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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
三章 神都動乱
23/82

慈悲無き侵略

 ――聖光国 ラビの村



 バニー達が畑に出て、人参の収穫をしている。

 荒れた土地なので収穫できる数は少ないが、この大陸では人参を作れる農家が殆ど居ない為、バニー達の独占状態であった。


 種族として持つ特有のスキルが、人参の栽培、育成を助けてくれるのだ。

 だが、近年では雨が少なく、流石のバニー達ですらお手上げの状態が近づきつつあった。



 「キョン、そっちの人参は?」


 「ダメ……細いから売値が落ちちゃう。モモちゃんの方は?」


 「こっちも良くない。水の魔石、また買いに行かないと……」


 「最近、値上がりしてるよね……土の魔石も」



 二人のバニーが成長の悪い人参を手に取り、その顔を曇らせる。

 この国では人参が高く売れた――バニーにしか育てられないのだから。

 だが、魔石の消費が激しくなれば、当然のように純利益は減ってしまう。年々、バニー達の生活は苦しくなり、貧しくなっていく一方であった。


 最近では村を出て、東の獣人国へと行く者も多い。

 だが、この二人は生まれ育った村に強い愛着を持っており、何とか踏ん張りながらこの地で生活していたのだ。

 いつか来るであろう、決定的な破綻を感じながら。



 ――そんな所へ、魔王と聖女がやってきた。



 「やはり、兎耳が付いている以外は人間と変わらんな」


 「北方の国だと、バニーは可愛いからとても人気があるんだって」


 「何処の世界も、ケモナーというのは居るもんだな」


 「けもなー?? あんたってば、たまに変な言葉を使うわよね」



 その瞬間から、魔王の脅威に“破綻”の方から逃げ出す事となった――




 ■□■□




 「なるほど、水が無くて困っていると……」



 “俺”はバニー達から話を聞きながら、畑へと目をやる。

 正直、農業に関する知識など皆無である。

 だが、単純に水を出せと言われれば、幾らでも出す事が出来る。GAMEで体力を回復させるのはペットボトルに入った水であったが、井戸があるエリアでは《滑車》というアイテムを使って大量の水を入手する事が出来たのだ。


 GAME特有の理論で、それらはペットボトルに入れなければ、只の水であって使えないという設計であったが。

 井戸が枯れてようが、何であろうが、「水を汲み上げる」と言う結果だけを生むアイテムなのだから、この世界でも使えるだろう。



 「それにしても、こうして領民が困っているというのに、手付かずとは……全く、大した聖女様だな?」



 皮肉を込めて言ってやる。これは、髪を引っ張られた礼だ――

 攻撃ではないと判断したのか、バリアが働かなかったのが恨めしい……。



 「しょ、しょうがないでしょ……ずっと、そう言う世俗の事には関わるなって教えられてきたんだから……!」



 やはり、体の良い神輿という訳だ。

 敵を討つ為には使うが、それ以外の事には首を突っ込むな、という事らしい。

 敬して遠ざけられ、金の絡む話には口を挟ませない。

 何処の世界でも、ままある話だ。



「あー、君はキョンと言ったか。この村に井戸はあるかね?」


「あ、あります……ピョン」


「……一応、聞くが。その取って付けたような語尾は何だ?」


「に、人間はこれを付けないとガッカリする事が多くて……ピョン」


「すまんが、普通に話してくれ」



 何がピョンだ……ベタすぎるだろ。

 最初に言い出した奴は誰だ。



「そっちはモモと言ったな。君も普通に話すように」


「分かったウサ」


「分かってねーだろ!」



 くっそぉぉ……何なんだ、こいつらは!

 思わずキャラを忘れて突っ込んでしまったじゃないか……! こいつら、ギャグで言ってるのか、真面目にやってるのか分からなくなってきたぞ。



「井戸はこっちになります……ピョン」


「あぁもう、早く案内してくれ」



 思わずその耳を引っ張りたくなるのを堪えながら、村の中を進んでいく。

 案内された先の井戸は、案の定、完全に枯れ果てていた。これでは農業どころか、魔石とやらが無いと、飲み水にすら困るだろう。



(さて、滑車は……下級アイテム扱いで5Pか)



 ペットボトルが無ければ何の意味も無いという事で、その価値は低く設定されているらしい。

 こちらにとっては至って好都合である――残りのSPは265。

 病院や温泉を作る分を引いたとしても、まだまだ余裕がある。



(食料や飲料を直接作るのも良いが……当然、飲み食いしたら消えてしまうしな)



 一概に食い物と言っても、GAMEには様々な物を用意していた。

 各エリアで発見出来る物で言えば、クッキーや餅、食パンなどが代表的だっただろう。缶詰などにも無駄にこだわっており、チェリー、桃、蜜柑、パイナップルと様々な味を用意していたものだ。


 栄養価の高い七草粥や、見た目も楽しめる各種の饅頭、アイスからマンモス肉やマンガ肉などと言う、現実にはないものまであった。

 マンガ肉ってどんな味がするんだろうな……食いたくなってきたぞ……。


 飲み物も水だけでなく、飲料を冷やす氷パックからスポーツドリンク、ビール、ウイスキー、ブランデー、日本酒、麦焼酎、米焼酎、栄養ドリンクなども各種揃えており、豊富なラインナップであった。


 これらに加え、サツマイモやジャガイモ、タマネギやニンニクなど農作物や、メロンやイチゴ、蜜柑やリンゴ、キウィやライチ、マンゴーなどのフルーツ類も順当に揃えてある。


 一つ一つを生み出していてはSPが幾らあっても足りないが、サンプルとして出せば、種から作れるものもあるのかも知れない。GAMEでは会場にバラ撒かれるアイテムは1901種類あり、そこへスキルでのみ発見出来るものが加わる。

 全てを合わせれば、軽く2000種類を超えるであろう。



「やはり、大帝国に不可能は――うん?」



 気付けば、全員から白い目で見られていた。

 随分と長い間、思案に耽っていたらしい。

 いかんいかん、GAMEの事を思い出すと、つい暴走がちになってしまう。



「さて、始めるか。下級アイテム作成――――《滑車》」



 管理者権限を使い、滑車を作り出す。

 思っていたより、かなり本格的な代物であった。

 現実に出すと、こうなるのか。



「あ、あんた……いつも、何処から取り出してるのよっ! 何なの、それ!?」


「我が叡智の欠片――とだけ言っておこうか」



 適当な事を言って煙に巻く。

 俺にだって、説明のしようがないのだから。あの狂った座天使とやらが、GAMEの能力ごと引っ張ってきたんだろうが、そんな理論を科学的に説明しろ、などと言われても不可能だ。

 それこそ、お前達が信奉する天使とやらに聞けと言いたい。



「さて、早速取り付けてみるか……」


「あ、あの、その井戸は、随分と昔に枯れたものなんです……ピョン」


「私の滑車は、水を汲み上げるという“結果”を生む。井戸の状態など関係無い」


「何を言ってるか分からないウサ」


「私には、お前達の語尾の方が分からんよ……」



 滑車を取り付け、井戸の底まで下ろした後に引き上げる。

 車輪が付いているので、力のない者でも簡単に引き上げる事が出来る仕様だ。思った通り、取り付けられた大きな桶にはたっぷりと水が入っていた。



「ちょ、ちょっと! どういう事なのよ、魔王!」



 それを見て、ルナが体をがくがくと揺らしてくる。

 興奮するのは分かるが、揺らすな! 水がこぼれるだろうが!



「モモちゃん、見て! 水があんなに入ってる!」


「嘘でしょ……何これ!?」



 お前ら、普通にしゃべれるんじゃないか……。

 頼むからそのままの口調でいてくれ。


 俺は桶の水に指を入れ、それを口に含む――予想通り、“只の水”であった。

 これが体力を20回復する水であったなら、流石に考え直さないといけないところだったが、只の水であるなら問題無い。


 とは言え、水の魔石というものが商売になっている以上、これを公にするのは余り宜しく無いだろう。外向けには、あくまで枯れた井戸が復活した、という体で行くとするか。



「これは私の国の“魔法の滑車”だ。見ての通り、枯れた井戸からでも水を生み出すものでね。これが、どれだけの価値がある魔道具であるか、諸君らなら十分に理解出来るだろう? これが元で、戦争が起きてもおかしくない代物だ」



 偉そうに言っているけど、5Pだから申し訳なくなってくるな……。

 自分の言い様と、システム的に見た評価との乖離が激しすぎるぞ。とは言え、流石にルナやバニー達も自分の言いたい事は分かってくれたようだ。



「この村だけの秘密にしておきます……ピョン!」


「ありがとうございます! これで元気な人参が作れるウサ!」



 やっぱり、こいつらわざと言ってるだろ。俺はもう突っ込まないからな?

 しかし、農作物を作るとなれば、水だけでは片手落ちだ。



「中級アイテム作成――――《肥料》」



 更にもう一つのアイテムを作成する。

 大きなビニール袋に詰まった肥料を漆黒の空間から引っ張り出す。

 名こそ肥料だが、実のところ、これはGAMEでは爆弾を作る為の合成アイテムであった。

 まさか、こんな所で役立つとは思いもしなかったが……。



「この肥料を使うと良い。適切な使い方は、お前達に任せる」



 肥料をどのくらい、どの時期に使うのかなど、自分には分かりっこない。

 それこそ、農作業のプロに任せれば良い話だ。これも滑車と同じく、大地に栄養を与えるという“結果”を生むだろう。

 人を殺す爆弾を生む為のものが、農作物を生み出すというのも何だか皮肉めいた話ではあるが……。



「モモちゃん、これ凄い肥料だよ! “大地の力”を感じるの!」


「す、凄い……“恵みの力”に満ち溢れてる!」



 何を言ってるかよく分からんが、役立ちそうならまぁ良いだろう。

 これで、この村にも多少の活気が出るというものだ。どれだけの施設を置こうとも、雰囲気の暗い土地になど、人は集まらない。

 俺はその後、バニー達に細々とした注意を与え、この場を後にした。



「あ、あんたも……少しは良い所あるのね……」


「馬鹿を言え、私は聖人君子でも何でもないぞ? 良くするには理由がある」


「理由って何よ? ま、まさかバニー達にいやらしい事をっ!」


「アホか。病院を建てるにせよ、温泉を建てるにせよ、どうしても人手が必要になるんでな。バニー達にはそこで働いて貰うつもりだ」



 バニーってのは見た目が可愛いから、客からのウケも良いだろう。

 今でもBARだのラスベガスだのではレオタードに網タイツ、それに兎耳を付けたのが居るしな……古典的だが、廃れてないってのは人気のある証拠だ。



「さて、最低限の準備は整ったな。設置の方は、神都から戻ってからにしよう」


「向こうでは一杯、奢りなさいよね。服とかも見て回るんだからっ!」


「何でお前の買い物に付き合わなきゃならんのだ……」








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