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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
一章 魔王降臨
2/82

大森林

(何だ、これ……?)



 目の前に広がる、鬱蒼とした大森林に“俺”は息を飲む。

 次に笑いが込み上げてきた。

 確かに15年も続けてきた趣味が終わるって事で、多少の酒は飲んでいたが、流石に大森林に放り込まれるような白昼夢を見る程には飲んでいない。


 まして、明日は仕事だ。

 と言うか、あれか……起きてたと思ってたのは俺だけで、いつのまにか寝オチしてたって展開か?



「つか、大森林ハンパねぇな……お前、グリーン過ぎるだろ」



 最近は会社と自宅の往復をする日々だったので、余計に真緑の色が目に痛い。

 疲れきった体に大自然の尊さを染み込ませてくるようだ。とは言え、早く明日に備えなければちょっと不味い。

 PC前で寝ていたら、翌日は筋肉痛不可避だ。



「しっかし、夢とは思えんくらいにリアルだな……」



 差込む日差しに、辺りを飛ぶトンボ、セミの鳴き声まで聞こえてくる。遠くを見れば、太陽を反射してキラキラと光る湖まであるのだ。

 夢は願望を表すなんて言うけど、俺は心の奥底では森林浴でもしたいと願っていたんだろうか?

 湖に近付こうと一歩を踏み出した時、背中に冷や汗が流れた。



「何だ、この足……」



 目に映ったのは、皺一つ入っていない高級な革靴。そして、体を見れば上下の黒いスーツ。

 このクソ暑い季節だというのに、ご丁寧に足首にも届きそうなロングコートまで羽織ってくれている。この姿を見たら、誰もが「何処のマフィアのボスだ」と突っ込んでくるに違いない。



(何か、嫌な予感が…………)



 さっきから、心臓が嫌な音を立てている。慌てて湖へと走ると、隼のような速度であっと言う間に森を突っ切ってしまった。

 その異様な速度に、嫌な予感が一層濃くなっていく。

 最後に湖へ映る自分の姿を見た時――――予感は確信へと変わった。



「何で……九内が……!」



 湖に映るのは、見慣れたラスボス。

 並居るプレイヤー達を絶望のドン底へと叩き落とし続けた、“魔王”が居た。その顔は何が可笑しいのか、笑みを浮かべているようにも見える。



「ふざけんなよ……! 何で俺がこんな“オッサン”に……!」



 自分も他人の事を言える歳ではないが、流石にこれは無い。

 大体、さっきから五感に入ってくる全てがリアルすぎて、とても夢とは思えないのだ。まさかとは思うが、アニメや漫画でよく見る異世界転移とか言うんじゃないだろうな?


 もしくは、心臓発作とかで俺は既に死んでて、天国に居るとか? いや、それなら九内の姿になっているのは変だろ……。



「ま、待て……落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない」



 しかし、頬や頭を叩いても痛い。

 呼吸をすれば肺がしっかりと動いているのが分かる――分かってしまう。

 これは本格的に不味いんじゃないのか?



(うぉぉぃ! せめてHDDの整理してからにしてくれよ!)



 魂からの叫びであった。異世界に行くのはまだ良い。

 万歩譲って許せるとしても、こんなオッサンになって異世界転移なんて夢が無さ過ぎるだろ! せめて、超絶のイケメンとか大富豪とかにしてくれよ!


 後、HDDの整理な! 大事な事だから二回言っとくぞ!

 何でよりにもよって、こんなガチムチのオッサンに……。

 俺が一体、何をしたっていうんだ!?




 ■□■□




(とにかく情報だ……何か見つけないと……)



 あれから暫く歩き回ってみたが、夢から覚める、なんて事は無さそうだった。

 むしろ、あれからも刻々と意識が体へ馴染んでいくようで、今では殆ど違和感を覚えない。時折、吹き抜けるような森の息吹が体を揺らし、この世界がまやかしではないと伝えてくるようだ。



(この世界は、この森は何だ……せめてヒントでも無いのか)



 服を漁っても、現状を打破するような物は無かった。

 ロングコートの内側には九内の得意武器であるナイフが多数仕込まれており、他には九内が愛用する煙草などがあるだけ。


 こうなったら、腹を括って“アレ”を叫ぶしかないんだろうか?

 プレイヤーの一人でもあった、マッシヴも「異世界へ行ったら、これを叫べば間違いないですよ」と言ってたしな……。


 頼むぞ? い、行くからな……?



「す、ステータス!」



 ――――森に静寂が広がり、カラスが一声鳴いた。



「出ないのかよ!」



 恥の掻き損じゃないか!

 何か数値やら画面でも出るのかと思いきや、何事も起こらず、むしろ風に揺れる木々が爆笑しているようにも感じられた。


 いや、待て――これが九内なら――

 俺なら――もっと相応しい言葉があるじゃないか。



「ADMINISTRATOR―――」



 ――ビンゴ!

 空中に黒いパネルとキーボードのようなものが広がり、パスワードを打ち込む画面が浮かび上がった。

 これだよ、これ! これを待っていました!



「良し、パスワード入力っと……あれ?」



 パスワードが受理されると同時に、無数のコマンドが浮かび上がったが、そのどれもが真っ黒に塗りつぶされており、内容を見る事すら出来なかった。

 そこに書かれているのは、《規定条件を満たしていません》の羅列。

 思わず腰から下の力が抜け、横の大木へ凭れかかる。



「何が規定条件だ……何がしたいんだよ、こいつは……」



 思わず懐から煙草を取り出し、火を点ける。吸い慣れた煙を口から吐き出したが、その美味さが否応無しに現実を突き付けてくるようだった。

 夢で煙草の味を感じるなど、ありえない事だ。

 2本、3本と続けざまに煙草を吸うも、頭の中は真っ白のまま。むしろ吸いすぎで頭がクラクラしてきた。



「どうすりゃ良いんだ……こんな事になるなら、もっとラノベを読んでおくべきだったのか?」



 考えが纏まらなくて苛々する。

 それに、森の奥から聞こえてくる荒っぽい足音に、余計に神経が掻き乱されるようだ。いや、待て……足音って誰か居るって事じゃないのか?

 何かから逃げるような荒っぽい足音が近付き、遂に“それ”が姿を現した。



(子供、か……? 随分と汚れてるけど)



 何か声を掛けようとしたが、そもそも日本語が通じるんだろうか?

 何処かで転んだのか、子供の顔や服には黒い泥がべったりと付いており、性別すらよく分からない。髪の毛は金髪だし、目に至っては赤色ときてる。

 とても日本語が通じるとは思えないが、何はともあれ、この子供に色々と聞いてみるしかないだろう。



(九内の口調って、かなり気障で皮肉屋だったよな)



 自分が創作したキャラではあるが、ラスボスだから滅多に出てこないしな……。

 どうにか記憶を辿りつつ、まずは確認の為に子供へ話しかける。



「ぁー、その、何だ。君は言葉は通じるか?」


「逃げて下さいッ!」


「は?」



 見ると、子供の後ろには剥き出しの骨で出来た翼を持つ、化物が居た――

 その体はくすんだ灰色をしており、ファンタジー世界などでよく出てくるガーゴイルに酷似している。


 そのシルエットに頭の中が真っ白になり、またしても笑いが込み上げてきた。

 どうにもこうにも、本気で俺は変な世界へ迷い込んだらしい。



(いや……変なのは俺の頭の方か?)



 日本の、いや、世界中の何処を探しても、こんな生物が居る筈も無い。

 居て堪るか、と叫びたくなる。



「何と言うべきか……後ろの可愛くない化物は君のペットかな? なら、大人しくするように躾けて欲しいんだが」


「早く逃げて下さい! これは悪魔です!」



 悪魔。悪魔ときたか。

 もう笑えば良いのか、逃げた方が良いのか、それとも命乞いでもすれば良いのか、サッパリ分からない。

 俺は一体、何に巻き込まれてる?



「――矮小なる人間、血肉を捧げよ」


「怖ッ!」



 思わず持っていた煙草を落とす。

 真っ赤な眼をした化け物が、“食い物”を見る眼でじりじりと近付いてくる姿は控えめに言ってもホラーだ。

 と言うか、普通に怖い。もう叫びながら逃げたい。


 猛ダッシュで逃げようとした瞬間、化け物が大きな手を振りかぶり、凄まじい速度で顔面へ爪を叩き付けてきた。額に鈍い痛みが走り、目の奥からチカチカと赤い光が迸る。



「いっ……つ……」



 こいつ、本気で襲ってきた……?

 俺を、殺そうと?

 腹の底から、得体の知れない感情が込み上げてくる。




「――――お前、何のつもりだ?」




 とても自分の声とは思えない、低い声が喉から漏れる。

 戸惑っているような化物が視界に映った瞬間、目にも止まらぬ速さで右手がコートの内側へと伸びた。



 ――――自動反撃発動!



(ちょ、体が勝手に……!)



 自分の意思とは裏腹に、手足が勝手に動き出す。

 理想的とも言えるフォームから、稲妻のような速度で――ナイフが投擲された!



 九内の反撃!


 「リベンジ」――判定成功! 反撃ダメージ増加!

 「必殺」――判定成功! クリティカル率30%増加!


 クリティカルヒット!

 致命的ダメージ――悪魔王グレオールは消滅した!



 ――熟練度500 OVER!


 「強制突破」「極連撃」――――判定失敗! 相手は既に斃れている!



 ――戦闘スキル発動!


 「覇者」――――判定失敗! 相手は既に斃れている!

 「開眼」――――判定失敗! 相手は既に斃れている!

 「粉砕」――――判定失敗! 相手は既に斃れている!



 ――生存スキル発動!


 「瞑想」――――判定成功! 九内の体力が回復した!




 頭の中に次々と“戦闘ログ”が流れ、その内容に眩暈が起こる。

 これ、完全にGAMEのままじゃないか!

 気付けば襲ってきた化物の姿は跡形もなく、ナイフが突き刺さった衝撃なのか、その体は完全に爆散してしまっていた。これではどちらが化物か分からない。



「「…………」」



 誰も言葉を発せぬまま、痛い程の静けさが森を覆う。

 ごくりと唾を飲み込み、恐る恐る口を開く。



「ま、まぁ、その……何だ、“正当防衛”というやつだな。私は悪くないぞ」



 目の前に居る子供からの視線が痛い。

 あれは明らかに怯えと恐怖を湛えた目だ。どう考えても正義のヒーローを見る目ではないだろう。



「ま、魔王様……食べないで下さい! ぼ、僕は美味しくありませんからっ!」


「ふざけんなよ! 人を何だと思ってやがる!」






 こうして、未知の異世界へ一人の魔王が舞い降りた。

 中身は只の一般人でしかない彼が、この残酷な異世界をどのように生きていくのか。それはまだ、誰にも分からない――――






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






情報の一部が公開されました。



悪魔王グレオール

種族 最上位悪魔


レベル 34

体力 45/666

気力 200/200

攻撃 66

防御 66

俊敏 66

魔力 66

魔防 66


魔法

死の風 火炎地獄 暗黒破壊光線 その他多数


スキル

上級悪魔使役 支配強化 その他多数



遥か昔、智天使によって封印された大悪魔。

上級悪魔すら使役する、悪魔種の“王”と呼べる個体。

封印によってその体力は激減しており、本来の体力には程遠かったが、その圧巻の防御力を前にして、傷を付けられる者など存在する筈もない。

多くの魂を喰らい、肉を喰らい、その体力を取り戻した暁には、あらゆる地上に地獄を齎したであろう。






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






九内 伯斗(くないはくと)

種族 人間

年齢 45


武器 ―― ソドムの火

投、斬、共に使用可能なナイフ。

回数無限。

追加効果として一定確率で「火傷」を与える。


防具 ―― アサルトバリア

LV30に達していない者からの攻撃を無効化。

耐久力無限。

GAMEには存在しなかった“魔法”には効果が無い。


所持品 ―― 帝国法典

九内を打倒したプレイヤーに与えられるアイテム。

実は何の効果もない。

これが効果を生み出すのはGAMEではなく、リアル世界であった。


所持品 ―― マイルドヘブン

大帝国で最も人気のある煙草。

他にもバスターやハイナイトなど、多様な煙草が存在する。

GAME特有のシステムと言うべきであろうか?

体に悪いどころか、吸えば気力が回復する仕様となっている。



レベル 1

体力 40000/40000

気力 600/600

攻撃 70(+50)

防御 80(+20)

俊敏 60

魔力 0

魔防 0


属性スキル

FIRST SKILL ― 突撃

SECOND SKILL ― 目潰し

THIRD SKILL ― 迅雷


戦闘スキル

狂撃 強制突破 脱力 威圧 必中 必殺 本能 統率 リベンジ 深慮遠謀

開眼 覇者 粉砕 無双 限界突破 孤高


生存スキル

回復 闘争心 二面性 一枚上手 瞑想 医学


決戦スキル

暴君 その他多数


特殊能力

ADMINISTRATOR(管理者権限)

-?-

-?-

-?-



「GAME」のラスボスからガワと能力だけ借りた、中身は大野晶という社会人。

カテゴリーとしては一応、一般人ではあるが、腹を括ると相当なタマ。

長いゲーム運営と、社会人生活で鍛えられており、

あらゆる状況に合わせての「演技」が非常に得意。

「逸般人」――とでも言うべきか。


ラスボスという設定だけあってステータスが異常に高いが、

特筆すべきは、その異次元とも言える体力。

一見すると無敵のようにも思えるが、GAMEには無かった「魔法」に対し、何の抵抗力も持っておらず、非常にアンバランスな存在。


ちなみに、体の奥底には「元の人格」もしっかりと存在している。

その性、極めて冷酷にして、残忍――

4143792人という、屍山血河の頂点に立つ正真正銘の魔王である。





今回は演出として、あえて戦闘をこんな描写にしてみました。

これ以降は普通に描きます。





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