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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
三章 神都動乱
30/82

聖城へ

 ――神都 高級地区



 この高級地区にも襲撃が行われ、多くの被害が発生していた。

 貴族の館が多いという事もあってか、その攻勢は苛烈の一言に尽きた。サタニストの大部分が“持たざる者”であり、その恨みは骨髄に達しているためであろう。

 彼らはあちこちに火を点けては、女子供であっても容赦なく殺害していった。


 襲撃者は何も人間だけではなく、死の霧や墜犬、骸骨兵なども混じっている。

 ここには騎士団の本部があるという事で、戦力を集中させているのだろう。

 最下級に位置する魔の眷属ではあるが、数が揃うと中々に厄介である。まして、消火活動と救助活動も同時に行わなくてはならないのだから。


 そんな中、ヤンキー女と大男が猛火の中を駆けずり回っていた。

 聖女キラー・クイーンと、マウント・フジである。



「姉御、これでは手が回りませんな……」


「ボケが……その口はクソを垂れ流す為に付いてんのか!?」



 クイーンが叫びながら蹴りを放ち、堕犬の頭が吹き飛ぶ。

 次に金棒をサタニストの腰に叩き付けると、その体が真っ二つに千切れながら飛んでいった。

 フジの腰にもサタニストと思わしき生首が三つぶら下がっている。

 見る者が見れば、「こいつらが悪魔だ」と叫ぶだろう。


 だが、そんな二人の前に“本物の悪魔”が二匹現れた。

 下級悪魔――「ハニトラ」である。

 女性のような外見をしているが、人間の男を惑わし、疑心暗鬼に陥らせた挙句、殺し合いをさせるのが大好きな悪魔だ。



「ねぇ、そこの大男さん。私とあそ」


「とびきり“臭ぇ”ゾ、てめぇ――?《修羅車》」



 その言葉が終わる前に、クイーンの両手から六つの連弾が走る。

 最初にハニトラの可愛い顔面が無残にも砕け散り、その体に五つの大穴が開いた。

 声をあげる暇もなく、ハニトラが地に沈む。



「ゲロ以下のズベタが――肥溜めとファックしろ」



 クイーンが死骸に向け、中指を立てる。

 文句の付けようもないファックであった。放たれた拳も、口から出る言葉も、その全てが聖女からはかけ離れた悲惨なものではあったが。



「あ、あんたら……私の妹をぉぉォッ!」



 残ったハニトラがクイーンへ襲い掛かったが、フジがその顔を掴み、万力のような握力でそのまま握り潰す。

 なにかリンゴでも潰すようなえげつない音が響き、ハニトラの頭部がグシャグシャになったが、フジの表情もいつも通りであった。



「ボケナス、他の地区はどうなってんだ?」


「聖城はホワイト様が。教会の方も――」



 その言葉が、途中で途切れる。

 遠く離れた商業地区の空に、地獄を思わせるような爆炎が広がったからだ。



「何だ、ありゃ……ルナか!?」



 クイーンが咄嗟に叫んだが、ありえないと思い返す。

 ルナの魔力は確かに底知れないが、「火」は範囲外であり、あんな魔法を使えるならばクイーンへドヤ顔で自慢しまくるであろう。



「魔力は感じませんでしたが……しかし、魔法で無ければ、あんな……」



 フジも絶句したように空へ広がる“地獄”を見つめた。あの色彩といい、威力といい、人の世界へ災いを齎すものとしか思えなかったのだ。

 暴れていたサタニスト達ですら、呆然とした表情で空を見上げている。



 戦いとは時に、ひょんな出来事で勝敗そのものが動く。



 あの爆炎がキッカケとなり、サタニスト側の勢いが目に見えて落ちた。

 騎士達が次々とサタニストを捕らえ、普段はふんぞり返っている貴族達ですら、火を消し止めようと懸命に動き出す。対岸の火事どころではなく、動かなければ自分の邸宅まで失ってしまうからだ。



「ま、ここはどうにかなりそうか……」


「えぇ、アーツ様も手勢を率いて鎮圧に回っておられるようです」


「クソじじいが……歳を考えろってんだ」



 クイーンが苦々しく呟いたが、フジはそれを聞いて微笑を浮かべる。

 好悪の激しいクイーンではあるが、あの老貴族の事は少なからず認めている事を知っていたからだ。

 遂に残ったサタニストが次々と撤退し、とある方向へと走り出す。

 彼らの走り出した先には――聖城があった。




 ■□■□




 ――聖堂教会 一般地区



 オルガンが屋根に寝転がり、眼下の戦いを退屈そうに眺めている。

 彼女は“人同士”の争いなどに何の興味もない。ただ、相棒であるミンクがノリノリで参戦しているので、仕方無く付き合っているだけだ。


 今もミンクは右手で顔の半分を覆い、左目で相手を見つめながら詠唱を始めている。ミンクは何故か、戦いの時にこのポーズを好む。

 本人曰く、自身に「闇が降臨している」らしい。



「我が深遠なる闇よ、嘆きを降らせよ――!《聖なる雨/ホーリーレイン》」



 聖素に満ちた、“力ある雨”がサタニストの集団へ降り注ぐ。

 悪魔を信奉する連中にとっては文字通り、身を焼かれるような地獄であろう。言ってる内容と、発動した魔法はまるで違うものではあったが。

 彼女の詠唱は止まらない。Sランクにとっては連続詠唱など容易い事だ。



「クック……脆いな、“人間”とやらは――《聖なる泡/バブルキュア》」



 重傷を負っていた聖堂教会の者達を、癒しの泡が包む。流れていた血がすぐさま止まり、青くなっていた顔色に赤みが差していく。

 まさに、「聖素」を使った回復魔法の極みである。

 言っている事は無茶苦茶であったが。



「ミンク殿、かたじけない!」

「流石はSランク冒険者ね……何て魔力なの!」

「で、でも……あの詠唱って……」

「シッ! 黙ってろ、新人!」

「スタープレイヤーと呼ばれる階級の方だ。何か深い事情がおありなのだろう」

「あの詠唱に、何か秘密があるのかもね……」



 聖堂教会の者達が、其々に勝手な事を口にする。

 厨二病などが認知されていないこの世界にあっては、彼女の台詞を本当の意味で解する者など居ない。

 まして、彼女は世界的に著名なスタープレイヤーである。冒険者の中には彼女の詠唱やポーズなどに惹かれ、真似を始める者まで出てきている始末だ。



「私に続きなさい。凍てつく闇に血を捧げよ――ッ!」


「「おぉッ!……お、おぉ?」」



 ミンクの言葉に聖堂教会の者達が奮い立ち、一部は頭を捻りながらではあったが、サタニストの集団へと突っ込んでいく。

 最早、どちらが闇なのか光なのか、よく分からない。



「あいつは一体、何と戦っているんだ……」



 つい、オルガンの口からそんな言葉が出る。見ていて退屈しない、というのが彼女と同行している理由の一つでもあったのだ。

 オルガンの口が僅かに微笑を作った時、上空から白刃が振り下ろされた。

 彼女からすれば蚊が止まるような速度で、だ。



「何か用か――?」



 振り下ろされた刃を軽々と避け、退屈そうにオルガンが返す。

 その姿には別に怒りも無ければ、驚きすらも無さそうであった。



「カッカ……何か用か、ときたもんだ。流石に“魔人様”ともなりゃあ大したもんだ。うん、大したもんだわ」


「………」


「噂の魔王を斬ろうと思ってたんだが、まさか魔人まで居るなんてな。こんなに功名の種が転がってるなんざ、嬉しくなっちまわぁな。おっと、自己紹介が遅れたけどよ、俺ぁ剣閃のアルベルドってんだわ。ヨロシクな?」



 オルガンの眼が細くなる。

 彼女を魔人と知る者は消し去ってきた筈であった。

 なのに、何故この男は知っているのだろうか?



「北の迷宮で斬り殺した、情けねぇ魔族が教えてくれてなぁ。あれは混ざりモンの出来損ないだってよぉ――っと!」



 オルガンが無言で投げたナイフをアルベルドが避ける。

 かなりの速度があったが、男はそれに対応出来る力量があるようだ。魔人を、スタープレイヤーを前にして相当な度胸と言っていい。



「四ツ星か……Bランクにしてはやるじゃないか」


「偉くなっちまうと、動き難くなるんでなぁ。このぐらいが丁度良いのよ」



 オルガンの言った通り、アルベルドの鎧には四つの青い星が付いていた。

 希少金属の一つ、“ブルーメタル”と呼ばれる物で作られた特殊なものだ。

 冒険者らはランクに従い、この星が増えていく。最下級の“ルーキー”には与えられないが、Eランクになれば星一つが与えられる仕組みだ。


 星が一つ付いてようやく一人前の冒険者として認められるようになるが、大部分はルーキーの階級から抜け出せず、堅気の職に戻るのが常であった。

 この世界は一部の人間を除けば、その殆どが才能の壁を越える事が出来ないのだ。



「そんじゃまぁ、遊んで貰えるかい? お嬢ちゃん」


「ガキが――」



 二人が向き合った時、商業地区の空に途方も無い爆炎が広がった。

 思わず二人の視線がそちらへ向けられる。



「お、おい……お嬢ちゃん。まさか、お友達の魔族でも呼んだのか?」


「ふざけろ、心臓を喰われたいのか」


「幾らなんでもありゃねえだろ……あのキンキラの服は、まさか……」



 アルベルドの卓越した視力が、かろうじて金色の服を捉えていた。

 故に、思わず考え込む。

 あの爆発の中心に居たのがカーニバルだとすれば、それをやった相手はとんでもない化物であると。



「まさか、あれが噂の魔王だってのか? お嬢ちゃんが呼んだって訳じゃなさそうだが……っと! 手癖が悪いな、あんた!」


「戦いの最中に、余所見をしている方が悪い――」



 オルガンの体から、幾つもの魔力の渦が浮かび上がる。

 余りの魔力に、マントが揺ら揺らとはためいた。

 だが、アルベルドの表情は変わらない。何か、圧倒的な自信があるらしい。



「虚を砕き、我が道を拓け――――《暗黒獄光線》」


「……って、うっそだろぉぉぉ! 第五魔法って、そんなのアリかよ!」



 幾つもの渦が一つとなり、黒き閃光が迸る。

 アルベルドは屋根から転げ落ちる事によって、かろうじてそれを回避したが、黒き光線は直線上にあった家屋を悉く貫通し、円形状の穴を開けた。

 無様に転げ落ちたアルベルドを見て、オルガンが嗤う。片方は高々と屋根の上でふんぞり返り、片方は溝に落ちた犬のような姿であった。



「その位置がお似合いだ――“犬コロ”」


「へ、へっへ……犬ってのは案外、しぶといんだぜぇ? 油断した頃に喉元に噛み付い……っと! 待て待て、最後までしゃべらせろ!」



 オルガンが嗤いながら次々と魔法を放つ。

 それも、「魔」の上である「闇」を連発していた。殺すよりも、遊んで甚振るつもりであるらしい。



「どうした、走れ。優しい飼い主が“散歩”してやってるんだぞ?」


「何て性格の悪いガキだ! 親の面が見てぇわ!」


「――――」



 その言葉に、オルガンの顔付きが変わる。

 先程まではまだ理性らしきものがあったが、アルベルドが放った憎まれ口に、完全に理性が吹き飛んでしまった。

 そう、彼女に対して“親の話”は禁句であったのだ。



「気が変わった――貴様は生きたまま煮殺してやる」


「じょ、冗談じゃねぇ……! 俺ぁ死ぬ時はな、女の腹の上って決めてんだ!」


「下種が――」



 オルガンが魔法を放とうとした時、聖城の方から途方もないどよめきと、大歓声が鳴り響いた。

 口々に叫ばれている言葉は一つ――――




「「た、龍人(たつびと)が現れたぞぉぉぉ!」」




 神都で突如発生した戦いであったが……

 いよいよ、“クライマックス”が近付いていた。





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