第62話 混乱は突然に
会場に響き渡る悲鳴。
それに紛れてフィーがひさびさにテンション高く「テンプレきたーーー!」と意味のわからない言葉を叫んでいる。
何かと全員が悲鳴のした方に目を向けると、そこにはイスベリィ卿の首もとにナイフを添える一団がいた。
全員黒ずくめ。人数は10人程度。
だがイズべリィ卿をはじめとして、他にも1人の人質がいた。
身なりからしてイスベリィ卿の奥方だろうか。
「でかい声を出すなっ!」
「全員、そっちの端に集まれ!抵抗したら殺すからなっ!」
周りをみると既に扉の前には仲間と思われる黒ずくめが固めていた。
「お父様っ!?」
「ミラ様、ダメです。とりあえず黙って従いましょう。すぐに異変を察知して国軍の方々がいらっしゃるはずです。」
取り乱しそうになるミラ嬢をイリア嬢がなだめる。
「とっとと集まれ!」
イラついているように見える黒ずくめがロッドをこちらに構えていた。とりあえず、全員が黙って従う。
人質はともかく、黒ずくめがこれだけの人数でここにいるということは内通者がいたことは間違いない。
使用人や護衛の兵士の中に黒ずくめの仲間がいるということか...。
不安そうなイレーゼとその友人。
パーティ参加者が1箇所に集められたあと、黒ずくめの中心人物らしき人が、前に出た。
「我らは、領地解放戦線である!このイスベリィ子爵は愚かにも、第四師団という国の犬に尻尾をふるため、スラム街の解体に乗り出そうとした!力には力を!弾圧には反発を!我らはやられる前にやる!」
「ちょ、ちょっと待ちたまえっ!私はスラム解体など行おうとしておらんっ!」
捕まったままのイスベリィ子爵が大声で否定する。
「黙れ!これは信頼できる筋からの情報である!」
...その筋が黒幕ということかな?
あのリーダーらしきやつは知っていそうだ。
それにしてもスラムか...話には聞いてたけど、一度視察してみるのもいいかもしれない。
「本当だ!信じてくれ!」
イスベリィ子爵が尚も反論するが、ナイフが自分の首に近づけられ、押し黙る。
「我々の目的は、スラムの自治である!貴族に支配されることない独立を宣言する!」
それは無理だ。帝国内にある以上、独立はまず許されない。
ていうか、ここで宣言してもしかたないと思うんだが...やるなら王城でやれよ...まぁ、すぐに捕まるだろうけど。
ここにいるのは人質をとるメンバーのそばにいる10人と、扉のところにいる人数、あと、内通者で20人というところだろうか?
何かの組織の末端と考えるべきか。
なかなか口が軽そうだし、黙っていればまだまだ情報が漏れそうだな。
「諸君らには国との交渉の人質となってもらう!ここから我らの戦いがはじまるのだっ!」
なるほど...国を脅迫するつもりか。
たぶんだけど、こんな強行を行ってまともな交渉が出来るとは思えない。
「頭っ!そろそろいいか?」
「もう我慢できねぇ!」
「景気付けしていいだろ!?」
「わかった、わかった。長丁場だからなっ!とりあえず数人にしとけよ?」
黒ずくめの数人が俺たちの方に近づいてくる。
「おい、こっちにこい!」
「きゃぁ!」
「おぉ!でっかい胸だしやがって...おめーもだよ。」
「は、放しなさい!」
「俺はこいつだ。」
「な、何?嫌っ!」
数名の女性が連れて行かれる。中にはミラ嬢もいる。
「ミ、ミラ!やめろ、何をするつもりだ。娘や来賓に手を出すなっ!」
「ちょっと俺たちの時間潰しに付き合ってもらうだけだよ。...ん?ミラ?お前の娘か?おい!その娘、特に可愛がってやれ。」
「へい!」
連れて行かれた女性に男が群がって身体をまさぐろうとしている。
所詮は末端のチンピラか。ここまでだな。
俺はすっとイレーゼに近づき、「ごめん。」と呟いた。
驚いて顔でこちらをみるイレーゼを無視して、人垣をかき分け、前に出る。
「風牢。」
女性に群がっていた黒ずくめと、1箇所に集めた俺たちを見張っていた黒ずくめが地面に叩きつけられるように激突する。
上から押さえつける圧力を強めにしたから誰も身動きできない。
「な、なんだ!?お前!?」
風を制御して彼らが持っているナイフの柄と刃を真っ二つに分ける。これでとりあえず人質は無事と。
入口を固めていた黒ずくめが焦ったのか剣や杖を構えようとするが、風牢で地面に叩きつける。
残った黒ずくめは目の前で人質を抱えている3人だけだ。
「ば、馬鹿な...いったい何が!?お前、お前がやったのか!?」
人質に柄だけになったナイフを突きつけながら黒ずくめが声をあげているが無視する。
「イスベリィ卿、あそこにいる使用人か兵士の中で確実に信用できるものは?」
内通者の可能性が少ない使用人か兵士を教えてもらうため、イズベリィ卿に確認する。
「そ、そこの使用人は長年私に仕えてくれているものだ。」
イスベリィ卿が指名したのは初老の執事だ。
「全員動くな。今動くものは内通者とみなし、身分にかかわらず無条件で拘束する。そこの執事さん、悪いが、外に行って第四師団の警邏隊を連れてきてほしい。この時間なら真横の詰所にいるはずだ。」
指示された執事は拘束されている黒ずくめの横を抜けて出て行った。
警邏隊は詰所と詰所の間を定期的に巡回するのが仕事になっている。
詰所は小さな建物で、何かあった住民はそこに駆け込めばいい。
この貴族低の真横にも詰所があったはずだ。
「一応聞くが、内通者は誰だ?」
「な、何言ってやがる。」
「その2人を放して、膝をつき手を頭の後ろにあてろ。あとお前は内通者を話せばここでは手荒なことはしない。」
「だ、黙れ!お前はなんなんだ!」
面倒になって、黒ずくめの顔の辺りの空気を奪う。
制御が難しい上、動き回る相手には使えないが、人質を取って動けない黒ずくめには効果が絶大だった。
急に呼吸ができなくなり苦しみ出す黒ずくめ。
もちろん、その隙に脱出する人質2人。
人質を失った黒ずくめは膝をつき、腕を頭の後ろに付ける。
「一応もう一度聞くけど、内通者は?できればせっかくのパーティ会場で拷問などしたくない。」
「何をいって...。」
これで黒ずくめは全員拘束済みだ。
あとはいるであろう内通者だが...。
どうしようか考えていたところで、扉から第四師団の警邏隊が剣を持ち、突入して来た。
8人の警邏隊は入るなり、俺の顔を見て、剣を鞘に納め、膝をつく。よかった。俺の顔を知っているやつで。
「し、師団長閣下、お手を煩わせまして...。」
「偶然居合わせただけだ。順に魔法を解くから拘束して。ん?2人少なくないか?」
「はっ!2名は応援と報告に走らせました。」
「そっか、とりあえずこいつら全員牢にぶち込んどいて。」
「はっ!」
警邏隊が縄で拘束を始める。
黒ずくめの中心だった男は、俺の方をみて...「第四師団長?」と口をパクパクさせている。
最後に一度だけ聞いておこう。
「内通者は?」
「...あ、あそこにいるメイドです。」
「拘束しろ。」
「はっ!」
人質の中から内通者と告げられたメイドが捕まる。
にしても、なぜ急に内通者を吐いたのかが気になり、罠の可能性を考えて、黒ずくめの男に近づくと、男は急に震えだし、頭を床にこすりつけた。
「ど、どうかお許し下さい!なんでも話します。どうか命だけは!...どうかっ!」
黒ずくめの男は涙と鼻水で顔を濡らし何度も頭を床に頭を擦り付ける。
...さすがに、この反応から嘘とは思えなかったので、そのまま警邏隊に拘束させた。
にしても、なぜあんなに怯えられたのか心当たりがないんだけど。
「あの、調書などは...。」
「いい。あとで俺が提出する。連行したら通常任務に戻れ。」
警邏隊が連行しながら去っていく。
「イスベリィ卿?」
「...シンサ卿...ですか?どうしてこんなところに...。」
「お初にお目にかかります。アレイフ・シンサです。友人に誘われて参加していたのですが...とりあえず、片付きましたので彼らについては後日時間をとってください。今日はこのままお任せしても?」
「はい...お心遣いに感謝します。」
イスベリィ卿は俺から離れると、会場全体に聞こえるよう大きな声を張り上げる。
「少々無粋な邪魔がはいりました。気分直しというわけではありませんが、私が秘蔵の銘酒をお出しします。どうぞ今しばらくおくつろぎ下さい。気分がすぐれない方は別室を用意いたします。近くの使用人にお申し付けください。」
そして、俺のほうをチラっと見る。
「今、この会場はこの南区でもっとも安全な場所となっております。どうぞご安心ください。」
てっきりパーティを中止するものとおもって任せたんだけど...なるほど。貴族とは利用できるものはなんでも利用するようだ。
こんな状況でパーティ続行とは豪胆な。
さて、居心地が悪くなったので帰ろうかと思っていたが、そういうわけにも行かなくなってしまった。
「おい!どういうことだ!?イレーゼ!」
「ちょっと、幼馴染って...え!?」
「マジかよ...。」
「わ、私ちょっと話してくる!コ、コネを!」
「え、ちょっと!」
イレーゼと友人たちが何か騒いでいる。
「さすがですね。本当に数分で片付けてしまうなんて。」
いつの間にかそばにイリア嬢が隣に立っていた。
「これだけでも来たかいがあるというものです。」
「そういえば、先ほどレイと紹介されていましたが、あれは?それに今日はどうしてまたパーティに?」
「レイは私の...まぁ愛称のようなものです。このパーティには先ほど言った通りですよ。幼馴染に誘われまして。」
「あの方ですか?」
イリア嬢が指差す方向からイレーゼとその友人が近づいてくるところだった。
「あの...アレイフ。」
「ごめん。」
「いや、いいよ。仕方ないし。でも、もう一度紹介させて。」
そう言うと、イレーゼは自分の友人達に向き直る。
「ごめん。実はアレイフとは同じ孤児院出身の幼馴染なの。いつの間にか出世しちゃったけどね。」
「アレイフ・シンサです。どうぞお見知りおきを。」
イレーゼに合わせてもう一度自己紹介をする。
「え...えっと、私はっ!」
「お、いや、わたしはっ!」
「普通にしてください。変に敬語なんかも必要ありません。レーゼも使ってないでしょう?」
「そういえば私、普通に話しちゃってるね。相手は貴族様なのにね。」
「本人が自覚ないからな。気にされるほうがしんどいよ。」
俺とイレーゼは笑い合うが、その友人達は緊張した表情を向けていた。
「お二人は仲がいいのですね。」
「長い付き合いですからね。」
「できれば私にもご説明頂けますか?」
話に入ってきたイリア嬢に言葉を返すと、別の方向からまた声がかかった。
いつの間にかミラ嬢が近くまで来ていたらしい。
先ほどイリア嬢に行った説明をそのままミラ嬢にもする。
「では、イレーゼさんがシンサ卿を?」
「はい。」
すると、ミラ嬢はイレーゼの手を両手でぐっと掴み、顔を近づける。
「ありがとうございます。まさかこんなお心使いを頂けるなんて。」
「え?...いや。」
突然のことにイレーゼが少し下がろうとするが、ミラ嬢は手を離さない。
「これからもぜひ、仲のいいお友達でいてくださいね。」
「え...。あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
「じゃあ、ちょっとお借りますね?最高の贈り物をありがとう。」
「借りる?...何をですか?」
笑顔でイレーゼに迫ったあと、ミラ嬢がこちらに向き直る。
「お久しぶりです、シンサ卿。今日は本当に、いろいろとありがとうございます。」
「いえ、お気になさらず。」
「少々お時間宜しいでしょうか?お父様も話したがっていましたので。ほんの少しです。」
「はぁ...。」
一応、バレた以上、主催者にはきちんと挨拶すべきだろう。
さっきちょっと話したが、まぁいいか。
ミラ嬢が引っ張られるまま後をついていく。
周りの目が痛い...。
「お父様!」
「ミラ!でかした!」
すごい笑顔で迎えられた。抱きつかんばかりに手を広げて、あ、ミラ嬢と抱き合っている。
仲のいい親子だ。
「シンサ卿、改めまして、私はレニット・イスベリィと申します。此度はよく我が娘のパーティに...。」
「そのような礼はお辞めください。私は成り上がりものです。歳も下ですので、どうかかしこまらずに。...こちらこそ友人に連れられ、図々しくも楽しませて頂いています。」
膝まづこうとしたイスベリィ卿を止めて、こちらが先に貴族の礼をする。
「いやいや、パーティ嫌いのシンサ卿がまさか会場にいるとは思わず、先程も本当に助かりました。」
「先ほどの件に関しては後日時間を設けてください。それと、パーティ嫌いとは?」
「もちろんです。はて、シンサ卿はこれまで貴族のパーティには参加しておられなかったかと。」
「はぁ...なんというか、誘われていませんからね。」
「そんな、まさか。」
「私は新参者ですから。懇意にしているのも一部の方々だけですし。しかし、今日のパーティは楽しませてもらっていますよ。料理も美味しいですし。」
「それは良かった。もしよろしければ今度お茶会などもいかがですかな?」
「いいですね。時間があえばぜひ。」
「それは楽しみですね。」
マナーとして相手にニコニコしながら、当たりさわりなく答えていく。
にしても、ずいぶんグイグイくるな。
そしていつの間にかミラ嬢も会話に参加している。
「ミラとは今日初めてですかな?」
「いえ、前に学園で...。」
「お父様、学園の式典前に時間がありまして、話す機会を頂いていたので、今日で2回目になります。」
「そうか、せっかくなので少し2人で回ってきてはどうだ?年齢もちかいし、シンサ卿を案内して差し上げなさい。」
「えっと、案内?」
「それはいいですね!私の知り合いにも紹介させてください!」
「えっと...。」
有無を言わさず、ミラ嬢に腕を掴まれ連行される、後ろから笑顔で、見送っているイスベリィ卿はとてもにこやかだった。




