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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第3章 国軍時代
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第55話 謀りごと再び

ここから次の新章です。

ちょっとのんびりとした話になります。

戦争関係は次章からです。

 王城の1室でその密談は行われていた。

 第四師団長が就任してからというもの定期的に行われている集まりだ。

 部屋の中にはこの国の皇帝と宰相、そして第三師団長であるヘイミング卿が集まってる。


「ここの報告を見る限り、順調というか、予想外の成果をあげているようだな。」


 皇帝が手元の資料をテーブルに投げた。

 宰相がそれに答える。


「はい、特に軍ですが、予想外の速度で拡大しています。」


「ヘイミング卿、引き継ぎはすでにはじまっているのか?」


 国王に質問を投げかけられたヘイミング卿は手元の資料を見ながら答える。


「はい、すでに南区に関しては半分以上を第四師団に移行しています。この調子で行けばあと数ヶ月で南区だけでなく、外部の砦に関しても引き継ぎに移行できるかと。」


「そちらも順調というわけだ。しかし驚いたな。この短期間で軍をまとめ上げるとは。」


 国王の賞賛に宰相が答える。


「軍部に関しては傭兵団と亜人の取り込みが大きいですね。」


「あれか、銀鷹と赤獅子とかいう傭兵団か?」


「はい、あの2つは南区で最大の傭兵派閥です。それをごっそり戦闘部隊として吸収しました。南区近郊にでる盗賊団や魔獣の討伐ですぐに成果が上がるのも当然といえます。」


「どちらも前任のトルマに協力的な傭兵団だったな。」


「はい...ただ、赤獅子は素行の悪いものも多かったはずです。なので少し不安も残りますが。」


「それに関しては問題なさそうですよ。」


 宰相の不安をヘイミング卿がにこやかに打ち消した。


「何か情報があるのですか?」


「ええ、どうやら本当に素行の悪いものはそもそも国軍に入ることを希望してないようですし、問題のあるものは...入隊前に処罰されています。」


「処罰?」


「彼はそういうのに敏感なようですね。正式入団を許さなかったようです。今では元通り、赤獅子として傭兵をしているようですよ。評判は最悪のようですが...。」


「よく赤獅子傭兵団の仲間が反発しませんでしたね。」


「現場を押さえれば文句もでないでしょう。義にあついと評判だった元傭兵団長のガレスでさえ、何も文句を言わなかったようですね。」


 ヘイミング卿が手元の資料を皇帝と宰相に手渡した。

 今説明した内容が書かれているものだ。


「これは...調べたのですか?」


「私も気になりますからね。しかしながら軍部については隠れて調べたわけではありませんよ?堂々とシンサ卿に調べさせてくれと伝えました。好きにしてかまわないと快く受けてくれましたよ。」


「なるほど。それでここまで。」


 資料を見ていた皇帝が「ん?」と声を上げる。

 それに気づいた宰相が、皇帝の見ている資料に目を落とした。


「何か気になる部分でもありましたか?」


「傭兵団を1番隊、2番隊と割り振ってしまっては、この警邏隊の練度は低いままなのではないのか?」


「確かにその通りのようですね。即戦力として判断されたものもいるようですが、180名ほどは基礎鍛錬が必要と判断されたようです。」


「それでは結局、盗賊や魔獣退治に出ている部隊以外は新兵がほとんどということか?それで南区をすべてを管理するのは危険ではないか?」


「あぁ...そのことなら問題ありません。1つは、そこにいるヘイミング卿の第三師団から移動希望者がかなりでました。」


「なんだと!?」


 予想外だったのか国王が驚いてヘイミング卿を見る。

 自分の師団から有能な人物の引き抜きをされていい顔をするわけはないのだが、ヘイミング卿は微笑んでいた。


「大丈夫ですよ。もともとある程度は想定していました。南区の管理をする中で情が移ることもあるでしょうし、何よりあの南区の様子では移りたくなるのも無理はありません。シンサ卿にはこちらからお願いしたぐらいです。よろしく頼むと。」


「両者の間で合意済みならかまわんが...南区がどうかしたのか?」


「第四師団の人気がすごいんですよ。」


「地区を守る師団に人気が集まるのは当然では?」


「一度、視察されますか?驚かされますよ?」


「それほどか?盗賊や魔物退治がそれほど人気を集めたのか?」


 他の地区でも頻繁にやるべきかと顎に手をやる皇帝。

 すると、ヘイミング卿が別の資料を2人に渡した。


「それは軍の再編後に、第四師団が摘発した貴族、商家、そして歓楽街の店です。」


 皇帝と宰相の2人は資料を見る。

 そこには罪状と共に、貴族の名前や商家の名前、そして歓楽街で店を経営していた経営者の名前が並んでいた。すべてでざっと20はある。


「貴族も含まれているのか...罪状は、非合法奴隷や闇取引、人身売買か。」


「えぇ、犯罪が明るみに出て、それを捌いた第四師団は注目の的です。中でも貴族家が4つも潰れています。」


「...4つもか。宰相は知っておったか?」


「貴族家に関しては第三師団との連名でしたので、知っておりましたが、お耳には入れておりませんでした。まだなりたての貴族ばかりでしたので。」


「なるほど、しっかりしている。最初のうちにシンサ卿に恭順の意を示した貴族は大喜びであろうな。」


「それはそうですが...その中の1つはシンサ卿に恭順を示した貴族家でした。」


「身内も捌いたわけか。容赦ないな。...いや、公平ではあるが。」


 皇帝の言葉にヘイミング卿が苦笑する。


「しかし、それが南区の国民に受け入れられた理由です。自分の派閥であろうとなかろうと、犯罪を許さない。しかも第四師団は民のための部隊と公言されています。自分たちの味方だとすればこれほど頼もしいものはない。」


「まてよ...この罪状。まさか…。」


 宰相がここで何かに気づいたようにヘイミング卿を見た。


「その通りです。第四師団は被害者の保護もしています。」


「なるほど、警邏隊がすぐに集まったのはこのためか...。」


「どういうことだ?2人だけで納得するな。」


 納得いかない皇帝が2人に説明を求める。


「第四師団は非合法奴隷とされたものや、人身売買などで売られた者達を取り込んでいるということです。」


「取り込むというのは保護ではないのか?」


「陛下、非合法奴隷や人身売買で取り扱われる人物は何も女子供ばかりではありません。亜人や、護衛に使う男もいます。」


 先ほど見せられた資料には少なくとも非合法奴隷の売買という罪状で、7つの奴隷商などが摘発されている。


「まさか奴隷を国軍に!?」


「いえ、それは違います。」


 皇帝の驚きをヘイミング卿が否定する。


「奴隷に関しては奴隷商に預けるのが規則です。しかし非合法奴隷はもともと何の罪もない国民です。我が国では奴隷は犯罪を犯したものがなる階級です。しかし残念なことに、貧乏な田舎や亜人差別の根強い地域ではお金がない、または亜人だというだけで奴隷とされる者達もいるのです。」


「シンサ卿は非合法奴隷を取り込んでいると?」


「無理矢理ではないと思いますが、見ず知らずの地域に放り出されるのと、生活の場を与えられるのとではどちらを選ぶかなんて明白ですよね。もともと奴隷の扱いだった者が首を縦に振るだけで国軍の兵士、つまり一般市民です。それに亜人に関しては身体能力が違いますから、即戦力です。」


「なるほど...。偶然か、計算か...本当にやり手だな。」


 皇帝が苦笑する。

 そして皇帝の目は次に別の資料に移る。


「第四師団が国民に人気なのはわかったが、政治的にはどうなのだ?」


「こちらはあまり...としか。南区の貴族達がこぞって接点を持とうとしているのですが。苦労しているようです。シンサ卿からは何も働きかけをおこなっていません。」


 宰相がヘイミング卿に目で合図する。


「私のところとはとても仲良くさせて頂いていますよ?先日も身内のお茶会に来てくれましたし。」


 皇帝と宰相の目が集まる。


「ヘイミング卿、南区の貴族達に伝手を頼まれたりはしておらんのか?シンサ卿より接点は多いであろう?」


「頼まれていますよ。」


 しれっと答えるヘイミング卿。


「ほう。それでいつその伝手を作る予定なのだ?」


「そうですね。もう少しうちの娘とシンサ卿が仲良くなってからですかね。」


「...この件に関して、ヘイミング卿はアテにならんというわけか、南区の貴族達も苦労するな。それにしても、シンサ卿は政治に興味がないのか?ウキエは何をしておる。」


「いっそ南区を普通に歩いた方が出会いがあるんじゃないですかね。市街を普通に師団長が歩いていることもあるぐらいなので。」


 不満そうな皇帝にヘイミング卿が軽口を叩く。

 見かねた宰相がフォローを入れた。


「まぁ、彼は元平民です。貴族のやり取りは億劫なのでしょう。それにまずは軍部をということもあったので仕方のないことかと思います。まぁ文官はほぼ前任のものが復帰したようですし、これからに期待しましょう。」


 だが、皇帝は納得いかないようだ。


「いっそ、パーティでも開かせるか?それとも婚約者探しでもしろと無茶を言ってみるか...。」


「まだ良いではありませんか。エスリーの砦の先も取り戻さなければならない我らの領地です。しばらくは軍務に集中してもらうのもよろしいかと。」


「まぁ、それもそうだな。まだ1年も経っておらんし。順調だからといって焦りすぎてはいかんな。」


 不穏な方向に傾きかけた皇帝の思考をヘイミング卿が矯正する。


「しかし、少しでも何かあれば...あぁ、そういえば王立学園の式典参加と講話の依頼が来ていましたね。あれをシンサ卿に回してみたら如何でしょう?いい経験になりますし、あそこは将来有望な者達が数多くいますから。」


 宰相が思いついたかのように皇帝に進言する。


「おぉ!それはいいな。あそこには南区の貴族達の跡取りも数多くおる。何か繋がりができるかもしれん。ヘイミング卿はどう思う?」


「そうですね、本人は嫌がりそうですが、経験としてはいいと思います。前に立って話す機会は必要でしょう。式典には私の娘も無関係ではないので嬉しい限りです。」


 盛り上がる2人に、黒い表情を浮かべる1人。


 この数時間後、急に呼び出された第四師団長は、いきなり言い渡されたよくわからない命令に困惑し、緊急の会議を開くのだが、それはまた別のお話。


ブックマークや評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。

これからもどうぞ宜しくお願い致します。


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