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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
二章 黄金の聖女

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旅立ち

 街の大通りでは怪我人が運ばれ、慌しく復旧作業が行われている。

 だが、いつもなら先頭に立ち、大声を張り上げているであろうクイーンは椅子に座ったまま呆然としていた。

 とても、作業の指揮を執る気にはなれないのであろう。


 腑抜けたような姿だが、フジはそんな彼女を見て、柔らかく微笑む。この国の男では、誰も彼女を満足させる事が出来なかったのである。

 このままでは、敬愛する姉御が喪女となってしまうと心配していたのだ。



(それにしても“太い男”だった……)



 サタニストの集団を前にしても一歩も引かず、フジの目には“奈落”すらあの男を避けていたようにも思えたのだ。

 奈落――と呼ばれる存在。それは、あの液体そのものを指す言葉ではなく、大陸の中央に存在する巨大な穴であった。


 北方の国々は群雄割拠の状態で戦争をしているが、そこで生まれた死体を、その大穴へと投げ込み始めたのがその名の由来である。

 人の埋葬には時間もかかり、土地も使い、費用もバカにならない。


 遂に各国はその手間を惜しみ、地底に繋がっているなどと噂される大穴に全てを放り投げる事としたのだ。

 闇から闇に、とは良く言ったものである。

 その穴からは時折、不気味な液体が這い出し、人を襲うという。


 中でも、百年に一度と言われる確率で這い出てくる“黒い液体”は、聖なる力を奪い、天使に属する者への天敵となる。



(あの男は少なくとも、天使様に属する男ではない)



 フジはそう思ったが、間違ってはいない。

 もし、彼が聖なる力や、天使に属する力を持つ人間であったなら、奈落に力を奪われていたであろう。

 むしろ、彼は天使どころか――ただの“暴走族”であった。

 治安や秩序を乱す側である。



(いずれにしても、あの男を我が国に招聘しなくては……)



 フジはそんな事を思案していたが……

 その男と魔王は――表裏一体なのである。




 ■□■□




 ――聖光国 神都への道 馬車内



「それでね、その龍人が地面を殴ると人が飛んだのよ! ブワーって!」


「へー、凄いですねっ!」



 あれからヤホーの街を出た一行であったが、ルナが昨日の戦闘をさも見ていたかのように自慢気に語っていた。

 本当は気を失っていた筈であったが、純粋なアクはそれを疑わない。

 当然、それを聞いている魔王の顔は歪みっぱなしである。



(何が龍人だ……あれは只の暴走族だぞ!)



 魔王の胸中は余りの恥ずかしさに、穴があったら入りたい気分であった。体は動かせない癖に、なまじ意識だけはあるのが救い難かったのであろう。



「魔王、あんたもあの龍人にぶっ飛ばされるかもね! いい気味だわっ!」


「はいはい……」



 ルナの言葉に魔王が適当な返事をする。

 それはありえない事だ。

 両人は同時に存在する事など、出来ないのだから。



「それよりもルナ、連れていた騎士はどうした?」


「んー? 要らないから帰したわ」


「お前な……」



 国のトップとも言える存在が単独で行動する。

 魔王の感覚からすれば、それはありえない事だ。現に昨日、テロや暗殺騒ぎが起きているではないか。



「何かあったらどうするつもりだ」


「……ぁ、あんたが居るじゃない」


「はぁ?? いつから俺は、お前のボディガードになった」


「うるさいっ! 本当は私の傍に居れて嬉しい癖に! この変態!」



 その言葉を聞いて、魔王の額に怒りマークが浮かんだが、二人の間に座っていたアクが笑い声を上げた。



「賑やかで楽しいですね! 僕、ずっとこんな旅がしたかったんです!」


「マジかよ……」


「ほら、アクも言ってるじゃない。あんたは私の為に働くのよっ!」



 ルナが偉そうに指を突き付け、魔王が溜息をついた。

 暫く沈黙していた魔王であったが、腹を据えたのかアイテムの作成を始める。



「馬車もある事だし、神都まで行くのは良いだろう……だが、その格好は目立ちすぎる。着替えて貰うぞ」


「き、着替えるって……あんた、やらしい服を着せようとしてるでしょ!」


「アホか。これを着ろ」


「何、これ……と言うか、あんたどっから出したのよ」



 魔王が出したのは《ブレザー》であった。

 街を歩いていて、これならそこまで違和感はないだろう、と思った服だ。他にもセーラー服やメイド服、チャイナ服など、多数の防具があったが、そんなものを出した日には変態の謗りを免れない。


 着替えさせるにしても、この世界の普通の服では防御力が心許ないと思ったのであろう。

 SPを消費する苦渋の決断を下したらしい。



「防御力は10と高くはないが、今は聖女だとバレない方が先決だしな」


「10……? あんたって、たまに変な事を口にするわね」



 魔王はそれに答えず、更にアイテムを作り出す。

 それは――《みたらし団子》であった。

 GAMEでは気力を50回復させてくれる消費アイテムだったが、この世界においては神薬とでも呼ばれるレベルのものである。



「アク、慣れない馬車で疲れただろう? これを食べて少し休憩すると良い。私の国のお菓子だ」


「わぁぁ……とても可愛いお菓子ですねっ! それに、甘い香りも……魔王様、ありがとうございますっ!」


「な、何か美味しそうね……私も食べるんだからっ」


「6本あるし、適当に食えば良いさ。暫く外で一服しているから、その間に着替えておけよ」



 魔王が馬車の外に出ると、空には晴天が広がっていた。

 青空の下で、手慣れた手付きで一服を始める。



 (SPを何処かで稼がなければな……)



 既にその残量は60ばかりであり、心許ない。

 何だかんだ言いながら、アクやルナに甘いのも原因の一つだろう。



(GAMEと同じように、戦えばSPが入る……)



 魔王の頭へ真っ先に浮かんだのは、ファンタジー世界のお約束とも言える、冒険者などであった。

 実際、この世界にも冒険者は存在し、様々な依頼をこなす事もあれば、モンスターの退治もするし、トレジャーハンターのような者も居る。

 北方にいけば戦争が続いている為、食えない時には傭兵になる者も多い。



(本気で魔王などと認定されても敵わんし、正業にも就いておくべきか?)



 根が社会人であった“大野晶”には、そんな思考も浮かぶ。

 その一方で、「異世界に来ても働くのか」と何やら悲しげな呟きも洩らしており、その心中は複雑なようであった。



「聖女様、このお菓子すごく甘いですっ!」


「アクはまだまだ子供ね。一人前のレディーはお菓……美味しぃぃぃ!」


「何だか疲れまで飛んでいくような気がします!」


「あの変態……私達を餌付けして、いやらしい事をするつもりね! 悔しい、でも食べちゃう!」



 馬車から聞こえてくる喧騒に「コントかよ」と魔王が呟いたが、その抜群の聴力が別の音も拾う。

 それは荒々しい人の声と、剣戟であった。目を凝らすと、二人組の女が狼のようなものに追いかけられている。



(願ってもない機会だな……)



 自然に口端が吊り上がる。それはまさに、魔王として相応しい顔付きであった。





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