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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第1章 孤児院時代
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猫娘の新たな楽しみ

 うん。病み付きになりそう。


 木刀をもって荒い息をつく少年は、よろけながらも油断なくこちらを警戒している。


あたしから見るとまだまだ隙だらけなんだけれども。


 口に出そうになった言葉を飲み込み、あたしはまた少年の隙を伺う。少年はあまり打ってこない。守るのに必死だ。あたしが攻めないと、にらみ合いの時間が長くなる。

 でもにらめっこはおもしろくない。

 だから、あたしは、すぐに仕掛ける。

 だって、少年は隙をつかれた時の驚いた表情がたまらなく良い。そう。何度もみたくなるから不思議。

 だから手加減しつつも、攻めの手はゆるめない。


 昔、狩りをして生活していた頃のワクワク感に似てる。

 獲物を追い詰める感覚。

 相手の動きを先読みして、相手が予想外の動きで追い詰める楽しさ。

 もっと少年を驚かせたい。


 あたしの攻めに耐えきれず、また地面に転がる少年。

 すぐに立ち上がってまた構えをとって警戒する。

 だいぶ上手に避けるようになったけど、まだまだ。

 あたしからみたら、まだまだ殴り放題だ。


 それでも、最初の頃は何度か打ちこむと、すぐ涙目で動けなくなってたのに。

 最近ではけっこう長く続くようになってる。

 攻めは全然だけど、守りはかなり良くなった。

 あたしのおかげ?

 偉い!あたし。


 依頼の合間に鍛えだしてどれぐらいになるだろ。

 はじめの頃は魔法がすごくて、気づかなかった。


 あたしが気づいたのはパーティを組んで何度目かの依頼をこなした後。

 魔法はすごいけど、体さばきとかがからっきし。

 それどころか、立ち回りはまんま素人。

 ララも魔術師だから全然だけど、それよりずっと、ずーっと悪い。


 そんなんじゃ、奇襲を受けたらすぐに死んじゃう。

 ずっとあたしが守ってあげればいいけど、数が増えるとそうはいかない。

 それに少年の魔法はララと違って距離が短い。

 あたしみたいに、敵との距離が近いから、ララよりずっと危ない。

 だから、あたしが最低限死なないように鍛えてあげないと。


 少年は強くなる。

 あたしは楽しい。


 お互いに幸せ。


 ただ、いっつも付いてくるララはあまり楽しくなさそう。

 暇なのかな。

 なら、ついてこなくてもいいのに。

 あ、でもララがいないと少年の怪我を治せないか。

 さすがにボロボロで帰すわけにもいかないし。

 うん。ララも役に立ってる。

 でも、楽しくなさそう。

 仲間外れが嫌なのかな?

 でも、前に一緒にやるか聞いたら、「必要ないの。」と言ってた。今も見てるだけ。

 なんなんだろう。

 だいたいララは言葉が少なくて分かりにくい。

 少年みたいに分りやすくちゃんと話さないと相手に伝わらないと思う。

 まぁ、あたしも舌足らずで聞き取りにくいとよく言われるけど。


 あ、そうだ。少年じゃなくてアレイフだ。

 まだ呼び慣れないせいか、ついつい少年ってよんじゃう。


 大事なパーティの中核。

 あたしとララに足りない部分を補ってくれるメンバー。


 少年…ちがった。アレイフとパーティを組んでどれぐらいになるかな。


 いくつも仕事をこなした。

 何度も魔物と戦った。

 ちょっと危なかったこともあるけど、大きな怪我はなく、ほとんど成功で帰ってきてる。


 そのおかげか、最近、傭兵団の中でも認められてきた気がする。

 あたしとララだけの頃は5回に1回ぐらいしか依頼を達成できていなかった。

 ライラや何人かは、あたしとララだけでやってるわけじゃないって気づいてる気がするけど、別に構わない。

 だって、アレイフもそのうち傭兵団に入るんだから。

 入る前にパーティを組んだってかまわないはずだ。


 あれ?でもなんでまだアレイフは傭兵団にはいってないんだっけ。

 なんでだったっけ?

 ……まぁいいや。今度団長が帰ってきたらに言ってみよう。

 アレイフならきっと合格するはずだ。


 そしたらここに住むのかな?

 団員は集団部屋が、多いし、パーティも一緒だから同じ部屋とかにならないかな?

 そしたらアレイフのいい匂いがいつでも嗅げる。

 あ、でも男女は別なんだっけ?

 残念。

 けど、今みたいに来るのを待たなくても、こっちから会いに行けるし、近くなる。

 やっぱりそのほうがいい!


 あれ?そういえばアレイフはどこから来て、どこへ帰ってるんだろう。

 聞いたことがないけど、だいたい夜になる前には帰っちゃう。

 匂いを追えないこともないけど、黙って後をつけるのはよくない気がする。

 聞いてみようかな?

 教えてくれるかな?

 嫌がられないかな?

 住んでるとこがわかったらこっちからでも会いに行けるし。

 アレイフはどんなところに住んでるんだろう。


 ていうか、アレイフって長い…。

 何かいい愛称ないかな。

 アレ、レイフ、イフ、アフ。

 ん~なかなかいい感じじゃない。

 あ、レイってどうだろう?

 なんか普通に名前でありそうな気も…いや、傭兵団にそんな名前の人がいた気もする。

 難しい。

 少年が一番呼びやすいけど、他の人は何て呼んでるんだろう?

 ララはアレイフって呼んでたっけ。

 他の人は何て言ってたっけ…たしか、小僧、ガキ、チビ、チビスケ。

 ん~。

 いいや。とりあえず、頑張ってアレイフって呼ぼう。


 そしてまた、地べたを転がる少年、アレイフを見る。

 ん~でも、この攻め方だともう効かないかな…さっきはもう少しで切り抜けられるところだった。

 違うことを考えながらだったけど、アレイフは慣れるのが早い。

 そして、アレイフは本当に成長が早い。

 次は違う攻め方をしてみよう。

 驚く顔が、また見れるかな?


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