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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第4章 魔国の姫君
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第69話 忘れられた兵種

「エスリーの砦、ずいぶんと元の形になってきたなぁ。」


「えぇ...元通りですね。」


 何となくつぶやいた言葉に答えたのはライラだ。

 二人の脳裏には前第四師団長の後ろ姿がよみがえっていた。


 第四師団は現在、エスリーの砦で天幕を張っている。

 砦自体もかつてボロボロだったものが補修され、昔アレイフ達が見たあの大きな壁がある強固な砦が復活していた。


「で、今の状況は?」


 一際大きな天幕の中にいるのは、師団長のアレイフ、カシム、ガレス、そしてライラとランドルフだ。

 副官のウキエや警邏隊隊長のシドは来ていない。

 内政業務を止めるわけには行かない上、警邏隊は本来の南区の治安維持が任務で戦争が任務ではないためだ。なので警邏隊からも特別報酬を約束し、希望したものだけが参加している。

 結果として参加した警邏隊のほとんど亜人になった。


「では、私から。」


 ランドルフが前に出て説明を始める。


「現在、行軍に遅れはありません。夕刻に一度斥候を出し、周囲の確認を行いましたが、敵影はなし。明日、陽が昇ってから再度斥候を出し、今後の措置を考えたいと思っておりますが、当面の目標は南部最大都市であったリントヘイム奪還を考えております。」


「リントヘイムっていったら、ここ以外で唯一城壁のある街だったっけか?」


 ガレスが古い記憶を辿るように声をあげた。


「はい、元々ここ、エスリーの砦より南部はリントヘイムの街を最前線の中心として国境を守る砦、そして砦の内側に守られるようにいくつもの村や町が点在していました。」


「1つずつ、砦や村、町を取り戻すというわけではなく?」


 アレイフの疑問に、ランドルフが答える。


「はい。現時点でエスリーの砦はかなり強固です。守るだけなら数日は元々いる警邏隊の兵でも耐えられるでしょう。なので我々は南部に進行し、まずリントヘイムまでの砦と、リントヘイム自体を取り戻そうと考えています。あとはリントヘイムを中心として、他の砦や町を取り戻していきます。」


「だが、リントヘイムは最南端だろう?そこまでの砦や町を無視すれば背後から挟撃なんて可能性もあるんじゃないのか?」


 カシムの疑問はもっともだった。

 相手はオーク。知能が低いとはいえ、偶然後ろに回られる可能性も否定できない。


「それはほぼないかと考えています。」


「なぜ言い切れる?」


「はい、オーク共は基本的に穴ぐらに住居を構えます。南部ではリントヘイム以外の建築様式は基本的に藁です。手入れなく藁の家が3年も無事とは思われませんし、廃墟となった村に定住することもないかと。なによりオーク達の習性を考えれば集団で町や村に常駐していることは考えにくいです。」


「ようするにリントヘイムに集まっていると?」


「裏付けは明日、斥候からの報告次第ですが、その可能性が高いかと。」


「確かにそれなら、後方まで考えなくていいな。偶然数匹いたとしても、大した問題じゃねぇ。」


「はい、砦などであれば多少生活できるかもしれませんが、数は多くとも10から20程度でしょう。途中いくつか砦の攻略はあるはずなのでそこで確認したいと思います。」


「なんにしても、明日か...他、何かあるか?」


 会議も終わりかと思ったアレイフが声をかけると、ランドルフから手が上がった。まだ話は終わっていないと言いたげだ。


「いえ、行軍については終わりなのですが...1つだけ。なぜ弓兵の隊がいないのでしょう?」


「ん?」


「お?」


「...そういえば。」


 カシムやガレスが不思議な顔をし、ライラが思い出したとばかりに声を上げる。


「兵種の基本は歩兵、騎兵、弓兵です。歩兵は警邏隊、騎兵は1番隊、歩兵は2番隊と理解しています。しかしながら弓兵に該当する兵種がいません。」


 ランドルフはアレイフをじっと見ている。

 対してアレイフは気まずそうに目をそらした。


「えっと、正確には2番隊は重装歩兵になるかな。」


「はい、なので槍を配らせて頂きました。」


 え、そうなの?という意味でアレイフがガレスを見る。


「あぁ、そういえば急に槍を持つようにいわれてな。まぁもともと俺等は槍や斧のやつが多かったから使えるやつのが多かったんだ。大抵槍と剣とか、中距離、近距離が得意ってやつが多かったからよ。一応、半分は槍を持ってるぜ?」


「それは...ランドルフが?」


「はい、私がお願いしました。些事かと思い、報告はしませんでしたが。あぁ、槍の配布に伴い、ウキエ殿には通達しましたが。」


「そうか。ガレスさん、問題は?」


「いや、問題ねぇよ。慣れねぇ武器を使うわけじゃねぇしな。」


「ならいいや、で、弓兵だっけ?」


「はい、なにか理由があるなら教えて頂きたい。」


 ランドルフの言葉に少し間をおいて、アレイフが真剣な顔で答える。


「...ない。」


「は?」


 いつも無表情なランドルフがここにきてはじめて眉を潜めた。


「すまない。正直にいう。弓兵の重要性を知らなかった。だから作らなかった。」


「......。」


 正直に告白したアレイフを見るランドルフの目がすっと細まった。

 そして、ランドルフは一度大きくため息をつき、諭すような口調になる。


「いいですか?弓を使える兵種はとても重要です。遠距離かつ、相手がオークなどの場合は特に、被害なく相手に打撃を与えられます。また相手を一方的に攻撃することで混乱させる効果もあり、突撃する騎兵や迎え撃つ歩兵の被害を減らすことができます。また、砦などの防衛戦では間違いなく必須の兵です。シンサ卿が自軍の被害を最小限にしたいというのであれば早急に弓の兵種を専門とした部隊を作ってください。」


「...わかった。次の徴兵ではそちらを中心に集めるようにする。」


「ご理解頂けたようで何よりです。」


 これで本当に話は終わりかとアレイフが回りを見渡すと、ライラから手が上がった。


「ライラさん、なにか?」


「あの!今回の行軍指揮はシンサ卿がランドルフ殿の助言を受けながら行うと考えてよろしいでしょうか?」


 ランドルフがこちらを見たので俺が答えることにする。


「いえ、各隊の細かな指揮は隊長2人に任せるつもりですが、大きな動きはランドルフに指揮してもらおうと考えています。あと警邏隊に関しては好きに動かしてもらうつもりです。」


「まさかとは思いますが、シンサ卿は前線に出るつもりではないですよね?」


「...出るよ?」


 アレイフが当然とばかりに答えると全員が「はぁ?」という顔をする。


「さすがに控えろよ。もうお前は一軍の将なんだぞ?」


「そうだ。ていうか手柄を取るな。地獄のような訓練をしたんだ、その上手柄までとられちゃ不満が爆発するぞ?」


「...本来、大将は後方で指揮をとるものです。」


「正直、追いかけるの大変なんですよ。シンサ卿に追いつけるのなんて、かろうじてクインとミアぐらいなんだから。ちょろちょろされる近衛の身にもなってください。」


 全員がアレイフに向かって反対の意思表明をする。


「でも、俺が前線に出たほうが被害が...。」


「シンサ卿。」


「ランドルフ?」


「私の計画している戦略にあなたは入っていません。」


「......。」


「それに軍としても常にシンサ卿に頼りきるのは危険です。あなたは後方で”いざ”という時のために待機しておいてください。」


「後方支援ぐらいは...?」


「最初に補助魔法を唱える程度にしてください。」


「...わかった。」


 アレイフは渋々了承した。

 自分が出たほうが被害が少ないという思いはあるが、ランドルフが言うように、自分がいない状態でも戦える部隊じゃないと困るのもよくわかったからだ。

 毎回大将が最前線に張り付いているわけにもいかない。


 アレイフの答えにライラがとても満足そうに微笑んでいた。よっぽど悩みの種だったようだ。


 この日の会議はそこで終わり、次の日より未知の領域に足をふみいれることになった。




<Areif>


斥候に出ていた部隊の報告が上がってきた。


「予想通りですが、周辺の砦や村は放棄され、廃墟と化しているようです。オークの姿は見えません。」


「全く?」


「はい、あぁ...報告ではゴブリンなど低級の魔物は見かけたそうなのですが、オークはいませんでした。ちなみに排除済みです。なので予定通り、リントヘイムに向けて、今日中にある程度行軍してしまおうと考えています。時間短縮のため、敵がいないと思われる砦や町には1番隊が先行して制圧という形を取りたいと思います。斥候はこれまで通り、警邏隊から出します。」


「わかった。近づいたら教えてくれ。」


 そして4日間の行軍は思いのほかあっさりと進んだ。

 出るのは住み着いたゴブリンなどの魔物だけ、オークとは一度も遭遇していない。

 斥候もオークは見ていないらしい。


 だが、リントヘイム目前の砦を制圧し、天幕を張って、斥候を飛ばした後、事態は急変する。


「前方からかなりの数のオークが向かってきます。数は推定...800!」


「...マジかよ。倍じゃねぇか。」


「接敵予想は?」


「距離から推定するに...2時間というところでしょうか。」


「日暮れまでにはこちらに到達しますか...不幸中の幸いですね。」


「迎え撃つのか?」


「当然です。」


 迎え撃つかという俺の問いに、ランドルフが当然と答えた。


 倍の数。それもオークだ。人族の部隊なら倍でもやりようはあるだろうが、相手がオークなら本来どうにもならない差のはずだ。なのでいつもと変わらない表情のランドルフに聞いてみる。


「勝てるのか?」


「負けるとでも?」


 ランドルフは特に自信を感じさせるわけでもなく、当然と言わんばかりに返してきた。


「少々準備が必要ですので、先に指示を出してきます。少し席を外します。」


 そういうと、ランドルフが警邏隊になにか指示を与えながら天幕から出て行った。


「倍の兵数をどうやって...。」


 ライラさんの意見は正しい。普通なら同数でも絶望的だ。


「すげぇ自信だったな。」


「ふん、俺たちだけでも豚どもに遅れなんてとらねぇよ。」


 隊長2人は落ち着いている。


「それにしても、リントヘイムから来たってことですよね?こっちの行軍が察知されてたってことですか?」


「オークがこちらの動きを?斥候なんてできねぇんじゃねぇのか?そんな知恵ないんじゃねーか?」


「偶然じゃねーのか?」


 確かに2人の言うように、オークが斥候を出すなんて聞いたことがない。

 そもそも、陣形などなく、ただ集団を結成するだけで知能はそれほど高くないように見える。魔族か魔物かあやしい種族、それがオークとシュイン帝国ではいわれている。


「こちらにまっすぐ向かってるのか?」


 報告をもってきた斥候に聞いてみた。


「いえ、そういうわけではありません。一部は別の方角に向かっていったと報告もあります。私見ですが、目的地があるのではなく、単にリントヘイムから周りに移動しているだけかと。」


「オークにそういう習性とかあったっけ?」


「私の知る限りはありません。」


 まるで、リントヘイムで何かあったかのような動きだ。


「オーク達の様子は?」


「...様子とは?」


「...そうか、わかるわけないか。」


「はい、遠見の魔道具を使って確認しただけですので、それほど近くで見たわけではないということもありますが、近くで見ても、表情から感情はわかりかねます。」


「そりゃそうだ...。」


 魔物かどうかあやしい奴らの表情から感情なんてわかるわけがない。

 そこでランドルフが帰ってきた。


「遅くなりました。では陣形から詰めましょう。」


「迎え撃つんだろ?」


「ええ。しかし陣形や策は必要です。正面から当たって無意味に被害を出す必要はありません。」


「最小限の被害で?」


「はい。...弓兵がいればもっと良かったのですが。」


「わかったから...それはもう。ていうか、似たようなことなら俺がしようか?」


「魔法ですか?」


「あぁ、被害が減るなら魔法の矢を射かけるが。次に弓兵をつくるなら俺が手伝っても問題ないだろう?」


「...それはそうですが。」


「いや、普通の弓矢ぐらいの射程はあるし、100人分ぐらいの動きはできるとおもうけど。」


「...そうですか、100本は少ないですがないよりはマシですね。今回はそれでいきましょうか。」


「...100本が少ないかな?」


「では策を説明します。」


 参戦許可を得て、満足した俺はランドルフの策に聞き入った。

 なぜ参戦するのに部下の許可を得なければいけないのか、疑問に思ったのは会議が終わってからのことだった。


ブックマークや評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。

これからもどうぞ宜しくお願い致します。


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