言うべきか。


 何せ“彼”は元々、龍そのものだったのだから。


 いずれ彼は魔王と龍を支配し、双方を自在に操るに違いない。


 当たり前の話であった。


 彼はその両者を作り、共に在った存在なのだから。





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