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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第4章 魔国の姫君
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夜話Ⅲ

 薄暗い天幕の中、苦しそうな息をしながら、横になる女性。

 すぐ近くで初老の男性が脈をはかり、難しい顔をする。

 そして、その様子を何人もの人々が遠巻きに見ている。


「よい、下がれ。」


 寝ていた女性が立ち上がり、初老の男性を遠ざけた。

 苦しそうに起き上がる。


「姉様!寝ていなければなりません!」


「姫巫女様、それよりも撤退を進言下さい!戻って療養しなければっ!」


 姉を心配する姫巫女と呼ばれた女性は華奢で、幼い。

 その頭を撫でながら、姉は寝床から身体を起こす。

 天幕に集まる者達の意思は統一されているようだった。

 口々に撤退の言葉を出す。


「静まれ。」


 まだ寝床から半身を起こしただけの女性から、低く、凛とした声が響く。

 唯それだけで場の空気が静まり返った。


「私はもう助からん。」


「そんな!」


「姫騎士様っ!何を弱気な!」


「そうです。故郷に帰れば必ずっ!」


 周りからの声をすべて払いのけ、姫騎士とよばれた女性は強く意思のこもった声を上げる。


「それで、このまま引き下がり戦禍を広げるのか?」


 全員が押し黙る。

 皆、今撤退すれば敵の追撃は間違いなく、戦禍が広がることも明白。それどころか、勢いに負けて大敗となる可能性すらあった。


「しかし、姉様っ!」


「そうです!姫騎士様にはかえられません!」


 また撤退しましょうと周りが騒ぎ出す。

 半身を起こした女性は嬉しそうに笑い、厳しい表情を全員に向けた。


「聞け!これより、この戦いにて大号令を発令する!」


「姉様っ!」


「私は最後まで勝利に尽力しよう。どうせ助からん身だ、少しでも皆の役に立つ。全部族を集めよ。最後の戦いと伝え、終結させよ。」


 その力強い言葉に全員が息をのみ、固まる。

 一人の男が前に進み出た。


「戦場に立たれるつもりか...死にますぞ?」


「元より助からん。それに、この戦いに勝てばもう戦いは必要あるまい?文字通り最後の戦いだ。違うか?」


 その言葉を聞き、男が姫騎士と姫巫女に背を向ける。

 その大きな背は小刻みに震えていた。


「皆の者!聞いたか!これは姫騎士の最後の戦いである!すぐに全部族を集めよ!最後の勝利を姫騎士に捧げるのだ!」


 おぉー!っと声を上げ、出ていく人々。

 その瞳は潤み、中には涙する者もいた。


 誰もいなくなった中、姉妹が残される。


「姉様...。」


「すまない。戦の準備を頼めるか?」


「私達にはまだ姉様が必要です!」


「大丈夫だ。必ず戦が必要ない世界になる。次はお前の番だぞ?」


「私なんて...。」


「姫騎士の私はこの戦いで平和を勝ち取る。姫巫女のお前はそのあと1000年続く平和な街を作るんだ。」


「1000年ですか...長いですね。」


「我らの寿命からすれば1世代ないぞ?」


「そうですね。...わかりました。準備して参ります。」


 そう言って退席していく妹。

 姉は1度咳をして血を吐いた。

 誰もいなくなったのを確認して、声をかける。


「大丈夫かい?」


「あぁ、まだ死なんよ。」


「最後まで戦うんだね。」


「あぁ、でもこれが最後の戦いだ。勝てば平和な世界が待ってる。」


「...そこに君はいないよ?」


「そうだな。だが一族のみんなは...妹はその世界で生きていける。」


「それで、満足かい?」


「不満さ。私も平和というものを味わいたかった。それにまだ30年だ。1000年を生きるハイエルフにしたら早すぎるだろう?」


「そうだね。早すぎるね。けど、君は意思を曲げないんだろう?...それならさ、ボクと契約を結んでもらえないかい?古の契約を。」


「それは私に次代のためにまだ戦えと?」


「もともと君は争いが嫌いな子だったね。無理強いはしないさ。けれど、君のその崇高な意思は必ず次代の力になる。君みたいに平和を望む子達を助けられるよ。」


「...未来のための手助けか、悪くないな。...誤って使われることはないか?」


「ボクが選ぶんだ、そんなことはさせないさ。」


「それもそうか...わかった。契約を結ぼう。」


「ありがとう。」


「その代わり、最後まで力を貸してもらうぞ?私が死んでも暫くは手伝ってくれ。」


「大丈夫だよ。身体が死んでも君の意思は暫く消えない。その間は魔法も消えたりしないさ。」


 姫騎士は安心したように微笑み、ボクの頭を撫でる。


「なんだい?急に。」


「いや...最後まで見ていってくれ。次代に勇敢な私を語り継いでもらわなければならないからな。」


 そして、姫騎士は準備を始め、妹に身体を支えられながら壇上に立つ。


「戦士達よ!今我々は帝国と互角の戦いを繰り広げている。しかし、帝国の奸計により我が身体は毒におかされ、残りの時は少ない!」


 姫巫女に支えられる姫騎士は、いつものような逞しさはなく、儚く、その表情からは死相が感じられる。

 集められた者達は不安そうな顔の者がほとんどだ。


「残念ながら私にはもう先陣を切る力はない。だが私は君達と共にある。我が命尽きるまで我が加護は勇敢な戦士達を守るだろう。」


 そして呪文を唱え、集まった戦士達全員が輝く加護を手にする。


「私はこれより、姫騎士の名において、最後の大号令を発令する!さぁ、戦士達よ!この戦いを最後の戦いとし、平和を勝ち取るのだ!」


 その声に真っ先に反応したのは、姫巫女に撤退を進言していた幹部達だ。


「姫騎士に最後の勝利を捧げよ!」


「戦いを終わらせろ!平和な世界の始まりをお見せするのだ!」


「歩みを止めるな!死しても進め!我らが魂は姫騎士と共にある!」


「死して英霊とならん!進めっ!」


 怒涛の勢いで敵陣に突撃していく兵達。

 その身体には姫騎士が与えた加護に輝いている。


 彼女の命はあと少し、戦いは始まったばかりだ。





 真っ暗な部屋で、目が覚める。

 なんとなくフィーを探すと、頭の上にいた。


「また夢を見たのかい?」


「あぁ...また見たよ。」


「もしかして姫騎士?」


「...よくわかったね。」


「なんていうか...消去法さ。」


「ということは、変な夢はこれで最後?」


「いや、あと1回。けどたぶん最後のはいい夢だよ。」


「そっか。」


 どうやらもう一度見ることになるらしい。

 そこで、ベットの横に置いていたイアリングが光っているのに気づいた。

 目の前に持ってきて緑色の宝石に見立てた細工を押す。


 ザーっという音のあとに、声が聞こえてくる。

 ガヤガヤと騒がしい。


「...うっしゃ!いくぜーーー!」


「イッキ!イッキ!イッキ!」


「負けんじゃねーぞお頭!」


「一番隊なんかに負けるな!」


「二番手が生意気抜かすんじゃねー!」


 ...酒場?

 たぶん、カシムさんとガレスさんの部隊が酒場で飲み比べでもしてるんだろう。

 兵舎内でやってないことを祈ろう。そんなことしていたら明日ウキエさんの雷が落ちるだろう。


「盛り上がってるね。」


「だね...たぶんどっちかが間違ってこれを押したんだろうな。」


「にしても、そのイヤリングすごいよね。」


 このイヤリングはイッヒ男爵の持つ工房で作られ発明品だ。

 風属性の極小魔法陣を内蔵しており、簡単にいうと、離れた相手と通信できる。

 イヤリングには2つの宝石に見立てた細工があり、1つは押すと通信がはじまり、相手の声が聴ける緑色の細工。

 もう1つは、押すとこちらの声も届く状態にできる青色の細工。


 普段は耳につけて使うのだが、寝るときはさすがに外していた。

 試作品で5つしかないのでとりあえず、幹部に配ってみた。

 機能も周りの音を拾って伝えるだけ、あまり複数で起動するともう何を言っているのか音が混じってわからなくなる問題点もあり、実用にはまだ遠いが、画期的なアイディアではある。

 うまく使えばかなり便利になりそうなので、今優先的に開発してもらっている。


「フィーが知る限りこういうアイテムはなかったの?」


「ボクが知る限りはじめてだね。風の魔法を通信に使うなんてね。いま軍に配ってる加護付きの鎧とかネックレスは昔からあったけどね。」


 第四師団ではすでに風の加護付きの鎧やネックレスを配っている。

 イッヒ男爵率いる派閥が大量に製作する伝手を用意してくれたため、一番隊と二番隊、近衛隊には行き届いている。

 予備はあるものの、警邏隊にはさすがにまだ行き届かないので、警邏隊では部隊長ぐらいしかもっていないが...。

 しかも、魔法陣を書くのは俺がやらされている。数をこなすとだんだんと集中力が鈍り、失敗が多くなる。だが終わるまで帰れない。あの負のスパイラルは軽いトラウマだ。

 だが、自分の部下の生存率に直結するので嫌ともいえないでちる。


「また遠征がちかいな。」


「準備が出来次第っていってたね。いつの世も戦いが尽きないね...。無理しちゃだめだよ?あのなんだっけ?つり目の子にも言われたでしょ?」


「ランドルフのこと?」


「そうそう、怖い顔で言われてたじゃん。」


 フィーに言われて先日のことを思い出した。

 ランドルフの実力を見るために、二番隊を連れて盗賊退治に出た時の話だ。

 テレス砦の傍に盗賊団が住み着いているらしく、商人や国の物資部隊が襲われたらしい。

 試しにランドルフに指揮をとらせてみると、鮮やかに解決してしまった。

 被害がほとんどないどころか、けが人すらほとんど出なかった。

 自信通りの人材だったと関心していると、大将が先陣を切るのは効率が悪すぎると諭すように語られてしまった。どうやら以前の俺の戦い方は伝わっているらしい。


 それぐらいなら良かったのだが、近衛のライラとクインがそろって会話に参加してきたため、その後、3対1でほとんど説教状態になった。


「仕方ないだろ。軍略なんて教わったことなかったし。」


「そういえば神格者の子達もみんな最前線に立つ子が多かったかも...。」


「伝統?なら仕方ないんじゃ…。」


「みんな早死にしてるけどね。」


「うぅ...。」


 フィーは満足そうに俺の目の前に移動し、胸を張った。


「君には優秀な仲間がいっぱいいるじゃないか。大丈夫だよ。まだ君は成長途中なんだから無理しなくても大丈夫だって。」


「成長ね...せめて魔力だけでも早く育たないものか。」


「それこそいつ成熟するかわからないよ?大器晩成型っぽいしね、君。」


「そうなの?」


「普通の人よりは多いけど、たぶん君のピークはまだまだ先だとおもうよ?」


「...年老いてから晩成しても遅いんだけどなぁ...。」


「まぁそうだろうけど、そこはボクにもどうにもできないよ。」


「せめて古の契約魔法をもっと使えるぐらいの魔力がほしい。」


「んーボクもそのほうが安心だけど、魔力がないのに無理して使っちゃダメだよ?本当に命に関わるからね。」


「わかってるよ。」


「本当かなぁ...まぁいいや。ほら、明日も早いんだろ?寝ないと。」


「そうだね...おやすみ。フィー。」


 そういって目を閉じる。頭の上にフィーが降り立つ気配がしたが、意識がすっと沈んでいった。


ブックマークや評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。

これからもどうぞ宜しくお願い致します。


次から四章になります。

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