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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第4章 魔国の姫君
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戸惑うメイド長

 今日はひさびさに楽しい時間でした。

 なんていっても、レイ様が初めてパーティに出るのです!

 恥ずかしい格好をさせるわけにはいきません。

 この日のために、サイズだけ測っておき、いろいろと服やアクセサリーを買い揃えました。


 いろんな服を着せて、いろんなアクセサリーをつけたり、いろんな髪型にするのは本当に楽しくて、ついつい時間がたつのも忘れてしまいました。

 意外とオールバックも似合うものです。

 アクセサリーはとても不評だったけれど、イアリングとかモノクルも似合ってたのに拒否されてしまいました。


 すいちゃんと二人がかりでずいぶん時間を使いました。

 ...昔はよく、弟にやっていました。

 2人して、あの子で着せ替え遊びを。

 途中少し鼻をすすってしまったからでしょうか。抵抗していたレイ様もそこからはされるがままでした。

 気を使わせたのかもしれません。


 にしてもです。すいちゃんが最近ちょっとおかしいのです。

 本当にレイ様にべったりすぎるというか、常に側にいようとします。

 そう...レイ様にはいってませんが、最近、すいちゃんがまた無断でレイ様の影に入っているのです。

 同じ種族の私ぐらいしか気づいていないと思いますが、バレたらたぶんお叱りをうけるのは間違いありません。レイ様がいっても、私がいってもいうことをきかなくなってます。

 前はそんなに聞き分けの悪い子じゃありませんでした。

 本人がいうには、自分は師団長付きのメイドだから傍にいる必要があるのだ。とか。

 それにしてはこの前、珍しく呼ばれたときに、運悪く無断で影に入っていたため、出てこれなくて、私が誤魔化しました。

 あれだと元も子もない気がします。

 それに、お風呂上がりのレイ様の影にも入ったままだったことがあり、まさか中まで?と不安になりました。怖くて聞けませんでしたけど...。


 我が妹ながら最近、何を考えているのかよくわからないことが多いです。昔は大人しいながらも真面目で、聞き分けのいいこだったんですが。


 私は出された紅茶をすすりながら、椅子に座っています。


 ここはパーティの控え室。

 馬車の行者は馬車と一緒に別の場所で待っています。

 周りには私みたいな使用人、メイドもいますが、どちらかというと執事さんの方が多いです。

 うちにも執事さんが必要かもしれませんね…なんていうか、お供はそのほうが貴族っぽい感じがします。


 知り合い同士も多いのか自由に雑談しているグループがいくつかありますね。

 楽しそうだけど、私は知り合いがいないので、輪には入れていません。


 それにこの髪の色に、耳を見れば亜人とわかりますから誰も話しかけてきません。

 まぁいいですが、この紅茶美味しいですし。


「あの...。」


 目を上げると、オドオドとした印象を受ける、小さなメイドさんが私の前に座っていました。


「はい、なんでしょうか?」


「えっと、お1人ですか?」


「はい。そうですよ。」


 おかしな言い方をするので笑いそうになったのを堪えて、笑顔を作った。


「どうかなさいましたか?」


「いえ、もしよかったらお話しませんか?私も1人なので。」


 なるほど、パーティの時間は長い、1人で待つのも退屈だから話しかけたというわけですね。

 それにしても、亜人を気にしないのでしょうか。


「はい、喜んで。私ははくと申します。」


「私はイムです。よろしくお願いします。」


 お互い、仕えている相手のことは聞かず、話さず、たわいない話から、趣味の話などいろいろと話しました。

 昔のすいちゃんみたいに人懐っこく、素直でいい子です。


「じゃあ、自分で紅茶をブレンドしているんですか?」


「はい。私の趣味なんです。あまり高いものは買えないので、安物ばかりですけど。」


「いいですね。私はいつもブレンドせずに、そのまま淹れていました。」


「そのままでももちろん美味しいですけど、ブレンドすることで更に引き立つものもありますから面白いですよ。まぁ失敗もありますけど。」


 舌を出して笑う彼女は本当に可愛らしいです。まだ幼いからかもしれませんが。


「そうだ!」というと、突然席をたって、どこかに走っていってしまいました。

 何か用事を忘れていたのでしょうか?


 しばらくすると、彼女は小さなビンを持って戻ってきました。


「これ、よかったらもらってください!」


「これは?」


「私がブレンドしたお気に入りです。」


「いいんですか?」


「はい!今のところそれが一番お気に入りで、いつでも飲めるように持ち歩いていたんです!」


「ありがとうございます。今度試してみますね。」


「ぜひ感想を教えてください。それと今度どこかでお茶でもしませんか?私はムッテイ・ハイキ男爵に使えるメイドです。...下っ端でなんすけどね。」


「ぜひ行きましょう。私はアレ...。」


 その時、待合室のドアがバン!と開き、中に使用人の姿をした人が走り込んできました。

 全員が驚いて走り込んできた使用人を見ると、どうやらパーティ会場が何者かに襲撃されたとのことです。走り混んできた人はこの家の使用人で、けが人はないが、気分が悪くなった人はいるので、その貴族の使用人を呼びにきたらしいです。


 パーティが中止にならなかったことの方が驚きですが、開催した面子みたいなものがあるのでしょう。

 皆自分の主は無事かと、知らせにきた使用人に詰めかけていました。


「すいません、私も男爵様の様子を聞いてきます。」


 イムさんも席を立とうとしますが、続いて、何人かの見るからに貴族という人たちが部屋に雪崩込んできました。


「す、すぐに娘を連れてこい!」


「お、お嬢様は今日遠乗りで疲れたから早めにおやすみになると...。」


「いいから叩きおこしてこいっ!」



「おい!何か贈り物になるようなものを買ってこい!」


「いえ、この時間ですと売っている場所なんて...。」


「ええい!では金を包む!準備しろ!」



「おい!今すぐ娘の手紙を代筆しろ!」


「て...手紙ですか?それも代筆?しかしお嬢様は...。」


「お前が考えて構わん!お茶会に誘うような甘い言葉を綴れ!」



「おまえ!ちょっとドレスを着て来い!娘になりすませ!」


「えぇ!?」



 雪崩込んできた貴族達が使用人に何か命令しています。聞き耳を立てていると、帰る準備とかそういう話ではなさそうです。すごく無茶を言ってる人もいますが、何があったのでしょう...。

 イムさんと顔を見合わせていると、ドスドスと恰幅のいい男性がイムさんの方へ近づいてきました。


「イム!」


「だ、旦那様?」


「うちの茶葉をもっておらんか?最高級品を!」


「い、いえ、さすがに最高級品は持っておりません。」


「では手に入らんか?どこかで...急いでおるのだ!取りに帰る時間はさすがにない!」


「何があったのですか?」


「すまん、時間がない!パーティが終わるまでに贈り物をしたいのだ!どうにか探してきてはくれんか!」


「わ、わかりました。茶葉ですね?」


「うむ、金はかかっても構わん。ほれ、わしの紋章だ。」


「はい、確かに。それでは、はくさん、すいませんが失礼します。」


「話しておるところすまんが、緊急でな。」


 貴族がツケでの支払いに使うときいたことがある紋章の入った革の財布のようなものを渡されたイムさんが駆け出そうとしています。

 それにしても使用人に謝るなんて、この男爵様もいい人そうです。

 たしか、ハイキ男爵でしたか。


「いえ、お気になさらず。」


 私はハイキ男爵に失礼のないよう礼をして、イムさんに向き直った。


「イムさん、私はアレイフ・シンサ子爵のもとでメイド長をしております。また今度ぜひ。」


 その言葉で場の空気が変わりました。

 具体的にはいくつもの視線、雪崩込んできた貴族達の視線が、私を突き刺すように見ています。

 なにかおかしなことをいったのでしょうか。それともレイ様が会場でなにか良くないことを?

 そして恐ろしいぐらいに静まりかえった待機室で、指示を受けていた使用人達が私と自分の主を交互に見比べています。


「お、お主、シンサ卿の家のものか!?」


 ハイキ男爵が震える手で私を指差します。

 まさか、レイ様、本当にパーティ会場で何か問題を...。

 少し冷や汗を流しながら、ハイキ男爵に答えます。


「は、はい。アレイフ・シンサ子爵は我が主です。」


 この部屋に雪崩れ込んできた貴族達が今度は私の周りに雪崩込んできた。


「シ、シンサ卿はやはり同年代ぐらいが好みか?」


「シンサ卿は何かお好みのものはおありかな?知らぬか?」


「それより女性の好みはどうだ?年上と年下どちらか好みなのか?」


「そもそもシンサ卿はどこに住んでおるのだ!?面会を求めようにも屋敷がわからん。」


 圧倒されながら、答えられるものには答えを。わからないものは曖昧に答えます。

 質問攻めは尚も続き、その中にはハイキ男爵もいました。


「すまんが、すぐに手紙を書かせるゆえ、渡してはくれぬか?」


「贈り物も渡してかまわんか?」


「この後、シンサ卿の予定はどうだろうか?」


「まてまて、さすがにこの時間は失礼だろう、明日は空いておらんか?」


 結局私は、大量の手紙と贈り物を抱え込み、第四師団本部にレイ様が住みこんでいることをバラしてしまいました。


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