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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
二章 黄金の聖女
15/82

龍人

 人間、溺れた時には藁をも掴むという。

 掴んだ所で藁は藁、すぐに引き千切れてしまうものに過ぎない。

 だが、それでも承知で――掴まなければならない時がある。


 魔王が震える手で管理機能からコマンドを選択すると、頭に響いていた声はすぐに消えた。それどころか――体が白い光に包まれていく。

 余りの眩さに、大通りで戦闘をしていた集団すら度肝を抜かれたように動きを止め、その光が何であるのか注視した。


 光が治まった時、そこに立っていたのは――全身を白い服に包んだ男であった。

 それだけ見れば、何やら光を背負った戦士のような気配がするが、その服には禍々しいまでの異様な文字が刻まれている。



「天下無敵」

「喧嘩上等」

「仏恥義理」



 などなど、見る者が見れば眉を顰めるであろう文字の羅列。

 至る所に文字が縫い取られた服の背中には、大きな銀色の龍が描かれており、本人の頭髪まで銀色に染められていた。

 現代日本では絶滅したであろう――“暴走族”である。



「んだ、ここは……」



 その男の名は――霧雨 零(きりさめぜろ)

 大野晶がGAMEで遊ぶ為に作った、キャラクターである。

 暴走族という設定だけあって、その眼光は鋭く、人に“メンチを切る”為だけに存在しているような目であった。



「な、何だ貴様は……!」


「――――あ”ぁ?」



 サタニストの一人が叫び、零が早速、その相手に向かってメンチを切る。

 ここが何処かも分かっていない筈であったが、いつでも売られた喧嘩は買うつもりらしい。零の目が大通りに向けられ、そこで蹲っているクイーンとルナを見た時、その顔色が変わった。



「チッ、ガキと女を囲んで“弱いモン”虐めか――?」


「貴様……聖女の一派であろう! 殺れッ!」


「へぇ、お前ら――――“殺る気”かよ?」



 ――《遺恨設定》――



 零がその言葉を呟いた瞬間、その体から青白い炎が立ち昇った。

 黒装束の一人が短刀を振り上げ、問答無用で斬りかかる。零は無言で首を捻って短刀を避け、その右拳が凄まじい速度で振り抜かれた。



 ゴガン!と得体の知れない音が響き――男の体がぐるりと一回転する。



 男の顔面は哀れにも拳の形に陥没し、鼻骨も砕け、歯の殆どが圧し折れてしまっていた。

 暫く痙攣していた男であったが、やがてその目が裏返り、意識を失う。

 余りと言えば、余りの一撃に、サタニストの集団が静まり返る。



「てめぇら屑なんざ――――“ワンパン”よ」


(やめろぉぉぉぉ! 何言ってんだ、お前はぁぁぁぁ!)



 余りにも時代錯誤な台詞に、“大野晶”が絶叫する。

 それは羞恥プレイなどを超え、もはや虐待に近かったであろう。

 しかし、その声は誰にも届かず、指一本動かす事も出来ない。“ログイン”している訳ではなく、“チェンジ”しているからだ。

 故に彼は、与えられた“設定”のまま好きに動き、好きに口を開く。


 その“設定”とは古き良き時代の不良であり、ヤンキーである。

 弱きを助け、強きを挫く――絶滅種としか言いようが無い、硬派な暴走族そのものであった。




 ■□■□




(誰だよ……ありゃぁ……)



 クイーンは今、光と共に突如現れた男に目を奪われていた。

 一瞬、天使が降臨したのかと思ったのだ。しかし、そこに現れたのは銀色の龍を背負った人間――それも最高に“イカした男”であった。



(あの“バッキバキ”の白装束は何だ……!? ヤバすぎんだろ!)



 まるで全身に“呪紋”を刻んでいるようにも見える。

 体に直接、魔法を“彫り込む”手段は確かにあるが、それは文字通り、命を削りながら戦うようなものだ。

 真っ当な神経と肉体では、とても耐えられるような代物ではない。


 サタニストの一人が短刀を振り上げた時には、喉から思わず悲鳴が漏れた。

 だが、自分の心配など吹き飛ばすような“閃光の一撃”がサタニストを貫き、その体は一回転しながら地に沈んだのだ。



「てめぇら屑なんざ――――“ワンパン”よ」


(ヤベェ、かっけぇぇぇぇぇぇ!)



 痺れるような台詞に――こちらの心臓まで貫かれた。

 これまで感じた事もなかった、異様な興奮が体の奥底から込み上げてくる。

 頭に浮かぶのは――鼻で笑っていた古臭い伝承。



《魔王降臨せし時――古き光もまた、降臨する》


(あの伝承は“マジ”だったのかよ……!)



 教会のババァどもの寝言だと聞き流していたが、とんでもない話であった。

 現に今――“龍を背負った光の男”が目の前に居るではないか!



「い、一体、お前は何だ……何者だ!」



 サタニストが動揺した声をあげ、つい自分も耳をそばだてる。

 このイカした男は一体、何処から来た?



「女を虐めるような腰抜けに名乗るほど、俺の名は安くねーんだよ」


(お、女……? 俺を、女って……)



 その言葉に、全身の血が顔に集まってくる。

 不覚にも手まで震えているらしい。

 只でさえ“奈落”に浸かり、力が奪われてるってのにヤバイだろ……。

 いや、でも、この気恥ずかしさは……! 何か、悪くない、気がする!



「……こいつも聖堂騎士団の一員に違いない! 怯むな、殺」



 その言葉が終わる前に、黒装束が空に舞っていた。

 蹴り――だったと思う。動きが速すぎて、残像しか見えなかったのだ。

 この戦いを見逃すな、とルナの方に目をやったが、このクソは仰向けになって頭の周りにヒヨコを飛ばしていた。

 どうにもこうにも、救えないクソだ。



「行くぞ、てめぇら――――?《FIRST SKILL:拳法》」



 男がその言葉を呟いた瞬間、体が一回り大きくなったように見えた。

 そこから繰り出されたのは――稲妻の如き正拳突き。それを食らったサタニストの一人が派手に吹き飛び、数人を巻き込みながら団子状態で転がっていく。

 だが、男の攻撃はつむじ風のように止まらない。



「派手に“踊れ”や――――ッ!《SECOND SKILL:接近格闘》」



 男が集団の中に飛び込み、渾身の廻し蹴りを放つ――!

 周囲に居た十人ばかりのサタニストが竜巻に巻き込まれたように吹き飛び、遂に連中が恐慌状態に陥った。



「知ってるか?”龍”からは逃げられない――――《THIRD SKILL:落凰》」



 続けて男が怒涛の三連突きを放ち、最後にその拳を大地へ叩き付ける――!

 瞬間、前方へ凄まじい衝撃波が発生し、三十人ばかりのサタニストが遥か彼方へと吹き飛ばされてしまった。



 気付けば、サタニストの群れは悉く地面に転がっており、立っているのは龍を背負った男だけとなっていた。

 男が辺りを見回した後、両手で髪をかき上げ、痺れるような台詞を吐く。



「龍の前に“シャバ憎”が立つなんざ、千年早ぇんだよ――――」


(格好いいいいいいいいっ!)



 思わず、声に出して叫びそうになる。周りの騎士団が居なければ、きっと両手を組んで声を張り上げてしまっていただろう。

 何時の間にか、辺り一面を覆っていた“奈落”すら、何処かに消え果ててしまっている。サタニストが回収したんだろうか?



「しっかし、見慣れねぇ“街”だな――」



 これだけ暴れたというのに、男の姿には疲労すら見えない。

 まさか、本当に龍の血でも引いているのだろうか? その鋭い視線がこちらへ向けられ、そこから覗く黒い瞳に心臓が鷲掴みにされた。



「そこの女、無事かよ――?」


「は、はひ……」



 はひ、って何だよ!

 思わず自分の口を捻りそうになったが、とてもじゃないが、今は顔を上げられそうもない。今、自分がどんな顔をしているのか恐ろしすぎた。



「お前も無茶しやがる。女がドーグ持った相手に何をしてんだか」


(し、心配してくれてる……?)



 自分が“心配”された事など、一体いつぶりだろうか?

 それこそ、子供の頃以来だ……。

 何故だか分からないが、胸にじんわりとした温かいものが込み上げてくる。



「ま、屑どもに虐められたらいつでも言ってこい――どっからでも駆けつけてやっからよ」



 あぁぁぁぁ、もう無理!

 心臓が死ぬ! 四回くらい死にそう!

 もう、この男の前では普段の自分など出せそうもない……見られたら死ぬ!

 絶対に死ぬ!



「ぁ、あの……よ、良ければ、お名前を、お聞かせ下さい……」



 とても自分の声とは思えないような、甘ったるい声が喉から出た。

 それを聞いて、横に居たフジが「ブッフォ!」と噴き出す。

 後でシメる。それも徹底的にだ。



「ん?俺は零――霧雨 零(きりさめぜろ)だ」


「零、さん……あの、ごめんなさい。こんな事に巻き込んでしまって……」


「別に構わねーよ。こちとら、“天下無敵”の“看板”しょってんだ」


(は、鼻血が出そう……っ!)



 何故、この人の口から出る言葉はいちいちピンポイントで自分の心臓を突いてくるんだろうか……さっきから心臓が甘い音を立てっぱなしだ。

 もしかしなくても――これは“運命”なんじゃないだろうか。



「怪我人が多いみたいだし、面倒を見てやれ。俺ぁ行くからよ」


「は、はい……っ」



 霧雨……零さん……。

 背中に描かれた銀色の龍が、目に痛いほど眩く映る。その後姿が人混みに消えていくまで、自分は一度も目を逸らす事が出来なかった。



「見つけちまったよ――運命の相手――」




 時代錯誤の暴走族と、ヤンキー女――運命の出会いであった。




 ■□■□




「化物め……“奈落”を回収出来たのが、せめてもの救いか……!」



 集団を率いていたウォーキングが箱を抱え、道無き道を走る。

 彼のみは混乱に紛れ、見事に逃げ出す事に成功したのだ。集団を率いているだけあって、退き時を間違えなかったのだろう。



「あれが噂に聞く龍人(たつびと)か……まさか、二人も居るとは!」



 ウォーキングは走りながら、懸命に頭を働かせる。

 龍の血を引く――忌まわしき化物。



「獣人国め……隠していたのか!?」



 東の獣人国を統べる長は――紛れも無く、龍人である。

 但し、それは女であった。

 龍人の存在は大陸中を見回しても一人しか確認されておらず、それも、“奇跡”と呼ばれる確率で誕生したものだ。



「あの連中め……この国の騒ぎに介入するつもりだな!」




 ヤンキー女だけでなく、サタニスト側にも激しい勘違いが進んでいたが、当の本人は一体、どうしているのか――




 ■□■□




「くっそぉぉぉ……! 殺せ、誰か殺してくれぇぇぇ……」



 路地裏に入り、魔王が頭を抱えて転げまわっていた。

 その姿はようやく元に戻ったようだが、心に負った傷は戻らない。羞恥プレイなどを超え、既にその心は自殺を考える程に病んでいるようだ。



「何が天下無敵だ! アホか!」



 魔王が呟く呪詛は終わらない。

 だが、それも甘んじて受けなければならないものであった。

 何故なら、あのキャラクターも――GAMEで己が作り出したものなのだから。大人というものは、自分のケツは自分で拭かなければならないのだ。




 こうして聖光国には魔王降臨という噂だけでなく、悪を憎む“銀の龍人”が現れたという二つの噂が駆け巡る事となった。

 それが、全くの同一人物であるとは知らずに――

 この勘違いが、後に聖光国を大きく混乱させていく事となる。






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






情報の一部が公開されました。






霧雨 零

種族 人間

年齢 ?


武器 ―― 素手喧嘩(ステゴロ)

只の拳。

耐久力無限。


防具 ―― 銀龍特攻服

銀龍を背負った特攻服。

GAMEでは特殊能力が絡んだレア防具であった為、防御力は皆無。

様々な文字が刻み込まれた服は、この世界では異様の一言である。

耐久力無限。


所持品 ―― 750RS(ZⅡ)

零が乗るバイク。

馬車よりも遥かに速く、離れた距離もひとっ飛び。

GAMEでは移動する際に気力を消費したが、それを抑える効果があった。



レベル 1

体力 165

気力 300

攻撃 7(+85)

防御 7(+73)

俊敏 8(+80)

魔力 0

魔防 0(+55)


属性スキル

FIRST SKILL ― 拳法

SECOND SKILL ― 接近格闘

THIRD SKILL ― 落凰


戦闘スキル

遺恨 手加減 その他


生存スキル

裁縫 その他


決戦スキル


特殊能力 ―― 狂乱麗舞

「遺恨」を設定した“チーム”に対してのみ、全ステータスが爆発的に増加する。

それ以外の存在には効果無し。

対象となる遺恨チームの変更は、一日に三回の制限あり。


特殊能力 ―― ?





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