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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
三章 神都動乱
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晩餐会

 ――神都 夜



 (さて、宿も確保出来たな……)



 “俺”は持っていた大金貨を使い、神都での宿泊先を確保する。

 随分と有名な高級宿らしい。

 所持金の乏しさを考えれば安い宿でも良かったのだが、大々的に温泉や病院を宣伝していく事を考えると、大富豪であるというイメージを前面に押し出していく方が好ましい。

 同じ言葉でも、貧乏人が言うのと金持ちが言うのとでは説得力が違うのだから。



「それで、アルテミスという店だったか」



 ルナが紹介してきた店は、この国にしては随分とまともな店名であった。店名がまともなだけで驚くというのも、大概酷い話ではあるが。



「えぇ、私のような高貴な人間が使う良い店よ」


「高貴、ね……それよりも、何故お前まで宿に泊まるんだ」


「べ、別に良いじゃない……私が何処に泊まろうと勝手でしょっ!」



 勝手じゃねぇよ! 宿泊代を払ったのは俺だぞ!

 思わずその口を捻りたくなるが、街中で妙な注目を集める訳にはいかない。只でさえ、既に注目を集めているのだ。

 聖女に、魔王を名乗る男、白衣を着た美女に、白いドレスを纏ったお姫様。

 一体、何の一行なのかと、歩いているだけでざわめきが起きているのだ。



《長官、懐かしいですね……この雰囲気》


《……そうだな》



 いや、すまん。

 何の事を言ってるのか、サッパリ分からないんですが。



《我々の武威に平伏する、占領地区の哀れな民衆にそっくりです。あの時、小石を投げてきた子供を静が“ダルマ”にしたのを昨日の事のように思い出します》


《は、ははっ……》



 そう言えば、GAMEの小話でそんなのを書いたっけ……。

 側近達からすれば、あれも“現実”のものになってるんだな。静はこの手の話が多いから、本当に危ないキャラになってそうだ。

 大帝国の無慈悲さを演出する為の、ちょっとした小ネタだったのに現実にあった事だとされると、腹の底から震えがくる。



「魔王様……僕なんかが、そんな凄い店に行っても大丈夫なんでしょうか?」


「何の心配も要らんさ。今のアクは、お姫様にしか見えんよ」


「お、お姫様だなんて……」



 顔を赤くし、照れるアクを見て動揺を落ち着かせる。

 段々、この子が俺の精神安定剤みたいになってきてないか……?



(にしても、夢のような都市だな……)



 夜を彩るように、街のあちこちには様々な光を放つ街灯が立てられている。

 イルミネーション、と言っても良い規模だ。

 大通りには噴水も設置されており、その周りでは多くのカップルが愛を語っている姿も見える。



(道行く人間の格好も、まるで違う)



 清潔であるのは勿論だが、お洒落を意識している服が多い。髪型にもこだわりがあるのか、工夫を凝らしているのが感じられる。

 昼間はそこまで感じなかったが、夜になると渋谷のようになる、といった感じなのだろうか。


 道には魔石が使われた様々な看板が立ち並び、酒場の前では着飾った女が道行く人間に声をかけている。

 この調子だと、何処かに歓楽街とかもありそうだ。



(昼は神都で、夜は別の顔、か……)



 面白い、そう思った。

 綺麗なだけの、取り繕った場所ではないようだ。

 俺は寺などの静謐な雰囲気も嫌いではないが、こうした活気のある派手な街も決して嫌いじゃない。



「ルナ、ここは面白い街だな」


「そ、そう? あんたが褒めるなんて意外ね……」



 予想外だったのか、ルナがきょとんとした表情で返す。

 皮肉でも何でもなく、何かが掴めたような気がしたのだ。



「天使だ何だと言われるより余程、分かりやすい。人の欲望が、そのままに表れている――ここが、この国の原点なのだな」



 努力をし、自分を磨き、遂には力や富を手に入れる。

 そうした人間を迎える場所が、ここなのだ。

 死後の世界で幸せになる――などと胡散臭い事を言われるよりは余程、現実味があるというものだ。



「欲望って、あんたね……ぁ、着いたわ。ここがアルテミスよ」


「ふむ――では、行こうか」




 ■□■□




 店内に入ると、そこはまた別世界であった。

 客層を見ればすぐに分かる。

 高そうな服を着た人間が、ワインや肉を口へと運び、優雅に談笑している。ちょっとした社交界であるようだった。



「これはルナ様、ようこそおいで下さいました――」


「えぇ、今日も良いものをお願いね」



 席へ座るや否や、支配人のような人間が挨拶にくる。流石に、聖女の看板は伊達ではないらしい。

 この看板は、これから先も大いに役立ってくれそうだ。

 メニューを向こうに任せ、其々に飲み物を注文する。当然、俺は酒だ。



「では、アクの足が治った事を祝し、乾杯と行こうか――」



 テーブルに次々と運ばれてくる皿に、アクは目を白黒させていたが、俺も内心ではドキドキしていた。

 だが、“九内伯斗”の体はテーブルマナーを熟知しているのか、まるで生まれながらの貴族のように洗練された所作でそれをこなしてみせた。



「アク、作法など気にせず、自由に食べると良い」


「は、はいっ!」



 こんな形式ばった店ばかりではなく、次はもっと、気楽に食える店にも行くべきかも知れない。

 俺も肩の力を抜いて、気楽に食いたいしな。



《中々のものですが、我々の世界に比べると、大きく劣りますね――》


《まぁ、無理もない事だ》



 GAMEに用意していた食べ物は基本、現代日本にあるものが多かった。

 あれを現実のものに置き換えるなら、美味くて当然だろう。


 日本と言えばファーストフードを作る為に、地球の裏側からでも材料を空輸させる程に食への拘りが深い国である。

 冷凍技術も、加工技術も、調理技術も、遥かに劣るであろうこの世界の料理と比べるのは酷というものだ。



(さて、めでたいと言えば……やはり、ケーキが必要だな)



 GAMEにも勿論、ケーキは存在していたが、そのまま入手する事は出来ないアイテムであった。加工アイテムである《食材》が必要だ。

 これを使用にする事によって、4種類の回復アイテムを作る事が出来る。



 ・朝食セット ― 体力を50回復 個数1

 ・野菜スープ ― 体力を25回復 個数2

 ・苺のタルト ― 気力を50回復 個数1

 ・チーズケーキ ― 気力を25回復 個数2



 これに加え、生存スキルの《料理》を所持している者は、更に選択肢が増加し、追加の項目が出現した。



 ・五穀米 ― 体力を50回復 個数2

 ・滋養スープ ― 気力を50回復 個数2

 ・鍋セット ― 気力を100回復 個数1



 と言った具合だ。

 残念ながら、九内は料理のスキルを持っていない。ここらへんはスキル会得の権限が復活するか、所持している側近を呼ぶまではお預けだ。



「上級アイテム作成――《食材》」



 テーブルの下で食材を作成する。

 食材と言いながら、それは綺麗な白色の球であった。何に変化させるか分からないから、こういう形になっているのだろう。

 こんな場所だ、少し気取ってみるか?



「アイテム加工――《苺のタルト》」



 キザかと思ったが、左手で指を鳴らし、まるで魔法のような演出をする。

 食材が見る見る内に変化し、輝きと共に苺のタルトが出来上がった。

 傍目から見たら、これこそ“魔法”だな……。



「わぁぁぁぁ! 魔王様、それはお菓子ですかっ!?」


「な、何よそれ! すっごく可愛いんだけどっ!」



 やはり、何処の世界でも女の子はケーキが好きなのだろう。

 SPを20も消費した甲斐があったというものだ。別に自分が作った訳ではないが、何やら一流のパティシエにでもなった気分を味わえるじゃないか。



「アク、私からのプレゼントだ――悠、適当に切り分けてくれ」


「はい、長官」



 気力も50回復するし、長旅の疲れも飛ぶ。一石二鳥というやつだ。

 切り分けられたタルトが其々の前に置かれ、おそるおそる口へと運ばれる。

 味には自信があるが、俺は甘い物が余り好きではないしな……。



「甘いです! 美味しいです! 可愛いですっ!」


「いやぁぁぁぁ! 美味しいぃぃぃ! ほっぺが落ちそうっ! あんた、どんな魔法を使ったの!?」


「これは、口の中が幸せになりますね、長官……ふぅぅ……っ」


「そ、そうか……ならば、良かった」



 こいつら、ちょっと騒ぎすぎじゃないか?

 幾ら女の子が甘い物を好きだと言っても……しかも、悠まで……。



「随分と楽しそうね――ルナちゃん」


「ふぇ、マダム!?」



 見ると、碧のドレスを身に纏い――見るからに裕福そうなマダムがルナへと話しかけていた。その指には、ゴツイと思える程の指輪が嵌まっている。

 それも10本の指に、其々一つずつだ。

 ルナの知り合いなのか、随分とその態度は親しげである。逆に、ルナの方は苦手としているのか、珍しくその目が泳いでいた。



(何だ、このスーパー金持ちは……全身が光ってやがるぞ)



 このマダムが何者なのか――密かに探りを入れるべく、動き出す。

 これから“事業”を始めるというのに、妙な所で躓く訳にはいかない。

 席を立ち、優雅に一礼する。



「これは、マダム。お初にお目にかかる――私は九内伯斗と申します」


「あら、挨拶が遅れたわね。私は――エビフライ・バタフライよ」


(一発芸人か!)



 吹き出すよりも、むしろ怒りが湧いてくるような名前であった。

 どんな気持ちで親はその名前を付けたんだ!?



《ルナ、このマダムは何者だ?》


《ふぇ!? 頭に魔王のいやらしい声が!?》


《いやらしいは余計だ。さっさと答えろ》


《貴族の、奥様方の中心人物よ……。貴族の間でとても顔が広いし、影響力も大きいから怖い人なの……》



 まさに、暇を持て余したマダム達の女王という訳だ。

 巧く売り込めば、思わぬ効果が期待出来るかも知れない。ネットなどが無い社会なのだから、影響力が強い人物の口コミは大きいだろう。



「マダム――良ければ一席、共にしませんか」


「ちょ、ちょっと、魔王!」


「あら、“噂の魔王様”からのお誘いだなんて……とても刺激的ね」



 こいつ、食えない女だな。

 俺の事を知っていながら、何食わぬ顔で近づいてきたらしい。

 口煩いであろう、貴族の奥様方を纏めているだけはある。歳は恐らく、五十を超えているだろうが、正確な事は分からない。

 その姿を見ると、小山のような大きな体であり、余り運動をしてない事が見て取れる。



(話のタネに近づいてきたのか? お前、逆に喰らってやるぞ――)



 こうして、表面上は和やかな談笑が始まる。

 同時に、その裏では。

 サタニストが闇に溶け込み、合図が鳴るのをじっと待っていた――






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






情報の一部が公開されました。



加工アイテムは他にも存在し、《武器素材》や《非合法物》などが代表的な例として挙げられる。

前者は使用すれば武器の攻撃力に+2の効果を生むアイテムが生み出され、後者は各種ステータスをUPさせる事が可能であった。

双方共にゲームバランスを著しく崩す可能性がある為、其々に《秀才》や《非合法物》などのスキルが必要であり、これを入手するハードルも高い。


他にも《変化アイテム》のように、使用すればランダムで効果や内容が変化するものもある。

《御神籤》や《占い雑誌》などは結果が善悪共に存在し、下手をすればステータスが下がるので使用するには十分な注意が必要だ。

《福袋》《小さな宝箱》《ブタの貯金箱》《サンタの袋》などは貴重なものが多く出現するが、時にはゴミのようなものが出て、プレイヤーを落胆させる事も多かった。





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