第64話 スラム街
やっと風邪が治りました・・・長引いた><
南区の大通りから大きくそれた小道、そこを更に先に進むと、ガラリと街の様子が変わる。
道は舗装されておらず、建物は質素なものとなり、荒廃した様子を晒す。
すれ違う人々も、どこか陰鬱で、そうでなくとも道行く人は少ない。道脇に座り込む者、薄暗い路地でたむろする者。
スラム街
そう呼ばれる街を歩く、場違いな2人組みがいた。
1人は平民の格好だが、それでも汚れのない服を着ており、スラム街では浮く存在だ。
その右腕に絡みつくように身を寄せる獣人の女性が更にその存在を際立たせている。
「ミア、どうした?今日は何か様子が...。」
答えはない。ただ手を緩める気はないらしい。
いや、喉の方でゴロゴロと音が鳴っているから無言ではないけど...目を細めて嬉しそうに右腕に抱きついている。
第四師団本部から大通りを抜けてここに来るまで、いろんな人に目撃された。いくら亜人差別が公的に禁止されたといっても、獣人の女性と仲睦まじく歩く人は珍しいのだろう。
「それにしても荒れてるな...。」
なぜかずっとミアは声を出さずゴロゴロ言ってるだけだ。いつも騒がしいのに、今日は変だ。
でも、体調が悪いようには見えない。むしろ機嫌が良さそうだから不思議だ。
「あ、これだ。」
さっき絡んで来たチンピラに、この酒場がこの辺りで顔をきかせている集団のたまり場だと教えてもらった。
回転扉をあけて中に入る。
客は3人ぐらい、マスターが1人カウンターに立っており、回転扉を開けたときに全員がこっちを見たが、それ以降興味を失ったように顔を背けた。
カウンターに座る。
「ミルクを2つ。」
「...悪いことはいわない。嬢ちゃんと一緒に帰りなさい。」
マスターが顔を寄せて忠告してくる。
「ここは君らが背伸びしてくるようなところじゃない。今なら大丈夫だ。早く帰りなさい。」
「...ミルクを2つ。」
注文を繰り返すと、ため息をついたマスターが戻っていき、コップの準備をする。
このマスターはそれほど悪い人ではないのかもしれない。今なら大丈夫ということは、”今”この酒場には危ないやつはいない。そして”早く帰れ”とは、もうすぐ帰ってくるから帰れ。ということだろうか。
ミルクが出てくると、やっとミアが離れた。
手は握ったままだが、嬉しそうにミルクを飲んでいる。
本当にどうしたんだろう。近くにいることは多いけど、さすがに今日は過剰すぎる。
ドンと派手な音を立てて、回転扉が開く。
扉の方を見ると、絵に書いたように柄の悪い連中が5人、酒場に入ってきた。
お決まりなのか、入口近くの席に座ると、大声で「酒!」とだけ叫ぶ。
マスターがいそいそとジョッキに酒をついで走っていった。
何か話していたが、残念ながらここからは話の内容はわからない。
でも、雰囲気からイライラしているように見える。
しばらく様子を伺いながらミルクを飲む。
あ、意外と美味しい。ミアもさっそくおかわりしていた。
「おう!おめぇら見ねぇ顔だな。そっちは獣人じゃねぇか。」
ミルクに夢中になっていると急に男達がこちらにちょっかいをかけてきた。
話が終わったのか、2人がこちらに近づいてきた。
「なんだ?けっこうな上玉じゃねーか。」
「おい、いくらだ?」
ミアを奴隷かなにかと勘違いしているみたいだ。
そしてミアは無視して、右肩に頬ずりしてくる。
「いくら...とは?彼女は娼婦ではありませんが。」
「おいおい、やめろよ。獣人の娼婦なんていねーっだろ?わかってるって、奴隷だろ。ここに来たってことは、俺らに売り込みにきたんだろうが?」
「まぁ、これぐらいの上玉ならそこそこイイ値で買ってやるぜ?」
ほう...獣人の奴隷がいるのか。犯罪奴隷ではなさそうな口ぶりだ。いきなり当たりかもしれない。
しかも当然のようにいうということは、スラムでは普通にいるということか。
「そうなんですか?失礼ですが、あなた方は。」
「おいおい、俺たちはムドー様んとこのもんだ。で、買ってほしいのはこいつだけかい?」
男の1人が俺の隣に座った。
「...ご要望なら、エルフから人狼、燐族などもいますが。」
「なるほどな...大口か。なら話は早いほうがいい。全員連れてここにきな。いつ揃えられる?」
「数時間頂ければすぐにでも。」
「なら、準備でき次第ここに来い。わかるかここ。」
地図のようなメモを渡される。この辺りの地理には詳しくないので全くわからないが、誰かに聞けばわかるだろう。
こっちの身元確認はないのか、2人とも意外とあっさりテーブルに戻っていった。
残りの3人も俺の方を見ているが、話を聞いてニヤっと笑ってグラスを掲げてきた。
軽く頭を下げて、銀貨を1枚置き、ミアと共に酒場を出る。
スラムの入口方面に歩いていくと、ミアがピクっと反応した。
「後ろからついてくるにゃ。」
「なるほど...何も聞かなかったのは後を付けるからか。」
このままだとまずい、スラムの入口で待ち合わせがある。
仕方ないので、さっと路地に走り込む。
少し広いところに出たので、様子を見ると、1人の男が走り混んできた。
キョロキョロと俺たちを探しているらしい。
だが、酒場にいた5人じゃない、たしか元からいた客だ。
面倒なのでそのままやり過ごして、迂回しながらスラムの入口に到着した。
横道にそれたせいで途中、少しだけトラブルはあったけど、ミアがキレただけというか、まぁ問題はない。死人はでなかった。
スラムの入口にはうちの近衛隊とこの領地を受け持つイスベリィ卿が待っていた。
意外にもイスベリィ卿本人がでばってきたらしい。
スラム入口の広場に整列して皆、大通りの方を見ていたが、スラム側から俺が現れたので急いで走り寄ってきた。
「主様っ!なぜそちらから!?」
「シンサ卿!すでにスラムに!?」
「ミア!お前何を!」
1人だけ俺の右手に抱きつくミアに反応したのはユリウスだ。とりあえず無視して進めよう。
「ちょっと様子見に行ってました。」
そういうと、近衛の方からブーイングが飛ぶ。
「シンサ卿、スラムを掃討されるおつもりですか?いくらなんでもそれは...。」
「いや、イスベリィ卿、そんなつもりはありませんよ。前回のパーティ襲撃、その関係者を調べていくと、このスラムに巣食う非合法な輩が浮かび上がってきたので、潰しておこうかと。一応罪状は非合法奴隷ですかね。」
「そ、そうなのですか...。」
イスベリィ卿はほっとしたように汗を拭う。
「ところで、よろしいのですか?領主自ら...。」
「それをいうならシンサ卿もでしょう。それに私も何もしないわけにはいきません。」
そういうと、イスベリィ卿は私兵だろうか、綺麗にそろった兵をこちらに見せてきた。
「シンサ卿も近衛兵をお持ちでしょうが、制圧に数がいることもございます。うちの兵をぜひお使いください。」
「それは助かります。」
助かるのは本当だ。
今日連れてきているのは近衛の一部のみ。
イスベリィ卿は兵のまとめ役だという隊長を紹介し、去っていった。
さすがに現場には来ないらしい。まぁ来られても困るし、それは本人もわかっているんだろう。
「さっそくなんだが、ここわかるか?」
さっき酒場で取引場所としてもらった地図をイスベリィ卿が紹介してくれた隊長に見せる。
「これは...商人たちが物品を保存する倉庫ですな。ここからそう遠くはありませんが、これがどうしましたか?」
「ここに案内してほしい。あとここの管理者なんかも同時にそちらで調べてもらいたいのだが。」
「了解しました、こちらですぐに調べる人員を出します。」
「よろしく。...じゃあ行こうか。」
着いた倉庫は思ったよりも大きなものだった。
ヘタな貴族の屋敷より大きい。
これはもしかすると、奴隷売買だけじゃなく、もっとやばい物も見つかるかも知れない。
倉庫にはもちろん見張りがいる。
それも筋肉隆々のチンピラではなく、鎧と武器をもった武装兵だ。
私兵か傭兵だろうが、その倉庫だけが他に比べて物々しい警戒態勢になっている。
周囲を確認し、いくつかある出入り口に兵を配備した。
俺と近衛は正面から向かう。
あらかじめ打ち合わせしておいた時間を確認し、倉庫の正面入口に近づいていく。
いきなり現れた集団に、門を守る武装兵がザワザワし出す。
「何者だ!」
「止まれ!」
槍を構え出す兵士達。
「こんばんわ。ムドー様のお知り合いにここへ来るよう言われたのですが。」
「何?...なるほど。」
亜人を連れた男が来ることを聞かされていたのだろうか?武装兵の顔が少し緩む。
「話は聞いている。...だが、冒険者のような装備だな。武器は預からせてもらうぞ?」
「ムドー様はいらっしゃるので?」
「すぐに取り次ぐ。このまま少し待て。」
「それはできませんね。」
「...何?」
「そのムドー様ですが、非合法奴隷の売買、イスベリィ子爵家襲撃などの容疑がかかっています。...お前たちも一味か?それともただの雇われか?」
「...お前、何者だ?」
「質問しているのはこちらなのだけど...しかたない、第四師団の権限でこの倉庫を捜索する。邪魔するものは反逆とみなして無力化、もしくは拘束する!」
驚きながらも槍を構えた門番に、俺の後ろから号令がかかる。
「反逆だ!取り押さえろ!」
門番を無力化していく近衛達。先頭を切った三兄弟に続いて、クインやユリウスも突入していく。
明け方までに終わればいいが...。
そう思いながら俺は後方で控えていたイスベリィ卿の部隊と一緒に門をくぐった。
今日から投稿ペースがまた元に戻っていくのでよろしくお願いいたします。
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