田原 勇
「田原よ、我が前に姿を現せ――!」
その言葉と共に、白と黒の巨大な光が前方に現れ、それらが重なった時――
一人の男性の形となった。
その顔は寝ぼけたような面をしているが、身長も高く、その体格もガッシリとしている。
「んぁ……? 長官殿じゃねぇか。って、ここ何処だよ!」
(あぁ、田原だなぁ……)
自分が創ったキャラクターが動き、喋っている姿に何とも言い表せない感動に包まれる。
だが、気を抜いている暇はない。こいつも悠と同様、自分が九内伯斗でないと知れば、どんな行動を取るか分からないのだから。
「よく来たな。ここではなんだ、落ち着いて話せる場所へ行こう」
「お、おぅ……」
田原があちこちを見回し、髪をガシガシと掻く。
まぁ、無理もない。寂れた寒村の中に、目の前には温泉旅館があるという、よく分からない光景なのだから。
「ここは、新しい“会場”なのかよ――相変わらず、金を掛けてんだな」
「それも含め、ゆっくりと説明したい」
温泉旅館のロビーへ行き、そこに設置されてあるソファーへと腰掛けた。
ここなら灰皿もあるし、落ち着いて話が出来るだろう。ロビーに置かれたスピーカーからは琴の音が軽やかに響いており、中々に落ち着く空間だ。
「まず、最初に言っておきたいのは――ここは大帝国があった世界ではないということだ」
「はぁ??」
以前、悠に説明した事を繰り返す。
あれから知った事情も含めて話していくと、田原はその表情を百面相のように変え、呆れたように溜息をついた。
まぁ、この態度が正常ではある……いきなり納得されるのも怖いしな。
「するとなにか、ここはガキの頃に見た、アニメみてぇなファンタジックな世界だっつーのか??」
「端的に言えば、そうなるな」
自分の返答に、田原が長い沈黙を続ける。
眠そうなツラで天井を見上げたり、頬を掻いたり、傍目から見れば間抜けな姿にしか見えないのだが、自分には分かってしまう。
こいつを作った――自分には分かる。今、こいつの頭は恐ろしい速さで回転し、様々な推測や答えを導き出している筈だ。
「ま、あんたはこの手の冗談なんざ、槍が降っても言わねぇだろうが……」
「ちなみに、悠も居るぞ」
「げぇっ! あのマッド女が!? 冗談じゃねぇぞ!」
「悠とも協力し、事にあたって貰いたい」
俺は何気ない仕草で煙草に火を点けながら、思わず吹き出しそうになっていた。
こいつの悠への反応、俺に似てるよな。
綺麗だけど、怖いもんな……何であんな設定にしちゃったんだろ。
「長官殿よぉ、一つだけ確認していいか?」
「どうした」
「ここは、本当にあの“大帝国”が存在しない世界なんだな――?」
「断言しよう。間違いない」
田原はそれを聞いて安堵したように一つ息を吐くと、自身も煙草を咥えて火を点けた。こいつも俺に負けず、ヘビースモーカーなんだよなぁ。
煙を幾らか吸って落ち着いたのか、田原がおもむろに口を開く。
「長官殿の前で言うのも何だけどよ、ここが大帝国の無い世界ってんなら、こんなに嬉しいこたぁないね。あんたにとっちゃ……どうか知らんがよ」
最初は遠慮がちに、だが、はっきりとこちらの目を見ながら田原が言う。
そんな事を言われても、“九内伯斗”ならまだしも、俺からすれば別に大帝国というのはあくまでGAMEの“背景”であり、あのサバイバルデスゲームを行う為に作った“舞台装置”に過ぎないのだ。
遊ぶ人が“ゲーム”に入り込めるよう、入念に世界観は作り込んだが、別にプレイには何の関係も無い要素である。
実際、山のように書いていた小話にまで、全て目を通していたような熱心なプレイヤーはそこまで居なかった筈だ。
ライトなプレイヤーからすれば、スタート時に「あぁ、このGAMEはそういう国がやってんのね」ぐらいのものだったろう。
「別に、私の前だからといって遠慮する必要は無い。今の我々は、大帝国に縛られる事のない存在なのだから」
「そうかぃ? なら、ついでに幾つか聞かせてくれ――あんたは、この世界で何をする気だ? 最終的には元の世界へ帰るつもりなのか? 俺達を集めて、何をさせようとしてる?」
難しい質問だった。
何と答えればこいつは納得するのか、ではなく――
俺もまだ、最終的な結論やゴールを決めかねているからだ。管理機能を、権限を、全て取り戻す。
これはまだ良い。
熾天使を調べて、いずれ元の世界へ帰る――それが本当に可能なのかどうか。
そもそも、戻ったとして、俺は何をするつもりだ?
変わらない日常と、仕事か?
いずれ誰かと結婚して、子育てでもして、最後には墓の中に入って……。
いや、その前に――呼んだこいつらはどうなる?
元の世界に戻っても、もうGAMEは存在しないんだぞ?
つまり、間接的に俺はこいつらを、あの世界全てを“殺した”といってもいい。
自分の用事が終われば、まだ消して“殺す”のか?
「今はまだ言える事は少ない。だが、そうだな、少なくとも――」
田原の眼が、こちらを見ている。とても静かで、不思議な感覚だった。
心のヒダを掻き分け、全てを読み通そうとしている目付きだ。
「私は、大帝国とは正反対の道を往こうと考えている」
「――へぇ」
以前、悠との会話で出てきた言葉をそのまま口にする。実際、俺はあんな血塗られた道を歩もうなどと夢にも思っていない。
アレと同じ道を往くという事は、武力で世界を支配していく事なのだから。何が悲しくて、こんな異世界にまできて、殺しあったり恨まれなきゃならんのか。
「……まぁ、いいさ。あんたにゃ、たっぷり稼がせて貰った恩がある。あんたが居なけりゃ、真奈美ともども野たれ死んでただろうからな」
「……その、妹の事だが」
こいつは重度のシスコンだ。
自分が設定したんだから、それだけは間違いない。
妹と会えない環境に居る事についてはどう思ってるんだろうか?
「良いんだよ。こんなヤクザな商売やってる兄貴なんざ居ない方が、良いに決まってんだから。創玄のじじぃに預けてるし、心配要らねぇよ」
創玄……そういえば、田原の小話でそんな爺キャラを描いたな。
大帝国の上層部にまで顔が利く由緒ある神社の神主であり、大地主だ。
描いてて良かった……そんな設定を作ってなかったら、今すぐ戻せと銃口を突き付けられてたかも知れん。
「で、当面は何をすりゃ良いんだ――?」
「まずは、この寒村の運営だ。施設は野戦病院、温泉旅館、銭湯の三つがある」
村全体の構図を変える作業、従業員の教育、利益を生み出す経営、トラブル処理、貴族との折衝、子守り。
それらを伝えていくにつれ、田原の顔が愉快な程に曲がっていく。
「無茶言うなっ! 俺ぁ青い猫型ロボットじゃねぇんだぞ!」
「お前は“天才”だ――必ず出来る。私が言うのだから間違いない」
「う”ぁ! ぉ……が……」
「どうした?」
田原が急に飛び上がり、妙な顔付きになる。
前に悠もこんな反応をしてなかったか?
「な、何か体にビリっと……んだ、こりゃぁ……」
「体調でも悪いのか? 悠に見て貰え」
「やめてくれ! あんな奴に見られた日にゃぁ、体をバラバラにされちまわぁ!」
――随分な台詞ね、田原。
「げっ! マッドおん……い、いや、悠じゃねぇか……ははっ……」
振り返ると、そこには風呂上りに浴衣を纏った悠が居た。
その頬はほんのり赤みが差していて、とてつもなく綺麗だったが、目が怖い。
思わず、俺までそっと目を逸らす。
「魔王様、その方はどなたですか??」
「何かいやらしい顔してるわね……あんた、魔王の手下でしょっ!」
「……綺麗な色。優しい人なの」
その後ろに居た子供達まで騒ぎだし、ロビーは途端に喧騒に包まれていく。まぁ、田原ならこいつらを上手く守りながらやってくれるだろう。
これで、ようやく俺も子守りから解放……いや、仕事の分担が出来るというものだ。
(さて、マダムを迎える準備を進めなくてはな……)
こうして、魔王の下に“常軌を逸した”戦力が続々と集まりつつあった。
世界から見れば、こんなものは脅威以外の何物でもない。
望む望まないに関わらず、この集団がいずれ、世界を巻き込む騒動の中心となっていくのは、むしろ当然の事であったといえるだろう。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
田原 勇
種族 人間
年齢 31
武器 ―― 銃器多数
47丁の中から、任意で選択。
マニアックな古い銃から、スナイパーライフルなど、あらゆる銃器を使いこなす。
彼女ら(?)は田原を熱烈に好いており、敵には容赦の無い弾丸をぶち込む。
普段は異空間の中で漂っているが、戦闘時は宙に浮かび、全面展開する。
弾丸無限。
防具 ―― ケブラージャケット
全身のあちこちにホルスターなどが付いており、
銃を取り出しやすくなっている。
接近戦に持ち込まれた時を考え、防刃に優れているのも特徴。
耐久力無限。
所持品 ―― 赤外線暗視ゴーグル
闇夜であろうと視界を確保する。
装備中、命中率に常に+20%してくれる優れもの。
所持品 ―― ラッキーセブン
大帝国製の煙草。
気力を40回復させる効果がある。
銘柄に対してこだわりはなく、他の種類も所持しているようだ。
レベル 1
体力 5000/5000
気力 600/600
攻撃 50(+可変)
防御 40(+12)
俊敏 50
魔力 0
魔防 0
属性スキル
FIRST SKILL ― 連射
SECOND SKILL ― 弾幕
THIRD SKILL ― 乱射
戦闘スキル
榴弾 面制圧 焼夷弾 さきがけ 大破 必中
リベンジ カウンター 痛恨 深慮遠謀
生存スキル
情報操作 罠解除 罠知識 職人 大花火 草不可避
回復 スリ 怪盗 神速 学習 医学 賭博
特殊能力
天才
-?-
-?-