第67話 出陣の前に
出陣する前々日、王城の皇帝の元に顔を出して挨拶をした。
今回の遠征で2年前に失った領地のほとんど全てを取り戻すつもりだ。
今回は完全に第四師団のみの出陣となる。
王城への連絡要員は同行するが、今回は第三師団に関してもノータッチだ。
出陣予定を告げ、皇帝陛下に激励されてから王城を後にする。
だが、帰りの馬車を待つ場所で後ろから声をかけられた。
ヘイミング卿だ。謁見の間にはいなかった気がするけど、どこにいたのか。
「偶然だね。シンサ卿もこれから帰りかい?」
「はい、明後日出陣ですので、陛下に最後の謁見を。」
「南区はすごいにぎわいだときいたよ?第四師団の大規模遠征に民も盛り上がってるみたいだね。」
「あまり期待されると後が怖いのですが...ヘイミング卿は?」
「あぁ...私は...ほら、ちょっとした用事だよ。おっと、馬車が来たようだ。」
馬車がやってくる。
紋章から第三師団の馬車のようだ。
だが、気のせいか。前にみた馬車よりかなり小さい気がする。
ヘイミング卿と俺の間で馬車が止まり、扉が開いた。
「あら、アレイフ様。偶然ですね。」
中から出てきたのはイリア嬢だ。
「これはイリア様、お迎えですか?それともこれからお出かけで?」
「お迎えにあがりました。ちょうどいいですし、お茶でも如何ですか?」
「さすがに、出陣前の準備がありますのでそれは遠征から帰ってからということで。」
「そうだ!」
挨拶後、軽く誘いを断ったところで、急にヘイミング卿が大きな声をあげた。
「せっかくだし、一緒に帰ろうじゃないか。」
「それはいいですわね。お送りしますよ?」
「しかし、うちの馬車も...来ました。」
ちょうど第四師団の馬車も着いた。
だがヘイミング親子は2人がかりで俺を馬車に押し込もうとしている。
「いいじゃないか、あの馬車には私からいっておくとしよう。ほら、乗りたまえ。」
「帰り道ぐらいいいじゃないですか。さぁどうぞ。」
背を押すヘイミング卿に、腕を掴むイリア嬢。
半強制的に乗せられてしまう。
...あれ?ヘイミング卿が外から手を振ってる。乗らないのか?じゃあこの馬車は誰を迎えにきたんだ!?
「ヘイミング卿は?」
「私は急に用事を思い出したんだ。帰りは遅くなるから気にしないでくれ。」
「......。」
馬車の扉が閉められ、馬車が動き出す。
これは...ハメられたんじゃないだろうか。
イリア嬢を見ると、目を逸らされた。
「さて、もうすぐ出陣ですね。」
「...あの、なぜ真横に?というかこの馬車、すごく狭くないですか?」
「心配です。無事に帰ってきたら必ず知らせてくださいね?」
「確かいつもはもっと大型の...。」
「そういえば、私もうすぐ卒業なんですよ?」
...おかしい。話しが全く噛み合わない。
「あの、イリア様?」
「なんですか?」
うん。聞こえてはいるようだ。
「席の」
「そういえば、私もうすぐ卒業なんですよ?」
...あれ?
「イリア様?」
「はい?」
「...狭くありませんか?」
「そういえば、私もうすぐ卒業なんですよ?」
...これは卒業について話さないと先に進まないんだろうか?ずっとイリア嬢の顔には貼り付けられたような笑顔が浮かんでいる。
そして、心なしか馬車の速度もかなり遅い気がする。
...動いてるよね?歩いている人に追い越されてるけど!?
「も、もうすぐ卒業なんですね。おめでとうございます。卒業後はヘイミング卿のお手伝いを?」
「いえ、お父様ではなく、国のために尽力しようと思っています。」
「えっと、20日後でしたっけ?卒業は。」
「はい、よくご存知ですね。」
「以前、ヘイミング卿から聞きましたよ。卒業生の代表として挨拶するとか。」
「恥ずかしい限りですが...それでなんですけど、そのですね...。」
なにか言いにくそうにクネクネしている。
だけど、なぜだろう。その仕草が芝居っぽく見えるのは気のせいだろうか。
というかイリア嬢はこんな仕草をするタイプじゃなかった気がする。
「その、卒業となるとですね...やはり。その、なんというか。」
「卒業のお祝いに何かほしいものはありますか?」
一応聞いてみた。
たぶんパーティか何かするんだろうけど、参加できる可能性は低い。
せめて贈り物だけでもと思ったが、どうやら正解だったようだ。
イリア嬢の目が輝いた。
「い、いいんですか?何か催促してしまったみたいで悪いです...そんなつもりじゃなかったんですよ?」
「わかってますよ。それで何か欲しいモノがあるんですか?」
「実は、アクセサリーなどが欲しいのですが。」
「アクセサリーですか...どんな?」
「あら、ちょうどそこにウチのよく知るお店がありますね...少しだけ、ほんの少しだけ寄って行きませんか?本当にすこーしだけです。」
...もはや策謀というかハメられたという確信がある。そして、ほとんど強制イベントなのだろう。時間はあまりないが、お世話になったヘイミング卿のお嬢様が、卒業祝いを欲しいといっている。
それにアクセサリーなら変に悩むより本人に選んでもらったほうが時間も手間もかからない。
どこまで計算なのか、「ダメですか?」と弱々しく呟くイリア嬢に苦笑しながら「行きましょうか。」と答える。
結局、そのあと小一時間付き合わされ、1つのアクセサリーを購入させられた。
「うふふふふ♪」
上機嫌で馬車に乗るイリア嬢はもう対面に座っている。あからさまだが、やっぱりおねだりのために隣に座っていたみたいだ。
「初めて両親以外の方からアクセサリーを頂きました。それもこんな素敵な指輪を。」
彼女が欲しがったのは指輪だった。
というか、あのアクセサリーの店に並べられていたのはすべて指輪だった。
あの規模の店で、指輪以外のアクセサリーが皆無なんてありえないだろう...。
聞いてみると、品切れだと即答されたが...そんな馬鹿な。
たぶん、最初から指輪が欲しかったんだろう。
何から何まで仕組まれているとしか思えないが、まぁ指輪はサイズがあるから一緒じゃないと買ってもらうのは難しいし、正直、良し悪しが全くわからないけど、イリア嬢が喜んでいるならいいかと思ってしまう。
ただ、店員の微妙な笑顔がやけに気になる。
指輪を楽しそうに選ぶイリア嬢に向けられたものというよりは、一緒に選ぶ俺達2人を微笑ましく見ているという感じだった。何か大きな間違いをしてしまった気がしてならないが、指輪を贈ることについて何も意味はないはずだ。
...うん、少なくともこの国では聞いたことない。大丈夫だ。
最終的に買った指輪は、けっこうな額だった。あとでホームに集金が来るから家の者に言っておかないといけない。
嬉しそうに指輪を眺めるイリア嬢を見ながら、馬車に揺られる。そこからホームへの時間は意外と早かった。
最後に、戻ってきたらどこかでお茶会をと約束をし、別れる。
ちなみにこの時、卒業祝いとして贈った指輪が原因で問題が発生することになるのはまた別の話だ。
出陣前日。
準備を終えて時間を見つけた俺は、久しぶりに園に戻ってきた。
もうすぐ夕方。
ドミニク園の門を抜けると、子供達が群がってきた。
忘れられていなかったようでちょっと嬉しい。
お土産を渡しながら中にはいると、ローラ姉さんとカシムさんがいた。
ちなみに、軍に入ってから基本的に部下は全員呼び捨てにするよう言われているが、中々慣れない。特に明確な年上や、元からさん付けで呼んでいた人をいきなり呼び捨てというのに違和感がありすぎる。
...にしても、カシムさん、なぜここにいる!?
「おう、団長、おかえり。」
「あら、今日は本当にお客さんが多いわね。」
元団長に団長と言われるのは相変わらず落ち着かないけど、仕方ない。
「あら?アレイフじゃない。」
顔をだしたのはイレーゼだった。
「レーゼ?あれ、寮は?」
「私だってたまには様子見に来るって。」
「それもそうか。」
「それに今日はなんとなく、アレイフが来るんじゃないかってね。ご飯食べていくでしょ?園長もそんな予感がしてたのか、今日は大量に作ってるわよ?」
子供達に連れられながら、食堂に行くと、園長が出てきた。
「おかえり。」
「...ただいま。」
「食べていくだろう?座りなさい。」
「はい。」
園長は笑顔で迎えてくれた。
食堂を見回すと、子供がかなり増えている。
俺に抱きついてきた知り合いの子供達は半分ぐらいで、残りの半分ぐらいの子供達は誰?っていう顔でこちらを見ている。
「こんばんわ。皆さんの先輩にあたるアレイフといいます。どうぞよろしく。」
全員に挨拶すると、よろしくーっと元気のいい答えが返ってきた。
もう知ってる顔も少なくなったが、ドミニク園は昔のように順調のようだ。
ちなみに、ムドーの関係で保護した子達も数人はここにいる。いくつかの孤児院に分けて引き取ってもらったので、1つの孤児院につき4,5名だったはずだ。
久しぶりに園で食べたご飯はとても美味しかった。
懐かしい、園長の味だ。
子供達が部屋に戻ってからもしばらく園長やローラ姉さんと談笑し、帰る時間ギリギリまで話こんだ。
外は真っ暗。イレーゼをおくって行く必要があったので、カシムさんと2人で行こうとしたら、なぜかカシムさんは先に帰るといって走って行ってしまった。やけにいい笑顔だったのが気になる。
なので、久々にイレーゼと2人で帰り道を歩きだす。
「魔族と戦うんだってね。」
「うん、しばらくは帰ってこれないかな。」
「怪我しないでね?」
「大丈夫だよ。」
なにげない会話をしながら歩くのも久しぶりだ。
学園の話がほとんどだったが、最近イレーゼは、イスベリィ卿のパーティに一緒に来ていた仲のよかった何人かに加えて、先輩のミラ・イスベリィ嬢や、その友人であるツユハ・シルレーミ嬢とも仲がいいらしい。
今度7人で第二師団の見学に行くことになったと嬉しそうに話していた。
楽しそうにいろんな話を聞かせてくれるイレーゼ。
幸せそうだ。
ちょっと変な気分だけど、彼女が幸せそうなら悪くない。
「私ね。治癒師を本格的に目指そうと思うの。」
「治癒師を?...そうか、レーゼらしいね。」
「そう?私らしい?」
「レーゼらしいけど、血を見ると吐くの治さないとね。」
「うぅ、それを今言う?私が夢を語った後に。」
「治癒師なら血なんて日常茶飯事だよ?」
「それは...徐々に慣れる!」
「期待してるよ。そうだね、怪我したら専属で見てもらおうかな。」
「ほほぉー、私は高いよ?」
「そこはサービスで安くしてくれないの?」
「私はえこ贔屓しない主義なの。特にお金持ちからはガッポリとるわ。」
「それは...気軽に怪我できないな。」
笑う俺に、イレーゼが急に真顔になった。
「そうだよ。怪我したら駄目だからね?」
「...わかってるよ。」
真剣な顔に、驚いたけど、なんとか返事をする。
そこからしばらく無言が続いた。
「あ、もう着いちゃった。」
「ここでいいの?」
「いいのも何も、ここの3階が私の部屋。」
「あぁ、ここに住んでるんだ。」
大きな建物の前で上を見上げる。
3階建てだろうか、ここが学園の寮らしい。
「ありがとうね。送ってくれて。」
「うん、またね。」
「...無事に帰ってきてね。」
「大丈夫だよ。」
「帰ってきたら、言いなさいよ?住んでるところ教えたんだから。」
「わかったよ。3階の...見える窓はいっぱいあるよ?」
「一番端、あの窓の部屋!」
「わかった。帰ってきたら一度顔を出せばいい?」
「うん...待ってるからね。」
「はいはい。お土産に期待してください。」
そういって笑うと、イレーゼも笑顔になった。
少し歩いて後ろを振り向くと、イレーゼがまだこちらを見ている。
手を振って歩き出す。早く見えないところまで行かないと、たぶん、見えなくなるまではあそこに立ってるつもりだろう。
昔から気を使いすぎる幼馴染に苦笑しながら、ホームへの帰路を急いだ。
ブックマークや評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。
次は明日予定ですが、いつもの7時投稿ではないかも・・・できるだけ7時投稿がんばります。




