第51話 軍の問題
第四師団としてやることは山積みだった。
戦後の資料や、臨時特別徴兵に伴う雑務、そして新たに浮上した派閥貴族達との関係。
だがもっとも先にしなければいけないのは新体制だ。
ウキエさんやシドと相談していたが、結果として部隊を大きく4つに分けることにした。
元々第四師団は単体で魔軍と交戦するため、例えば歩兵部隊や騎兵部隊など分隊制をとっていたらしい。
それに倣う案も出たが、全体数が少ないので、必要な部隊だけ隊長を任命して作っていくことになった。
まずは師団長の側近、副官としてウキエさんを正式な文官の長とした。実質は雑務担当ともいうが、基本的に文官を率いてもらい、戦争には出ず、内勤してもらう。部下となる文官の採用もウキエさんに一任しているが、人を選んでいるせいか、まだ半分ほどしか決まっていないらしい。
次に武官を3つの部隊に分けることにした。1つは警邏隊。主に街の治安維持や砦へ数ヶ月単位の交代制で防備に当たる部隊だ。地味だがその分危険は少ない上に、人数が必要となる。
戦時に従軍することはあまりなく、怪我をして激しい前線を離れる必要のあるもの、怪我後リハビリが必要なもの、新兵の教育以外にも、南地区を守る以上、必要な部隊になる。
ちなみに、輸送部隊や治療班もこの部隊に所属する。
基本的にはここに一旦全兵を配属し、そこから希望するものや優秀なものを前線で戦う部隊に配属する流れにしようということになった。
隊長はシドが引き受けてくれた。実はもともと警邏隊のような役割の部隊に所属していたらしい。
しかも、最近子供ができたらしく本人も渡りに船だと喜んで引き受けてくれた。
残った2つは最前線で戦う部隊だ。
1つは騎兵の部隊、もう1つは歩兵の部隊。
戦争では歩兵が中心なので、歩兵、騎兵と順番に1番隊、2番隊と割り振ろうとしたらウキエさんとシドに猛反対された。
なんでも、騎兵は花形なので、1番隊がふさわしいと。
大したこだわりはなかったので、1番隊を騎兵の部隊。2番隊を歩兵の部隊とした。
兵が増えてきたら3、4と増やしていこうという話だ。
隊長などは特別徴兵後、警邏隊での調練や動きを見て任命していく流れになりそうだ。
とりあえず、今は名前だけで実際に動き出すのは数ヶ月先になる。
ちなみに近衛隊に関しては現状、隊長なしでこのままの予定だ。
今のところ亜人部隊みたいになっているが、基本は俺が信頼できるものをスカウトしたり引き抜くという話になった。
ただ、ウキエさんからはできれば20人ぐらいはいれて欲しいと言われている。
部隊の割り当てはいいとして、特別徴兵での希望者一覧がでた。
まだ随時募集中だが、なかなかの人数が集まったらしい。
その数400人超。
ウキエさんやシドが言うにはなかなかの人数らしい、中身はまだ知らないが。
シドが言うには、なんでも嫌気がさして一度は辞めた第四師団の兵士達も戻ってきているのではないかとのことだ。
軍事の話はシドにある程度任せて、ウキエさんと文官側の調整を進める。
「実は経理...というか兵站の部門に欲しい人材がいて、今勧誘中なんですが、なかなか。」
「条件がおりあわないと?」
「はい、なかなか...それでも彼女さえ落とせれば事務作業などがぐっと減ります。文官の教育も得意なのでなんとしても頷いてもらわなければ...。」
「へぇ...そんなすごい人がフリーなんだ。」
「まぁ色々とありまして。採用できたときに詳しく説明します。もう少し時間をください。」
「はい。何かできることがあれば言ってください。」
そこでウキエが、「あっ!」と忘れていたことに気づいたような声をだす。
「なんだ?」
「使用人ももっと雇い入れなければいけません。」
「使用人?」
「兵が増えるのですよ?家があり、通うものばかりではありません。宿舎も必要ですし、馬の手配や手入れ、あとは...やはりメイドが足りませんね。」
「予算的には...また割り振りしなおさないといけないな...。」
「そうですね。これから頑張りましょう...。」
2人して肩を落とし、執務室に入っていく。
また徹夜かもしれないと...。
次の日の徹夜明け、ある貴族との対談があった。
実は今朝方まで完全に忘れていたが、派閥の貴族だ。
ウキエさんに聞くと、マルディ・イッヒ男爵というらしい。
今回、俺と取引をしたいと言い出した貴族の中心人物で、そのグループは商人からの成り上がり者達が中心らしい。1人が子爵であとは男爵のグループ。
なぜ男爵位のマルディが中心人物かというと、子爵位の貴族は新参なのだとか。
騎士家を除く貴族社会では底辺ともいえるが、金をもつ利に聡い者たちだとウキエさんから報告を受けている。
ちなみに、俺が唯一顔を覚えていた悪人顔の貴族が、マルディ・イッヒ男爵だ。
対談の場はうちの応接室。
軽く挨拶を済ませ、珀の用意したお茶を勧める。
いつの間にか珀はメイド長になっていた。
任命した記憶はないのだが、誰から受けた称号なんだろう。誰も否定しないし、実際屋敷を取り仕切っている。
お茶をすすると、マルディ・イッヒ男爵はニンマリと如何にも悪巧みしてますという笑顔を浮かべる。
「まず、シンサ卿にお願いしたいのが治安の回復でして、優先的に我らの区画整備をお願いしたいのです。」
にしても、変わったイントネーションで話す人だ。
ただ、不快な印象は受けない。商人はみんなこうなのだろうか?
「治安ですか...優先的にとは?」
「いや、別に常に警備してくれとゆうわけちゃいますねん。ただ、ちょっと他のところより見回りの頻度を増やすとか、普段の巡回に加えて、新設される第1部隊の方に巡回してもらうとか...そういうちょっとしたことをお願いしたいんですわ。」
「...耳が早いようで。」
どこから得た情報なのだろう。部隊の割り振りなどは昨日決まった内容のはずだが。
なぜかこの言葉にイッヒ卿は嬉しそうに笑顔を作る。
悪人顔もこう笑うと気のいいおっさんに見えないこともない。
「そらーもぅ!これから仲ようさしてもらおうと思ってますシンサ卿の話ですからっ!耳を大きゅうしてきいてますとも。」
...急に言葉が崩れた。こっちが素だろうか?
「要するに、優先的というか派閥の区画の警備を強化して欲しいということですよね?」
「そういうことです。」
「それは構いませんが、それでそちらに利があるのですか?」
悪人顔が嬉しそうに笑う。
「わかってますなぁ。もちろん利はあります。そらー最近話題の第四師団の方々に警備して頂けるんです。しかも手厚く。これは南区の国民からの注目と信頼、あと他の貴族に出遅れたっ!ちゅー焦りをもたらします。そこに商人は利を見出しますのや。」
グフフといやらしく笑う...話している内容はまだ健全だが、なぜだろう。悪いことを相談し合っているような錯覚を受ける。
「当面はそんなものでいいと?」
「はい、その代わり収めるお金も最初の方はこれぐらいで、今後は協力の都度、相談さしてもらいたいんですが。」
ウキエさんから妥当か、少し安いと言われていた金額だ。
まぁ警備ぐらいならこんなものだろうと了承する。
「一つ聞いても宜しいでしょうか?」
「どうぞ。」
「シンサ卿は、風の魔術師と聞いてます。それもとても強力な。もしかしてですが、魔力をアイテムに付与することもできたりしますか?」
「...やったことありませんが、どうでしょう?今度でよければ試してみましょうか?」
「もしできるなら、個別に商談をお願いするかもしれません。ぜひお願いします。」
「分かりました。」
アイテムに魔力を付与?
初めて聞いた。とりあえずウキエさんに聞いてみよう。
やり方はたぶんフィーが知ってる気がするし。
最近、風の精霊様は俺の頭の上がお気に入りのようで、表情を見ることはできない。
相変わらず、話をするのはよっぽどのことがない限りは誰もいないときだけ。
だから必然的に寝る前になる。
イッヒ男爵との対談はその後、いつから警備に入れるかなどの話をして終わった。
まずは部隊を作らないと話にならないが、目処がついたらヘイミング卿にも相談しよう。
部屋を出て裏庭を見ると、そこにはクインとユリウスが訓練をしている風景が見えた。
最近特に熱心だ。
たぶん、ミアとララのせいだろう。
帝都に戻り、国王の謁見を終えたあと、兵舎に戻ると、大きな荷物を抱えたミアとララが入口にいた。
「来たにゃ!」
「来たの。」
...え?
一瞬固まってしまったが、とりあえず応接室に通し、話を聞くと、二人共傭兵団を抜けてきたらしい。
近衛として雇ってもらうと決定事項を告げられた。
...スカウトした記憶はないけど、2人の中ではもう決まっているらしい。
確かに気心が知れている上、優秀な2人が入ってきてくれるのは嬉しいが、カシムさん達に今度挨拶に行こう。普通に引き抜きしてしまったことになるし。
ウキエさんを呼んで、近衛の契約に関して説明をお願いする。
ミアは怪しいが、ララはきちんと理解し、納得したようで契約成立。
2人にも部屋が割り当てられ、次の日から近衛として働いてもらうことになった。
その日のうちにちょうどよかったので、近衛隊を集めて紹介する。
...予想通りというか真っ先に反応したのはユリウスだった。
実力や忠誠を疑問視し、試験が必要だと熱弁する。
...いや、ユリウス。君たちも試験なんて受けてないよね?
そして始まった決闘...もとい模擬戦。
予想外にララが最初に手を挙げ、ユリウスと対峙する。
危なそうなら止めようとおもったが、ララがあっさり勝利した。
そう、あっさりだ。
ユリウスが接近する前に、風で体勢を崩し、土魔法で拘束。
最後にのんびり近づいて、杖に仕込んだナイフを首元につきつけた。
この結果には俺も驚いた。
知らない間に土の魔法も仕えるようになっていた。
そして何より戦い慣れている。
これでいいかとおもったが、無傷のユリウスがそのままミアとの決闘を希望した。
ララの姿を見て、なんとなく予想はついたが、ミア対ユリウスもすぐに勝負が決まった。
ミアの圧勝だ。
一瞬で懐にもぐりこみ、顎に一撃。
それだけでユリウスが昏倒した。
剣さえ抜かず、素手で勝負がついた。
ミアもララもかなり強くなっている。
だが、倒れたユリウスを支えるクインも複雑そうな顔をしていた。
おそらく、ミアもララもクインより強い。
これまではある程度クインがまとめてきたが、そろそろ本当に近衛隊の隊長を見つけないといけないかもしれない。
彼らより強く、指揮力もあり、何より信用できる相手...難しそうだ。
クインとユリウスの鍛錬を見ながら、抱える問題をどうやって解決していこうか、頭を抱えた。
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