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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
三章 神都動乱

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20/82

神の手

 拠点の中で全員の自己紹介を終え、早速アクの治療を始める事にする。

 悠の能力は信じているが、こればかりはやってみなければ分からない。

 いや……弱気になるな。

 自分が創ったキャラクターを、自分が信じないでどうする。



「じゃあ、アクちゃん……力を抜いて」


「は、はい……」



 悠の右手、指が見る見るうちに変化し、その指が注射器やメスなどに変貌していく。

 彼女の持つ特殊能力――神の手(ゴッドハンド)だ。

 GAMEでは見慣れていたが、いざ目の前で見ると結構グロい。と言うか、怖い。

 だが、この能力は「この世のあらゆる病魔を駆逐し、怪我を治癒する」という反則としか言いようがない設定が施されている。



「あ、あの……そ、その手……は……」



 やはり、見た目がグロい所為でアクも怯えているようだ。

 だが、天才的な医者という設定が生きたのか、悠が柔らかい笑みを浮かべ、患者を安心させるべく口を開く。

 良かった……この辺りはちゃんと設定を書いておいて。



「大丈夫よ、アクちゃん……先っちょだけ、先っちょだけだから」


「うぅ……何か息が荒くて怖いです!」



 うぉぉぃ! こいつは何を言い出してるんだ!

 確かにアクは中性的な感じがするけど、女の子だぞ!

 お前の好きなショタっ子じゃないんだからな!



「アクちゃん、治療が終わったら男装してみない? お姉さんと遊びましょ」


「え、遠慮したいです……っ!」


「悠、遊んでないで早くやれ」


「これは失礼しました」



 放っておいたら何を言い出すか分かったもんじゃないな。

 でも、こいつの美少年好きは、俺が作った設定なんだよな……。

 何か責められるべきは俺のような気がしてきた。



「では、長官。始めます――」


「あぁ、宜しく頼む」



 悠の右手、変貌した様々な器官がアクの足に触れる。

 まるで触診するかのように動いていた“それ”であったが、注射器のようなものに液体が満ちていき、それが足へ打ち込まれた。

 悠は様々な薬を体内で生成し、それを相手に打ち込む事が出来る。

 勿論、毒薬の類もだ。



「ちょ、ちょっと……魔王! 本当に大丈夫なの!?」


「心配するな。私と、その部下を信じろ」


「あ、あんたを信じた事なんて一度も無いわよ……っ」



 ルナの言葉に堂々とした態度で返したが、内心は祈るような気持ちであった。

 医療機器の一種なのか、悠の指が次々と変化し、アクの足に触れていく。

 その度に、アクの右足に赤みが増していっているように思えた。まるで、血の通っていなかった部分が生き返っていくような光景である。



 (頼むぞ、悠……)



「さ、これでお終い。傷跡も綺麗にしておくわね。女の子の足だもの」



 ……え、もう治ったの!?

 悠の指がブラシのようなものに変化し、それが傷の表面を撫でる度に傷跡が消えていく。控えめに言っても、物凄い光景だ。

 俺は激しく動揺する気持ちを静め、さも当たり前のように振舞う。



「ふむ……終わったか」


「はい、長官。問題ありません」


「アク、立てるか? 治ったとはいえ、少し歩いて慣らさなければなるまい」


「は、はいっ」



 アクが立ち上がり、数歩歩く。

 その姿はぎこちなかったが、もう足を引き摺るような事は無かった。



「あ、歩け、ます……! 僕の、足が!」


「それは重畳。では、少し外を歩いてみようか」


「あ、あの! 悠様、ありがとうございます……! こ、こんなの、何て言えば良いのか、その……」


「良いのよ、お礼なら長官に」



 悠はそう言って笑ったが、俺は別に何もしてないしな……。

 ともあれ、外を歩いて少し練習させるべきだろう。リハビリの知識などはないが、手を引いて、共に歩いてやるくらいの事は出来る。



「少し出る。中に居てくれ」



 アクの手を取り、拠点を出る。

 外は相変わらずの太陽が出迎えてくれたが、今日のようなめでたい日には、晴れた空こそが相応しい――



「ま、魔王様! 本当に歩けます……こんなの凄すぎますよ!」


「言っただろう――大帝国に不可能はない、と」



 内心では祈っていた事をおくびにも出さず、偉そうに答える。

 と言うか、長く続けてると演技も段々、疲れてくるな。まだ側近の前では気は抜けんが、アクと二人の時なら態度を崩しても良いだろう。



「本当に夢みたいです……普通に、歩けるようになるなんて」


「夢じゃないさ。これからは普通に歩いて、生活出来るようになる」


「ま、魔王様……ほっぺを、抓ってくれませんか?」


「また古典、的、な――」



 笑おうとした言葉が、途中で止まる。

 アクの目から――涙が零れていたからだ。

 その姿を見ていると、妙に落ち着かなくなって目を逸らす。ダメだ、こういう雰囲気って昔から苦手なんだよな……。



「まぁ、あれだ……その、良かったじゃないか」



 何だ、この台詞は……!

 もう少し、気の利いた事を言えんのか。

 普段は幾らでも適当な事をベラベラ言える癖に、肝心の時にこれじゃ、自分の口こそ抓りたくなる。



「……魔王様。もう少し、歩いても良いですか?」



 アクがそう言いながら手を握ってくる。散歩とも言えないような風景だが、この異世界を歩く事は、別に嫌いではない。

 乾いた大地は所々ひび割れており、照りつける太陽も容赦無い暑さだ。

 だが、何故だろう……リアルでの生活より、今の方が余程潤いがあるように感じてしまうのは。



(この子が、居るからなのかもな……)



 最初は何故、俺がこんな異世界にと嘆いていたが、アクの足を治す事が出来ただけでも、自分がこの世界に来た価値はあったのかも知れない。

 この為に呼ばれたと考えるなら、この理不尽もどうにか納得出来るというものだ。



「魔王様におんぶ、して貰えなくなっちゃいますね――」


「別に、疲れたらおぶってやるさ」



 アクの表情が妙に大人っぽくなった気がして、つい煙草に火を点ける。

 女の子の成長は早いって言うけど、本当にそうなのかもな。

 生憎と独身だから、その辺りの詳しい事は分からんが。そんな事を考えていると、握られていた手に強い力が込められた。



「魔王様、ずっと一緒に居て下さいね」


「…………。そういう台詞は、将来好きになる男の為に取っておくと良い」



 ずっと。

 それは、この世界で生きるという事だ。

 リアルの、何もかもを捨てて。

 今から熾天使の事を調べようとしているのに、無責任な事は言えない。



「僕はもう、“決めて”いますから――」


「あのな……」



 13歳の子供が何を言ってるんだか……。

 思えば中学の頃、背伸びして教師を好きになる子が居たりしたもんだが、あんな感じなのか?



「さて、そろそろ戻るとしよう」



 結局、繋がれた手は――拠点に戻るまで離される事はなかった。




 ■□■□




「長官は、随分とあの子を気に掛けているのね……」



 つい、口に出してしまう。

 昔から長官は、特定の条件を満たした者に対して、人が変わったように寛大な態度を示す事があった。


 それは――“GAMEの優勝者”に対して、である。


 数多の苦難と絶望を乗り越えた勇者に対し、莫大な富と黄金に彩られた将来を約束する――これがGAMEのコンセプトの一つでもあったからだ。

 そういう意味では、私も優勝者に対するリスペクトは当然のようにある。

 だが、あの子は――優勝者ではない。



(何か、特別な力でもあるのかしら……)



 長官は、人材を発掘するのに卓越した能力を持っていた。不夜城を守る八人の側近達は全て、長官がスカウトしてきた人間ばかりであったのだから。

 その中には子供と言える年齢の者も少なくなかった。



(知りたいわね……色々と、この世界の“人間”を)



 本当なら、あの子の事をもっと調べたかったが、流石に長官から紹介された客人に対し、失礼な事は出来ない。

 それに、病院が建てば――幾らでも機会は訪れるのだ。



「あの怪我を治すなんて……魔王だけじゃなくて、部下まで何でもアリね」



 ルナと紹介された少女が、隣で呆れたように呟く。

 こちらからすれば、魔法なんてものを使う人間の方が、余程何でもアリとしか思えない。

 人間、自分に無いものを求めるというが、それに近い感覚であろうか?



「でも、私からもお礼を言うわ。あいつには言わないけど、あんたには感謝してあげる」



 その言葉に、つい笑みが漏れる。

 この子の無邪気さと、怖いもの知らずな所は“茜”に少し似ているかも知れない。



「なるほど。長官が気に入る訳ね――貴女の事」


「は……はぁ!? そ、そんなの迷惑だし! 大迷惑なんだからっ!」



 ほら、素直になれない所もよく似ている。

 それにしても、この子もかなり可愛い顔付きだ。男の子の格好をさせれば、結構いけるんじゃないだろうか?

 髪を切って、半ズボンを履かせてみるのはどうだろう。



「た、ただいま戻りましたっ!」


「アク、足はどうだったの? 変態魔王に何かされなかった?」


「お前はブレんなぁ……ある意味、感心するよ」



 そう言いながら、長官が近付いてくる。

 そして、その手が自分の肩に触れ――ポンと叩かれた。



「悠、見事な処置だったな――――お前を呼んで良かった」


(う”っ………)



 その言葉に、掌に、電撃が走る。

 それも、頭の先から足の爪先まで貫くような、異様な痺れと興奮。



(なに、これは……!?)



 気を抜けば、今にも涙が溢れてしまいそうな程の幸福感。

 体が、心が、細胞が、髪の毛の一本に至るまで、歓喜に打ち震えている……。

 何故だろう……まるで“全知全能の創造主”から自らの存在を認めて貰えたかのような、圧倒的な幸福感が身を包む。



「ぃ、いぇ……お役に立てた、のなら、何よりです……」



 息が、荒い。

 自分の体だというのに、自分の事が分からない……。

 これまでも、長官に仕事を褒めて頂いた事はあったけれど、こんな感覚に陥るような事は一度も無かった。なのに……何故?



「これからも私を補佐してくれ。頼りにしているぞ?」


「は、はぃ……っ!」


(う”ぅぅ……言葉が、うまく出ない……)



 気付けば、心臓までバクバクと音を立てている。

 変だ。これは――変だ!


 何故、褒められたり頼りにされる事が、こんなに嬉しいのか……。呆れた事に、涙が滲んで視界まで歪んでくる。

 これを“幸せ”というのであれば、自分が今まで感じていた幸福とは、全てガラクタであったとしか思えない。



(何か、違う……これまでの長官では、ない?)



「さて、アクの足も治った事だ。神都に着いたら、大いに祝おうではないか」


「賛成! でも、今度はあんたが奢りなさいよ!」


「ぼ、僕は乾パンでも……」


「ダメだ。ルナ、向こうに着いたら一番良い店に案内してくれ」


「それは良いけど……あんた、本当にお金持ってるんでしょうね……?」



 三人の会話を聞きながら、考えをひとまず保留にする。

 触れられた肩が、今も熱い。

 まともな思考など、とても出来そうもなかった。



(まずは病院ね。長官はまた、褒めてくれるかしら……)






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






アクに生存スキル《ヒロイン》が追加されました。


生存スキル ―― ヒロイン

GAMEに存在したレアスキル。

発動確率は3%と極めて低いものであるが、

スキル所持者へのあらゆる攻撃を九内が全て無効化してしまう。


GAMEでは実際、ここぞと言う必殺の一撃が全て無効化され、

ヒロイン所持者のプレイヤーが大逆転を果たしたケースもある。このスキルを持った者からすれば九内は救いの神であり、相手からすれば地獄の悪魔にも等しい存在であった。





皆様のお陰で、今作も20話に辿り着く事が出来ました。

多くのブクマや評価、本当にありがとうございます!





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