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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
四章 魔王の躍動
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POKER FACE

(よし、食料もどうにかなったな……)



 あれから“俺”は、ヤホーの街でも最大手といわれる商会へと足を運び、大金貨五枚を出して食料を得る段取りを付けた。パンやミルク、野菜、肉や卵などをラビの村に定期的に運ぶように注文したのだ。


 こちらが何か言う前に商会の人間が全員走り出していたが、すぐに仕事へ取り掛かるその姿勢は中々のものであった。やはり、大手ともなれば教育が行き届いているのだろう。


 出費が続いているが、こんなものは施設が動き出せば幾らでも取り戻せる。

 そして、一度動き出した施設は永遠に金を生み続けるのだ。

 これだけ払っても、大金貨はまだ三枚残っている。運転資金としてはこれぐらいあれば何とかなるだろう。



(大方、準備は整ったな)



 俺はその後、マダム・エビフライへと手紙を出し、服飾店の女店員を一人連れてラビの村へと戻った。

 全移動でワープした事に店員は目を白黒させていたが、“海の向こうの魔法”だと適当に説明したら震えながらも頷いてくれた。

 ちょっと怯えすぎな気もするが……。



「何も心配する事はない。君は、自分の仕事だけを考えたまえ。あの金には余計な事を口にするな、との意味も含まれている。分かるな?」


「は、はい……!」


「そうだ、サイズを測るならついでに温泉に入っていくといい。一石二鳥だ」


「オ、オン=セン……ですか?」



 女店員を温泉旅館へ連れていくと、口を大きく開け、何やら形容し難い表情になっていた。この世界の人間からは、どう映っているんだろうな。

 まぁ、その辺りも追々調査していこう。



《悠、説明は終わったか?》


《はい、少々手間取りましたが……ぁ、ルナちゃん、そこは電気風呂よ》



 ――アキャァァァ! ビリビリするぅぅぅ!



 何故だろうか……。

 聞こえる筈もない、ルナの叫び声が聞こえた気がした。個人通信は一対一だから、他の声は入らない筈なんだが。



《サウナなどは水分の補給もしないと危険だからな。その辺りも――》


《そうで――あ、キョンってバニーの子。そこは壷湯だから深いわよ》



 ――きゃぁぁぁ! 壷怖い!……ピョン。



 何故だろうか……。

 こんな時でも、語尾に何かを付けている声が聞こえた気がしたが。

 ある意味、根性が……って、全然話が進まないだろ!



《それと、長官。連日の疲れも溜まっているのではないかと……是非、お背中を流したく思います》


《い、いや、それには及ばない――少し考え事があるのでな》


《……村の事でしょうか??》


《それも含め、部下をもう一人呼ぼうと思っている》



 折角、うるさいのが全員、温泉に入っている事だ。

 この機会にじっくりと考えながら、側近の召喚を行おう。彼ら彼女らを呼べば呼ぶ程、単純に戦力は桁違いに増していく。

 優秀な者に仕事を任せれば、自由に動ける時間も増える筈だ。



(今度は男だな……)



 本当なら蓮を呼びたいが、これからの状況を考えると少々まずい。

 俺も温泉旅館の中へと入り、男湯の暖簾をくぐった。




 ■□■□




「ふぅぅー……これだなぁ……」



 露天風呂に肩まで浸かり、首をコキコキと鳴らす。

 肩を動かすと、筋肉の張りが解れていくような感覚がある。連日の疲れで、思っていた以上に凝っていたのかも知れない。


 湯を掬って顔にかけると、えもしれない気持ちよさが顔全体に広がった。

 生きていて良かったと思える瞬間だ。露天の隅では鹿威しの中に湯が注がれ、カポーンと心地良い音まで鳴っている。

 夜空を見上げれば、月まで浮かんでいた――



(ははっ、ファンタジー世界で露天風呂かよ……)



 GAMEで《温泉旅館》を作っていなければ、こんなものを味わう事は出来なかっただろう。昔の自分に、少しだけ感謝だな。

 作った当時は遊んでいるプレイヤーから「この殺伐ゲームで温泉!?(笑)」と言われたものだが、今となってはそれも良い思い出だ。



(さて、改めて念入りに設定を思い出していくか)



 今回は既に候補があり、それは揺るがない。

 だが、こんな機会でもないと最近は中々一人になれないしな。


 今後の事も含めて、じっくり考える時間が必要だ。村の整備、従業員への教育、貴族や客に対する窓口役、警備という観点。

 これらを全てをこなせるのは、蓮ともう一人しかいない。



(近い内に、村を一時離れる可能性も含めて考えないとな……)



 強く言い含めれば大丈夫だと思いたいが、自分が村を留守にする間、悠への目付け役が欲しい。

 それを考えると、蓮と悠は絶望的なまでに相性が悪いのだ。

 自分が間に居なければ、普通に殺し合いにまで発展しかねない。



(女ばかりってのもいい加減、息が詰まるしな……)



 それこそ、頼りになる目付け役と子守役が必要だ。

 俺は湯に浸かりながら、自らが作った男性の側近を頭に浮かべた――






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






 加藤 勝(かとうまさる) 16歳。

 所謂、年少組の一人だ。

 二振りの神刀を扱う、二刀流の剣士。その実力はまだまだ荒削りだが、成長途中なので今後の伸びにも期待出来るだろう。


 その性格は至って単純であり、脳筋そのもの。

 口より、まず手が出るタイプだ。

 実力や立場など一切考慮せず、誰に対してもタメ口で偉そうな態度な為、痛い目を見たのは十や二十ではきかないが、反省するという事がない。

 こいつの脳には、そんな余分なスペースがないからだ。


 暇があれば筋トレと鍛錬、強くなる事以外に興味がない。

 金も要らない、女も要らない。

 ただ、戦う場と強者との死合いのみが生きがいの、剣術馬鹿である。


 九内との関係は、単なる上官と部下でしかない。

 ただ、作った俺からすれば、手のかかる近所の子供のような、馬鹿ほど可愛いというか、何とも言い難いキャラクターだ。






 近藤 友哉(こんどうゆうや) 16歳。

 加藤と同じく、年少組の一人だ。

 弓を扱えば百発百中の腕前を持ち、尋常ではない“眼”を持っている。

 殆ど未来視に近い神眼から放たれる矢は、カンストプレイヤーでも回避する事が困難であった。

 この世界においては、最早放たれた瞬間に死が確定するといって良い。


 性格は小心者で臆病、典型的な引き篭もりだ。

 実際、不夜城に居た時も部屋から出てくる事はまず無かった。

 アニメ、ラノベ、漫画、ゲーム……二次元に魂まで穢されきっており、三次元に全く興味がない極端な性格をしている。


 八人の側近の中でも極めて善性で、無害な人物。

 但し、引き篭もりだけあって、彼の“領域”に踏み込むと地獄すら生温い超絶反撃コンボを食らう。

 可愛い顔をしているが、決して近付いてはいけない存在だ。


 放置していれば無害、という事で数え切れない程に行われた不夜城攻防戦の中でも、そのままスルーされる事が多かった。

 女性プレイヤーからも「近藤キュンは可愛いから攻撃しない」などと言われる事もあり、色んな意味で得なキャラクターである。

 やっぱり顔か、馬鹿野郎。こっちも好きで怖い顔になったんじゃないんだぞ!


 九内との関係は……何と言うべきか。

 怖い人、としか思われていないだろうな。かなり人見知りが激しいので、年少組以外の側近とは、ほぼ会話や接触がない。

 子供の頃から同じ学校だったので加藤にだけは、意外と毒を吐く。






 田原 勇(たはらいさみ) 31歳。

 こちらは年長組と言われる一人。

 銃の扱いにかけてはスペシャリストであり、世界中の銃器に愛される体質を持っている。47丁の銃に付き纏われ、強烈なストーカー被害を受けていた。

 戦闘スタイルとしては嫌らしいスキルを万遍なく揃えており、全ての銃器が自らの意思を持ち、嵐のような弾丸を放つという滅茶苦茶なキャラクター。


 側近達の中で唯一「天才」の設定を与えたキャラであり、何をやらせてもすぐに習熟し、人より遥かに高い結果を出す。

 但し、普段の姿はヘラヘラ顔で人をからかい、怠惰で無気力そのもの。

 人を煽るスキルも無駄に高い。

 昼行灯でもあり、POKER FACEでもあり、敵からすれば掴みどころのない嫌なキャラクターだ。


 田原には歳の離れた真奈美という妹がおり、妹の養育費を稼ぐ為に委員会の汚れ仕事を引き受ける事になった、という設定がある。

 ちなみに重度のシスコンであり、病気。

 女の見方は「真奈美」か「それ以外」の“記号”で分けられており、医者も匙を投げる“高み”に到達していた。


 九内との関係は良くもなく、悪くもなく、まさにビジネスの関係である。

 基本的に善性の人物ではあるが、敵に対しては一切の容赦をしない。






 野村 武文(のむらたけふみ) 41歳。

 こちらも年長組と言われる一人。

 大帝国が誇る、不敗にして無敵の総合格闘技チャンピオン。

 不世出の世界的スターともいえる名声を得ていた男だったが、神民ではなく、属国の女性と恋に落ち、周囲の反対を押し切って結婚。


 上層部の再三に渡る説得にも首を横に振り続け、遂に面子を潰された一部が暴走し、野村は薬物疑惑、八百長疑惑、脅迫疑惑などのでっち上げの冤罪を連日報じられ、格闘技界から追放される事となった。


 その後は妻と共に諸国を放浪していたが、大帝国に恨みを持つ現地住人に妻を惨殺され、失意と絶望の中、消息を絶った。

 数年後、穢れたヒーロー、堕ちたヒールとして裏格闘技場で人を殴り殺す日々を送っていたが、そこを九内にスカウトされ、委員会へ。


 その力は全盛期の実力には程遠く、かつて掴んだ栄光は既に失われている。

 九内に対する忠誠心は皆無、といっていいだろう。

 残酷極まりないGAMEにも内心、軽蔑しか抱いていなかった。委員会に対しては、堕ちた身を置くには相応しいと自虐的に考えているフシもあったが……。


 妻を亡くして以降、口を開く事は滅多になく、会話をするという事がない。

 設定上、全盛期の力が戻れば、作り出した側近の中でも最強と言える力を持つ。だが、それを覚醒させるキーは、残念ながらもう失われている。




 ■□■□




(今回は当然、田原だ……)



 男の側近達を振り返り、思わず懐かしい気分に浸ってしまった。妙な設定のキャラばかり作ってしまったな、とも思う。

 特に野村に関しては悲惨の一言だ。

 製作していた時は「影のある渋いオッサンって良いよな!」などと軽く考えていたが、実際にそれが意思を持ち、動き出すとなると……。



(何というか、顔を合わせられんよな……)



 露天風呂を出て、のぼせた体を冷やす。

 次は時間をおいて、サウナにでも入ろうか? それともジェット風呂にでも入って全身をマッサージするのも捨てがたい。

 そんな事を考えていたら、聞こえる筈もない声が耳に飛び込んできた。



「見つけたの――」


「ガキンチョ!? 何でお前がここに居るんだよ!」



 女湯に居る筈のトロンだった。

 慌ててタオルを腰に巻く。

 こんなところを誰かに見られたら、シャレにもならない。



「乾パンのお礼に、その長い髪を洗ってあげるの」


「ここは男湯だぞ、ガキンチョ!」


「ガキンチョじゃない。私はトロン」



 つーか、こいつ丸裸じゃねぇか!

 いかにガキンチョとはいえ、マズイだろ。悠にでも見られた日には、視線だけでマンモスすら凍らせるような視線を送られるに違いない。

 ルナなんぞ「ようやく本性を現したわね、変態魔王!」と鬼の首でも取ったように騒ぐのが目に見えている。



「早く出ろ! というか、タオルぐらい巻け!」


「零になら見られても平気なの」


「零じゃねぇよ!」



 この後、何とか闖入者(?)を追い出し、「人前では絶対に零と呼ぶな!」と重々に言い聞かせてから温泉を後にした。

 何だか最後にどっと疲れた気がする……温泉に入った意味あんのか?



(さっさと田原を呼ぼう……こんな中で男一人なんてやってられるか!)



 俺は温泉の外に出ると早速、管理画面を呼び出す。

 このドタバタから解放されるなら、SP1000の消費すら安い。



「管理者権限――――《側近召喚》」



 これで二度目になるが、やはり側近を呼ぶ時は若干の緊張を感じてしまう。

 それと同時に、高揚感も。

 自分が作り出したキャラクターに会えるというのはある意味、創作者にとっては“究極の夢”でもあるのだから。




「田原よ、我が前に姿を現せ――!」








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