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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第4章 魔国の姫君
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第58話 師団長講話 上

 トリッシュ殿下の講話が終わり、ついにその時間が来た。

 話を終わらせた殿下が、息を大きく吸うと、師団長への挑戦!っと大きな声を上げた。

 ...楽しそうだな。

 そして外に出るように命じられ、近衛に後のことを任せて、外にでる。


 俺は広場、外にあるかなり広い開けた場所に、立たされている。

 前には剣や斧、弓矢を持つ人物がゾロゾロと集まっていた。


 10人ぐらいか。意外と少ない。

 上位入賞者は全員いるみたいだ。

 いや、イリア嬢はいないか。

 なんとなく、観客になった生徒達の方を見ると、その先頭にイリア嬢がいて手を振っていた。


 拡張の魔法陣の中で、殿下が声を上げる。

 ...このまま司会をするつもりだろうか。


「さぁ!師団長への挑戦!今から10分間。何人でどんな攻撃をしてもかまいません。師団長は反撃しません。あの時計の針がちょうど一番上にきたらスタートしましょう。あと3分ですね。そして、師団長に1擊でも与えた方には第三師団長、ヘイミング卿主催の親睦パーティへご招待!コネを作るもよし、美味しい料理や美酒に酔いしれるもよし、身分に関係なく師団長の来賓として扱われます!」


 なんだその商品。

 ていうか、昨日の今日でなぜそんな商品が用意できるんだ。

 やっぱりこのイベント自体が仕組まれていたんじゃ...。


 だが、学生達はよろこでいるようで、目に見えてやる気になっている。不思議だが、まぁそれならいいか。


 そろそろか...。

 学生とはいえ、実力者。どんな攻撃をしてくるか楽しみだ。

 なるべく、余裕があるように振る舞い、威厳と強さを見せつけろといわれているので、あまり動かず、魔法だけで対処してしまおう。


「それでは...師団長への挑戦!開始!!」


 殿下の元気な掛け声とともに、前衛として構えていた学生達が押し駆けてくる。


 まずは剣の子達が早いな。っと、弓矢が飛んできた。

 とりあえず、身体の周りに風の壁を無詠唱で発生させる。

 弓矢がはじかれて、地面に落ちた。

 何本か飛んできたが結果は同じ。

 にしても、正確に顔ばかり狙ってきている。いい腕だ。


 次に剣を持った学生達が迫り、順に剣を振るう。


「てやっ!」


 弓矢と同じく、風の壁で受け止める。

 振り切れず、力で押し込もうとするが、そんな力じゃ風の壁は破れないな。

 はじかれて尻餅をつく生徒達。


 その後ろから、槍が突きを放ってきた。

 更に後ろに回り込んだ生徒もタイミングを合わせて突きを放ってくる。

 タイミングはかなりいいが、残念ながら、それぐらいの突きでは風の壁を破れない。

 もちろん風の壁は後ろにもある。

 槍の生徒達も、剣の生徒達と同じようにはじかれて尻餅をつく。


 剣と槍はあまり大したことないな。

 すると、ドスドスと巨躯の生徒が大きな斧を振りかざしてきた。


「おらぁ!!」


 んーこれはちょっときついかな。

 風の壁に魔力をおくり、更に強固にする。

 斧を無事受け止め、他と同じように弾いた。


 動きは鈍いけど、威力はなかなか。

 っと、そこで小さな手斧?のようなものを投げてきた生徒もいた。

 斧にもいろいろあるんだなと感心はするが、もちろんこれも風の壁は破れない。


「下がりなさい!」


 前衛部隊を解析していると、彼らの後ろから声がかかる。

 魔法部隊の準備ができたらしい。

 先頭は、昨日会ったミラ嬢とツユハ嬢の2人組だ。

 前衛の生徒達がそそくさと後ろに下がると、まず、何人かの生徒が、水の魔法を放ってきた。

 水がまるで蛇のようにこちらに迫って来る。

 何人かが放出、そして1人が制御でうまく動かしているようだ。

 協力して1つの魔法を放つ。

 ...見事だ。

 残念ながら風の魔法が邪魔をして、まとわりつくことはできないみたいだが、周りを囲んできた。


「今っ!」


 ツユハ嬢の合図で水の蛇が弾け、まるで水の壁が迫るようにこちらに水が押し寄せてくる。

 風でなぎ払おうとした瞬間。

 その水が風の魔法に当たるスレスレで凍った。


 これは、なかなか...。

 すっかり氷の中に閉じ込められてしまった。

 ちょっと寒い。

 だが、これだと向こうも何もできないのでは?と首をかしげると、急に周りが暗くなった。

 影?

 反射的に上を見ると、大きな岩の塊が浮いている。


 おぉ...なるほど、周りを氷で固めて逃げ場を無くし、あれを落として止めを刺すつもりか。

 けっこう容赦ないな。

 大きな岩の塊が頭上に移動し、真っ直ぐに、加速して落ちてきた。


 なかなか魔法の方は優秀なようだ。


「風螺!」


 俺は久々に使う自分用の防御魔法を口にする。

 岩が直撃するが、身体に纏った風がすべてをなぎ払う。

 落下するごとに岩が細かく砕かれて小さくなっていく。


 岩がすべて粉々になったところで、周りを囲んでいた氷が粉々に砕け散った。

 ...氷には何もしていないのになぜ?

 だが、周りは土埃で全く見えない。

 これに乗じて、前衛がもう一度襲いかかってくるかと、注意深く周りを見るが、その気配はない。


 だが、カチっと音とともに、一瞬で周りを光のような大爆発が包んだ。




<Trish>


「すごい...これは、予想外ですね。」


 私はつい口に出してしまった。

 拡張の魔法陣の上にいるままなので、周りにも聞こえてしまっている。


 でも、それも仕方がない。

 まさか学園の生徒がここまでできるとは思っていなかったからだ。


 最初、前衛の剣士などが襲いかかったが、さすがは師団長。

 ただ立っているだけで、すべてを弾いてしまった。


 何か魔法を使っているんだろうけど、普通の生徒、私もそうだけど、普通の人から見ると何が起こっているのかわからない。

 剣を振りかぶったのに、師団長に届かず、空中で止まる。

 そしてはじかれる。

 不思議な光景だった。


 師団長の圧勝かと思ったけれど、予想外に後衛部隊はすごかった。


 まずは水の蛇だ。

 私には原理なんてわからないが、あんな魔法は見たことがない。なんといっても生きているようだ。

 師団長の周りをとぐろを巻くように囲み、だんだん狭めていく。

 そのまま襲いかかるかと思うと、急に水が弾けて師団長を円状に覆うように凍りついた。

 雪で作る出口のないカマクラみたいな形だ。

 作ったのは昨日会った、ツユハ・シルレーミという子だろう。


 氷であるため、うっすらと中に人影が見える。

 師団長が凍っているのか、無傷なのかはわからないが、中にいるのは間違いなさそうだ。


 するとミラ・イスベリィという子が、地面から大きな岩の塊を生み出し、宙に浮かせた。

 ...まさか、と思ったが、その通り。

 上からあれでトドメを刺すつもりだ。


 これはさすがに止めた方がいいのだろうか?いや、でもお父様からも神格者は別格だと聞いている。

 大丈夫...よね?

 自分で自分を納得させながら、成り行きを見守る。


 大岩が落下させられるが、着地音というか、地面に届いたときにするであろうドン!っという音がしない。

 まぁ音がするときは師団長が潰されたということになるけれど。

 変わりに何かおかしな音がする。

 ガッガッガッガッと、何の音だろう。

 岩がどんどん沈んでいくが、相変わらず、ドン!っという音はしない。

 氷越しにうっすらと見えるのは師団長が今も立っており、岩が途中からなくなっていく様子だ。

 ...削ってる?岩を?

 どうやら変な音の正体は岩を削り出す音だったようだ。


 全ての岩を削り切ったあたりで、急に氷が木っ端微塵に砕け、風が土埃を舞わせる。


「今よっ!」


 ミラ・イスベリィが合図のような声をだし、彼女の後ろにいた子が、小さな火種を土埃の方に投げつけた。

 あの魔法は知ってる。

 ファイアアローだ。それほど威力もない魔法のはずだけれど、なぜそれを?

 そう思った瞬間。

 師団長を中心とした土埃と、氷の粒が一面に舞っていた空間が、一気に爆発した。

 ドーーーン!と大きな音を立てて、大爆発を起こす。

 すごい風圧がここまで来た。


 爆発後、更に大きな土埃が立っている。

 ...これは、どういうことだろう。

 ていうか、いくら師団長といえどもこれは...まずいかも。

 どうしようかと私が悩んでいると、土埃が一気に晴れる。

 風の魔法だろうか。


 中には変わらず立っている、青いローブの師団長がいた。

 見たところ、怪我を負っているようにも見えない。

 ただ、彼の周りの地面は色が変わっている。さっきの爆発の影響だろう。

 むしろ、なぜ彼が普通に立っているのか疑問だ。


「トリッシュ殿下、そろそろ。」


 見とれていた私に、学園理事長が声を掛ける。

 時計を見ると、すでに10分は経過してしまっていた。


「じ、時間が来ました。これにて終了です。攻撃をやめてください。」


 私が声を掛ける前に、魔法を放った後衛の生徒たちは呆然としていたように思う。

 やりすぎとも思える攻撃をすべて防ぎ切られて、驚きを隠しきれなかったのだろう。




<Areif>


 ...内心けっこう危なかった。

 なんてことしやがるんだ、ここの生徒は。

 正直、爆発するとは思っていなかった。

 たぶん、あの上から落ちてきた岩が、可燃性の何かだったんだろう。

 岩の成分までわからないが、土の魔法で可燃性の鉱石や粉を作り出す魔法があると聞いたことがある。

 こちらが岩を防いだら、その粉に引火させて爆発させる。

 二重の罠だ。

 正直、風螺の魔法を使っていなかったら、危なかったかもしれない。

 風の壁ではたぶん防ぎきれなかった気がする。

 一応無傷ではあるが、かなり驚いたし、音でまだ耳がキーンとしている。

 予想以上にいい攻め方だ。

 最初の、協力して大きな魔法を放つ技術。更に2重、3重に罠を張る周到さ。

 感心させられる。


 爆発後の土埃を風の魔法で散らし、周りの様子を見る。

 中から無傷の俺が出てきたことにより、膝を付いて驚いている生徒や、呆然としてる生徒が多い。

 ここで、斬りかかってくる前衛がいればポイントが高いんだが、いなさそうだ。

少し気になるのは、前衛と後衛が全然連携できていないように見えるところか。


「じ、時間が来ました。これにて終了です。攻撃をやめてください。」


 殿下の声が聞こえたので、ここで終了となった。俺は自分にかけていた魔法をとき、殿下のいる席に向けて歩き出した。

 気のせいか、周りの生徒たちがざわついているが、どうしたんだろうか?


ブックマークや評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。

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