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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第4章 魔国の姫君
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第66話 集う人材

 応接室に入ると、ひょろっと背の高い男が立ち上がり、こちらに礼をする。

 20代後半だろうか、短く切られた白い髪、そして細く鋭い目がこちらを値踏みするように見つめてくる。


「ランドルフ・スレイスレと申します。」


「アレイフ・シンサです。」


「お会いできて光栄です。シンサ子爵。」


 向かい合う席に着く。

 俺が座るのを確認してからランドルフも席についた。

 背が低くてわからなかったが、ランドルフの後ろに、10歳ぐらいの幼い少女が立っていた。


「こちらは私の世話人です。お気になさらず。」


 使用人というよりは召し使いに見えるが、小綺麗な格好をした素朴な少女は、目が合うとお辞儀をした。


「...で、話というのは?」


「私を召抱えて頂きたいのです。」


 目を離さず、むしろ射殺すほどにこちらの目を見てくるランドルフ。

 その目には自信が感じられる。

 どうやら使者の類ではなかったようだ。

 気を張って損をした。


「召し抱える...ねぇ。」


 考えるように深く腰掛けるといいタイミングではくが入ってきた。

 俺とランドルフの2人にお茶を置き、扉の近くで直立不動になる。


「いきなり来た相手を雇えるほど余裕はないのだが。」


「兵士を多く雇い入れているときいています。」


「...一兵士として雇われたいなら窓口が違う。そもそも家名持ちということは貴族家か騎士家の者だろう?」


「これは失礼しました。まずは自己紹介させて頂きます。私は南部貴族、スレイスレ男爵の4男になります。以前の第四師団にて中隊長をしておりました。前師団長の最後を飾った戦いにも参加しております。」


「...へぇ。」


 少し興味がわいてきた。

 中隊長は確か最低でも100人程度をまとめる隊長だ。

 前の第四師団では10人程度をまとめるのが小隊長、それを10組程度まとめるのが中隊長だったはずだ。

うちでいうと確かシドが同じ階級だったはず。あとでこの男を知っているか聞いてみよう。


「その後はある領地を持つ貴族家に士官していたのですが、不正を見つけまして。告発しました。」


「ん?」


 話しがおかしくなってきた。


「そして、新たな主としてシンサ卿にお使えしたいと、今に至ります。」


「ちょっと待ってくれ。不正の告発ってなんだ?」


「シンサ卿が先日あげたスラム街に巣食う犯罪者との関係です。あの件が明るみに出た時に、内部を調べ、証拠を見つけましたので告発...正確には領主を捕らえて第三師団に引き渡した次第です。」


「...ずいぶんと忠義溢れる人材だな。国に対して。」


「私が生き残るためです。あのような程度の低い不正をするような者に足を引っ張られるわけにはいきません。」


特に悪びれた様子もなく、ランドルフは、無表情でたんたんと応えた。


「で、うちに来た理由は?まさか沢山雇っていたからとか言わないだろうな?」


 良く言えば帝国への忠誠心、悪く言えば主への裏切り。普通ならここで採用なんてなしになりそうだが、あの自信がどこからくるのか気になった。


「理由は3つです。1つ。第四師団に軍略や策略に秀でた人材がいません。武功や統率力に関しては申し分ありませんが、第四師団の性質上必要なはずです。よって入り込む余地があると考えました。」


 確かに。一番それっぽいのがウキエさんだが、彼は自分であまり軍略は得意ではないと言っていた気がする。しかも今は文官をまとめる立場だ。


「1つ。あなたの第四師団はまだ形ができたばかりで、貴族家や騎士家のしがらみがないどころか、人種の差別もない実力主義です。実力さえ示せば幹部として重宝されると考えました。」


 それも間違いじゃない。

 俺の下にいるものはほとんど無冠どころか、傭兵上がりや亜人ばかりだ。


「1つ。あなたはまだまだ手柄を立てて出世します。第四師団はその性質上、最も多く戦争を経験するでしょう。そしてそれは出世の近道です。」


「...それはどうだろうか?俺は子爵位だが、上というと伯爵や侯爵ぐらいしかないぞ?」


 たしか、公爵は王家に連なる親戚や血縁でないといけないとかいう話があった気がする。

 侯爵も1代でなれるようなものじゃない。あのあたりの爵位は伝統や血筋が大事になってくる。


「あなたはまだ未婚です。婚姻によっては可能性がないわけではない。それに、なにも爵位が全てではありません。同じ子爵や伯爵でも中にはピンからキリまであり、暗黙とはいえ、明確に位があります。」


「...確かに、それはそうだが。」


「我が男爵家ではどれほど武勲を立ててもそれ以上にはなれません。私が頑張っても本家の位が上がるだけです。もし、私が別途爵位を賜ったとしても、私自身は名誉準男爵がいいところでしょう。しかしあなたの下にいれば、武勲によって1代限りの名誉職であっても男爵以上の位を賜る可能性があります。私は上にいきたいのです。」


「家督争いを頑張るほうが近道じゃないのか?」


 これはふと思った疑問だ。

 無冠からスタートするより、自分自身がスレイスレ男爵になってしまったほうが早いのではないかと思ったから。もちろん家督争いは4男では過酷だろうが、野心があるなら普通に成り上がるよりはマシな気がする。

 だが、違ったようだ。

 ランドルフは唇の橋を少しあげてふっと笑った。


「確かに、本来ならそれが一番の近道ですが、沈む船に興味はありません。スレイスレ家はフィードベルト家に忠誠を誓いました。」


「沈む船って...フィードベルト家といえば前師団長の?」


「そうです。今は奥方が当主となっておりますが、没落は目に見えております。男児がおりませんし、領地も与えられましたが、経営はうまくいっていません。」


 今まで、何人か召抱えてくれと言ってきた貴族子弟はいた。

 だが、これほどまでに正直に語る者はいなかった。

 自分の価値に自信あるんだろう。そしてそれが本物かどうか興味がある。

 それに、なにより面白い。


「...望みは?」


「住処とわずかな貨幣。そしてなにより私の実力を確かめる機会を。」


「衣食住はこちらで準備する。2人分だな。近々、実力を確かめる機会もあるだろう。もしダメなら...。」


「すぐにお暇を頂きます。」


「すぐに案内させよう。はく。」


 扉のところに立っていたはくがこちらに寄ってくる。


「はい。」


「新しい部屋の準備を。2人部屋でいいか?少し広めにしてやってくれ。あと...準備が整うまで誰かに施設の案内を。」


「分かりました。こちらに。」


 ランドルフはこちらに頭を下げると、はくの後についていった。

 部屋を出て行くのを見計らって、自分の影に声を掛ける。


すい?」


 しばらくすると、影の中から、赤い髪の少女が姿を現した。

 とりあえず呼んでみたんだけど、やっぱり影の中にいたか...入るところを見ていない気がするが、いつからいたんだろう?


「なにか御用でしょうか?」


 その表情は無表情で動かない。

 メイド服を着ているが、影からでてくる時点で完全に暗殺者だ。


「さっきの男のこと、身辺など調べるようにワッカーさんに言ってくれるか?」


「承知しました。」


 そういうとすいは一礼して、扉から出て行く。

 これで執務室に帰って一息つけると、肩の力を抜いたが、そうはいかなかった。

 すいと入れ替わるように、バンっと扉を叩きつけるように開けたのはウキエさんだ。


「ちょっと、なにしてるんですか!?いつの間にかいなくなって!人数すごいんですから手伝ってください!」


 そういうと、首根っこを掴んで引きずっていこうとする。久々に容赦ないな...。それだけ大変ということか。


「自分で歩くって。」


 執務室に戻る計画は失敗し、ウキエさんに連れられて元非合法奴隷の人達がいる場所に向かった。




 夜になり、やっと解放されると思ったら、前からミアとララがトトトっと、走ってくる。

 あれ?ミアとララの後ろに誰かいる。小さい子?誰だ?

 彼女達の後ろからさらに小さい子が一生懸命走ってきた。


「アレイフ!」


「ん!」


 ミアが名前を呼びながら、ララが無言で抱きついてくる。

 いや、これは抱きつくというよりは体当たりか。

 後ろに数歩下がりながら抱きとめる。

 ...危なかった。ふいにこれが来ると後ろに押し倒されて運が悪ければ頭を打つ。

 昔からこういうときは10回に6回は後ろに倒され、うち1回ぐらいは何かにぶつけるのだ。


「どうしたんだ?2人とも。」


「レアがすごいのにゃ!スジがいい!」


「レアって魔力が結構あるの!将来いい魔法使いになるの!」


 ...レア?...誰だ?

 後ろからついてきたあの子がレアだろうか?元非合法奴隷の子?どこかで見たような...。


「あ、あの...わたし。」


 あ、思い出した。ムドーの部屋にいた子だ。

 ミアに連れて行くように言ってから見てないけど、すっかり仲良くなったらしい。


「えっと、君がレア?」


「は、はい!ミアさんとララさんにつけてもらいました。」


 どうやらレアという名前を付けられたらしい。


「うちで面倒見るから連れて帰っていいかにゃ?」


「お願いなの。」


「...いやいや、犬猫じゃないんだから。」


 名前をつけたり、連れ帰ったりどういうつもりだこの2人は。と思ったんだけど、レアもどうやら2人といたいようだ。


 よく聞くと、元々名前もなく、家族もいないそうだ。

 3人一緒にお願いされたのでまぁいいかと軽い気持ちで許可した。身分は...まだ幼いし、いいか。


 人族、だかずっと奴隷扱いされていたらしく、教育などはもちろん受けていない。

 同じような子達を孤児院に送るつもりだったけど、本人が希望しているなら1人ぐらい面倒を見てもいいだろう。

 ...ただ、あの2人に任せるのはものすごく不安なので、あとではくにも伝えておこう。


 数日後、はくから報告を受けて知るのだが、レアは才女いえるほど優秀な人物だったようだ。

 魔力は人並み以上、文字もすぐ覚え、言葉も見違えるようによくなった。ミアとララの英才教育?いや、わかりにくい2人の感覚言語を読み取り、グングン成長しているらしい。

 ちなみに、この世界のことや言葉ははくが教えてくれた。さすがに2人だけに任せていたらどうなっていたか。

 はくがいうには、数年したら近衛に上げてもいいんじゃないかと思えるほどいい拾い物だと。

 年齢はよくわからないが、だいたい12,3歳ぐらいだろう。

 成長期と重なって才能が伸びたみたいだ。


 成人ぐらいまでは、このままでいいかと思いながら、なんとなく、園に顔を出したくなった。


ブックマークや評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。

これからもどうぞ宜しくお願い致します。


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