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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第4章 魔国の姫君
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第59話 師団長講話 下

 10分間のイベントを終えて、トリッシュ殿下の立っている声の拡張魔法がかかった台の方に移動する。


「えっと、師団長も、参加された学生のみなさんもお疲れ様でした。予想以上に見ごたえのある内容でした。残念ながら、師団長は無傷のようですが、善戦だったと思います。とりあえず、こちらに集まってください。このまま、師団長より少しお話を頂きましょう。」


 すっかり司会進行になってしまっている殿下が拡張魔法のかかった台を降りながら、こちらに近寄ってくる。


「さすが...ですね、本当に無傷ですか?」


「はい、最後のはかなり驚きましたけどね。」


 俺が正直に答えると、王女は少し意外そうな顔をした。


「無傷なのに、驚いたんですか?」


「ええ、まさかあそこまで...見事だと思います。それに耳はまだグワングワンいってますし。」


「では、ちゃんと褒めてあげてくださいね?」


「ですね。しかし、失敗しました。せっかく用意してもらった商品がもったいないですね。」


「大丈夫ですよ。大人気なく無傷で帰ってくる可能性も考慮していましたので大丈夫です。」


「...それはどうも。」


「さて、何かきちんとためになる話でもしてあげて下さい。期待していますよ?」


 皮肉をいう殿下に苦笑いしながら、声の拡張魔法がかかった台の上にたった。


「こんにちわ。第四師団長アレイフ・シンサです。まずはイベントに参加してくれた方々に少しだけアドバイスを。」


 そういうと俺は、先ほどまで対峙していた生徒達の方を向く。

 顔には疲れが浮かんでいるが、一部、羨望の眼差しを感じるのは気のせいだろうか。


「お疲れさまでした。特に後衛の皆さん。お見事です。水の蛇から、氷での囲い、岩による攻撃、そして最後の爆発...粉塵爆発ですね。特にあれは予想外でした。前衛の方もまずまずでしたが、欲を言うなら、爆発直後に斬りかかってくる連携が欲しかったですね。それなら一撃を狙えたかもしれません。全体的によく練られていましたが、後衛と前衛に別れて作戦を立てていますよね?もっときちんと連携したら結果は違っていたかもしれませんよ。」


 俺は殿下の方を向き、前日の意趣返しとばかりに宣言する。


「残念ながら取り決め通りに商品を渡すことはできませんが、トリッシュ殿下がきちんとその辺も考慮してくれているそうなので、皆さん、ご期待ください。きっと参加した皆さんだけでなく、他の方々にも何か頂ける妙案を用意されていると思います。」


 俺の言葉に殿下がこちらを睨む。

 口元が「やってくれましたね。」と動いた気がしたが、俺はその睨みに笑顔を返し、話を続けた。


「さて、私から少しだけ皆さんにお話をさせて頂きます。といっても、まだまだ若輩者なので大したことはいえません。ただ、自分の体験談を元に、ちょっとしたアドバイスをさせて頂きますね。」


 俺はフードを脱いで、素顔を晒す。

 学生からは、驚きの声や息を呑む気配が伝わってきた。

 はやり、年齢を勘違いされていたようだ。


「見ての通り、私は貴方達学生とほとんど年齢はかわりません。しかも平民出身です。なので偉そうにいろいろと話すことはできません。ただ、1つだけ。あなた方より先に経験したことがあるので、それについてお話します。」


 ほぼ全員が、魔力や魔法の話だと思ったようで、一部は落胆、そして一部は興味の視線を向けてくる。


「先にいっておきますが、魔法の話ではありませんよ?...皆さんは、何か大事な決断をする時に、どうやって決断していますか?」


 両手の手のひらを学生に向け、見せる。


「この手、皆さんにはどう見えますか?」


 全員の視線が俺の手のひらに集まる。


「普通の手に見えるでしょうね。でも、私にはこの手がいつも真っ赤に見えます。」


 改めて自分の手のひらを見る。


「私が初めて人を殺めたのは3年以上前の話になります。相手は盗賊でした。今でもその日のことは忘れられません。そしてその日から私にはこの手が真っ赤に見えます。洗っても、洗っても、変わらない血の滴る真っ赤な手に見えるのです。」


 手を下げて学生を見る。


「もちろん、ただの幻覚です。恥ずかしながら私の心の弱さを示すものといえます。そして、私は今そのことを少し後悔しています。初めて人を殺める時、正確には人を殺めることを決めた時、私は先のことを特に考えず、ただこれが最善だ。こうすれば自分の大切なものが守れる。たったそれだけの考えで人を殺めました。」


 学生の顔を端から順に見る。

 不安そうな顔、興味深げな顔、順に見回し、そして関係ないという顔をしている生徒を見つけてそちらを向いたまま、話を続ける。


「これはあくまで私の失敗談ですが、皆さんにも当てはまります。私のように国軍に入り、誰かを殺める人、貴族として領地の経営をする人、商人として身を立てる人、他にもいろいろと目指す目標がそれぞれあるでしょう。」


 関係ないという顔をしていう生徒がこちらを見るのを確認してから、また順に顔を見ていく。


「皆さんはきっと将来、何度か大きな決断をする。その時に、自分なら大丈夫だと最悪を考えずに決断しないでください。大きな決断をする場合、自分が最悪どうなるのか、それを覚悟してから決断してください。もちろんそれで正しい答えがでる訳ではありません。しかし、少なくとも後悔は少なく済みます。」


 少し冗談っぽく、笑みを浮かべながら、最後を締めくくる。


「私はその頃、深い考えもなく、目の前の餌に簡単に飛びつきました。もしかするともっと別の方法があったのかもしれませんし、もっと上手くやれたのかもしれません。たった一つの決断が一生を左右することもあります。卒業後、様々な可能性の中で、失敗もあるでしょう。でも、せめて後悔しない道を貴方達が進むことを願います。...以上です。」


 頭を下げ、フードをかぶりなおす。

 台を降りる時に、学生から拍手が送られた。

 形式的なものかもしれないが、悪い気はしない。


 ただ、生徒達を見回していると、ちょっと気になる人を見つけてしまった。

 ...遠目だけど、あれはたぶん、イレーゼだ。

 そういえば学園に入ると確かに言っていた。

 彼女がいる可能性を完全に忘れていた...。


 元の立ち位置まで戻ると、殿下が出迎えてくれた。


「まさか、第四師団長が自分の失敗談を語るとは思いませんでした。」


「そうですか?」


「ええ、貴方はどちらかというと成功者でしょう?」


「...そんなことありませんよ。」


「まぁいいです。それより私は貴方にふっかけられた無理難題の解決で頭が痛いです。」


「殿下ならきっと良い案が浮かびますよ。」


「...覚えておくことです。私はやられたらやり返して、必ず自分で終わらせます。」


 そういって、殿下はニコリと機嫌良さそうに笑った。


 そのあとも滞りなく、式典は進んでいく。

 次回の大会に向けての意気込みや、学園理事長の話、そして式典も最後というところで、殿下がちょっといいですか?と場を奪い取る。


「先ほど、第四師団長よりお話があったと思いますが、第三師団長、ヘイミング卿主催の親睦パーティへの招待は、抽選とします!招待券を発行し、1枚で5名まで好きな方を連れてきてください。そしてその券を全校生徒で合計5枚、それとは別にイベント参加者は全員招待しましょう。いかがですか!?」


 文句あるか?というような言い方で殿下が宣言する。

 それに対しての答えは、学生からの大きな声援だった。


 にしても、今ここで決めたような気がするけど、そんなに招待して大丈夫なんだろうか。

 最大35名の参加者がでることになるけど...まぁあのヘイミング卿の屋敷なら問題ないか。


 無事2日間に渡った式典は終了し、殿下を王城におくり届ける。

 道中、「ちょっと遊んでいきましょう。」と通る分けのない提案をしてくる殿下をなだめながら、王城に辿り着いた。


「それでは、トリッシュ殿下、お疲れ様でした。」


「シンサ卿もお疲れ様でした。今日はもう帰られるのですか?」


「そうですね。たぶん、書類仕事がたまっている気がするので、本部に戻ります。」


「そうですか。それではまた後日、お茶会のお誘いを出しておきますのできちんと参加してくださいね?」


「お茶会ですか?」


「えぇ、他の師団長も呼びますから、参加した方がいいと思いますよ?」


 他の師団長も呼ぶということは、かなり大きなものなのだろうか?

 答えに詰まっていると、トリッシュ王女の方が気をきかせてくれた。


「別に変な意味はありません。本来の目的である国軍の強さを王立学園を始め、国民に知らしめる目的は果たしましたからね。ご褒美のようなものです。第三師団長以外とはほとんど話したこともないでしょう?」


 それはありがたい...が、今気になる言葉を聞いた気がする。


「すいません。国民に知らしめるってなんですか?あそこに部外者は入れないはずですよね?」


「何言ってるんです?新聞という媒体はご存知でしょう?あれの担当部署の方が来賓席に数名いましたよ。ちなみに、他の王立学園の関係者もです。」


「やはり、あのイベントは最初から...。」


「はい、もちろんです。いきなりあんなこと言い出す訳がないじゃないですか。」


「なぜ私には知らされていないのでしょう?」


「別に知らなくても大丈夫でしょう?」


「でも、当事者ですよ?」


「簡単に言うと、私は人の驚いた顔を見るのがとても好きなのです。」


「...とてもいいご趣味で。」


「ありがとうございます。」


 殿下は本当にいい笑顔で笑う。

 自分が被害を受けていなければ見惚れてしまいそうな笑顔だ。

 たぶん、この件にヘイミング卿も一枚かんでいるんだろう。


 この先、何度も手の平の上で踊らされることになるんだろうか...。


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