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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第3章 国軍時代
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第52話 有望な新人達

 久々に仕事が昼までに片付いた。

 特別徴兵で兵士候補を受け入れてから一気に忙しくなったのが原因だ。

 結局500人程度集まり、簡単な試験や面談で483人が入隊予定となった。


 たが、ここから基礎訓練に耐えられたもののみ、正式に入隊となる。ちなみにこの数値は驚異的らしい。

 おかげでウキエさんをはじめとした文官たちは寝る間も惜しんでやりくりを行うことになった。

 そもそも文官側も人数が足りないのだから無理もない。


 助かったのは予算だ。今回は国からかなりの予算が引っ張れたので、そちらに関しては問題ないが、それに伴う施設の整備や、装備品の購入に手間が掛かった。

 俺もそれなりに、その作業に引っ張られて連日書類仕事をする羽目になったが、今日の午前中でだいたい終わった。


「何日ぶりでしょう、太陽を見るのは...。」


 今朝、そういったウキエさんの最後のセリフが脳裏に焼き付いている。ほんとうに彼には苦労をかけてる。

 彼も2日は部屋に軟禁状態だったから、久しぶりに帰れるのを喜んでいた。


 手があいたので、昼前に前々から気になっていた新兵候補達の様子を見に行こうと思う。

 普通に服を着て出かけようと部屋に戻ると、部屋の中には赤い髪のメイドがいた。

 部屋に入ってきた俺に気づいて頭を下げる。


 んー...すいだな。


すい、外出用の服ってもう洗濯おわってる?」


「...はい。こちらに。」


 そこにはベッドに畳まれた服があった。

 用意がいい。

 さっそく着替えようとするが...すいが出て行かない。むしろじっとこちらを見ている。


「あの...すいさん?」


「...なんでしょうか?」


「何か用事?」


「...いえ、特には。」


「着替えたいんだけど。」


「...お手伝いしますか?」


「いや、そうじゃなくて、いいから部屋から出てもらえない?」


「?」


 首を傾げられた。

 ...この子ははくと違って感情の起伏が乏しい。

 しかも、俺とは相性が悪いのか、よく会話が噛み合わなくなる。


「えっと、着替えたいので部屋を出てもらいない?」


「...私は気にしませんので大丈夫です。」


「俺が気にするんだけど。」


 しばらく、睨み合う。

 するとすっと頭を下げて、すいが部屋から出ていった。

 最近無断で影に入らなくなったのはいいけど、もうちょっと意思疎通ができたら嬉しい。


 着替えて外にでる。

 一人で出ようとしたら、ミアとララがくっついてきた。


「どこ行くにゃ?」


「一人で出るのはよくないの。」


「訓練所だよ。新人の調練見に行こうかとおもって、ミアとララも来る?」


「私は大丈夫なの。けど、ミアはダメなの。リザと約束があるの。」


「あーそうだったにゃ...。」


 ミアの尻尾と耳がシュンと下を向く。


「約束?」


「なんか組手の相手を頼まれたにゃ。」


「もう肉を受け取ったから行かないとダメなの。」


「うーしまったにゃ...。」


 どうやら肉で買収されたらしい。それでも仲がいいのはいいことだ。できればユリウスとも仲良くしてほしい。


 そういうことならと玄関で見送るミアに手をふってララと一緒に訓練所に向かう。

 といってもほぼ隣と言える場所なので、少し歩けば着く。


 大きな広場では、2つのグループに別れて鍛錬していた。

 1組目はひたすら筋力アップの訓練をしている。もう1組は...あぁ、周りを走っているのか。

 人数が多いこともあり、すでに警邏隊のほぼ全員が調練を監督している。

 中心は...警邏隊長のシドだ。

 すでに声はガラガラだな。筋力アップの組に何かを叫び続けている。


 忙しそうなので、近くにいる警邏隊の誰かに声をかけようとすると、ララが無視できない言葉を発した。


「あ、団長がいるの。」


「...ん?」


 団長?

 ララの見ている方を見ると、確かに...団長が走っている。

 鎧をつけずに、新兵が身に付けるお揃いの服を身に付け、外周を走っている。


 ......。


 ......いやいや。


 目をこすってもう一度見直した。

 確かにカシムさんだ。


 目を細めてみても何も変わらない。


「ララ?あれって...。」


「団長なの。」


 じーっと見ていると、あ、こっちに気づいたらしい。走りながら手を振ってる。

 ...間違いなくカシムさんだ。


 グルッと回ってきてから俺の前まできて立ち止まった。


「アレイ...いや、師団長殿、お疲れ様です。」


「...えっと、何してるんですか?」


「何とは...?走るように指示されているので走ってますが。」


「いや、そうじゃなくて。」


 と、そこでよく見ると団長の後ろをすり抜けて走っていく人物に、ものすごく見覚えがあった。ていうか、後ろをすり抜ける時に手を振っていくから間違いないだろう。

 ...ライラさん、それにチルさんもいる。


「どうした?...いや、なさいましたか?」


「とりあえず、なんでここに銀鷹のみんながいるんですか?」


「なんでって...特別徴兵があったろ?いや、ありましたよね?」


「...いいですよ。普通に話してください。」


「それに皆で応募したんだよ。」


「いや、銀鷹は?」


 話している最中にも、ブッチさんやトリアさんなど見覚えのある面々が通りざまにヨッ!っと声をかけて通り過ぎていく...。


「あぁ、解散したんだ。」


「え、解散!?」


「しかたねぇだろ?団員のほとんどが辞めるっていうんだから。」


「えっと。辞めるって?」


「特別徴兵に応募するから辞めるってやつが多くてな。」


「なんで急に...。」


「いや、まぁいろいろあるんだよ。」


 なぜか照れくさそうに頭を掻くカシムさん。


「団長がいけないの。」


 ララは何か知ってるみたいだ。

 なら教えてもらおう。


「いけないって?」


「団長が月例会の集まりのときに、国軍に入るために団長を辞めたいから誰か後をついでくれ。って急に言い出したせいで、悩んでいた傭兵団員達も皆応募することに決めたって言ってたの。」


「おい、ララ、お前なぜそれを!?」


「ライラに聞いたの。」


 カシムさんの方を見ると、少し赤くなっていた。


「いや、まぁそういうわけだからよ。銀鷹にいた連中のほとんどは今ここを走ってるぜ?それに、お、来たな。ちょっと来いよ。」


 そう言うカシムさんの方を見て、俺は再び驚かされる。


「あぁ?な...お、師団長殿じゃねぇか。お久しぶりで。」


 そこにいたのは赤獅子のガレス団長だった。

 カシムさんと同じように走っていたのを、呼び止める形になる。

 隣を走っていた奥さんはそのまま走っていった。


「え...ガレスさん?なんで?」


「なんでって、あぁ、俺も入隊したんだわ。赤獅子の方は部下だったやつに任せてきたから気にしないでくれや。」


「聞いてくれよ。こいつ、俺が国軍に入らないっていう傭兵団の新人達を引き取ってもらおうと相談しに行ったとき、引き受けるって言ったくせに、自分も人に任せて傭兵やめてるんだぜ?」


「お前に言われたくねぇ。それに俺は赤獅子が引き受けるっていったんだ。俺が引き受けるとはいってねぇぞ。」


 カシムさんとガレスさんがまた口喧嘩をはじめそうになったので慌てて止める。


「え、赤獅子の人ももしかして?」


「あぁ、だいたい150は付いてきたな。」


 250人ぐらいは傭兵団の人らってこと!?

 何この状況...。


「ララ、ごめん。あそこにいるシド呼んできて。すぐに。」


「わかったの。」


 ララがシドの方に走っていった。


「ちょっと2人に質問いいですか?」


「ん?」


「なんだ?いや、ですか?」


「話し方...普通でいいですから。まずカシムさん。傭兵団でミアより腕っ節の強いのはどれぐらいいますか?」


「んー条件とかにもよるけど、ほとんどミアより強いか、平均したら同じぐらいじゃねぇかな。」


「...ガレスさん、変な意地とかなしで正確に教えてください。応募した人達と銀鷹の人達、平均して強さの差は大きいですか?」


「...いや、もちろんピンキリだが、それほど実力が離れてるってことはねぇと思う。まぁ人数が多い分平均しちまうとうちのほうが弱いかもしれねぇが。」


 ...ようするに、入団した250人の平均は、ミアとララを除く、うちの近衛を瞬殺する実力を秘めていると。

 ララがシドを連れて帰ってきた。


「シド、ちょっと聞きたいんだけど、この傭兵団の人達のことを...。」


「はい、確か報告にまとめてあげていますが。」


「...報告?」


「届いてませんか?」


「ウキエさんに?」


「はい。」


 ...ウキエさんはここ数日、部屋に軟禁されていたからそんなの読む暇はなかったんだろうな...。


「悪い、簡単にでいいから今報告を頼めるだろうか?」


「はい、今回特別徴兵で集まった人員のうち、300名ほどはすでに基礎訓練の必要なしと判断しましたので、昨日までで兵団のルールや基本的な国軍の説明を終え、今日からとりあえず基礎体力作りをさせております。残りの170名ほどは基礎訓練から必要ですので、組み分けして鍛えておりました。」


「...そうか、ありがとう。300名が基礎訓練を受ける必要なしと判断したのはなぜだ?」


「実力ですな。元傭兵の方々はすでに普通の警邏隊より実力が高く、それが250名ほど、あとの50名はもともと国軍の師団に所属していた者や、中には近衛隊の者もいました。」


「わかった...この人員。もう預かってもいいか?」


「もちろんです。」


 むしろお願いしますとシドが笑う。

 俺はシドに元の調練へ戻るように告げて、自分の声を遠くまで飛ばす拡張の魔法を唱えた。


「えっと、外周を走っている組みの人。ここら辺に集まってくださーい。あと、監督していた警邏隊の人、ご苦労様でした。あとはシドの指示に従って下さい。あ、そこの2人はそのままこっちに来て手伝って下さい。」


 ゾロゾロと人が集まってくる。

 俺とララの顔を見て手を振る顔見知り。

 訝しげな顔で見てくるやつ。

 あとは...値踏みをするような視線も感じる。


 だいたい集まったのを見て、指示を出す。


「とりあえずカシムさん、左側に。そして元銀鷹の人、左側にカシムさんを先頭に4列ぐらいで並んでください。続いてガレスさん、右側に。そして元赤獅子の人、右側にガレスさんを先頭に6列ぐらいで並んでください。残りの人は真ん中で待機ー。」


 だいたい移動を終え、左右では列が出来始める。

 少し列作りでもめているが、無視して中央の集まりに語りかけた。


「えっと、その中で元第四師団の兵士だった人は少し左に。あ、傭兵団の人と混じらないようにしてくださいね。あと、近衛だった人は右に。それ以外はそのまま真ん中で。」


 すると真ん中に4名ほど残ったので、聞いてみると、他の師団出身者だった。


「えーっと、とりあえず、貴方達には基礎訓練は必要ないと判断されました。なのでさっそく配属の希望を聞こうとおもいます。すでに部隊については...説明してる?」


 近くにいた、警邏隊の人に聞くと、コクリと肯定されたので、そのまま続けた。


「必ず希望通りとはいえませんが、希望を聞きます。まずは元傭兵団以外の方々、えっと、貴方から順に、あちらに来て希望をお願いします。えっと、名簿ありますか?あとメモもお願いします。」


 警邏隊の人に確認する。


「す、少しお待ちを、すぐに持ってきます。」


「どれぐらいでいけます?」


「10分程ください。」


「20分後にあの辺りでやりましょうか。準備お願いします。」


「はっ!」


 警邏隊の人たちは緊張した面持ちで言われたものを取りに行く。


「すいません。準備に20分ほどかかるので、ラクにしててください。」


 そういうと俺は少し離れて面接の準備をする。

 といっても、椅子を用意するぐらいだけど、外での面接。しかも面接官の一番偉いひとが椅子の設置中。

 変な光景だ。


「これから面接するの?」


「あぁ、ごめん。ちょっと長くなりそうだ。」


「かまわないの。」


「暇だったら先戻ってもいいよ?」


「近衛だからそういうわけにはいかないの。」


 ララが胸を張る。

 外出時、近衛隊が必ず1人は護衛につくというルールは守られているらしい。

 ルールはあるものの、けっこう無視されることが多いんだけど、本当はそういうのもまとめられる隊長がいいんだろうな...。


 そう思いながら、用意した椅子に腰掛けた。


ブックマークや評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。

これからもどうぞ宜しくお願い致します。


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