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魔王様、リトライ!  作者: 神埼 黒音
二章 黄金の聖女
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三人の夜

 部屋のベッドにルナとアクが座り、楽しげに会話を交わしていた。

 アクはさっき買ったパジャマがあるから当然としても、ルナまでパジャマを持参してるってのはおかしいだろ。

 こいつ、最初から泊まる気満々だったんじゃねぇか。



「管理者権限――《アイテムファイル》」



 俺はと言えば、買ってきた大量の服を収納していた。と言っても、別にタンスに仕舞っている訳ではなく、アイテムファイルへの投入である。

 GAMEでは最大、十個のアイテムしか持てなかったが、管理ファイルの一つであるアイテムファイルには、無制限に投入が可能だ。


 ・純白のドレス

 ・銀のクラウン


 投入したアイテムは一行の文字で記され、何度か実験してみたが、いつでも任意に取り出す事が出来た。

 何だか、アイテムを出したり入れたりしていると、自分が国民的アニメの青タヌキにでもなったような気がしてくるが……。



「良い、アク? 私の事はルナ姉様と呼びなさい」


「聖女様に、そんな呼び方をして良いんでしょうか……」


「私が良いって言ってるんだから、良いの。私が法なの」



 ベッドの上ではルナが指を立て、勝手な事をほざいている。

 私が法って……。

 あいつのプライドの高さは、殆ど病気を疑うレベルだな。と言うか、友達が居なくて寂しいから来ただけだろ、あいつ。



「歳の所為で末っ子になってるけど、本当なら私が一番偉いんだからねっ」


「そうなんですか!?」



 嘘吐け、お前が一番偉かったらこの国はとうに滅んでるわ。

 お姉さんぶりたい年頃なんだろうが、あんな小煩い奴が姉を名乗るなど片腹痛いと言うものだ。

 姉とはもっと包容力があって、お淑やかな存在であろう。


 このまま放っておくと、アクが適当な与太話を信じかねない。

 そろそろ、口を挟むべきか。



「で、狼少女……お前も神都に行くのか?」


「狼……なぁに、それ? ちょっと格好良いじゃない」



 ルナが嬉しそうにこちらへ向く。

 残念ながら、良い意味でも何でもないんだな、これが。



「嘘つき女という意味だ――お前にピッタリだろう?」


「あんたに言われたくないわよっ! この変態魔王! 髪切れ、バカっ!」



 髪と何の関係があるのか……。

 こいつはきっと、口の悪さで聖女に選ばれたんだろう。

 そうとしか思えない。



「大体ね、神都に行くも何も、神都にある聖城が私の家なんですけど?」


「ふむ――なら、我々は別の街に行く事にしよう」


「な、何でよ!?」


「お前と旅なんぞ、考えただけで頭が痛くなる。只の罰ゲームだろうが」


「そ、そこまで言わなくても良いじゃない……」



 はぁ??

 何でこいつ、落ち込んでるんだ……? 機嫌の上げ下げ具合が激しすぎるだろ。

 ジェットコースターか何かか?



「魔王様、そんな言い方は聖女様が可哀想ですよ……一緒に行きましょ?」


「ほんっと、アクは良い子ね。この変態とは大違い!」



 ルナが嬉しそうにアクへ抱きつき、頬擦りする。

 本当にこいつ、友達が居なかったんだろうな。

 その姿を見てると、ちょっと可哀想な気もしてくるが……。



「聖女様、魔王様も優しいんですよ……?」


「何が優しいのよ! 髪は長いし、私のお尻ばかり見てるしっ! 今もきっと、私の桃のようなお尻を虎視眈々と狙ってるんだからっ!」



 前言撤回、やっぱりこいつに同情する余地はないな。

 こんなガキの尻に、何の魅力があるというのか。ついでに言えば、胸もまっ平らであり、滑走路のようであった。

 台風が来ていても離着陸出来る、と確信出来る程だ。



(それにしても、神都か……)



 天使について調べるなら、やはり首都とも言うべき場所に行くべきだろう。

 管理機能の回復を除けば、今の俺が知りたい事は一つだ。



「桃尻、神都で“熾天使”の事を調べる事は出来るのか?」


「やややややっぱり、私のお尻を狙ってるんじゃないっ! お尻魔王!」


「お前が自分で言ったんだろうが……」



 ルナがお尻を押さえながらベッドから立ち上がる。

 その顔は心なしか赤い……こいつはドMか何かなのか? いや、こいつの尻なんて今はどうでも良い。


 俺の見立てでは、あの石像はやはり座天使というやつだったように思える。

 普通に考えて、異世界から何かを転移させるなど、神様レベルの存在でなければ出来ないだろう。

 そして、その神様レベルの存在は――“砂となって消えた”のだ。

 最早、元の世界に戻る手がかりといえば、熾天使という存在しかない。



「あんた、熾天使様を調べて何をするつもり……? 神都で何か悪事を働こうとしてるなら、許さないわよ」


「いきなり魔法をぶっ放すのは、悪事とは言わんのか」


「聖女には悪人を裁く、“権限”があるのっ!」



 その言葉につい、噴き出しそうになる。

 ここでも――“権限”か。

 そういえば、ついでだ。魔法の事もこいつに聞いておくか。



「ルナ、魔法の事を聞いても良いか?」


「な、何よ……急に名前で呼ぶな……バカっ」



 くぁぁ……ミラクルに面倒臭いぞ、こいつ。

 そんなツンデレは、十代の少年相手にやってくれ!

 ダメだ、こいつと居ると自分のオッサンさ具合を感じて死にたくなる……俺だってなぁ、昔はツンデレとかもイケる口だったんだぞ。


 でもな、歳を重ねるにつれ、面倒臭いとしか思えなくなってきたんだよ!

 くっそぉぉぉ……。




 ■□■□




「聖女様、魔王様から頂いたこのシャボンが凄いんですよっ」


「シャボンって……アクったら、随分と子供っぽい言い方するのね。これは石鹸と呼ぶのがレディーなのよ」



 風呂場から聞こえてくる声に脱力する。

 と言うか、壁が薄いのか勝手に聞こえてくるのだ。あれから魔法について幾つか聞いてみたが、ルナとは会話をするだけで困難であった。

 合間にちょいちょいツンデレっぽい態度が混じるので、その度にこっちの精神力がガリガリ削られていくという、殆ど拷問に近い有様であった。


 今は二人で、上機嫌に水風呂に入っている。

 この国は基本暑いので、水に浸かるのが贅沢な事らしい。

 俺からすれば、水風呂だけなどありえない事だ。たとえ真夏であろうと、湯船に浸からない生活など考えられない。



(ともあれ、思案すべき事が多いな……)



 今後の生活――金の事。

 それに、魔法への対策も考えなければならない。



「ほら、凄いキメ細やかな泡が出て、肌がツルツルになるんです」


「あのね、アク。たかが石鹸にそんな効……ぁぅぅっ! 何なのこれぇ!」



 うっるせぇぇぇぇ……考え事もままならん。

 テラスにでも出て考えよう。



「汚れだって凄く落ちますし、香りだって良いんですよ?」


「くっ、あの変態魔王……私はこんな事で屈しないんだからっ!」



 あいつは一体、何と戦ってるんだ……。

 二人の騒ぎを尻目に、テラスへ出て夜の街を眺める。所々に松明のようなものが置かれているが、大きな通りには街灯のような明るさを放つ物も置かれている。

 あれが“光素”とやらを使った魔法らしい。

 魔法はその場だけでなく、あんな感じで――“魔石”とやらに封じ込めて使う事も出来るようだ。



(社会のインフラか……)



 第一魔法というのを使えるものは一生、食いっぱぐれが無いとルナから聞いたが、この光景を見て何となく分かった気がする。

 「火」だの「水」だの、科学がない時代では使い所が幾らでもありそうだ。


 日本ではキッチンでボタンを押せば火が出るし、蛇口を捻れば水も出る。

 ここでは魔法の込められた魔石――がその代わりとなっているのだろう。ファンタジー世界、ここに極まれりだ。



(幾らか、金も稼がないとな)



 正直、そっち方面は余り心配していない。

 GAMEで使っていたアイテムを売れば、それなりの値になるだろう。

 単純に考えるなら《水》だ。

 この国では綺麗な水がそれなりの値段になるらしいが……問題は、GAMEで使われていた水は「体力を二十回復」させるアイテムであった事だ。



(売れば、問題になりそうだよな……他にはないか?)



 暑い国という事を考えれば《吉凶アイス》というものもある。

 これはアイスを食べた後、棒に書かれてある占いでステータスが変化するというものだ。大吉などが出れば気力が回復する優れものだった。

 ……ダメじゃん、絶対これも騒ぎになるじゃん。



(やっぱり、石鹸なのか……?)



 洋酒セット、洋菓子、饅頭、保存チーズ、塩漬け肉、備蓄用缶詰、マンガ肉、様々なアイテムが頭に浮かぶが、全て体力が回復したり、気力が回復するものばかりであった。

 当然、武器や防具は論外だ。



(茶碗や湯飲みってのはどうだ……他にも仏像とか)



 これは良いかも知れない。

 俺の姿は、ここでは完全に遠い国の人間扱いだったしな。

 いっそ、遠国の美術商とかそんな感じで攻めてみるか? ダメだったら……全力で石鹸のセールスマンになろう。


 ちなみに、言うまでも無く、茶碗や湯飲みは攻撃+1のゴミアイテムである。ただ、仏像の方は結構強くて+18の棍属性の武器だったりするが。

 流石に仏像を武器にするやつはいないよな……? 美術品として売る訳だし。



(よし、まずは茶碗を《茶器》と称して売ってみるか……)



 こうして、騒がしい夜が更けて行く。

 だが、時を同じくして、一つの“災厄”がヤホーの街へと迫っていた。




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