第61話 貴族のパーティ
珀の着せ替え人形にされて数時間。
やっと服装が決まったらしく、解放される。
最終的にあまり目立たない、どちらかというと軍人っぽい服装に決まった。最後までモノクロをつけるかでずっと悩まれていた。
夜まで時間があるので、執務室に戻ると、ウキエさんが仕事をしていた。
「あれ?今日はパーティに行くんじゃないんですか?」
「行くよ。けどまだ時間あるし。」
そういって机に向かい、書類に目を通す。
少しでも進めておかないと後がしんどい。
「面倒でしょうけど、きちんとやってきてくださいね。イスベリィ子爵家とも仲良くしておいた方が何かと面倒事が減りますし。」
「あの辺りは最近だっけ?うちが引き継いだの。」
「そうですね、先月からですからまだそんなに経ってないですが、特に問題は起こってないはずですよ。」
「そっか。まぁ今日は直に呼ばれたわけでもないからのんびりしてくるよ。」
「そうですか。まぁ仕事が滞らないぐらいでパーティにも出て、なるべく貴族達をまとめてください。そしたら私達の仕事もだいぶやりやすくなります。」
そういう希望を聞きながら珀が呼びに来るまで仕事を続けた。
結局、馬車で移動して、イスベリィ子爵家に着いたのはパーティが始まる時間の少し前だ。
「珀...じゃあ行ってくるから。」
「はい、いってらっしゃいませ。私は控え室にいますので、帰るときにお声をおかけください。」
出席者が貴族の場合、執事やメイドが会場まで同伴し、控え室に待たせるのが当然らしい。
今回は珀がついてきてくれたので、待っておいてもらう。
そもそも入口すら違うようだ。珀に見送られながら来場者用の入口で周りを見渡す。
他の参加者だろうか?ぞろぞろと入口に移動している。
さて、イレーゼはどこだろう。
キョロキョロしていると、5人で話していた団体の中から一人の女性がこちらに小走りによってきた。
「アレイフ。よかった。来てくれたんだね。」
「...レーゼ...か?」
正直自信がなかった。
黄色のドレスを纏った女性は、よく知る幼馴染ではなく、綺麗な淑女だった。
髪型も、化粧も、なぜか物腰まで違うように見える。
「恥ずかしいな...ミラ先輩が直々にメイクしてくれたの。どお?」
「すごいな。一瞬誰かわからなかった。」
「うふふ。そう?綺麗?」
「ああ。綺麗だね。」
今日のイレーゼはやけに機嫌がいい。
普段ならこんなこと聞いてこないのに。
「あ、そうだ、あそこにいるのが王立学園の友達...あのさ、悪いんだけどアレイフのこと、レイって呼んでもいい?」
「いいけど、顔でバレない?」
たぶん、第四師団長と幼馴染だということを隠したいんだろう。
「大丈夫だよ。第四師団長の顔なんて誰も知らないって。悪いけど、お願いね。」
「他は?それだけ?」
「うん。大丈夫。いこっか。紹介するよ。」
イレーゼに連れられて、男女2名ずつ、4人のところへ向かっていく。
「ごめんね、こっちが私の幼馴染でレイ。国軍に勤めてるの。」
「はじめまして、レイといいます。どうぞよろしく。」
笑顔で挨拶したが、反応は様々だ。
「...グレインだ。」
なぜか睨まれている。
そのグレインを押しのけるように2人が話しかけてくる。
「ごめんねーこの子、ちょっとヤキモチを...私はシュル。イレーゼの親友よ。」
「女々しいやつなんだ。気を悪くしないでくれ。俺はルメットだ。」
「女々しいってなんだ!」
「はーい。そこまで。私はトルン。よろしく。」
ルメットにつっかかろうとしたグレインを邪魔するように、間に入ったのがトルンという子だ。
一人を除いて社交的だ。イレーゼはいい友人に恵まれているらしい。
「とりあえず、中に入りましょう。ここだと邪魔になるし。」
トルンはそう言うと前を歩く。
彼女がこのグループの中心人物なのだろうか。
「レイは国軍だって?俺らと歳変わらないように見えるけど、成人してすぐ兵になったのか?」
「まぁ...そんなとこですね。」
好奇心を隠そうともしていないルメットが質問してくる。そしてシュルが続く。
「で、イレーゼとはどういう?ただの幼馴染?」
「そうですよ。」
「連絡とってたりは?」
「してませんでしたね。」
「あれ?じゃあ、ほとんど会ったりしてないの?」
「レーゼが寮に移ってからは2回目ですね。あったのは。」
嘘にならない程度に答えを返す。
ルメットとシュルの2人の質問攻めがすごい。
「この前偶然あったのよ。それでちょうど良かったから誘ったの。」
イレーゼも仲間に入ってきた。
助かった。あまり騒がれるとボロが出かねない。
そこからは何気ない会話をしながらパーティ会場に移動した。
...終始グレインがこちらを睨んでたり、不機嫌そうに突っかかってきたけど、なんなのだろう。
最初にイスベリィ卿の挨拶があり、娘のミラ・イスベリィ嬢が続けて挨拶する。
立食形式になっているので、その後は適当に料理をとったり、知り合いのグループで歓談したりと皆自由に過ごしているようだった。
どういう順番かはわからないが、ミラ嬢へ挨拶...たぶんお祝いだろうけど貴族達が順にイスベリィ親子の元に向かって行く。
まぁ、こちらには関係なさそうか。
「すっごいねーお貴族様のパーティは。」
「だな。豪華というか...上品だな。」
驚いているのは、シュルとルメットだ。2人は仲がいい。
「この料理はなんというのだろう?」
トルンという子は完全に食事に意識がいっている。
たぶん、食べるのが目的なんだろうな。
イレーゼはグレインに料理を勧められたり、飲み物を進められていた。
断りながらも、イレーゼも楽しそうだ。
途中で、ほったらかしになっている俺を気にしてたけど、気にするなと身振りで伝えた。
自分の知らない相手とイレーゼが親しげに話している姿は、不思議な感覚だ。何て言ったらいいかわからないけど。
俺もせっかくなので、料理をとって食べてみる...おいしい。
パーティって席が決まっていて堅苦しいイメージだったけど、こんな風に歩き回れる形式もあるのか。
会場をキョロキョロしていると、ふっと、見知った顔を見かけた...。
...よし、見なかったことにしよう。
「なぁ、あれって3年のイリア様じゃないか?」
「あ、本当だ。」
グレインとイレーゼが気づいてしまったようだ。
「なになに?」
「お、神弓のイリア様じゃないか。トルン、知り合いだろ?」
「あ、ほんとだ。1人みたいだね。声かけていい?」
残りの3人も気づいた。
トルンという子はイリア嬢と知り合いらしい。
というか、先輩なのに様付けで呼ばれてるみたいだ。
俺はさりげなく距離を取った。料理を取る振りをしながら...。
5人がイリア嬢と話しはじめた。
それにしても、神弓ってなんだ?そんな異名がついているんだろうか。
「あ、ちょっとこっち来て。紹介しますね。私の幼馴染のレイです。」
イレーゼがいらない気を回した。
ダメだ...その人にあったらバレるよ!っと伝えたいがもう遅い。
こういうときに意思疎通できる魔具とか開発できないものか...今度相談してみよう。
現実逃避しかけたが、ここで考えるのを放棄すると終わりだ。
近づいていくと、イリア嬢が気づいたようなので、とりあえず先手を打とう。
「はじめまして、レイといいます。イリア様。」
先手さえ打てば、謀略を得意とするヘイミング家の人だ。
うまく合わせてくれると信じていたけど、イリア嬢はそこまで臨機応変な人ではなかったらしい。
キョトンとした顔をしてるいる。
「アレイフ様?こんなところお会いするとは偶然ですね。それにしても、はじめましてとはどういう意味ですか?」
イリア嬢の目がすっとほそまった。
まず、イレーゼが固まる。
イレーゼの友人4人も、「ん?」という顔をして俺とイリア嬢を見ている。
...どうしよう。
「あの...。」
イリア嬢が何か話す前に、救世主?が現れた。
「あら、皆さんここにいたんですか?パーティは楽しめています?」
ミラ・イスベリィ嬢が登場した。
全員が、お礼とお祝いを順に述べていく。
そして、ミラ嬢の目が俺で止まる。
「...あら?」
「か、彼は私の幼馴染でレイといいます。その...今日はせっかくのお招きだったので、彼も誘わせて頂きました。」
「初めまして、レイといいます。本日は誠におめでとうございます。」
「...ありがとうございます。どうぞ楽しんでいってください。」
そう言いながらもミラ嬢が俺の顔をまじまじと見ている。
ミラ嬢に顔をさらしていた時間は短い。さすがに確信も持てないだろう。
「先ほどからレイとは何のことを」
イリア嬢が不思議そうに俺に問いかけようとした言葉は会場に響く、悲鳴で掻き消された。




