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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
二章 黄金の聖女
14/82

サタニスト

 聖光国――格差や意見の対立などはあれど、実在した智天使を信奉する、という一事を以って、纏まってきた国であった。

 だが、中には大きく道から外れた集団も居る。それは享楽的な山賊や野盗の類ではなく、天使とは正反対の存在を崇める者達。


 悪魔信奉者――サタニストと呼ばれる集団である。


 彼らは当初、裕福な者はその富を――貧しき者へ少しは分配せよ、という大人しい主張をしていたが、次第に貴族制度の廃止を訴え、遂には智天使こそが格差を作った元凶であると叫び出したのだ。


 実際のところ、智天使が貴族や格差を作った訳でも何でもない。

 悪魔王との戦いの後、智天使そのものが消滅しているのだから。

 当事、智天使と共に戦った者達の多くが後に権力を握り、貴族となっていっただけに過ぎないのだが、彼らにしてみれば歴史的事実やその真偽などどうでも良かった。


 ――今の現状が、結果だけが全てである。


 いつしか、彼らの前に“ユートピア”を名乗る人物が現れ、その行動は益々、過激さを増していくようになった。

 遂には天使と敵対する悪魔を信奉するようになり、彼らは国のあちこちで無差別のテロ行為を行い――とうとう“魔王”を呼び出そうとしたのだ。



 ――ルナ、出てこいッ!



 路地裏にまでクイーンの荒々しい声が響く。それを聞いて、彼らはほくそ笑んだ。魔王の召喚には失敗したらしいが――聖女が動いた、と。

 ならば、その行為は無駄では無かったという事だ。

 彼らは計画通り、この地において聖女を暗殺するべく動き出した。



「聖女に災いあれ――」


「「災いあれ」」



 暗殺団を率いる隊長、ウォーキングが声をあげ、路地裏に不気味な声が続いた。

 聖女を一人でも仕留める事が出来れば、と考えていたところに二人揃うという僥倖に巡り合えたのだ。



(あれさえあれば、勝利は疑いない……)



 つい、ウォーキングの顔が愉悦で歪む。

 その近くに“魔王”が居たと知れば、彼らは腰を抜かしたであろう。




 ■□■□




(すんげぇ姉ちゃんだな……何処の世紀末だよ)



 “俺”は路地裏で騒ぎを聞きつけ、大通りの人混みの中へと紛れ込んでいた。

 そこで見たのは、馬鹿馬鹿しい程の巨大な椅子に座る女と、モヒカンやスキンヘッドの集団である。


 最初は山賊か、サーカス団かと思っていたのだが、雑踏の中から聞こえてくるのは「聖女様」という単語であった。



(まさか、あれがルナの姉なのか……? ねーよ!)



 今にも「愛など要らぬッ!」などと叫び出しそうな女であった。益々、聖女という存在に対し、モヤモヤしたものが湧き上がってくる。



「ついでに――“魔王”ってのも居るんならよ。出て来いや?」



 イカレ女のそんな言葉に、周りのモヒカン達も棍棒を振り回して叫び出す。

 どう考えても聖女、などという一行ではない。今にも「ありったけの食料と水を持ってこいッ!」などと叫び出しそうであった。



「魔王ってのは“ヘタレ”か……? そんなに俺が怖ぇのかよ」


(ふざけろ、馬鹿野郎! 核戦争後の世界にでも行け!)



 ありったけの力を込めて、心の中で叫ぶ。

 誰がこんな集団を前にして「どーも、私が魔王です。えへへ」などと馬鹿面を晒して出ていけるだろうか。

 その瞬間、周りのモヒカンからタコ殴りにされてしまうだろう。



「ね、姉様……何でこの街に!?」



 遂に大通りにルナまで現れ、ざわめきが一層大きくなっていく。

 それを見て、思わず頭を抱えた。

 間違いなく、余計にややこしくなる――



「この“クソ”が……俺に黙って“火遊び”とは偉くなったもんだなぁ?」


「ち、違うの! 私は魔王が現れたって聞いて!」


「ど阿呆がッ! てめぇ一人で何が出来んだよ、クソはクソらしく家で寝てろ」



 椅子の上から女が中指を立て、ルナへ向ける。

 その姿は堂に入っており、文句の付けようもないファックであった。

 こいつ、もう何でもアリだな。



「そ、そんな言い方ないじゃない! 大体、前から言おうと思ってたけど、その変な椅子は何よ!」


「あぁ? てめぇ、俺の“移動式玉座”にケチを付ける気か……?」



 そのやり取りを聞きながら、黙って煙草に火を点ける。

 とてもではないが、まともな神経で聞いてられる会話ではない。

 大体、あれは本当に女なのか? 見た目だけは綺麗だが、あれは「セイテイ」とかっていうモンスターじゃないのか?



「だ、大体、魔王の討伐は私がするんだからっ! お姉様は帰って!」


「居る筈もねぇ存在を討伐だぁ? 起きながら寝言とは器用なもんだな」


「ちゃんと居るもん! あいつ、私のお尻に夢中なんだからっ!」


「……あぁ? 尻だぁ?」



 くっそぉぉぉ……予想は付いてたけど、更に斜め上の展開だな、おい!

 何であいつの尻を狙う変態になってるんだ……。

 つかいい加減、尻から離れろ!



(ぁ、待てよ……この騒ぎの間に、アクを連れて二人で街を出るか)



 我ながら名案であった。

 ルナ一人でも大変だというのに、この上、あのイカレ女とまで絡むなど、悪夢以外の何物でもない。

 宿へ向おうとした瞬間、耳を裂くような悲鳴が響き――



 大通りに鮮血が舞った。




 ■□■□




「偽りの天使に死を――!《火鳥/ファイアバード》」

「聖女に嘆きあれ――!《氷槌/アイスハンマー》」



(何だ、これ……)



 光――それは赤であったり、青であったりした。

 現実離れした光景に、子供じみた感想しか出てこない。遂には離れたここにまで熱さや寒さが押し寄せ、体ごと吹き飛ばされそうになる。

 続けざまに放たれた魔法は無関係の野次馬まで巻き込み、容赦無く街の一角に血の雨を降らせた。



(クソ……また魔法か!)



 悲鳴と叫び声が響く中、喚声まで聞こえてくる――

 何処から湧いてきたのか、黒い装束を着た集団が現れ、イカレ女とその一行に襲い掛かったのだ。



(あの服、何処かで……)



 記憶を辿り、すぐに“それ”を思い出す。

 願いの祠で骸を晒していた集団――あの連中と同じ服装であった。あの連中が何だったのかサッパリ分からなかったが、聖女と敵対している集団だったのか。



「……“ご機嫌”じゃねぇか、サタニストども」



 白煙が立ち上る中、女が馬鹿でかい金棒を取り出し、目の前の黒装束へそれを容赦なく叩き付ける。

 頭骨が粉々に砕けたのか、黒装束が血を吹き上げながら仰向けに倒れた。

 女は棘のついた金棒を振り回し、二人、三人と黒装束を血祭りに上げていく。

 遂には狂ったような哄笑をあげ、黒装束の集団へと突っ込んでいった――



(何が聖女だ……只の化物じゃねぇか!)



 あんな金棒で殴られたら、普通に死ぬだろ。

 今も横殴りに金棒を叩き付け、相手の頭部を吹き飛ばしている。その姿には人を殺す罪悪感など微塵も無く、何かスポーツでもしているかのような雰囲気だ。



「馬鹿は死んじゃえ――《金槍衾/ゴールドスプラッシュ!》」



 ルナが杖を振るい、金色で出来た幾つもの槍が前方へ繰り出される。瞬く間に十人近くの黒装束が血に染まり、路地裏にまで血が流れていく。

 間髪を容れず、モヒカン達が声をあげた。



「サタニストは消毒だぁぁぁぁ!」


「姉御に血を捧げろ!」


「俺、この戦いが終わったら姉御に罵倒して貰うんだ……!」



 モヒカンやスキンヘッドが一斉に叫びながら、黒装束の連中とぶつかる。

 こうなってくると、もうどっちが襲撃者なのか分からない。

 イカれた聖女二人も絶好調だ。



「あっはっは! サタニストども、“紅”に染まる気分はどうだぁ?」


「あんた達、私の魔法で死ねるなんて光栄に思いなさいっ!」



 どう見てもこいつらの方が悪魔です、本当にありがとうございました。

 この騒ぎの内に、アクを連れて街を出よう。

 と言うか、普通に関わりたくない。聖女が出てくると流血沙汰になるって、何か色々とオカシイだろ。


 踵を返そうとした時、一人だけ服装の違う隊長格の男が大きな箱を持ち出し、その蓋を開けた。中から出てきたのは――漆黒の液体。

 それは奇妙な音を立て、じわりと大通りに広がっていく。

 それを見て、男が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。



「秘蔵の“闇”であるが、聖女二人と引き換えならば許されよう――」



 その瞬間、得体の知れない感覚が全身に広がった。

 黒い液体が大きく広がり、それに足を浸されたモヒカン達が次々と膝を突いて倒れていったのだ。

 その異様な光景を見て――金棒女が焦りを含んだ声で叫ぶ。



「ルナ、下がれ――ッ! こいつは“奈落”だ!」


「えっ、ちょ……!」



 その言葉より早く――液体が一面に広がり、二人の足元を浸す。

 途端、糸が切れたように二人が膝を突いた。



「今だ……! 二人を仕留めろッ!」



 隊長格の男が叫び、漆黒の液体が大通りだけでなく、路地裏にまで伸びてくる。

 巻き込まれた野次馬が次々と倒れ、自分の足元にも“それ”が来た。



(――毒か?)



 毒ならば、GAMEの中和剤がある――とまで考えた時、その液体は自分を避けるようにして広がっていった。

 そこから感じたのは――警戒。それも、こちらをジッと凝視して観察しているような不気味な気配だった。

 これは只の液体ではなく、何らかの生き物なのだろうか?



「皆の者、天使の加護は消えた――聖女を討ち取れッ!」



 その言葉と同時に、黒装束が一斉に襲い掛かる。

 さっきまで元気だった金棒女も、息を荒くして膝を突いていた。

 小山のような大男が盾になるように前へ立ちはだかったが、その顔は蒼白であり、殆ど棒立ちの状態だ。



(ヤバくないか、これ……?)



 かと言って、ここで自分が飛び出せば、もっとややこしい事になる。特に、あの金棒女に顔を覚えられるのは致命的な事になりかねない。

 姿こそ消せるようだが、《隠密姿勢》で戦闘に入るのも厳禁だ。あれは戦闘能力の七割ぐらいを失ってしまう。

 相手が何をしてくるか分からない以上、そんな博打のような戦闘は出来ない。



(いっそ、アイテム作成で《手榴弾》でも作って投げ込んでみるか?)



 そんな大雑把な事を頭に浮かべた瞬間――

 指輪が妖しい光を放ち、酷い眩暈と激痛に襲われた。




『その通りだ――あの女ごと、吹き飛ばしてしまえば全てが解決する』




 ふざけろ……! またお前か!

 あの女を殺したら、今度はこっちが指名手配だろうが!

 GAMEみたいに何でもかんでも、殺せば終わりって話じゃないんだぞ。




『だが――あの女は、この国は、“魔王”を殺そうとしているぞ?』


『そう、お前の好きな“正当防衛”というやつだ』


『実にめでたい。身を守るという大義名分を掲げ、お前の好きな殺――』




 眩暈が一秒ごとに酷くなり、遂には立っていられずに倒れ込む。

 周りに満ちている漆黒の液体まで、“九内伯斗”の声に共鳴しているかのようだった。その表面には漣のような波紋が浮かび、時には奇妙な形となり、気を抜けばこちらを飲み込んできそうな気配を漂わせている。



(何か無いのか……この状況から抜け出せるものは……!)



 震える手で管理機能を立ち上げ――

 そこにあった、見慣れぬコマンドに目を剥いた。



 《キャラクターチェンジ ― 操作不可能》



 はぁ!?






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






情報の一部が公開されました。






キラー・クイーン

種族 人間

年齢 17


武器 ―― 鮮血の結末

馬鹿重い金棒。

その表面にはビッシリと棘がついており、破壊力は抜群。

とにかく壊れにくい、という事でクイーンはこれを愛用している。


武器 ―― 神槌シグマ

座天使の祝福を受けた、由緒正しい槌。

高い攻撃力だけでなく、四大元素の力が込められており、

気力を消費し、簡単な魔法を放つ事も出来る。


防具 ―― シグマの修道服

座天使の祝福を受けた、由緒正しい修道服……の筈だったが、

クイーンが色々と魔改造している為、原型は殆ど無い。

足の部分には大きなスリットまで入っている。



レベル 18

体力 ?

気力 ?

攻撃 28(+12 or +20)

防御 26(+15)

俊敏 25

魔力 15

魔防 5(+15)



三聖女の次女。

そのステータスからも分かるように、聖女というより、前衛に立つ戦士。

高い技量と近接戦におけるセンスは、この世界ではトップクラス。

その振る舞いは女王そのものであり、口を開けば罵倒しかしない。


自分より強い男が居ない為、色恋には全く興味が無いが、

心の奥底では、いつか運命の相手が現れると乙女チックに考えている。





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