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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
四章 魔王の躍動
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野戦病院

「ふむ、この辺りが最適か」



 “俺”はラビの村を歩きながら、頭に村の全体図を浮かべ、病院を設置するに相応しい空間を見繕う。ラビの村は後ろが高い山に遮られ、正面は神都へと続く大きな街道に面している。


 立地としては、決して悪くはない。うまく人を誘致すれば、“化ける”筈だ。

 交易の街であるヤホーと、神都の中間地点に存在しているのだから、其々に宣伝活動を行う事も視野に入れておかなければならない。



(さて、以前に作った拠点を出して……)



 愛用していたノーマルの拠点を、アイテムファイルから引っ張り出す。

 これに拠点強化アイテム、もしくは拠点進化アイテムを合成する事により、拠点の防衛力や耐久力が強化され、様々な機能を持ったものへと変化するのだ。

 防衛力の強化方向で突き詰めていくと、こんな感じになる。



 ・拠点(防衛力10 耐久力50)


 砲撃属性を無効化し、あらゆる攻撃を10ダメージ減少させてくれる。

 基本、これが拠点の性能となる。

 様々な機能を持ち、進化した拠点もこれらの特徴は変わらない。



 ・中規模拠点


 ここまで進化させるのは大変だが、あらゆる攻撃を20ダメージ減少させてくれる。

 GAMEではこの拠点を作成すれば、まず“最終日”まで安全に過ごす事が出来た。

 外観だけでなく、内装も一気に変わり、高級ホテルに宿泊しているような快適な時間を過ごす事が出来るだろう。



 ・大規模拠点

 一部の特例を除いて、最大の防御力を持つ拠点だ。

 あらゆる攻撃を40ダメージ減少させる、もはや“要塞”といっていい。

 これを破るのは、GAMEの世界であっても至難の業であった。



 拠点の防衛力ではなく、耐久力への強化へひた走ると、今度は別の系統へと形を変える。



 ・秘密基地


 ノーマルの拠点と基本性能は変わらないが、敵との遭遇率が劇的に下がる。

 耐久力にも+25の効果がある。

 以前に使った《隠密姿勢》の凄まじい効果を考えると、この世界では発見する事すら難しいのではないだろうか?

 GAMEでは次の段階へのステップアップ途中の拠点でしかなかったが、この世界では使える場面が多そうだ。



 ・天然要塞


 大規模拠点と対を成す、耐久力強化の最大拠点だ。

 秘密基地とは違い、遭遇率の低下は失われてしまう。だが、その耐久力は100となり、これを破壊するのは実質的に不可能となっている。


 更に15種類の罠が敷かれており、運が悪ければ近付いただけで手酷い目に遭わされる最悪の拠点となってしまう。

 油による転倒からの頭負傷、毒蛇による毒負傷、落とし穴による足負傷、強化鳥による多段ヒットダメージ、偽宝箱による気力減少etc……




(何というか、我ながら酷いもんばかり作ってるな……)




 つい、そんな事を考えてしまう。

 あくまで“ゲームの世界”だから良かったが、これを現実に設置したら相手は地獄を見るんじゃないだろうか?

 しかも、これらは強化系だけの一例であり、進化系には更に酷い拠点が満を持して待ち構えているのだ。



(設置には注意しないと、本当に魔王と呼ばれかねないな……)



 思わず首を振り、そんな妄想を振り払う。

 それらの拠点など、建てる必要が無ければ永遠に使うような事はないのだから。そんな事態など、こないと思いたい。



「長官、どうされましたか?」


「いや、我々の輝かしい一歩に想いを馳せていてな」



 横に居た悠が、首をかしげながら聞いてくる。

 くそ、こいつとんでもない美人だから、そんな仕草をするとギャップで凄い可愛く見えるんだが……。

 美人ってのは、本当に何をしても得なんだな。



「ここで治療を行えば、多くの者から支持を得られるだろう」


「お任せ下さい。私が翼となり、必ずや長官を“高み”へと――」


「う、うむ……」



 あれ? 悠ってこんなキャラだったっけ……?

 九内との関係なんて、あくまで上官と部下として設定していたから、どちらかと言えばドライな関係であった筈だ。

 こんな殊勝な事を口にするような性格ではない筈なんだが……。



(まぁ、嫌われたり、壁を作られるよりはマシか……)



 側近達の中でも、残酷さは抜きん出てるキャラだしな。怒られたり、嫌われるような事は出来るだけ避けて、良い関係を築いていかなければ。



「あっ、魔王様……待って下さい! 先に乾パンを取り出して良いですか?」



 遠くからアクが駆け寄りながら言う。

 乾パンって、あんなもんを取り出してどうするんだ。まぁ、進化させてしまうと中身が丸ごと入れ替わるから消えてしまうが……。



「別に乾パンなど、要らないだろう」


「ダメですよ! 勿体無いですっ!」


「そ、そうか……?」



 その声に押されるようにして、拠点の中からダンボールに詰められた乾パンを運び出す。自分で設定しておきながら言うのもなんだが、無駄に数が多いぞ。

 まぁ、食い物を無駄にしないってのは良い事だけど。



「トロンさん、村の中央に運びましょう!」


「ん、運ぶ」



 二人がダンボールを抱えながら、村の中央へと去っていく。

 トロンは一人で10箱くらい積み上げられたものを軽々と運んでいた。

 やっぱり、人間じゃないな、ありゃ……。



「では……そろそろ始めるとするか」


「はい、長官」


「希少アイテム作成――《医療器具一式》」



 漆黒の空間から、赤い十字のマークが付いた箱を取り出す。

 これを拠点へ合成すれば、それだけで完成だ。



「拠点進化――《野戦病院》」



 拠点の中へと箱が吸い込まれ、眩い光と共に外観が見る見るうちに変化していく。中央には白亜に輝く建物が出現し、その周りにはいくつもの迷彩色の大きなテントが出現した。


 建物の中には診察室と手術室、そして私室用のスペースも取られてあり、周りのテントの中にはパイプベッドが設置されている仕様だ。

 まさに野戦病院といったところだが、設備としては十分すぎる程だろう。



「長官、念の為に中を確認しませんか?」


「そうだな」



 中を確認するのはいいが、何で腕を組んでくるんだ……。

 まさか、俺を解剖しようとか思ってないよな??

 バリアがあるから大丈夫なのは分かっているんだけど、心理的な怖さまでは防いでくれないからな。


 病院の中に足を踏み入れると、そこには懐かしいともいえる近代的な設備が整っていた。コンクリートの建物、廊下、様々な医療器具。

 地味にありがたい冷暖房に、消毒薬の匂い、所狭しと並べられた薬品。



(電気もきてないってのに、問題無く動いているな……)



 GAMEのアイテムなんだから当然か、とも思えるし、どんな原理だよと突っ込みたくもなる。最悪、電気が必要なら《発電機》を出そうと思っていたが、これなら心配は要らないだろう。


 ちなみに、発電機は電気を作る用途では使われず、GAME会場に設置されている動かない自動販売機を動かし、中のジュースを奪う為に使われる。

 体力を20回復するジュースを大量にGET出来るという事もあって、会場では発電機を見つけたら小踊りしてしまうような品でもあった。



「悠、問題は無さそうか?」


「はい、今日からでもすぐに。ですが、料金はどう設定しましょうか?」



 問題はそこだ。

 この国は地域によって、随分と経済の規模やら金の価値が違う。

 アクの村などでは銅貨と、大銅貨だけで生活出来ていたようだし、銀貨すら殆ど見た事がないようであった。

 草深い村では物々交換も主流のようだし、貨幣価値の判断が難しい。



「これはあくまで暫定だが、無理やり我々の金銭感覚へと当て嵌めよう。それでおかしいようなら、後で逐次修正していけばいい」


「そうですね。これ程に価値や文化が違う世界では、最初は手探りで進めるのも止むを得ません」



 ざっと考えると、銅貨は百円辺りで、大銅貨は千円くらいと言ったところだろうか。銀貨を一万と考えるなら、金貨は十万くらいだろう。

 大金貨の価値は正直、よく分からない。更に上にある、ラムダ聖貨と呼ばれるものは時期や、市場に流通している枚数によって価値が変わるらしい。


 ラムダ聖貨には多くのコレクターが居るらしく、大量に買い漁る者や、逆に一気に売りに出す者などが居るらしいので、何も知らない自分達が手を出せば痛い目に遭いそうだ。

 いわば、株のようなものだろう……素人が手を出してもロクな事にならない。



「貧乏人には安い料金で治療してやるといい。金の無い者から徴収しても、大した金額にもならんしな。逆に――貴族には遠慮なく吹っかけろ」


「――――はい、承知しました」



 実際、悠はどんな怪我や病気すらも治してしまう。

 金持ちからどれだけボッたくろうが、全く心は痛まない。

 これが現代日本なら、不治の病すら治療してしまうのだから。料金が1億や2億であったとしても、払う者は幾らでも居るだろう。

 何処の世界でも、金はあるところにはあるのだから。それこそ、唸るほどに。



「貧困層からの支持を集め、特権階級からは富を奪っていく――長官は、大帝国と正反対の道を往かれるのですね」


「同じ道を歩むなど、退屈極まりない。そんなもの、退化と同じではないか」



 悠の言葉に合わせ、適当な事をほざく。

 いや、すいません……そんなところまで考えてないですから。

 金なんてあるところから取れば良い、ってだけなんだよな……。


 それに、悠は人体の神秘を追求し、人体が秘める無限の進化を追い求める科学者でもある。

 退化とは、彼女が最も嫌う言葉だからチョイスしてみたのだ。

 効果はあったようで、悠は見惚れるような笑顔を浮かべ、深々と頷いてくれた。



「はい、私と長官は――いつも同じ想いで強く結ばれています」


「う、うむ……」



 悠が浮かべる笑顔に、思わずドキリとする。何だか、妙に可愛いんだが……。

 さっきも思ったけど、こんなキャラだっけ?

 マッドサイエンティストで、嗤いながら幾らでも人を解剖し、苦痛に歪む顔を見ては悦楽に浸るキャラの筈なんだけど……。

 もしかして、異世界にきた影響で性格が少し変わったんだろうか?



(まぁ、時間はたっぷりある。気長に様子を見るか……)



 俺は病院を後にし、温泉旅館の設置準備へと入るのだった。





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